外食店舗でのHACCP

投稿日: 2013/05/10 2:07:15

HACCPは食品工場で行なうものだと思われていることが多いが、そうでは無い。農場、食品工場、小売店、フードサービス、これらをつなぐ物流の全てで行なうのである。食品工場でいくら安全な製品を作っても、運ぶ車の温度管理が良くなくて鮮度が落ちては元も子もなくなってしまう。安全な食材が飲食店に入っても、キッチンの衛生管理が悪くて食中毒を出してしまうことにもなる。

HACCPの一般的な認識でよくあるものが、設備に金がかかる、難しい、大きなところでないと出来ないなどがあるが、これらは全部間違いだ、HACCPは家庭でも出来る。実際厚生省では「家庭で出来るHACCP」というパンフレットも出している。まして飲食店では家庭レベル以上なのだから出来る。また、HACCPは現在の施設設備の状態のまま導入するもので、そこに欠陥があれば改善すればいい。HACCPは物や施設ではなく、衛生管理をするための方法、やり方なのだ。

では、飲食店で行なうHACCPはどのように進めていったらいいのかだが、まず行なうことはキッチンをきれいにすることから始める。きれいにするためには「5S運動」(整理、整頓、清掃、清潔、躾(しつけ)の頭文字)を発展させればいい。発展させたものを一般的衛生管理という。厚生省ではHACCPを全食品関係に入れれば食中毒事故が減ることになるので、段階を追って食品業界に導入させる活動を始めているが、これを総合衛生管理製造過程といっている。総合衛生管理製造過程の中身は2つあり、土台となる一般的衛生管理と、その土代の上に立つHACCP本体である。一般的衛生管理は飲食店においてはキッチンや従業員の衛生管理を行なうことである。要するに掃除をしっかりとしようということだ。衛生的な店舗を作ればかなり安全になるのであるが、HACCPは調理をする工程でさらに安全にするのである。調理工程での安全性というのは例えばフライメニューならば、フライ後の中心温度が75℃以上になっているかどうかを時々確認をすることだ。

ステップ1 一般的衛生管理の構築

厚生省のすすめでは10項目あるのだが、飲食店で行なう最初の大切なことは掃除、サニテーションである。掃除をしっかりとするためには、ただ単に「しっかりと」ではなく、5つの項目を決めるのである。「作業内容」「頻度」「担当者」「確認」「記録」である。例えばオーブンの清掃ならば、まず作業内容は「オーブンの清掃」、次の頻度は「毎日」となり、オーブンの調理作業が終わってから決められた方法で行う。次の担当者は、新人にしてもいいし、交替にしてもいい。確認は目視での確認、但し掃除をした本人以外の店長だったり、シェフが行ったりする。記録は、キッチン全体の一般的衛生管理を全てチェックできるようにしたチェックリストに書き込んだりする。これによって確実にできるようになる。

清掃作業をしっかりと行うことは、食中毒菌を減らすことになるので、これだけで効果が出る。キッチン全体の清掃作業を確実にするためには、2つのことを行なう。まず、キッチン内の清掃対象をリストして、忘れ物がないようにすることである。床、壁などの施設と、ナイフまな板オーブンなどの調理機器をすべてあげ、それぞれに対して5項目を決めていく。特に頻度は、対象によってはっきりと決めていく、包丁まな板は「食材が変わるごと」あるいは「2時間毎」などとなり、閉店後最終の清掃と消毒が入ることになる。一方壁は、テーブルなどの高さの「腰位置」よりも下は毎日になるが、それよりも上は毎日の必要は無い、一ヶ月に一度程度で良いだろう。さらに上の天井と照明設備に付着する埃などは半年に一度で良いだろう。このような形で、表に書き込んで決めていくことである。

もう一つは清掃の方法である。効率良く確実に清掃を行なうには、例えば床ならば排水溝から1番遠いところから排水溝に向かって清掃をしていくのがいい、しかし、いろいろな現場を見てみると、水をまき散らし、汚れをまき散らしながら行なっているのをよく見る。手順にしても、ゴミを掃除し、水を流し、洗剤水で洗い、流し、水切りワイパーで水を切る、という手順を決める。洗剤の希釈率も決められた通りに出来るようにマニュアルを作っておくと、余分な洗剤を使ったり、逆に洗浄効果が低い状態で使ってしまうことが防げる。これらのことは当たり前かもしれないが、実際にそうなっていないことが多い、これをマニュアル化し、誰でも効果的に出来るようにするところからHACCPは始まるのである。そして、チェックリストを作り、書き込む習慣を作る。

ステップ2 動線とゾーニングを見直す

サラダを作るのに、野菜のトリミングをし、洗い、カットをし、野菜によってはさらに洗い、ドレッシングを絡め、盛りつけをする、というのが一般的な工程になるが、この作業をするときに、野菜の皮を剥いているところで一緒に盛りつけまでやっていると、皮が料理に入る危険が出て来る。このようにならないためには、料理の手順の流れの通りに作業の場所が並んでいるのがいい。一直線にならなくても、L・U字型などになっていればいい。これが動線である。

ゾーニングだが、例えば冷蔵庫の中で、肉と野菜が一緒に積み重ねてあると、肉に食中毒菌が付着していた場合、それがサラダ野菜に付いてしまって食中毒になる危険が出て来る。これを防ぐには肉と野菜を分けて置けばいい、そのように冷蔵庫の中が整理されているかを見てみる。キッチン内でも、肉をカットしているテーブルでサラダ野菜を扱っては危険が出て来るので、サンドイッチなども含めた生食の調理を行なう場所やテーブルは放しておいたほうがいい。こういったことを改善して、出来るだけ安全なゾーニングにするのである。

ステップ3 HACCP本体の一部を行なう

一般的衛生管理できれいなキッチンが出来たら、さらに安全にするためにHACCPに進む。HACCPは安全性だが、同時にハイグレードな料理にもつながる。例えば鶏肉の唐揚げで、フライ後の肉中温度は75℃がいい、この温度まで加熱すれば食中毒菌は死ぬからである。安全のためにはこの温度以上なら良いのだが、もし100℃にもなってしまったら、安全ではあるが堅くておいしくない、これでは売れないので、上限も例えば85℃と決めるのである。75℃が安全圏で、85℃はおいしい唐揚げのための限界になる。この範囲を決めることで安全性とおいしさを数値的に両立させることが出来る。安全でなおかつ売れる料理が確実にできる。であるからHACCPは「売れて儲かる」ようになるのだ。この温度測定の部分をHACCPのCCPという。CCPは「重要管理点」と一般的に訳されているが「関所」である。

HACCPの方式は、まず調理工程を書き、それぞれの工程でどのような危害が考えられるかをリストアップし、それをどうやって防ぐかを行なうのだ。防ぐ方法には多くの一般的衛生管理と、5ヶ所以内とされているCCPで行なうのだ。飲食店でのCCPは現実的に1ヶ所程度が良いだろう、多すぎても出来ないから1ヶ所に集中して行い、後は一般的衛生管理で行なうのがいい。

CCP部分についてはどのように測定をするかを決めておく。揚げるたびに温度を測っていたら作業にならない、そこでランチの最初のオーダーの時に測定して温度を記録する。これで正常になっているか確認できるので、後は測定無しで揚げる。この後ディナーに入って最初に揚げたときに計り、後は計測せずに閉店まで行なう、といった「頻度」を決めるのである。計測頻度が多すぎると実際に出来ないので、出来るようにすることである、やり過ぎは効率の低下でこれもダメ、今のスタッフで出来る範囲にするのがいい、頻度がこの2回程度でも、今までと比べたら飛躍的進歩なのだ。

ステップ4 「リテイルHACCP」で、HACCP対象のローテーションを決める

それでもメニューが多いので、全てのメニューに対して出来ない。ではどうするかというと、全てのメニューを3つにしてしまうのである。これを「リテイルHACCP」方式という。リテイルは「小売り」の意味で、小売店やフードサービスである。

  1. 加熱調理工程の無い食品加工(サラダ、冷たいデリカテッセンなど)

  2. 加熱調理して、その日のうちに提供する食品加工(ステーキなどレストランなどでの暖かいメニューなど)

  3. 複雑なプロセス(デリカテッセンで、陳列している弁当などを、電子レンジで温めて提供するものなど。あるいは、センターから運ばれてきた冷蔵スープを、店でケトルなどで暖めて提供するものなど)

このそれぞれについてのHACCPを行なう、それぞれのCCPは、1では、前処理か盛りつけ工程(特にクリーンな場所で行なう、そのチェック。CCPになりにくいので特に重要な一般的衛生管理にしてもいい)、2では、加熱調理(調理後の温度測定)、3では、再加熱か保温での温度測定。

さて、これでも多いかもしれない、そこでローテーションを組むのだ。例えば毎週HACCP対象メニューを一つ決め、それだけを実行するのだ。今週唐揚げで、その次の週はスープという具合に。唐揚げをやった後、スープになったら、唐揚げはもうやらなくてもいい、やらなくても、一週間行なったことである程度習慣が付いてきているので、何も行なっていなかったときよりもかなり安全に調理できるようになっているからである。このようにして時間をかけ少しずつ行なっていけば確実に良くなっていく。そうしてから次に本格的なHACCPはどうしたら良いのかを勉強すればいい。

※商業界「飲食店経営」00/06より一部引用