HACCPの10大誤解!

製品を利用する小売やフードサービス側にとって、HACCPは安全でごまかしのない良い食品仕入の指標になっています。

「HACCPを実施していないところからは購入しない」というのが、常識になってきました。

長年の経験からHACCPに対する次のような誤解が多くみられます。

HACCPの10大誤解!

      1. 対応施設設備に変えなければならない、古い工場だから出来ない、という誤解

      2. 「取得」しなければHACCP実施を広報出来ない、という誤解

      3. 膨大な資料を作らなければならない、大工場でないと出来ない、という誤解

      4. 製造効率が悪くなる=コストアップ、という誤解

      5. 専門家か資格者がいなければ出来ない、という誤解

      6. 加熱工程が無いから出来ない、という誤解

      7. ちやんとした検査機器が無いから出来ない、という誤解

      8. 監査体制構築が大変、という誤解

      9. 全てを構築しないと動かないのでは?という誤解

      10. 同じ製品を作る工場なら似たものになる、という誤解

以下、解説です

1.対応施設設備に変えなければならない、古い工場だから出来ない、という誤解

HACCPを行なうのに、基本的に施設設備はそれまでのままで良い。HACCPは安全にするためのシステム、方法だから、ソフトウエア、運営で行なうのである。

床が傷んでいて汚れがたまりやすくなって来たら、清掃を強化する。傷、はがれたところのすき間、壁との間などの汚れをブラシを使ってしっかり取る方法にすればよい。蛍光灯がむき出しで埃が溜るのならば、それまで年に一度の頻度で清掃していたなら、半年に一度とか、毎月の頻度にすればよい。蛍光灯で良く言われるのは、飛破散防止タイプに変えることなのだが、新品に近い蛍光灯ならば直ぐに変える必要は無く、古くなって取りかえるときにすればよい。

古い工場だと、ゾーニングや動線がうまくいっていないことが多い、これを直すために、隔壁を必ず作らなければならないということはない、パーティションで区切ったり、ラインを引く、といった「方法」でやっても良い。動線も、作業テーブルや製造機械の配置替え、移動といった方法で対応すればよい。方法だけでは100%うまくいかないことも多いが、作業分担や、「こちらから入ってはいけない」などのルールで対応すればよい。

ハード的に改修をする必要があるのは、壁が壊れていたり出入り口にすき間があって虫が入ってくるとか、調理機械の調子が悪くて加熱不足になる可能性が高いなど、危害に結びつくところである。ただ、衛生管理体制を強化するのをきっかけに、工場を大改築又は新築するなどという場合には、HACCPと一般的衛生管理が楽にできるように、壊れず、汚れにくく、清掃しやすいタイプにしたり、動線とゾーニングからスタートした工場設計にしたほうが良いことはもちろんである。

2.「取得」しなければHACCP実施を広報出来ない、という誤解

2021年6月からHACCP制度化がスタートします→認証取得ではなく、保健所が「実施していることを確認」することが必要

HACCPは自主的に行なえばよい、承認や認証が無くても「うちの工場ではHACCPを実施している」ことをアピールできる。HACCPを行なっているかどうかは少し勉強している人なら直ぐにわかる。

ある野菜加工工場では「うちの工場ではHACCPをやろうと始めたのだが、未だそこまで行かない」といっていたのだが、工場を見たら、マニュアルはしっかりとしているし、チェックリストも付けている、洗浄水の温度や調理温度などもコントロールしているので「これなら十分にHACCPを行なっていると発表してもいいですよ」と言った。HACCPの構築は終了なんて無く、常に工夫、アイデアで進化していくものなのである。「HACCP構築中」「HACCP実施中」が正しく「HACCP構築終了」は無いのだ。

HACCP対応の施設として新工場を建設したある給食工場を、専門家が見せてもらったところ、チェックリストはないし、従業員に「CCPはどこですか?」と聞いても質問の意味もわかっていない。動線とゾーニングの認識も現場にはないので「HACCPなどやっていないじゃないですか」と言って帰った。その後この工場長が調べて、HACCPというのは建物を建てただけではダメなんだとわかった。「HACCPはモノではなく方法」なのである。

3.膨大な資料を作らなければならない、大工場でないと出来ない、という誤解

自社の製品の安全性を高め、品質も良くして、商品力を高めるために、自主的にHACCPを行なうのならば、わざわざ膨大な資料を作る必要なんて無い。むしろ重要なところに絞り込んで行なうほうが運営に集中できるので、効果が上がる。

ある豆腐工場では、今まで適当にその日の気分や製造作業の終了時間に合わせて清掃をしていたのだが、良く観察したら、日によってひどい状態があり、こういう時に異物混入が起きるのではないか?と心配になった。そこで、清掃方法と頻度を決め、担当者も決め、それをチェックする人を決めることにした。頻度は毎日、毎週、毎月、簡単なチェックリストを作って交代で見るようにした。これだけで見違えるようにきれいになった。書類は、何枚かの清掃手順書と、チェックリスト一枚である。これは立派な一般的衛生管理の構築スタートである。

ある総菜チェーンでは、豚カツ、唐揚、天ぷらといった揚物メニューで「中が生だった」「硬くて味がなかった」と言ったクレームが多かった。要するにフライ調理が不安定なのである。どうしようか調べたら、中心温度を計ればよいとわかったので、それまで見たこともなかった中心温度計を購入し、実態を計ってみたら、店舗ごとに実にまちまちで、安定しているところの方が少なかった。これではクレームは当たり前で、今まで食中毒が無かったのが奇跡のようだ。

そこで「75〜85℃の間にする」と「一日数回確認する」を店舗への温度計の配付と一緒に通知をし、一月一枚、1〜31日までの列と、5回分の測定温度を記入する列の表を付け、このチェックリストを毎月末にファックスさせる指示を出した。これでクレームが激減したのだが、これは立派なCCPなのである。

4.製造効率が悪くなる=コストアップ、という誤解

何事もやり過ぎは禁物である、適正な頻度が必要である。調理したものが75℃以上になっているかどうかを測定するのに、5分ごとに計っていたら大変だ。まず、30分ごとに計ってみて、安定していることが確認できたら、今度は1時間毎の頻度で運営をしてみる。これで数ヶ月やってみて、2時間毎で問題がないと検証できたらそれでよい。適正な頻度を運営と検証で突き止めていけば、測定での効率ダウンという問題はないことがわかる。

動線とゾーニングを検討するが、これは製造工程と一緒に考えることになる。動線は一方方向に製造が進み、交差したり戻らないようにする。ゾーニングは衛生レベルの違いで分ける。これらを検討するということは、実は製造での最短距離、物があちこちに無駄に動かないようにすることになる。ゾーニングは、絶対に隔壁が無ければならないということは無く、パーティションや床にラインを引く方法でも、状況によってはよい、であるから無駄に製造ラインを妨げることにはならない。こういったことによって、製造効率は良くなる。

問題があった場合、すぐにラインを停止して、正常に戻すが、これを「緊急処置」という。同じ問題がよく出現する場合、根本的にその問題が出ないようにじっくりと考えて解決すると、ライン停止が少なくなる。例えばカッターの刃がある一定期間すると切れなくなる場合、その都度停止して交換するのではなく、切れなくなる前に、ラインが動き出す前に交換してしまえば、ライン停止は無くなる。こういった処置を綿密に工場内で行なっていくと、ノンストップの工場にすることが出来る、これを「恒久処置」という。これは、同じ人員、同じ設備機器で、生産が上がることを意味する。基本コストが同じで製造量が増えるのだから、コストダウンにもなるのだ。

5.専門家か資格者がいなければ出来ない、という誤解

HACCPの手法は、日本では一般的には最近知られてきたものである。だから専門家はそう多くは無い。だから一部の経験ある専門家以外は、ほとんどが素人である。素人集団からほとんどはスタートをする。基礎勉強から始めているのである。だから、ウチはスタッフがいないからとか、専門家を雇う費用も無い、などと悩む必要は無い、皆素人から始めるのである。そして、細菌学や食品科学を知らなければ出来ないということももちろん無い。細菌についての知識は勿論知っているほうがよいが、最初から知っている人は居ないところが多いから、取りあえず掃除から始めればよい。掃除をすれば細菌とゴミが減るから、食中毒事故の可能性が減り、異物混入クレームも減ることになる。その合間に勉強していけばよい。皆ゼロからスタートするのである。

6.加熱工程が無いから出来ない、という誤解

HACCPはCCPを決め、そこに集中する。CCPとは危害を食い止めるためのかなりの効果があるところである。CCPの代表的なものは加熱殺菌である。では、加熱殺菌工程が無い製品で、金属探知機もなければ、CCPが無くなってしまう。それならばHACCPは出来ないではないか、と考えてしまう。しかしそんなことはなく、確実なCCPが無いHACCPなどいくらでもある。例えば魚の切り身のポーションカット工場には加熱工程はなく、一般的衛生管理で行なうことになる。このまま行けばCCPは無い。しかし、工程の中で、特に重要な一般的衛生管理については、CCPの性格ではないが、自主的にCCPにしてもよい。例えば直接食材に触れるまな板の徹底洗浄殺菌と2時間毎の交換。カット野菜工場も加熱殺菌工程はないが、例えば洗浄水の塩素濃度のチェック。先日行った米国ボストンの雲丹(ウニ)加工工場ではCCPは無く、一般的衛生管理の中の特に2ヶ所、雲丹の洗浄冷却水と作業室の温度に集中して運営をしていた。保健所のチェックもこの2つに集中している。

7.ちやんとした検査機器が無いから出来ない、という誤解

正確な検査機器は高価だし、スタッフの技術も必要だ。ハードとソフト両方のコストはかなりのものになってしまう。「きちんとした検査機器を用意することをおすすめします」という監視側の立場にいる人に言われることもあるという。しかし、中小工場ではなかなかそうは行かない。

HACCPは簡易検査だけでも十分に構築運営できる。簡易検査の検証のために、専門機関や公的機関の検査に依頼すればよい。例えば、製品の簡易細菌検査を製品のロットごとに行ない、毎月1サンプルを専門機関に出す。専門機関に出したのと同じロットを工場内で簡易検査をしているから、その誤差があるかどうかをチェックする。誤差が問題無ければそのまま進めればよい。毎月一度内部簡易検査の信頼性を外部を使って検証することになる。対象の製品を増やすとか、専門機関に出す頻度を多くするなどは、信頼度、誤差、コストなどを考慮して決めていけばよい。

8.監査体制構築が大変、という誤解

偽装事件が続々と発覚する中で、悪意のある行為、犯罪、詐欺といった、明らかに騙す目的で行われることは、刑事的疑いをもって調べなければなかなかわからない。しかし、つい忘れてしまったとか、面倒だったのでちょっとサボった、といったことが無いようにするためには、それほど完ぺきな監査体制を構築するまでもなく、常識的な手法で管理できる。また、正しいと思って行われていることや、以前から長い間行われていたことが、外から見て、問題があったり、もっと良い方法があるということも、前向きな意味の監査体制によって発見されることが多い。積極的にもっとHACCPを良くしようという目的のために監査を活かすことが、製品と企業を良くすることになる。

現場での作業室相互監査だが、工場はいくつかの作業室あるいは部署に別れているので、それを利用するのだ。例えば、受け入れ保管担当、下処理、調理、パッケージ、と4つの部署に別れていた場合、清掃とメンテナンスがきちんと行われているかの確認を、受け入れが下処理を、下処理が調理を、といった形で監査をすればよい。作業した以外の人の目で見ることが出来るので、忘れ、不正、といったことを発見しやすい。

外部監査は、グループで行なう方法がある。同じ企業系統の工場が複数あれば、A工場がB工場を監査し、B工場はC工場を監査、といった形にしたり、三つの工場を一つのグループにして、AとBが一緒にC工場を、BとCがA工場を、AとCがB工場を監査する。この活動を年に2回行なう、といった頻度を決めると良い。組み合わせも常に変えると良い。お互いの工場の指摘もしあえるので、一石二鳥である。

9.全てを構築しないと動かないのでは?という誤解

販売先から「HACCPを構築して欲しい」という要請を受けた食品メーカーの方が来られて「どのくらいの期間がかかるか?」と聞くので、「2年ぐらい」と答えたら「え〜〜、困る!」と嘆いた。でも、嘆くことはない、HACCPは土台となる一般的衛生管理の構築から行なっていくが、少しでも進めるごとに効果はしっかりと現れていく。初期の頃に行なうことに、施設設備機器の清掃とメンテナンスがあるが、それまで行なってきた方法を見直し、より確実で合理的な方法があるかを検討し、何よりも大事な「頻度」を決めて実施し始めると、工場内が次第にすっきりときれいになっていく。これそのものが異物混入の原因を取り除き出したことになる。

防虫防鼠の検討で、虫が入り込むスキをふさぐことで、虫の侵入が押さえられることになる。ドアやゲートを開けっ放しにすると虫が入るのですぐに閉める、というルールを、全従業員に理由と効果を含めて教えることで、防除する体制を整えることが出来る。

こういった活動を毎月一つづつ着々と進めていくことで、工場の一般的衛生管理が充実していき、結果としてクレームの減少という喜ばしい結果が次第に現れてくるだろう。このような中で、加熱調理後の温度を測定し始めると、温度の状態がどのようになっているかが実態としてわかってくる。かなり不安定だなとわかったり、加熱しすぎだったりといった、科学的に状態がわかり、それを直しながら、測定の方法と頻度を決めていくことで、安全でなおかつ品質面でも美味しい製品が出来るようになっていき、この活動はHACCP本体になる。

10.同じ製品を作る工場なら似たものになる、という誤解

ある食肉メーカーは、ローストビーフを、東京と大阪の2つの工場で製造している。同じ生産システムで、調理を行なうフランス製の機械も同じものを使っている。しかし、HACCPのCCPは、大阪が、加熱調理、その後の冷却、そして金属探知機、という3ヶ所なのに対して、東京は金属探知機部分の1ヶ所である。両方とも総合衛生管理製造過程の承認を得ている。この工場の構造は、同じ調理機械があるというだけで、レイアウトも動線もゾーニングも違う。ローストビーフだけ作っているわけではないし、第一従業員が違う。であるから一般的衛生管理も全く違うものになるのは当然である。住宅やビルが一つ一つ違うように、HACCPは工場ごとに全部違うのである。