食肉そうざい開発のポイント

投稿日: 2013/05/08 2:24:50

最高の温度を追及する

売れる条件の基本的なことはおいしいことである。おいしいことの条件には、味、つまりレシピや、食材だが、それを調理するのに、最も良い状態にするには、温度が大切である。

あるレストランでHACCPの温度コントロールも含めて、豚カツのテストをした。安全性をクリアする温度は75℃以上だが、これ以上温度を上げればあげるほどおいしくなくなり、ジューシーでなくなり、硬くなり、重量も少なくなっていく。つまり温度が高くなればなるほど売れなくなっていくのだ。そこで、HACCPでは一般的に「85℃」までといった形で、上限を「品質限界」、分かりやすくは「おいしさ限界」にする。

そこで、一定の条件の豚カツ食材をフライヤーに入れて、何秒間フライすれば、安全なおかつおいしく出来るのかをテストした。油の温度は180℃で一定にする。

テストの方法は、調理長が今までの経験で行なってきた通り、いつものように揚げ、この調理後肉中温度を測る。経験豊かな調理長なので、目をつむっても、話をしていても、安定してフライすることが出来る。でき上がった温度を測ったら82℃だった。うまくいっている。時間を横で計測してみたら、200秒だった。

そこで次はこの時間の30%少ない140秒で揚げてみて、中心温度を測定すると、72℃だった。次に30%長い260秒揚げてみたら、96℃で仕上がった。そして、このそれぞれに調理した豚カツを全て試食してみて、おいしさを見た。72℃のは、変にやわらかくて、食感がなく、ぬるっとした感じがしてあまりおいしくない。96℃のは、揚げ過ぎで、硬くて、ジューシー間が無くて、これもおいしくない。82℃の調理長の揚げたものは、軟らかさ、ジューシーさ、風味などのバランスが良く、一番おいしかった。これは1枚の豚カツの場合である。

次に、同じフライヤーに、2枚の場合、3枚、4枚の場合で、それぞれ調理長が揚げ、その30%マイナスの時間とプラスの時間揚げ、また全てを試食してみた。結構な枚数の豚カツを揚げ、かなりを試食したわけだ。

これでわかったことは、80℃プラスマイナス3℃ぐらいが最もおいしく、これよりも温度がずれると突然おいしくなくなっていくことだ。これには全員びっくりで、いかに温度とおいしさが重要か理解した。

総菜の場合には、ショップで直接販売する場合、センターで調理して店に配送する場合、この場合でも、ホットのままか冷蔵するのかといった一連のシステムによって、管理温度が違っていく。

ある食肉加工メーカーが、味で人気の有名レストランに、特別のソーセージを納入している。ケーシング〔腸詰め〕をしたあと、スモークを短時間して、表面だけにスモークフレーバーをつけ、中が生の状態で急速凍結したものを、レストランに納入するのだ。レストランではオーダーが来てから最終加熱をすると、最高のフレーバー、おいしさを出せるというわけだ。この方式は一般の総菜としては絶対に販売できない。顧客が生で食べてしまう危険があるからだ。しかし、調理システムの考え方として参考になる。

ノスタルジック、原点に

神戸コロッケが出たとき、コロッケなんかでマーケットなんてあるのか? という声がかなりあったのだが、結果はその後の急成長で証明された。畜産から加工までやっているある食肉会社が、肉のたっぷり入ったシュウマイを作った。そのまじめな製造方法でじわじわと売れていき、売り上げの基幹となる商品に成長してきている。日清食品のインスタント、チキンラーメンが超ロングランだが、生卵を載せるくぼみをつけた改良製品を出し、テレビコマーシャルで拍車をかけている。

吉祥寺の総菜売り場をぶらぶらしていて、そういえば子供の頃に良く食べていたアジフライなんかあるかな? と探していたら、フライメニューを中心にしている店舗では大体置いてある。リバイバルというかノスタルジックというか、売れ筋アイテムのようなのだ。

カクテルの新しいアイテムを出そうと、ウイスキーのソーダ割りをキャンペーン使用したとき、何という名前にしようかというところでなかなか良いアイデアが出ない。そこにお茶を持って来た若い新入社員が来たので何か良いアイデアがないかとふと聞いてみたら「それはハイボールと皆言っています」となった。年配のトップはびっくり。その名前は自分たちの若い頃に普通に使っていたネーミングで、今また使われているとは思わなかったのだ。

ネーミング

ハイボールでネーミングになったが、商品名で売れることがある。味作りに全神経を使っていても、ネーミングでだめなことがあるし、逆もある。

東京のミートデリショップでヒットになったアイテムに「ローストビーフ丼」があった。ご飯の上に、生姜醤油に浸した低価格のローストビーフスライスを乗せ、刻み海苔、ネギ、ベニショウガをトッピングしたものだ。

東北の地方都市に、大規模小売店が出来、その中に、食肉メーカーが、ミートデリショップを造った。この店のアイテムの一つとして、ローストビーフ丼を入れたのだが、開店一週間後に聞いたら、全然売れていないという。しばらくして現場に行って、なぜこれが売れないかを考えていたのだが、来店客のスタイルを観察していてわかった。ちゃんちゃんこを来ていたり、日本手ぬぐいを腰からぶら下げていたりと、どうもローストビーフなど、今まで食べたことが無い顧客がほとんどのようなのである。そこで、ネーミングを変えてみることにした。

どういう名前か散々考えたあと、分かりやすく泥臭い名前にしてみることにした。「焼き肉丼」である。売り場担当者は「それじゃあまりにもローストビーフに悪いじゃないですか」というのだが、ローストビーフがわからなければどうしようもないのだと押しきり、売り出してみたら、あっという間に売れ筋アイテムになってしまった。

関西のスーパーマーケットで、今売れているも受かるアイテムを、もっと売る、という販売促進策をやることにした。売れているアイテムの一つ「若鶏焼き鳥用」もその一つに入った。鶏肉をくし刺しにしたアイテムで、売れて儲かるアイテムである。

そこで、どのようにこれを販促するかになったとき、まず、どうやってこのアイテムを食べているかの調査をしようと言ったら、担当者は「そんなの焼き鶏に決まっているじゃないですか」というのだが、しかし本当はどうなのかわからないので、取りあえず、身近のパートや社員の奥さんに聞いてみたところ、焼き鶏とは関係ない串カツ〔串揚げ〕で食べている人がかなりあることがわかった。なるほど衣を付ければ串カツにすぐになる。串カツは関西の人は良く食べるが、家で肉を串に刺すのは面倒だ、そこでこの若鶏くし刺しを利用していたのだ。

これがわかったので、どうやってこの情報を販促に活かすかになった。衣を付けたアイテムを作る、POPなどで料理情報を出す、チラシで告知するなどの案が出たのだが、要するに串カツで食べたらどうかということを顧客に伝えたいのだから、ネーミングを考えてみることにした。

「若鶏串刺し、焼き鶏・串カツ用」のネーミングにした途端、売り上げは三倍になった。

色、黄色

串刺しの好調に気を良くして、今度はバーベキュー用の串刺しをもっと売ろうという話も出て来た。しかし、アイテムを拡大することは、アイデアとしては簡単だが、現場の作業の増大と、ロスの問題がある。メーカーとしてこれをスーパーマーケットや総菜ショップに売り込むにしても、売り場の制限があり、すぐに飛びついてはくれない。どうしようかと考えていたところにある売り場の担当者が「そういえば、串の先端に黄色いものを指すと良く売れるんですよね」という。

カボチャ、コーン、イエローピーマンなどを、串の先端に指すと売れ行きが良いというのである。調べてみるとその通りなので、あるカラーコンサルタントに聞いてみた。

「黄色は、ちょっと使ったり、ワンポイントとして使うと、食欲をそそる」というのだ。そして、全てのバーベキュー用のアイテムの先端に黄色い野菜などを刺すことで、売り場を広げることなく売り上げを伸ばすことが出来た。

食肉ではないが、中国地方のあるスーパーマーケットで二つのメーカーのフライ用の牡蠣のどちらかを選ばなければならなくなった、売り場の制限のためである。そこで、この二つのメーカーのほとんど変わらないパッケージを並べて一週間販売してみることにした。顧客の流れがほとんど一方方向なので、中間で置き場を反対にして観察したところ、黄色いワンポイントのCIマークがあるパッケージの方が圧倒的に良く売れる。価格も重量も全く同じなのに。これにも黄色が出て来た。

厚さと組み立て方

ハムやローストビーフ、ローストポークのスライスをパンに挟んだサンドイッチ製品で、それまでは2ミリの厚切りの肉感のあるスライスを挟んでいたのだが、米国に旅行したときに食べたパストラミサンドイッチを思い出した。パストラミサンドイッチに挟んだスライスは、極く薄く、何枚も重ねてある。よく見ると、スライスとスライスはべったりではなく、シワをつけて、間に空気が入っているように積み重ねて挟んでいる。これだと食感がソフトになるうえに、見た目にも厚くなる。

そこでこの方法で、厚さを0.5ミリにしたのを4枚重ねて挟んだらすごいボリュームが出た。

福沢諭吉の時代のすき焼き、という話があり、あの時代の牛肉のすき焼きはスライスではなく角切りだった。再現した写真を見たことがあるが、厚さ3センチぐらいの鉄鍋に、2.5センチ角ぐらいの牛肉角切りが並べてあり、その回りに長ねぎが同じく2.5センチの長さに丸太カットして、立ててある。これをタレで調理するわけだ。この調理方法だと牛肉のおいしさが外にでないで、かなり保持した状態で出来る。長ねぎも同じくネギの風味がしっかりと残った状態になるので、風味豊かなすき焼きになるだろう。

厚さをどうするか、今と同じではなく、薄くしたらどうか、厚くしたらどうか、考えて見たらどうだろうか。

パッケージデザイン

北海道のマーケットで総菜をいろいろ開発しているとき、米国ロサンゼルスのあるメーカーのソーセージが非常においしいので、これを使ってホットドッグを作ってみようということになった。ソーセージ素材は良いので、あとはパンとパッケージになった。パンはおしゃれにソフトフランスパンということで、ヨーロッパのメーカーからスチーム機能の付いたベーカリーオーブンを入れた。辛子ではなく高品質のポメリマスタードを選び、万全の味になった。あとは包装デザインである。

和紙タイプの素材にプリントしてちょっと和風で食べたらジューシーなソーセージがフランス風のパンに挟まれていて、香りたっぷりのマスタードがポイントを添える、といった製品にして販売したら、全然売れない。いろいろ販促をかけたりしたのだが、たいした効果はない。

これもいろいろ考えたのだが、どうも東北におけるローストビーフ丼と同じ状態なのではないのかと、試してみることにした。ソーセージそのものは絶対においしいので、パンを田舎風の単なるロールパンにした。ポメリマスタードではなく、普通の辛子と絶対に避けたかったトマトケチャップを使うことにした。ああ、断腸の思い。そして包装は、一般的にある発泡スチロールのトレイにラップフィルムでパックした。ああ、こんなことやっていいのだろうか、なんのためにオーブンを入れたり包装のデザインまでやったのだろうか、これがもし売れてしまったら空しい! いやな気持ちで売り出したら、すぐに売れ筋に入ってしまった。実に複雑な気分。

調味料の改革

うどんや蕎麦のコンビニパックを見直すことになった。これは毎年秋に向かっての恒例で、冬物アイテムの改善改革である。アルミパックにセットしてあり、火にかけて出来上がりタイプだ。真夏の盛りに、熱っつい鍋パックの開発は、汗をかき、ダイエットにちょうどよい。

あるとき、七味唐辛子は今ので良いか? となった。七味はちょっとしたポイント、引き締めにもなる。それまでの小袋七味は一個1円の一般的なものだった。しかしこれは実はたいしておいしくはない、タダ単に添えてあるというだけである。

そこでおいしい七味はどこかに無いかということになったのだが、それは既に我が家で使っているものにあった。京都は「一休堂」の製品である。この七味は実においしく、これをちょっと使うだけで料理の味がワンランクあがってしまうのである。

問い合わせてみたら蕎麦の「出前用」の小袋はあるのだが、価格が4円もする、今までの4倍だ。しかし取り寄せてテストしてみたら試食者全員が納得感動の味と認める。わからない程度の一部のアイテムだけにこの4円七味を入れてそっと売り出してみたところ、そのアイテムだけじわじわと売れ出したのである。一袋が4倍といっても、価格差は3円で、これで麺類パックの売り上げが上がれば問題無いと判断し、ほとんどのアルミパック麺類に入れたら、どんどん売れ出した。別に七味を高級にしたなど何にも言ってないのに、顧客は感じてくれたのである。

一休堂へのオーダーがうなぎ登りになって行ったある日、一休堂の方が電話で言った「お宅はずいぶん出前の多い蕎麦屋さんなんですねえ!」

添え物を見直す

総菜の豚カツパックを見直すことになった。マンネリで伸び悩んで来たからだ。そこで、開発部隊でいくつかの豚カツ屋に食べに行った。どの豚カツ屋もそれぞれ特徴があり、厚さ、ボリューム、ソース、食感、いろいろだ。食べ続け、議論していったが、これといったアイデアが出てこない状態が続いた。どこか売れている共通点はないだろうか考えたところ、うまい豚カツ屋でも、まずい豚カツ屋でも、共通のことがあることに気が付いた。千切りキャベツが付いていることである。当たり前だ。

しかし、自社の豚カツパックに千切りキャベツは付いていない。電子レンジなどで温めるのに、キャベツの加熱までしてしまうので、入れるべきではないという潜在的常識感で入れていなかっただけなのだ。でも、豚カツにキャベツは付き物だ。

キャベツが入っているパックでも、顧客は加熱するときにはキャベツを別にすると判断して、とにかく出してみることにした。豚カツの横に千切りキャベツを入れただけの実に単純イージーなパッケージである。こんなにいい加減になった商品開発も珍しく、多少罪悪感を持ったまま売り出したら、突然売れ出してしまった。

それからチキンカツ、串カツなどをキャベツ入りパックにしていったら、キャベツのスライス作業が追いつかなくなってしまって、専用の機械を入れた。千切りキャベツ騒動が続いたのである。

まだまだいろいろあるのだが、多くの商品開発につきまとう影が常にある「開発者が意気込むほど、売れなくなってしまう」「こんなものがと考えるものから、ヒットが生まれてしまう」。顧客には「出してみなければわからない」。ヒット商品への壁は「開発者自身のことが多い」あるいは「バイヤーがバリヤー」になってしまうこともあるのではないだろうか。