投稿日: 2013/05/10 1:05:03
食品の衛生管理の最近のガイドライン的なものは、日本では厚生労働省の「総合衛生管理製造過程」になる。これは「HACCP」と呼ばれていて、90年代から米国で急速に普及が行われてきた方法である。この総合衛生管理製造過程は、食品の製造工場の衛生管理手法なのだが、これをそのままスーパーマーケットやフードサービスに持っていったのが「リテイルHACCP」というもので、いわば小売りでの総合的な衛生管理になる。
総合衛生管理製造過程というのは、大きく2つの内容に分かれていて、ひとつは「一般的衛生管理」といって、工場やバックルーム、厨房の衛生管理を行なう内容で、清掃、メンテナンス、従業員の衛生、虫やネズミの防止、食品の衛生的な取扱方などの、いわゆる今まで常識的に行われてきた衛生管理を「しっかりと」行なう方式である。もう一つは「HACCP」の本体で、食品を製造する過程で、安全に製造するための重要な場所を見付けて、そこを徹底的に厳しく管理監視しよう、というものである。
スーパーマーケットにおいての衛生管理は、この一般的衛生管理を基本にして構築して行くと良い。米国ではスーパーマーケットに置けるHACCPの導入が始まっていて、政府のインスペクターは厳しい州では「事前に通知しないでいきなり」監査に来る頻度が3ヶ月ごとになっているところもある。日本においてもこれから厳しくなって行くと思われるので、国のガイドラインに沿って行なっていくことは、将来の国の指導に対しても対応していくことになる。
スーパーマーケットを始めとする小売店やフードサービスでの衛生管理が厳しくなっていくというのは、食品を喫食する消費者に最後に渡す場所がリテイルだからである。生産地や市場、食品工場、それらをつなぐロジスティクスでの衛生管理は厳しくなりつつあるが、最後に消費者に渡す現場で問題が出てしまえばそれまでの努力は水の泡になってしまう。であるから、リテイルHACCP、リテイルの現場での衛生管理が重要なのである。
一般的衛生管理は10に別れていて、それぞれの内容と、それを簡単に言い換えたものは以下の通りである。
PP(一般的衛生管理)の内容を簡単に言うと
施設設備の衛生管理 施設設備の掃除の仕方
衛生教育 なぜきれいにするのが大切かを全員に教える
施設設備・機械器具の保持点検 料理道具を使いやすく、壊れないようにする
ペストコントロール(そ族昆虫の防除) 虫やネズミがこないようにする
使用水の衛生管理 きれいな水を使おう
排水および廃棄物の衛生管理 汚水やごみは早く捨てる
個人衛生(従事者の衛生管理) キッチンに入る人はきれいに、健康に
原材料の受け入れ、食品等の衛生的取扱い 食材をきれいに扱い、バイキンを増やさない
回収(製品の回収プログラム) クレームや製品への疑問が来たときに、すぐに対処する
製品等の試験検査に用いる機械器具の保守点検 温度計やバイキンをチェックする道具を正確に
これら10項目の詳しい中身は厚生労働省の通知に入っているが、ここではスーパーマーケットにおいて特に必要なものをリストアップし、衛生管理システムを構築するステップを解説していく。
一般的衛生管理の内容詳細を元にして、現場で実施しやすいようにし、一部加えた内容は、は以下のようになる。この内容は、著者が一般的衛生管理を構築する際に行なうものである。
構築内容:それぞれにマニュアル、記録又はチェックリストが必要)「5項目」=内容・頻度・担当・確認・記録 厚生労働省
毎日、毎週、毎月、半年の頻度。担当を「現場担当者」「工務」などに分ける。「5項目」 対応番号
衛生管理:施設の周囲(定期的な清掃、点検、清潔維持) 1
衛生管理:施設設備(定期的な清掃、点検、清潔維持) 1
衛生管理:天井および内壁(定期的な清掃、点検、清潔維持) 1
衛生管理:照明設備(定期的な清掃、点検、清潔維持、照度測定) 1
衛生管理:換気および空調設備(定期的な清掃、点検、清潔維持) 1
衛生管理:窓および出入り口(定期的な清掃、点検、清潔維持、開放しない) 1
衛生管理:便所の清潔維持 1
食品取扱:食品の衛生的保管 8
食品取扱:器具類の食品に直接接触する部分の汚染防止 8
食品取扱:従事者の手指などによる汚染、異物混入、機械油汚染、結露、ドリップ、床からの跳ね返り汚染防止 8
食品取扱(原材料から製品):製品の衛生的保管、温度管理、日付管理 8
保守点検:破損または故障の有無についての適正頻度の点検と維持 3
保守点検:食品に直接接触する機械の表面および器具は、少なくとも作業開始前、作業中、および作業終了後に洗浄殺菌点検 3
保守点検:製品等の試験検査に用いる機械器具の保守点検 10
防虫防鼠:侵入防止設備の点検維持、殺虫殺鼠駆除作業実施 4
使用水:殺菌または浄水装置を使う場合、定期的点検と維持 5
使用水:貯水槽を使用する場合、定期的点検、清掃、清潔維持 5
使用水:配水管の定期点検、交換、清潔維持 5
排水廃棄:排水動線の点検、維持 6
排水廃棄:廃水処理の点検、維持 6
排水廃棄:廃棄物容器の扱い、廃棄物の収納、排出 6
排水廃棄:廃棄物区分、周囲に影響のない保管 6
排水廃棄:廃棄物容器、器具の、使い方、洗浄殺菌、保管、清潔維持 6
衛生教育の教材・カリキュラム・教育訓練記録「5項目」
教育訓練の全体計画(新規、中堅、部門責任者、各レベルに対する教育訓練のスケジュール、目的、内容、講師などの規定) 2
履歴の従事者ごとの記録および保管の方法 2
従事者の健康管理と指導、個人衛生マニュアルと実施の徹底、ルール造り「5項目」(10.各工程における管理基準に連動)
採用時および少なくとも年1回以上の健康診断 7
健康管理の留意と適切な指導 7
手洗いと手指の清潔維持 7
清潔で専用の作業着、帽子、マスクの着用 7
作業場内での飲食、喫煙の禁止、不要物の持ち込み禁止 7
防虫防鼠専門業者との契約、実施内容記録「5項目」
隠れ場所と群生場所発生根絶、検査 4
鼠賊昆虫の有無調査(モニタリングと検出) 4
水質検査と定期的測定「5項目」
水道水を受水槽に受けている場合、蛇口からの水質検査 5
井戸水の場合、水源と蛇口からの水質検査 5
遊離残留塩素濃度の定期的測定、0.1ppm以上に維持 5
危険物:薬剤(機器メンテナンス部品と道具、消毒、洗剤、殺虫、殺鼠剤など)、添加物などの扱いと管理
機器メンテナンス部品と道具の保管管理 3
薬剤:化学的汚染に対する防止対応 1.3.4.5
薬剤:ケース単位のストック場所と、使用現場の置き場の確保 1.3.4.5
薬剤:在庫管理と監視 1.3.4.5
薬剤:扱い方と使用量マニュアル 1.3.4.5
添加物:計量と均一混合 8
原材料サプライヤーから検収までの管理「5項目」
原材料の購入の生産流通過程の把握と衛生管理監視、指導 8
必要量の計画的購入 8
検収時の点検 8
製品のロジスティクス「5項目」
工場外の製品倉庫の衛生管理と保守点検 8
配送車の衛生管理と保守点検 8
配送を外注している場合、配送業者の衛生管理と保守点検の指導と監視 8
クレームと回収対策(危機管理体制の構築)
クレーム対策方法 9
問題があった場合の、製品の回収方法 9
製造工程フローチャートと各工程における管理基準の作成
工程ごとに、衛生管理、維持点検の管理基準を作成。「施設設備の衛生管理と維持点検」と連動 HACCPへ
各工程ごとの「ルール」「基準」を作成。「個人衛生」と連動 連動
さて、こういった内容になるのだが、これを構築するためには、かなりの作業量になる。この中から、スーパーマーケットが行なうサニテーションと機械器具のメンテナンスを重点的にどう行ったステップで構築するかを解説する。
主体となるのはサニテーション(清掃・洗浄)とメンテナンス(機械器具の保持点検)である。サニテーションとメンテナンスであるが、これは、対象となるものは同じで、その対象に対して、サニテーションとメンテナンスの2つのことを行なう必要がある。ナイフにたとえると、ナイフのサニテーションは、洗浄をし、その後バクテリアが増えないように冷蔵庫なり殺菌機着き保管器に入れることになる。ナイフのメンテナンスは、刃がいつも切れるように磨ぐことである。ミートスライサーならば、洗浄清掃のサニテーションと、ナイフの研磨や機械の調整がメンテナンスになる。
重要なことは「しっかり」と行なうことになるのだが、この「しっかり」というのはどうしたら良いのかが問題で、ただ「しっかりと」と言っただけではどうしたら良いのか良く考えるとわからなくなる。そこで、一般的衛生管理の「内容」「頻度」「担当」「確認」「記録」といった5項目の内容になる。この5項目は、総合衛生管理製造過程の申請を厚生労働省に行なう際に必要なもので、この5項目がうずまっていないと書類審査の段階で指摘をされる。
まず、売り場、バックルーム、トイレや倉庫といったユーティリティ部分、建物周囲など、関係するすべての場所と、その場所(エリア)内にある機器、設備をリストアップする。そして、それぞれについての内容、サニテーションなのか、メンテナンスなのか、温度計だったらその校正(正常に計測できるかを確かめる)といった内容を決める。
頻度を決めることは最も重要なことで、これが決まっていなかったり間違えていると衛生管理がうまくいかなくなる。たとえば作業台は毎日が当たり前だが、排水構内は少し違ってくる。グロサリーの倉庫にある排水構は、それほど汚れない、特に生もののくずは落ちないので、せいぜい1週間に1度程度のサニテーションで良いだろう。しかし、生鮮のバックルームの排水構は、毎日行なう必要があるところと、そうでないところとがある。毎週1度で良い程度のところを「毎日」にすると、清掃作業が大変になってしまう。それよりも適正な頻度を決め、汚れが多い部分に清掃作業を集中するほうが良い。極端な場所で、天井部分など、毎日する必要は全く無く、半年ごとで良い。適正頻度が決めにくい場合は、大体の感覚で最初に決め、ある程度運用しながら適正頻度を見付けていけばよい。
頻度の段階は、あまり多くすると、後の実施とチェックが煩雑になり、運営がやりにくくなるので、毎日、毎週〈曜〉、毎月〈週.曜〉、半年〈月.週.曜〉といった4段階程度にすると良い。半年に1度の頻度は大掃除で、スーパーマーケットの場合には、食中毒シーズン前の5月と、年末繁忙期前の11月にすると良い。
誰がやるかを決めておく。曜日別でも良いし、交代でも良いし、大掃除の場合は全員でも良い、外注する場合は外注部分と店内担当者が行なう部分を明確にしておくこと。
「確認」をしたら記録をする。チェックリストでも良いし、ノートでも良い。「日報」「月報」といった形でも良い。
ステップ5までで5項目が揃ったのだが、このままでは運用に直ぐに使うことは出来ない、頻度がばらばらだからだ。実際に作業をするには、毎日何をするのか、毎週は何曜日に何をするのか、といったことを決めておかないと、何をするのかわからなくなるし、忘れることになる。そこで、この表を頻度別にまとめると、それぞれの頻度で何を行なったら良いのかが明確になる。
この表をそのまま頻度別に分けてチェックリストを作ることが出来る。
出来上がったチェックリストを使って実際に試しにチェックを行ってみると、チェックする順を歩く順に直したほうが良いことがわかるし、字が見にくいとか用紙が大きい小さいといった点に気が付くので、これらを直していく。ある程度試験運用を行っていくと、毎日1枚のチェックリストでは枚数が多すぎるから、毎週1枚にまとめられないかとか、部門別にしたほうが良いのか、店舗全部を一緒にしたほうが良いのか、等、改善点が出て来る。これらを直して、使いやすいように進化させていくと、効果的且つ効率的なサニテーションとメンテナンスのシステムが出来てくる。