「教育」をどうするか

投稿日: 2013/04/26 2:52:03

現場が理解してくれない、動かない、反発する、あるいは肝心の幹部が理解してくれなくてHACCPチームが困っている、という声が多い。他の企業は問題無いのだろうか?こういったことをどうして解決しているのだろうか?という質問も数多く来る。実際にはどうかというとこれが現実である。では、どうしたら良いのか。

1. 少しづつ、繰り返し、定期的に教育する

効果的な方法のひとつとして「毎日の1分間ミーティング」がある。テーマをひとつに絞って、それだけについての教育をする。テーマというのは例えば「粘着ローラーの使い方」で、なぜ使うのかについて「髪の毛は普通の人で一日平均50本ほど抜けます、埃も着替えるときに作業衣に付着します、これを放っておくと製品に混入してしまいますから、粘着ローラーを丁寧に使って取り除く訳です」という事を教えたうえで、実際に髪の毛が混入クレームの事例を見せる。ただ粘着ローラーを使えというのではなく、なぜ使うのかを教えるわけだ。そんなことはわかっているだろうと思うかもしれないが、はっきりと教えることによって、強制的に使わせられるという感覚から「大切なことなんだ」という実感になり、使い方が違ってくるものなのである。

次の日には「粘着ローラーのかけ方」について1分間教える、次の日は今度は「手の傷やあかぎれについて」で、「傷には黄色ブドウ球菌があり、これが食品に混入すると急性の食中毒になります。事例のひとつですが2000年夏にあった牛乳事件では、この細菌が作り出したエンテロトキシンという毒素が原因で何千人もの食中毒が出たのです。ですから、手袋をするのです。あまりひどい場合には食品を直接触るラインに治るまで入らないように配置を考えますから言って下さい」という。

こういった形で毎日行なうのだ。毎日のテーマだが、食品衛生の本や参考資料、保健所などにあるパンフレットから作っていく。テーマは連続した話になる方法も良いが、これだとカリキュラムを設計するのが結構大変なので、ランダムに、脈絡が無くても良いから、気が付いたこと、とりあえず自分の工場にとって問題のあるものからはじめて行ったら良い。テーマはHACCPチームが作るわけだが、例えば100のテーマが出来たら、毎週5テーマづつ行なうとして20週分、5ヶ月近くの分が出来るが、これが全て終わったら、もう一度全く同じ内容をまた繰り返したら良い、くりかえして教えるわけである。あるいはそれまでの中で徹底されていないものを選んでそのテーマを選んでもう一度行い、これに新しい時事的なテーマを加えていく方法も効果がある。衛生教育を丸一日かけて集中的に教えるのもひとつの方法だが、まとめて教えても忘れてしまうし実感が伴わないことが多いので、少しづつ、毎日教えるわけである。

2.一点突破

ひとつのテーマに集中して長期的に行なう、例えば「毛髪混入クレームを無くす」で、このための対策を集中して行なう。対策は多岐にわたる、工場に来る前に家を出るときに髪をブラッシングをする、着替えの時のポイント、粘着ローラーの使い方、エアシャワーの掛かり方、作業中の注意事項、トイレや休憩での注意、常に目視での確認、製品パッケージ時の見付け方、といった作業の一連のことに加えて、パッケージ場所の照明を明るくしたりサニタリールームの設備資材の改善、原材料サプライヤーへの教育や監視などを並行して行なうのだ。

このひとつのテーマを徹底して行なうためには、半年や一年はかかることになるが、良く考えてみれば一般的衛生管理の多くを結果的に行なうことになるわけである。テーマはたったひとつなのだが、結局は一般的衛生管理の徹底につながる。毛髪について終わったら次は「異物全般」についてのテーマでまた一年徹底する、といった形で進めていく。

クレームの多い毛髪を始めとする異物混入から進める例を言ったが、もちろん食中毒菌対策に集中して、例えば「一般生菌数低減」のテーマで、数値目標を現場や製品、あるいは工程ごとに設定して進める方法も良い。大切なことはあれもこれもやらなくてはというと結局何をしたら良くわからず、あるいはやることが多すぎるというパニックやストレスにつながってうまくいかなかったりするのなら、たったひとつのテーマだけに集中して行なったほうが効果があるということなのだ。

3.大掃除、中掃除から

大掃除は年に2回行なったほうが良い、時期としては5月と11月で、5月は夏の食中毒シーズンの前、12月は年末の繁忙期の前だ。中掃除は例えば「毎週木曜日」といった形で、週の中で比較的清掃時間がとれる曜日があればそこで行なうようにする。大掃除中掃除を行なうと、やったあと気持ちが良く、こびりついた汚れが無くなるので毎日の清掃が楽に効率的になる。この中で一般的衛生管理の重要性が自然に教育されることになる。

ある総菜工場ではHACCPの構築を2年間で行なうという宣言をして、土台となる一般的衛生管理の構築からはじめたのだが、現場が反発したり言うこと聞かないで、こんなことでHACCPなんか出来るのかという状態だった。しかしそれでもめげずにHACCPチームは繰り返し、しつこく、いろいろな方法、1分間教育、ビデオ、初歩的なチェックリスト等を行ない続けていったら、約1年後に突然現場が「毎週木曜日に大掃除をする」と言い出した。これ以降全く自然にHACCPの構築が加速されていったのである。大型のトレーラーを動かすとき、最初の加速は大変でのろいが、スピードがある程度まで出て来たら、あとはスムーズに動きだす、これと同じだ。