投稿日: 2013/04/06 23:40:33
ほとんどの食品工場での深刻な問題は、異物混入だ。
著者が毎年行っている全国セミナーで、昨年は異物混入対策を扱った。具体事例を中心に徹底的な対策を解説し、多くの方から分かりやすかったと評価を頂いた。ところが、具体的にどうしたらいいか大分判ったが、どこから手を付けたらいいのか判らない、といった質問や悩みがその後出て来た。
そこで、これに対する回答の意味と、具体的なステップの提案ということで、今年の全国セミナーのテーマは「低費用で出来る異物混入防止対策」PART-2 12ヶ月で徹底構築する」にした。
今回からこれについて解説をしてみることにする。
全国セミナー〔スポンサー付きなので無料〕と、この連載の並列進行になる。
手順は表の通りで、これらを実施していくことで、以下の効果が出てくる。
物理的異物、交差汚染、虫対策、細菌ウイルス、カビ、清掃しやすさ、認識活動、コストダウン。
この最後にコストダウンがある。
HACCP、衛生管理にどうしてコストダウンが出て来るのかと思う方も多いかもしれない。何しろHACCPは「金がかかる」と思っている人が多いのだから。しかしそうでは無い。
一般的衛生管理とHACCPを構築すると、人の動きと製品の製造動線がシンプルになり、無駄が無くなり、それは一人当たりの生産性が上がることになる。製品そのものの製造効率は、失敗、不良、無駄が無くなり、不良率が劇的に減少していく。そして、ラインが停まらなくなるので、工場の稼働率が上がる。生産性が上がり、工場の稼働率が上がれば、それはそのままコストダウンになる。稼働率70%だったのが80%になれば、約10%ものコストダウンになる。清掃しやすくなるだけで、清掃洗浄効率が良くなってこれもコストダウンになるのだ。
それでは1ヶ月目から始めよう。
まず、ここで言う異物だが、単に物理的異物だけでは無く、細菌ウイルスなどの生物的異物、洗剤薬剤などの科学的物質も含む。いわば「危害と危害物質(ハザード)」全てだ。
最初に重要なことは、何故これをやるのか、という認識だ。実施する理由が明快でなければ、やらなければ、という気にならない。
幾らこうしなければならないといっても、何故? という疑問が潜在意識の中にでもあれば、現場の自主的な活動になって行かない。
昔からまじめに丁寧に仕事をしている食品工場があり、久しぶりに行った。
工場内を数年ぶりに見てみると、施設は古いままだが、動線とゾーニングを整備し、出来るレベルで改修修理して、やはりまじめにしっかり取り組んでいる。
ところが、食品がむき出しになって流れている場所を点検していってみると、上や周囲にゴミ、埃、ペンキの剥げ片などが落ちる箇所がかなりあった。清掃洗浄の頻度も決まっていない。
そこで、問題箇所をデジカメで撮影した。撮影は、まず全体を撮影する。問題箇所、つまり異物が溜まっていたり隠れていて見えないが危険な箇所を遠くから撮る。まあ、普通の視線で撮る。その後、問題箇所を接写する。製造中の食品の上にある、今にも落ちそうな異物が大きくクローズアップされる。食品の焦げたのが残っている。黒いので、これが入ったらゴミが入っていると隔日に見える。埃が多い所もあるが、これは加熱後はかなり熱くなっているので、すぐに清掃出来ないため忘れ、結局溜まっていく埃だ。機械の可動部分と固定部分のあちこちに、こびりついた汚れ、ペンキが剥げてすぐに落ちる状態になっている所、機械油とゴミが一緒になってこびりついた場所、といったのがあり、これらを接写した。
そしてこの後、従事者全員を集め、プロジェクターでこの写真を一つ一つ大きく写した。
全体を撮影した写真を投射すると、ああ、あそこの所だ、自分の仕事場所だ、といった顔で、ただそれだけ。その後だ、問題箇所を接写した部分が大きく映すと「えぇ〜〜〜!!」
何しろ、投射している壁一面に、ゴミ、埃、汚れ、カスなどが巨大に映るのだから、びっくりする。
この工場は、古いが、まじめに一生懸命清掃している。床とか隅がきれいなので、丁寧に清掃しているのだ。しかし、一番肝心な、製品に入りそうな異物の存在に気が付いていないのだ。
10ヶ所以上の場所をこの手順で映したら、すぐに全員が理解した。
2回目に行ってチェックしたら、指摘箇所はきれいになっていた。金属探知器のカバーの端部分の塗料がはがれてきていて、これをどうするかなと撮影時考えたのだが、来てみたらその部分に布テープが貼り付けてある。理解も早いが改善の工夫も素晴らしい。
気付かせるには、この接写、とても良い方法だ。
気付かせる方法もいろいろある。
細菌検査の悪かったデータをグラフなり絵で大きく示す。
ふき取り検査の結果悪かった所を発表する。
クレーム対応に行ってこっぴどくしかられて倒れそうになった担当者の経験談を話してもらう。
他社の大事故側がウチの工場でもありうることをそのラインの個所に皆を連れて行って説明する。
衛生管理が大事だ、汗をかいて掃除しろ、と言っても、「いつもちゃんとやっているけど……」となる。そうでは無く、具体的に示すことで「大変だ」となり、現場が自主的に工夫し、活動を始めるようにする。
このきっかけ、気付きを、まず1ヶ月目にやろう。
大掃除
整理とは、要らないものを捨てることで「大掃除」だ。
整頓は、必要なものを、置くべき所に置くこと。
こうなると、清掃洗浄がやりやすくなり、ますますきれいになる。
そこで、異物混入が無くなる、という良い結果になる。
1ヶ月目に汚れた箇所をデジカメで接写し、驚愕の印象を従事者に与えたあと、恐怖感をわすれないうちに早速大掃除に突入するとよい。
しかし「でも……なかなか捨てられなくって……」という声がある。
そこで、昨年末の号で「未練倉庫の勧め」を書いたが、これを実施する。
簡単に言うと、一応取っておこう、また使うかもしれないから、もったいないから、といった「未練物」を、1年間預かっておく、として「未練倉庫」に移してしまえば、作業場はさっぱりする。そして大掃除は大成功となる。
危険物除去変更修理
危険物とは、壊れるもの、割れるもの、欠けるもの、落下するものなど。
ある工場のホワイトボードに欠けたマグネットがあった。メモや伝票などをボードに貼るためにあるのだが、これが半分欠け、さらに半分に欠け、表面のコーティングがはがれ、残りも落ちかけている。チェックリストバインダーの角の金属製補強材が落ちかけている。これはビニール製のバインダーに交換。金属タワシは樹脂製の「がんこたわしに」変更。落ちかけているペンキの剥げ片は磨くか修理。といった活動だ。
必要なものを3つに分けて置く
作業場に残った必要なものだが、これを3つのレベルに分ける。
製造場所で常に使うもの、温度計、計量器、アルコール消毒、カウンタークロスなどは、その場所。
日に1〜2回程度使うもの、清掃道具、メンテナンス道具などは、製造室の隅か通路に置くと、製造場所の邪魔にならないし、異物混入の危険が少なくなる。
あまり使わないもの、機械部品、その日使わない包材やラベルなどは、倉庫に置く。
作業場所がすっきりしても、そのまま放っておくと、しばらくしたら元に戻るかもしれない。そこで、清掃洗浄の頻度を決めて実施を始める。
頻度は4つに分ける。
毎日:製造機器道具、床、腰位置から下の壁、工場内ゴミ置き場など
毎週:入出荷口、天井下の壁、大型機械の天井部分、冷蔵庫、通路、工場外ゴミ置き場など
毎月:駐車場、原料倉庫、製品倉庫など
毎年:冷凍庫、天井、照明など
このうち、毎日の作業は、ある程度の期間で体が覚え、チェックリストの必要があるのかと考えるようになる。衛生管理の担保のために必要、という考え方で記録を続ける、というのでもよい。
そうでは無く、ふき取り検査などの検証で、確実にきれいになっているかを確認する方法をとっている所も徐々に増えている。つまり、毎日の頻度については記録を取らず、清掃した担当者以外の人、隣の作業場同士とか、事務所の人、更衣室などの清掃担当を委託しているパートなどに確認してもらのだ。
確認の方法は、目視、ふき取り検査といった方法で、頻度は、初期の頃は毎日やり、検証の結果が良い状態で安定してきたら、たとえば毎週曜日を決めずに1回、といったようにする。
毎週、毎月、毎年の頻度は、必ずチェックリストで管理する。これらは毎日のルーティンワークでは無いので、忘れたり漏れたりするからだ。
チェックで「×」となったものについては再作業にし、結果も記入することだ。再作業は実施を初めて初期に多いだろうが、次第に減ってくる。減ってきたら今度はチェック者を変えると別の目で見るので、新たな問題ヶ所が出て来ることが多い。
これらの経過で「×」がちょいちょい出て来る所は再発防止を考えなければならない。ISOで言う「是正」だ。原因を探ると、手順が悪かったり、人によって違うとか、不安定な面が出て来れば、標準作業手順書、いわゆるマニュアルにする。デジカメで作業を撮影して分析し、効率的効果的な手順を確立する。複雑な機械洗浄などは、その手順通りに出来る人を登録し、その人しか洗浄作業をしてはならないようにする。これを「力量」といい、力量がある人を次第に増やすことで、作業の不安定さや偏りを防ぎ、結果的に安全性の向上とストダウンにつなげることが出来る。
ふき取り検査を始める
ということで、計画的な清掃洗浄が始まったら、ふき取り検査が必要になる。ふき取り検査はシート培地なら1回100〜250円程度、スタンプ検査なら150〜600円程度〔どちらも恒温器があったほうがよく、これは小型で3万円程度のがある〕、ATP検査器なら小型の機械で10万円を切るのが出ていて、1回の検査は240円ほどだ。
人の毛髪は1日平均70本程が抜け替わっている。工場で仕事をしている時間からすると24本程が抜け替わっており、全部落下しないのは引っかかっているからだ。工場に100人仕事をしていたら2400本もの毛髪が「引っかかって」いて、そのうちのある程度は落下している。大変な本数になり、これがわずかな確率で食品に混入してしまう。
食品への毛髪混入は総菜弁当といった人手のかかる製品では深刻で、どこも対策に苦慮している。毛髪は只単に不快なだけでは無く、フケには黄色ブドウ球菌があり、これが非加熱の食品に落下してしまえば、時間が経つと増殖し、食中毒の危険も出て来る。
毛髪混入対策で威力を発揮するのは粘着ローラーだが、さらに突っ込んだ対策をとる必要がある。それは個人の衛生管理から工場までの通勤といった統合的な対策をとることだ。
家から工場までのルール
まず個人生活からで、毎日風呂に入ってシャンプーする。これで抜け替わって引っかかっていたりその過程にある毛髪をきれいにすると同時に、フケを無くす。夏場などは出来れば朝シャンプーする。
ボタンのある下着や毛玉の落ちるセーターを着ないで、出勤する。
工場に入ったら、冬場なら入り口にコートをかけ、更衣室に入る前にブラッシングする。このことで、更衣室内で毛髪が落下して作業衣に付着することを防ぐ。
私服と作業衣の交差を防ぐ
更衣室内での着替えでの注意点は、私服と作業衣の交差を防ぐことだ。
ロッカーの中で私服と作業衣が無造作に置いてあったり汚かったりすると、私服に付いていたゴミ、埃、毛髪が作業衣に付着し、それが作業室内に入ってしまう。
この対策として、ロッカーが一つなら、上に作業衣をつるし、下に私服をたたんで入れておく。作業者はまず私服を脱ぎ、ロッカーの下に全部入れてから、上にかかっている作業衣に着替えるようにする。私服が下にあるから、作業衣は汚れない。ロッカーが上下の二つを使うことが出来ればさらに確実だ。
さらに確実な方法は、作業衣をロッカーと離れた場所に置く方法だ。
従事者は更衣室に入ったら自分のロッカーに行き、私服を脱いでアンダーシャツ状態になる。ロッカーの扉を閉めてから、離れた場所、出来るだけ更衣室の出口に近い場所にある作業衣と帽子の所に行き、装着して更衣室を出て工場内に入る。こうすれば、私服を脱ぐ所と作業衣を着ける所が別れているから、私服と作業衣の交差は起こらない。
作業が終わって帰るときは、使った作業衣を、毎日洗濯するなら洗濯コンテナに入れるか、数日使うなら、作業衣と帽子の場所に置き、アンダーシャツ状態になってから自分のロッカーに行って私服を着て帰る。
作業衣の洗濯は自宅でさせない
ある総菜製品から毛髪が出て来て、お客様はかなり怒り「原因を説明しろ」とカンカンになってしまった。こういったヒステリックな顧客も最近は増えてきている。
そこで仕方なく毛髪の分析をした。豚毛などの獣毛かもしれないからだ。結果、驚いたことに犬の毛だった。
何で犬の毛か、調査したら分かった。この工場では作業衣の洗濯を従事者の自宅でさせており、その中の従事者の家で室内で犬を飼っていた。その犬の毛と一致した。
家での洗濯は、ペットの毛、家族の毛、ゴミ、糸くずなどが入り、そこで工場の作業衣を洗濯するのはかなりリスキーだ。異物だけでなく、細菌汚染もある。
作業衣の洗濯は、工場内に工業用の洗濯機と乾燥機を設置し、乾燥は85℃の熱風乾燥殺菌をする。あるいは、作業衣のリースやレンタルシステムを導入する。リースシステムは見積もりを取ってみれば、洗濯頻度などの状況によっては購入するよりも洗濯付きなのに安くなることもあるので、一度調べてみることだ。
しっかり粘着ローラー
粘着ローラーのテープは、3〜4回使って取り換える所が以前は多かったが、毛髪混入クレームがある所は、1回に1枚使い、かけ終わったらはがし、じっと見て、どれだけ埃や毛髪が付着しているかを確認する、という方法に変えている所が多い。これによって認識を新たにすることが出来、それがしっかりローラーをかける行動になる。
粘着ローラーを一人1枚しっかり使っているかを見るのに、先月解説したHACCP会計でチェックする。簡単な計算でひと月にどれだけ使っていればいいのか分かる。
エアシャワーで仕上げと効果確認も
粘着ローラーのあとエアシャワーを通る所は、エアシャワーを過信しないようにする。エアシャワーと粘着ローラーとでは、粘着ローラーをしっかりかける方が効果がある。
エアシャワーで、粘着ローラーかけがしっかり出来ているかの効果確認をすることが出来る。エアシャワー室内の壁面の一部に粘着ローラーの1枚を両面テープで貼り付け、しばらく使ったあと調べてみると、粘着面に埃がかなり付いており、毛髪まで付いていることも多い。これはつまり、粘着ローラーをしっかりかけていない、ということになる。これも認識になり、粘着ローラーしっかりの活動につながって行く。
ところでエアシャワーは、左右の吹き出しからの乱気流で埃を吹き飛ばし、その埃は舞い乱れたあと、フィルタに吸い込まれる構造だ。この舞い乱れてからというのがちょっと問題で、その一部が効果確認のため貼り付けた粘着テープに付くのだ。これが作業場内に入る危険もある。
そこで、先日登場した全く新しい形のエアシャワーは、乱気流にならないように、左右から交互に風が流れるようにしている。エアシャワーに入ると、最初に右から左に気流が抜け、次に進むと今度は左から右に抜ける。これを何回か繰り返して出口に行く。埃は一方向に飛び去って行くので乱れ舞わない。
このエアシャワーに関する問い合わせはメールで。
ノロウイルスが猛威を振るっていて、平成19年の厚生労働省のデータでは、食中毒の半分以上がノロウイルスだ。黄色ブドウ球菌、大腸菌も、手洗い不備から来る。手洗い対策を徹底することだ。
手洗い対策のために、手順の訓練、マニュアルやポスターの掲示、手洗い時間をキッチンタイマーで知らせる、などがあるが、その前に「なぜ必要か」という認識が重要だ。そこで、効果がある方法を2つ。
汚れを「見える化」
不定期な手洗い後の検査
手洗いが出来ているかを検査のに、頻度は決めて、具体的にいつやるかはその都度変える。
ある工場では、1ヶ月に1度手洗い後のふき取り検査をATP検査でやるが、その月のいつやるかは決めない。4月、月半ばの月曜日にやったら、5月は月末にやり、6月は1日にやった。5月31日のあと、翌日の6月1日で、2日続けて検査する場合もある。いつ検査になるか分からないので、常に手洗いを徹底することになる。ランダムに近い状態だ。
検査の場所は、手洗いが終わったあと、手洗い場所から見えない工場側に入った所に待機していて「今日は手洗い検査です」と、全員やる。当然渋滞し、作業開始は遅れるが、月に1度の重要な検証なので、検査優先にする。
数値が悪かったら、際手洗いをしてもらい、再検査をする。そして数値を発表する。
この検査、従事者を信用しないぞ! 悪いヤツ見付けてやる! といった状況でやると殺伐としてしまい、仕事のやる気を無くしてしまうが、「今日は検査日で〜す、ちゃんと洗えているかどうか、見てみましょう」程度に、和気あいあいとやれば、そんなことにはならない。検査する人の性格が大事だ。
最初やったとき、数値は悪かったが、回を重ねるごとに平均値がどんどん良くなって行った。そして新入社員やパートが入ると、先輩が「数値が良くなる手洗い方法」を教えるようになった。
スタンプ検査でも出来る。スタンプ検査の良さは「汚れが見える」ところだ。
動線は一方方向にして交差したり戻ったりしないようにする。そして短く出来れば従事者や製造食品の移動が少なくなるわけなので、コストダウンにつながる。
ゾーニングは交差汚染を防ぐ。
動線とゾーニングが出来ていれば、その状態にあるだけで異物混入の危険が少ないわけだ。そして清掃洗浄をすれば、異物や細菌といった危害の元が少なくなる。動線とゾーニングをしっかりするのは工場の基本だ。
セミナーでこのための方法と事例を解説したあと驚きの質問が来た。
「動線とゾーニングがなぜ必要か?」
そこで、次のセミナーで「なぜ必要か」から解説したら「それで動線とゾーニングがなぜうるさく言われるか、が分かった」と言うアンケートがかなりあったのでまたびっくりした。
動線とゾーニングは、工場全体で構成するが、一つの作業室単位でも必要だ。下処理室、調理室、盛り付け室と、それぞれの作業場所で動線とゾーニングを構築するためには、現場のリーダーが「認識」していなければならない。手洗いの認識と同じだ。
認識のための解説を2つほど。
一つは「ゾーニングされていないと交差汚染が起こる」
原料庫、原材料から下処理に至る過程で、ゾーニングがされていないと、食材を入れてある段ボールの塵、虫、埃などが、下処理中の食材を汚染する。
下処理から調理に至る過程では、下処理室で出た塵や汚水が、調理の方を汚染する。
調理では、そのあとの箱詰め工程での段ボールの埃が調理を汚染する。
箱詰めでは、そのあとの倉庫の埃がパッケージの表面に付いてしまう。
だから、汚染→凖清潔→清潔→凖清潔→汚染と、ゾーニングする。小型工場では汚染→清潔→汚染と、2段階でも良い。
もう一つは、外からの汚染、例えば土壌菌〔ウエルシュ、セレウス、ボツリヌスなど〕が工場内を汚染する。
食材搬入出のプラットフォームに、運転手や従事者が土足で入り込むと、土壌菌がプラットフォームを汚染する。そこをキャスターや工場内従事者が通ると、土壌菌も、靴底やキャスターについて入る。それが野菜を洗浄している下処理室に入ってしまい、床に近い低い位置に置いてあるザル入りの洗浄野菜を汚染し、結果、製品から土壌菌が発見される。
これは実際にあることで、これを防ぐには、プラットフォームに上がるときは内履き替え、キャスターはゾーニング別に区別することだ。
ゾーニング別にキャスターを分けるというのは、入荷と下処理間の往復専用のキャスター、下処理と調理間のキャスター、調理とパッケージ間のキャスター、そしてパッケージと倉庫出荷間のキャスターにそれぞれ色分けなどをして分けるという方法だ。
今までの6ヶ月での活動で、工場内の問題点がかなり出て来ていることだろう。たくさん出て来てびっくりしたかもしれないが、そのことに今まで気が付かずに来ていたことが恐怖だったことにもなる。見えなかった問題が明らかになっただけで安全になって行く。具体的な活動に入る前に「注意する」ことになるからだ。
出て来た問題点を図面にプロットするなり表にして整理し、改善の検討、実施順、費用が必要な場合の積算などを分かりやすくして行くといい。
よくある問題点と改善には以下のようなのがある。
排水がたまらないように、清掃しやすくする
排水枡の下に汚水が溜まって臭いと虫の発生源になっているのを修理して、きれいに残らずに排水出来るようにする。
排水溝の蓋が不要な場所があったら蓋を取り去って清掃洗浄しやすくする。など。
隅、隙間、汚れ溜まりがないようにする
作業室の壁側に不要なものが置いてあったり、隅隙間に汚れが溜まっているのに清掃洗浄出来なかったり出来にくかったりしている場所を発見。
不要なものを出したり、隙間をさらに開けて15センチ以上にして洗浄しやすくする。
あるいは逆に壁に接着してしまって清掃しなくても良いようにする。など。
洗剤薬剤が食品に入らないようにする
清掃洗浄道具と洗剤資材の倉庫を作って全てそこに置くようにする。
製造作業が終わってからその倉庫に道具と資材を取りに行くようにする。など。
床から離す、天井から守る
床に直置きしないように徹底する。
キャスターに乗せて物を置くようにする。
穴の空いたサンテナに食材を入れているような場合はダミーのサンテナを2つほど置き、その上に食材入りのサンテナを置けば床からのはね水や塵の汚染を防ぐことが出来る。
天井からカビ、塵、結露が落ちている所は、食品の上に落ちてこないようにビニールシートや波板でカバーする。
結露については扇風機で風を送って防止する方法もある。
工場周囲からの異物侵入を防止する
特に虫の侵入を防止するために、外のゴミ置き場の清掃、中の塵庫の清掃洗浄、ドブ清掃といった、工場周囲に虫が発生しないようにする。
虫が工場に近づかないようにするために、光が漏れないように防虫フィルムや塗料を塗る。
工場外の看板などの照明を虫が寄らないように使わない。など。
外との密閉性
シャッター、入出口、換気扇の隙間から虫が入らないように密閉する。
入出口をビニールカーテンで二重にする。など。
ソーセージ工場での改善事例
小型のソーセージ製造工場で、動線とゾーニングがうまくいっていない上、壁側の清掃洗浄がしにくいため、衛生管理に手間がかかり、コストもかかっていることが分かり、その改善をすることにした。
製造工程は、原材料→下処理→調理→スモークハウス→冷却→真空パック→金属探知器→外包→製品庫、となっている。
このゾーニングだが、汚染→凖清潔→凖清潔→境目〔スモーカー〕→清潔→清潔→境目〔金属探知器〕→凖清潔→汚染となるのだが、清潔ゾーンのあと、段ボール入れまで清潔ゾーンで行っているのと、冷蔵庫内が製品を冷却する清潔ゾーンと製品倉庫の汚染ゾーンが一緒になっているという問題がある。
これらを整理すると、動線が複雑で交差している問題と、壁際の清掃洗浄がしにくいという2つの図面になる。
これを改善してみよう。ポイントは以下。
動線をシンプルに短くして→コストダウンと異物混入の危険を減少させる
(低費用の)ゾーニングをして→交差汚染を防ぐ
壁側を開けて、汚れにくく、清掃しやすくし→製造環境を低費用でよくする
下処理室の改善
工場全部の改善にいきなりかかるのではなく、一番小さい下処理室でまず試験的にやってみることにする。
下処理室はチョッパーと作業台が3台、それにシンクがあるが、全て壁際にあり、清掃洗浄がしにくくなっている。
作業手順は、原材料を持って来て、左右に別れている2台の作業台でトリミング、カットを行い、チョッパーでグラインドする。ひき肉になって出て来たのを3台目の作業台に乗せてあるバットで受け、キャスターに乗せ替えて調理室に持っていく。
ということは、チョッパーの前に2台の作業台を並べて置き、そのままチョッパーに入れ、ひき肉になって出て来る側にもう一台の作業台を置けばまっすぐな作業動線になる。この流れを壁から離せばいいのだ。
そこで、チョッパーを中央に置き、その前に作業第2台を一緒に置いてここでチョッパー前の作業をする。そのまま肉をチョッパーに入れて、反対側から出て来るひき肉を受ける台を置けばいい。
これで導線を短くシンプルに出来、壁から離して置くことで、清掃洗浄が簡単になる。シンクだが、短い側は狭く無理なのであきらめ、長い側だけ壁から離すようにした。
これで成功して自信が付いたので、工場全体の改善に移る。
調理室の改善
下処理室の前にある原材料庫のラック棚を壁から離して清掃しやすくする。
次に調理室だが、製氷機だけ動かすことが出来ないが、他は移動出来るので、下処理室と同じ考え方でレイアウトしてみる。
そもそも改善前の動線は下処理室から出てきたひき肉と脂肪を計量するのに一番離れた奥まで持っていき、そのあと戻るようになっているので、これでは逆だ。そこで下処理室チョッパーから出て来るひき肉を作業台に乗せたバットで受け、脂肪もここで計量してから、新しく購入したキャスター台に一緒に乗せ、そのまま調理室に持っていけばいい。かなり老朽化していた作業台は廃棄になった。
調理室に入った右に、壁から離してカッター〔サイレントカッター〕を置き、キャスター台で持ってきたひき肉、脂肪、それに製氷機からの氷、そして既に計量して袋に入れてある塩と香辛料ミックスをカッティングで乳化〔エマルジョン〕する。
乳化したらもう一台入れたキャスター台に受け、そのまま充填機に運んで充填する。充填機から出て来たソーセージは作業台で受け、スモークハウスに入れるために懸架し、スモークハウスに入れる。
調理室は動かせない製氷機以外は全て動線に添って置かれ、古い2台の作業台が廃棄され、新しい2台のキャスター台に替わった。シンクは壁から両面とも離された。
包装室の改善
包装室は冷却と製品の両方を行う冷蔵庫とともに、全くゾーニングが出来ていない状態だ。
スモークハウス内でシャワリングされたソーセージは繋がった状態で、これを引き出したあと水切りをし、そのまま冷蔵庫で冷却乾燥される。そしてカッターでソーセージを切り離し、真空パックをするまで無防備状態なので、ここが最も清潔でなければならない。ところが内包装の真空パックが終わったあと、金属探知機を通してから外包装の段ボールに入れられるが、この横で段ボールを組み立てている。埃が出ている。したがって金属探知機を境にしてゾーニングしなければならない。金属探知機の前が清潔ゾーン、あとが凖清潔ゾーンになる。
このゾーニングは隔壁でもいいが、内包装と外包装の作業はお互いに見えないとやりにくい。そこで透明のパネルと、金属探知器部分はビニールカーテンにして、見える、コミュニケーションが出来るようにした。
レイアウトは、冷却から出て来たソーセージを最初の作業台で受け、切り離しをしながら袋に入れ、その横に真空パック機を繋げた。
真空パック機が終わってからそのまま作業台を間において金属探知機に繋げた。これで連続して作業が出来る。
金属探知機を出たら凖清潔ゾーンに自然に移動して、段ボール入れに入る。その横で段ボールを組み立てている。箱詰めされた製品はキャスターに乗せられそのまま製品庫に行く。
製品を保管する冷蔵庫部分だが、この冷蔵庫はスモークハウスから出て来たソーセージの冷却もしている。製品保管庫は汚染ゾーンで、ソーセージ冷却は清潔ゾーンだ。とんでもない状態だが、間を仕切れば簡単に解決出来る。幸い冷気の吹き出しは両方にあるので問題無い。
これで見事に改善出来たが、内包装にもう一つだけ改善を加えた。スモークハウスから出て来たソーセージは水切りをするが、その横に冷却が終わったソーセージを切り離して真空パック作業をしている。濡れて滴が落ちている横で真空パックは問題なので、同じ清潔ゾーンの中をビニールカーテンで仕切ることにした。これで水ぬれによる製品への交差汚染はなくなる。
家庭の台所でも人が風呂に入るのでも石鹸、洗剤、シャンプーと、泡を使ってきれいにする。食品工場は製造作業をすれば食品残渣や脂肪で汚れるから、泡を使って洗浄しなければならない。なのに工場内を泡洗浄している工場はまだまだ少ない。
泡洗浄の提案をすると「ウチでは出来そうにない」という反応が多いが、理由は「現場がごちゃごちゃしている」「泡をかけられる状態ではない」といったことだ。
この、ごちゃごちゃというのは、整理整頓されていないことなので、その状態にあること自体が問題だ。泡洗浄出来るように整理整頓することが出来れば、一般的衛生管理の基本が出来るわけで、そうなれば泡洗浄が出来る。
泡をかけられないというのは、ごちゃごちゃという意味と、製造機器などに泡がかけられないということもある。機械の電源やスイッチ周りなど、かけられない場所は古い機器ほど多い。しかし、そこを外して工夫すれば、食品が直接触れる所や残渣が残っている所を泡洗浄出来るはずだ。
工場全体を丸ごと泡洗浄出来るようにするには最初の設計段階からやらなければならないが、今の状態で出来る所を泡洗浄するようには出来る。老朽化している工場でも可能。
泡洗浄に取り組むには、水道の水圧を利用して泡を吹き出させる小型器があり、購入すれば3万数千円だが、洗剤販売店に相談して使用することも出来る。泡の状態は中型や大型機と比べてあまり良くはないが、効果を試すだけなら十分だ。
泡洗浄出来る状態に現場を整理整頓し、借用器で試して、出来るようにしてから中型機や大型機の購入を検討したら良い。
泡洗浄機の中型機は20万円程度、大型機は100万円程度。
洗剤は製造している食品によって選定する必要があるので、洗剤販売店などに相談する。
乾燥
食品工場の衛生を維持するには、洗浄と乾燥だ。洗浄して汚れをとったあと、そのままにしておくと、カビ、細菌、虫の発生に繋がる。
工場の現在の状態が、洗浄後乾燥しているかどうかをまず調べる。
朝、工場稼働前に、各製造室の湿度を調べ、60%以上だったら対策をとった方が良い。理想的には湿度43%を毎日3時間以上保っていればカビの増殖はないが、そこまで下がっていなくても60%以下ならかなり良い状態だ。
除湿するには、まず現在の空調を、洗浄後ある程度、例えば数時間回して解決するかどうかを確かめる。これで解決すれば、洗浄後タイマーを使って適切な乾燥と電力費用のバランスをとればいいこれがダメなら、除湿機を入れる。小型の部屋なら家庭用の安い除湿器(タンクに溜めないでホースで直接排水出来るタイプを選ぶ)、大きな作業室なら業務用を検討する。
夏場、外との温度差で天井や冷蔵庫に隣接した壁面が汗をかいたり結露することが多いが、業務用の扇風機を使って風で乾燥させればいい。
同じく夏場、天井裏に結露が溜まり、ひどい場合結露となって落下している所があるが、放置しておくと漏電にも繋がりかねない。この対策は、扇風機を入れて風を一方向に流して乾燥させる修繕をする、簡単な工事が必要だ。風を入れる所と出す所はメッシュの細かい網を入れる防虫対策が必要。
メンテナンス
機器を正常に運転出来るように管理することで、製造ロスや失敗を防ぐと同時に、機器からのビス、部品、フィルター破片などの落下を防ぐ異物混入対策になる。
ある工場で、製品から黒いゴミのようなものが出てきたクレームがあり、調べたらカット機内部の隅に詰まっていた古いカビが落下したものだった。他にも落下の危険があるカビが詰まっていたので、毎週分解清掃をすることにした。
この対策と同時に、他の製造機器にも同じような問題が無いか調査したら、いくつも出て来た。シリコンコーティングにひび割れがあって落下寸前になっていたり、パッキンの老化、汚れの詰まりなどが発見されたので、それぞれの状態に合わせた頻度を決めて定期的な分解清掃と点検を行うようにした。
この活動を続けてしばらくしたら、それまで時々機器の調子が悪くて停止してしまうのが当たり前の状態だったが、すっかり解消されてスムースに製造出来るようになった。無停止での製造になったため、効率が良くなり、結果的にコストダウンになった。メンテナンスはコストダウンに繋がるのだ。
メンテナンスシステムを作るためには、まず全機器の点検を行ってみる。それぞれの機器の状態によって、問題が発見されることが多い。その状況に合わせて、洗浄やメンテナンスの頻度が大体分かる。毎週、毎月、年に1回といったチェックリストにして実施する。実施を続けて行き、より効果的な頻度に調整して行く。
この時、ビス、フィルターなど落下の危険があるものもリストしておく。
ビスやネジ類だが、メンテナンス時にしょっちゅう外すものは、可能であれば蝶ネジや蝶ナットに替えてしまう。これなら工具無く外せるし、万一落下してもビスよりもかなり大きいので発見が容易だ。
工場内での食品安全管理は、最終製品の検証だ。
出来上がった缶詰を恒温器と同じ温度の倉庫に入れ、つまり細菌検査の培養と同じ方法で全製品を検査し、問題が無いのを確認して出荷する、等ということが出来れば全製品検査が出来るが、こういったことが出来る製品や規模はそう多くはない。
そこで、製品の抜き取り検査が一般的になるが、これは、精度と頻度を組み合わせて、安定した検証が出来るプログラムを組むことだ。
細菌検査というと中小工場は専門家がいないから出来ないと躊躇する所が多いが、最近の検査方法はそんなことはなく、素人でも十分に出来る。
細菌検査の方法
細菌検査は、簡易検査、迅速検査、公定検査といったレベルがある。
簡易検査は、シート培地を使う。1枚2百円台程度のシートに、サンプルを希釈した液を乗せ、フィルムを被せてから2万円程度の小型恒温箱に48時間入れて培養し、結果をカウントする。
迅速検査は多くの機器があるが、その一つの「DOX」の小型器の方では、30検体を1度、あるいは並行して検査出来る。結果は最短では6時間で判明。
使い方として例えば、食材10検体、中間製品10,製品を10,合計30を同時に検査することも出来る。夕方出来た製品を迅速検査に回せば翌朝までに分かるので、万一問題があったら出荷を停止出来る。原材料を製造に回すまでの時間に検査が出来れば、問題のある原材料を使わずにすむ。
公定検査は、公定検査システムを持っている工場か、公定検査機関に委託して行う。公定検査機関で行えば、外部に対する公的証明にもなる。
細菌検査の頻度と精度
検査の頻度は多いほどいいがコストとの絡みがある。簡易検査は低コストだが精度と外部に対する説得力が弱い。公定検査がもちろんいいがコストが高くつくし結果通知までの時間もかかる。
ある惣菜工場では、毎月1回10検体ランダムに検査し、その精度確認と公的証明のために3ヶ月に1度公定検査に回す。
ある弁当工場では、毎日数検体の原材料と3検体の製品の迅速検査を行い、3ヶ月に1回迅速検査と同じ検体を公定検査に回す。
精度確認は公定検査に出す方法以外に、検査制度を訓練するプログラムもある。送られてくるサンプルの細菌検査をしてその数値を連絡すると、実際の数値とどの程度の違いがあるかを確認出来る。いくつかの期間がこの方法を通信教育のような形で行っている。
検査結果を継続して監視する
細菌検査は数値になるので、この数値変化を記録して監視して行く。
惣菜や弁当工場でリスクが高い料理の一つは和え物だが、これを継続して監視して行くと、春になって次第に気温が高くなって行くと、数値は安全レベルではあっても次第に悪化して行くような場合、夏場は危険だとの判断になる。そこで夏場は保存材を入れるなり、製品そのものを作らないといった安全管理につなげて行く。
傾向のパターンは、次第に悪化もあるが、不安定というのも出て来るかもしれない。いい日もあれば悪い日もある、という場合、製造機器システムが不安定、あるいは加熱殺菌の温度管理が不安定、もしかすると作業者の技術、つまりは力量の差がありすぎる、等という分析につながるかもしれない。原因が分かれば改善につながって行く。
細菌検査の頻度と精度
異物混入の目視検査
もう一つの製品検査は異物混入の確認だ。
金属探知機や画像やエックス線検査、比重、色彩検査といった機械検査と並行して、人の目で直接確認出来るいわば泥臭い方法も重要だ。
目視検査は、場所、照度、認識がポイントになる。
場所は、目視で異物確認が出来る場所を決める、あるいは作ることで、製品をインナーパック機に投入する場所、あるいはこの直前で目視確認出来る場所を決める。いわば目視検査のCCPだ。
照度は、明るいこと。一般的に確認面で500ルクス以上と言われているが、出来れば700ルクス以上あった方が発見しやすい。蛍光灯を増設したり、スポットライトを設置したりする。
認識は、作業者が単に製品を包装機に投入する作業をやっているのではなく、最終的な目視確認で、異物を発見することが重要な仕事だと認識しながら仕事をしているかどうかだ。これが重要だから照明を明るくして発見しやすくした、という説明をすれば、その作業者は認識するだろう。異物一つの発見につき褒賞金を出している工場もある。
異物の由来を調べる
例えば、漬物製品に入っていた異物が、パックしたトレイの下にあって、漬け込まれていないようなら、トレイの上に異物が乗っていた上から製品を乗せた可能性が高い。漬物に練り込まれていたら、漬け込み工程。パックした上に乗っていれば、盛付け工程か、パッケージ直前。木片のようなものが、漬け込まれていれば、漬け込み樽の破片。漬物の葉と葉の間から虫が出て来たら、原材料から洗い落とせなかった洗浄工程。といったように、何が、どこに、どのように入っていたかを見て、あるいは顧客から聞いて、推定して行く。
これでも分からないものについては、分かるまで状況も含めてファイル保存しておくことだ。
教育と訓練は、まとめて教え込もうとしても無理なので、毎月あるいは毎週といったペースで一つずつ定着していくようにする。
例えば、毎週月曜日の昼休み後の5分間で「ドアの肘開け」について行う。手洗いをしても汚染が残っていることもあり、その手でドアの取っ手を掴んで開けると取っ手が汚染され、そのあとそこを触る人に汚染が広がる。万一ノロウイルスを持っている人がトイレのあと良く手を洗わないと、億単位のウイルスが手に付いており、それが取っ手を汚染し、他の人の手に移り、工場内に入り、食品を汚染する恐れがある。そして人は百個のノロウイルスを口に入れるだけで食中毒になってしまう。だから取っ手を触らず肘かスゥイングドアなら体で開けるように。ということで、その場に訓練するドアがあったらやってもらう。
この活動を一週間行えば定着する。そして次週は別のテーマを行う。
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効果測定
活動をしたあと、その効果があるか確かめる。
KPI(キー・パフォーマンス・インジケーター)というが、効果の目盛りだ。
清掃洗浄の効果測定はふき取り検査、製品の安全性は細菌検査で検証になるがこれは効果測定と同じだ。
教育したことを理解しているかどうかを確かめるには、アンケートや試験を行う。
教育を定期的に行う計画なのに、時々出来なかった場合、達成率を計算する。達成率が低くなればなるほど安全性の問題が大きくなるわけだ。
レイアウトを変更する場合、変更前の状態、移動距離や従事者の歩数、食品が露出している時間あるいは長さなどのデータを取っておき、変更したあとにどうなったかを同じく観察して、効果を確かめる。食品が露出している長さや時間が短くなったということはそれだけ異物混入の危険が減っているし、移動距離と従事者の人数、減った歩数はそのままコストダウンにつながっている。
減った歩数でどれだけのコストダウンが出来たかを計算する方法だが、仕事で歩く場合一歩が0.6秒かかると言われている。そこで減った歩数に時間給をかけて一年間の人件費を出して見る。
減らすことが出来た人員と増産出来た生産量から計算も出来る。ある工場ではラインを改善した所、26名を23名に出来、時間あたり800個の生産だったのが1200個にと1.5倍に増産させることが出来た。大幅なコストダウンだ。
効果測定は数値としてでなくても出来る。
一般的衛生管理は工場内のパトロールで測定する。常に写真を撮っておき、同じ場所がどのように変化していったかを継続して見る。壁際に作業台と製造機械を置いていた作業室(撮影する)で、壁側を開けて、作業台と製造機械を中央に置いた所、壁際にひどい汚れとカビが溜まっていた(撮影する)ので、清掃洗浄した(撮影する)。
その後微調整をして製造が効率的になった(数値化)といった効果を記録し、これを工場の他の作業室の改善に活かすため、この事例の勉強会を実施した(写真撮影と記録)。といった形になる。
活動の効果測定をし、それを更なる改善に活かすことが出来る。
傾向を監視する
ふき取り検査、細菌検査、達成率、コストダウンなど、数値化出来ているものはそのままグラフに出来る。グラフにすれば変化が一目で分かる。
ふき取り検査と細菌検査数値をグラフ化したら、あるものは低レベルで安定しているのは良いが、悪化しているもの、不安定でいつ逸脱するか判らないといったものを発見出来るようにしておく。
目的を絞り込んだパトロール
交通安全週間があるように、集中して監視をする方法は効果がある。工場内の安全対策でも、集中した監視が必要だ。集中ということは、監視内容を絞り込む方法だ。毎月パトロールを行う場合、今月は「食品機械の壁際の隅や下」を集中して見て、カビ、汚れ、虫の発生源が無いかを見る。翌月は動線とゾーニングが正しいか、改善を考えなくて良いかを見る。次は清掃洗浄が効果的か、次は異物混入を目視監視出来る所の従事者意識と照度が700ルクス程度あって見やすいか、といったように、絞り込む。
監査
年に2回程度は内部監査を行う。ISOの経験が無いとどのようにしたらいいのか判らないかもしれないが、難しいことではない。工場の活動で食品安全に関係する内容が出来ているかを見る。具体的には、チェックリストが正しく付けられているか、加熱調理の温度監視が出来ているか、頻度や方法はそれで良いか、製造環境と食品の検証が行われていて、その結果に問題はないか、データの変化を観察して問題はないか、といったことを見ていく。HACCPの構築資料から監査のチェックリストが出来る。それにパトロールやクレームのデータを元に統合したチェックリストを作成する。1度内部監査を行うとこれを元に次のステップのリストに更新することが出来る。
仕組みを作る
要員に必要な力量を明確にして、不良品を出さない作業チームを間違いなく作る。
教育の仕組みを作る
〔細菌検査やふき取り検査の〕傾向を監視し、問題点を発見し、改善する
検証する
HACCP会計で監視する
表示を間違えない、トレーサビリティーの仕組みを確立する
<仕組み>とは:「間違えなく出来るため、そして忘れないための、工夫」
「ヒトは常に間違える。忘れる。混乱する。
だから、それをしないように注意するのではなく、それが起こらないための方法論を考えよ。
あるいはミスが起こったとき、その被害が最小限にとどまるような仕組みを考えよ。」(福岡伸一著「世界はわけてもわからない」講談社現代親書)