リワーク

投稿日: 2013/05/20 5:19:15

97年の夏、米国のハドソンフーズ製造のパティがO-157に汚染されていて、食中毒危害が米国内に広がった。この事故での回収は十数万トンで、回収量も巨大になった。業務停止を受けた後、工場は再生出来ず、タイソンフーズに買収された。この原因は「リワーク」である。(写真と記事とは関係ありません)

リワークとは「一日の作業が終わったとき、製造できなかった残りの原材料、あるいは途中まで製造しながら、最後まで完成できなかった原材料を、保管しておき、翌日それを使って製造をすること」である。

ハドソンフーズ事故の原因を検査した元政府側検査官の話を聞いたところ、

  1. この工場は、非常に近代的で、肉に人の手が直接触る部分がほとんど無く、コンピュータ管理されている、設備としては最高度の工場だった。

  2. 原材料にO-157が入っていた。

  3. 問題はリワークを行なったことにあった。

  4. リワークした原材料に入っていたO-157が増殖をし、それを使ったパティが汚染された。

ハンバーガーパティの製造工程は、原材料を解凍し、それを粗びきにしてから本びきにして、パティに整形する。赤身と脂肪を均一に混合し、最終的に全製品が規定となる赤身率、例えば赤身88%といった品質になるようにするために、赤身も脂肪も粗びきにして、一度ミックスをし、その後で本びきにしたときに均一になるように混合する。そして本びきにしたものの赤身率を測定し、その後成型機で円板状のパティにし、急速凍結に入る。

さて、リワークが原因だったというのは、1日の製造が終わるころ、粗びきにした半加工原材料が残り、それを冷蔵庫にしまい、翌日、その半加工原材料に、新たに粗びきにしたものを加え、パティまで製造した、という状況が1つある。この場合、前日に残った粗びきにO-157が入っていた場合、翌日の原材料に問題がなくても、O-157に汚染されたパティが出来上がることになる。ここで、もしリワークをしなかった場合、4/1製造のものにO-157の被害が出たら、4/1製造の製品だけを回収することになるが、リワークをした場合、4/2のものも汚染されているので回収の対象になる。さらにリワークをもし毎日行なっていた場合、4/1以降の製品全てが対象になってしまう。リワークを時々行なっていた場合、リワークをした日、しない日がはっきりと分かっていると、少しは助かる、というのは、例えば4/1から4/4分まではリワークをしたが、4/5分はリワークをしていなかった場合、回収対象は4/1〜4/4分になる。ところがもしリワークをどうしていたかの記録が何も無い場合は、いつの時点からクリーンになったのか分からないので、4/1以降の全製品が回収対象になってしまうのである。

リワークによる事故はもっと単純なことからもおこる、例えば、製造途中のラインの中に、前日に整形に失敗したパティや、検査するつもりでしなかった原材料などをほんの少し入れても、リワークと同じことになる、昨日のパティ1枚をグラインダーの中に放り込んだ場合、そのパティがもしO-157に汚染されていたら、そのロット全てが汚染されてしまうのである。

ハドソンフーズの場合、残ったひき肉を連続的に次のバッチに混ぜていく方式、つまりリワーク、を行なっていたので、特定が出来なかった。さらに、どの原料がどこに使われていたのか、それぞれのロットがどこに保管され、どこに出荷されたのかの記録もできていなかった。こういったことから、店舗での消費者の被害の拡大が続き、回収対象も莫大な範囲に広がったのである。

さて、あなたの工場で、リワークはしていないだろうか?

牛肉の照焼きステーキや、マリネードステーキがあった場合、汚染されたタレをリワークすると、焼く前のつけ込み時に肉が汚染される。これを75℃までしっかりと焼けばいいのだが、牛肉ならばミディアムやレアに焼くだろう。肉の中にまでバクテリアは入らないと思うかもしれないが、つけ込み時間によっては中まで入っていくことは、栃木県のメーカーで起こった牛肉タタキの事故で明らかである。その肉が機械式にテンダーライズされていたら、汚染は直ぐに肉の中にしみ込んでいく。

魚の干物を製造する工程で味液につけ込むが、汚染された味液をリワークしたらどうなるか。干物なら良く焼くよ、というかもしれないが、ハンバーパティの事故は加熱不足から起こる、訓練された従業員が焼いても、焼き不足になるのだから、ましてや家庭の主婦が安全に焼けるなど、誰も考えないほうが良い。

つけ込み液は塩分が強いから大丈夫というかもしれないが、健康指向から塩分は年々減る傾向にある、漬物などはその典型で、最近は漬物というよりもサラダに近いものが良く売れている。漬物製造でリワークはしていませんか?

昔からつけ込み液を長年使い続けている製品もある、例えばくさやの干物などそうだ。これは江戸時代からの食品で、くさや菌を使っており、その液は貴重なものである。昔から問題無いので、これからもずっと問題がないかと考えると、ちょっと疑問である。O-157にしろサルモネラにしろ、ここ25年ぐらいの間に多くの感染症が新たに出現しているし、危害細菌も、温度や構成物質などに対して強くなってきている。このような場合、定期的に液を検査することである。

リワークはやってはいけないことでは無い、リワークをしなければ出来ない製造はいくらでもある。重要なことは、リワークの記録をとっておくことなのだ。