制度化と認証取得

1 制度化と認証の違い

HACCP制度化は認証ではなく、承認だ。

認証というのはISOのように、第三者が認めるもので、認証取得となる。認証取得の証明書が発行され、名刺などにロゴも入れられる。

制度化は、実施していることを保健所が認めるもので、証明書が発行されるわけではない。営業許可を持っているところはその許可証にHACCPの文字が入るわけではない、そのままだ。

食品工場や小売店は今まで食品衛生法の下で営業をしてきたが、その中にHACCPの管理を入れることになる。今までは一般衛生管理で行ってきたが、さらに安全にするために新たにHACCPを加えるということだ。

2 制度化は50人を境にHACCPのレベルが違う

従事者50人以下では「簡易HACCP」といってもいいが、厚労省のウエブサイトでほとんどの業種向けの数十の「手引書」がダウンロードでき、それに沿って構築する。

この手引書は国際基準のHACCP12手順で行うのではなく、業種ごとに「この工程に特に気をつけてください」というポイントが提示されており、そこをCCPとして管理することになる。

一般衛生管理に食品製造に応じたCCPを加えて管理するわけだ。

50人以上になると、国際基準のHACCP12手順で、事項上の製造に合わせた危害分析をして管理することになる。このための参考として厚労省のウエブサイトには11業種のモデルが出されているだけだ。HACCPはどのような食品製造でも対応できるようになっているので、自力で構築することになる。

費用は営業免許などで登録するときに登録料があるが、それだけだ。

3 制度化の監視指導のタイミング

制度化のスタートは2021年6月だが、一斉に保健所の監査が入るわけではない。保健所の営業免許更新時や通常の定期立入検査の際にHACCPの管理を実施しているかどうかを見て、問題なければそのまま営業免許でも更新することになる。例えば営業免許が

2020年更新だったら既に更新したばかりなので、2026年に制度化に対応しているかを見ることになる。スタートしてすぐの例えば2021年8月更新だったらその時に見ることになる。あるいは、自治体によって一部の工場は毎年監査をしているところもあるようなので、その場合はその時になる。

4 監視指導の基準

50名未満については「手引書」を元に行われる。

つまり、受ける側も指導する側も元は同じ「手引書」になる。

なので、食品種に合わせた手引書を教科書にして構築する。手引書は数十品種の食品製造に対応しているが、これに当てはまらない場合は「近いものを使う」ということになっている。

50名以上についてはHACCP12手順に沿って構築することになる。

5 不備があった場合の行政処分

不備があった場合の行政処分

不備があった場合はどうなるのかだが、厚労省のウエブサイトでは「改善が認められるまでの間、営業の禁停止などの行政処分」とある。しかし、スタートしてすぐにこう厳しくできる状況ではないだろう。多分、指導なり提案なりをし、その確認をする、という猶予は当初はあるのではないかと予想する。

6 複数のカテゴリー製造の場合

殆どの食品工場は一つの製品(群)だけを製造しているものではない。殆どはいくつもの食品群を製造しているものだ。

例えば牛乳工場では牛乳だけではなく、アイスクリームやヨーグルトも製造している。この場合、一般衛生管理は共通だが、HACCPは3つのカテゴリーになる。HACCPは製造ラインごとに製造装置、工程は違うので、3つのHACCPを構築しなければならない。

では、制度化に対応するためには、そのカテゴリーごとに衛生管理計画を作成しなければならないのか? という疑問だが、最初はそこまでの要求はしていない。

一般衛生管理や原料、製造方法等の共通性の高いものについては、同一の衛生管理計画で対応することも可能だ。その上で、この例ではまずは牛乳でHACCP計画を立て、実施して、それで制度化に対応しているかどうかを保健所に見てもらう。そしてOKならば制度化対応している、ということになる。その後から、ヨーグルトとアイスクリームのHACCPを構築していくようにする。

7 HACCPを実施していない事業者から仕入れた食材を使用した場合

法違反になるかだが、「直ちにはならないが、HACCPを実施しているところから購入する」という記述がウエブサイトにある。グレーゾーン的な記述だが、制度化が行き渡るまでは営業免許の一般的な更新期間の6年間ということになるが、安定して行き渡ればすべての食品がHACCPの管理を行っていることになるので、当然全てがHACCPを行っているので当たり前のことになる。

8 ISO22000,FSSC22000,JFS,SQFを認証しているところの扱い

これは「認定に必要な書類や記録、審査や監査の結果等を活用する」とある。

これについての現場事例だが、東北のある県の食品工場では地元県がHACCPに力を入れていて、保健所が認めた工場について「HACCP申出状況」というページの下に「申出事業所」として工場リストを発表している。この申し出事業所工場で営業免許切り替え時期になりどうなるかと思ったら、文書類を見てそれだけでOKになった。

ISOを始めとする国際基準でも同じようになるだろう。

9 従来からの国内のHACCP認証や承認はどうなるのか

従来からの総合衛生管理製造過程、HACCP導入型基準は、制度化の普及とともに移行していくことになる。

HACCP手法支援法高度化認定は2013年に延長期間を10年とし、時限法から失効法になったので2023年に失効になる。

これについては、施設設備の費用を融資するというところからスタートしてきており、その後一般衛生管理の管理にまで範囲を広げている。制度化への移行では「手引書」またはHACCP12手順を構築実施しているかを審査して承認になるようになるだろう。

10 自治体認証はどうなるのか

自治体認証だが、かなりの自治体が実施してきたが、制度化にどう対応するのかは自治体によって違う。というのは、内容がそれぞれ違うからだ。12手順が必要なところもあるし、一般衛生管理を主体にしているところもある。

内容によって、そのまま制度化に対応できるところもある。この場合、そのまま移行できるというところも出てくるだろうし、そうではなくやはり審査を新たにするようになるところもあるだろう。

また、差分(不足分)を追加して制度化に対応するところもあるかもしれない。

制度化に移行するということで終了するところもある。例えば東京都の認証制度は徐々に移行し、最終的に終了になる。

北海道は8段階の認証評価をしており、継続する。ここでは認証ラベルがあったり、認証を得ているところをどうのホームページなどで広報するなどの活動もある。

自治体ごとに対応がそれぞれなので、各自治体HACCPの担当に問い合わせることになる。

11 国際規格の種類

最も普及しているのはISO22000で、食品安全マネジメントシステムの基本とも言える。

ISO22000のより厳格な国際規格最高峰とも言えるのはFSSC22000で、これはISO22000に一般衛生管理の詳細厳格な仕様書としてのISO22002を加えたもので、ハード面についての要求事項が入るため、施設設備の改修といった設備費用がかかることも多い。

SQFはオーストラリア系ともいえ、食肉関係に多い。3段階の認証レベルがある。

米国製パン研究所のAIBは基準が5部構成になっており、一般衛生管理、異物混入対策に重点を置いている。製パンなど粉関係の工場に向いている。

日本初の国際規格で最近スタートしたのがJFSで、食品安全マネジメント協会が運営している。A.B.C.の3段階がある。

12 ISO22000とFSSC22000の違い:ハード面に対する要求

ISO22000は食品安全マネジメントになるが、これを土台として、ISO22002と追加要求事項を加えるとFSSC22000になる。

ISO22002はISO22000の8.2 前提条件プログラム(PRPs)について、詳細な技術仕様を定めたものだ。

技術仕様の半分ほどになると思うがハード面への要求事項で、床に水溜りがあってはいけない、製造室(清潔ゾーン)は陽圧でなければならない、といった要求事項で、このために修理改修が必要になる工場も多い。

ISO22000を始めとするHACCPの要求事項ではハード面の要求はない。工場な老朽化していても、清掃洗浄といった一般衛生管理と運営管理で対応できる。施設設備に費用をかけなくても出来る。

しかしながら、床に傾斜をつけて洗浄水が自然に流れるようにすれば洗浄効果が良くなる。清潔ゾーンが陽圧になっていれば空気の流れを媒介とする危害、例えば虫やホコリの侵入がなくなるので、安全性に大きく寄与する。その為ハード面に対する要求があれば、より安全な環境が出来る。それがISO22002なのだ。

13 JFSとISO22000、FSSC22000の安全管理レベルの関係

JFSはA.B.C.の3つのレベルがある。

Aは、制度化レベルで、一般衛生管理にHACCPが加わる。

Bは、ISO22000レベルで、以上にマネジメントが加わる。

マネジメントとは、検証(効果測定)や監査を定期的に行い、問題を自ら発見できるようにし、解決に持っていく、いわゆる「PDCA」サイクルが出来る仕組みだ。これを行っていると、常に改善し、安全レベルを高めていくことにつながる。人事といった力量や文書記録管理も強固になる。

Cは、FSSC22000レベルで、ハード面に対する要求事項が加わる。

14 複数事業所対応が出来る出来ない

複数の工場がある場合、ISO22000ではまとめて一つの審査認証取得が出来る。

ある例では、工場が一つ、小売店が一つ、フードサービス店舗が3つある。最初に工場の認証取得をし、その3年後の更新時に小売店舗を認証に加え、さらにその後フードサービス店舗を加える、と増やしていった。最終的にすべての施設がISO22000の管理下にし、ホームページで「全てを安全に」という広報もできるようになった。

しかしながらFSSC22000では出来ない。FSSC22000はハード面の要求事項があるので、施設設備ごとに違うので、出来ないことになる。

また、JFSも事業所ごとの対応なので、出来ない。

15 輸出対応

食品の海外への輸出は、国ごとに詳細が決められており、農水省のウエブサイトなどで規格を入手できる。

HACCPとマネジメント管理について、輸出対応は制度化レベルでほとんど対応できない。

ISO22000は国際規格なので対応できるが、ヨーロッパなど安全管理に厳しい国ではハード面の要求まで入った厳しい内容を要求されることが多い。そのためFSSC22000だと十分に対応できてかなり有利になる。

ある食品メーカーが以前からヨーロッパへの輸出をしようと活動してきたが、なかなか具体的に進められなかった。しかしFSSC22000を取得したらすぐに許可が出た。

輸出を志向する工場なら、最初からFSSC22000を取得したほうが良いだろう。

16 認証費用

制度化は登録費用だけになる。具体的な費用は保健所などの自治体担当部署に問い合わせ。

ISO22000、FSSC22000は、従事者数によって違ってくるが、毎年のサーベランスも含めて3年間で200〜250万円プラス経費程度のなるようだ。審査組織によって多少は違ってくるので、いくつかの所に聞いて比較してみたらよい。

JFSは審査を始めた歴史が浅いので、大まかな状況しか言えないが、ISOの半額まで行かないが、2/3程度の費用になっているところが多いようだ。

今までISOの審査を行ってきているところでJFSの審査も行っているところもある。

17 認証機関の選定で注意すること

製造している製品にあった審査員を出してくれるところが大事だ。

例えば、惣菜のような場合、そこに飲料の実績はあるが惣菜関係はあまり知らない審査員が当てはめられたら混乱する。

認証費用の見積もり段階で、この要望をし、契約前に再確認するとよい。

費用をかけるのだから、審査も重要な点を指摘してもらい、より安全になる仕組みを作ることに活かし、有益な情報を得たほうが良い。

18 無予告審査

審査をするのに、予めスケジュールを決めてから行くのが日本では一般的なのだが、欧米主要国ではそうではない。予告せずにいきなり行く。審査というのは元々こういうもので、アポイントメントを取っていくこと自体が審査にはならない。

欧米主要国ではリテイルレベルでも無予告審査で、一般的なのは半年に一度いきなり店舗に行って審査をする。このときあまりひどい状態だと営業停止を宣言されることもある。米国では点数制で、合格レベルに達しないと処分を受けることが多いようだ。

FSSC22000ではこの無予告審査を3年に一度入れなければならないことになっている。いきなり工場に行き、これから審査を行うと宣言する。中に入ったら短時間の間に審査を始めなければならない決まりになっており、審査員はこれを守らなければならない。

19 自己宣言

ISO22000はISO22000で管理していることを自分で宣言できることになっている。

規格の1.適用範囲のg)に「この規格への自己評価もしくは自己宣言を行う」ことができると、明確に記述してある。

ある惣菜弁当工場では「ISO22000自主運用宣言をしました」と、ウェブサイトで発表をしている。

とはいえ、その根拠は広報上あったほうがいいので、管理運営をウエブサイトで発表したり、プライベート審査をする、自己宣言工場同士が相互監査を定期的にし、それを発表する、などの対応はあったほうが良い。

https://www.oks-delica.jp/philosophy/#haccp

20 GFSI

GFSIは民間によるメーカーと小売業の検討機関で、国際的な取り引きで、メーカーも小売業側もお互い協力して安全な食品を扱おうという目的で活動している。

日本でも大手食品メーカーや大手流通企業が参加しており、FSSC22000の取得をすることにより、取引先にGFSIのメンバーが複数あった場合、審査も共通で出来るようになる。

例えば、工場の取引先からの定期的な審査が数箇所からあった場合、FSSC22000の取得によって、販売先がGFSIに複数あったら、FSSC22000の審査が統一されることもできる。今までいくつもの審査基準に対応していて煩雑だったのが一つになれば、審査と基準も一つにまとまるので有利になる。