リテイル(小売業)のHACCP

投稿日: 2013/05/10 1:45:44

リテイル(小売業)のHACCPとは

スーパーマーケットやレストランなど、消費者に直接食品が渡る場所での「リテイルHACCP」

リテイルというのは「小売り」の意味である。

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リテイルとは、「小売り」の意味だが、対象はどの産業レベルなのか。

インストアベーカリー

バー、居酒屋

民宿、ペンション

カフェテリア

キャンプ施設1カジノ

養護施設

孤児院

教会のキッチン

軍隊・鉱山などの売店

工場、大学などの食堂、喫茶室

コンビニ

地域等の○○フェア、一時的なアウトドアでのイベント

グロッサリーストア(デリ、サンドイッチショップ、サラダバー〕

老人ホーム、ヘルスケア施設

州をまたいでケータリングする営業

カタログ等で申し込まれて、食材を前処理して、消費者に郵送する営業

スーパーマーケット

家から離れれない人のための給食サービス

自動車による飲食店営業

レストラン(チェーン店、エスニック、ファーストフード、又はフランスレストランのようにフルサービスをする施設

道ばたで食品を売っている露店

学校給食

スナックバー

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スーパーマーケットというのは、大型の、それもかなり複雑なシステムで成り立つ食品工場である。総菜部門を考えてみると、原材料を仕入れ、加工、加熱調理をし、パックをして、売り場に並べて販売をする。これは食品工場のシステムである。そして問題は、食品工場のように一つのアイテムを大量に作らないかわりに、数量は少ないが、アイテム数が非常に多い、ということである。大型のスーパーマーケットでは数千アイテムにもなるだろう。この中でそれぞれの製品に対してHACCPを行うことは実際上不可能である。

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リテイルHACCPを考える際、もっとも難しかったのは、何か。

扱う品目が多いので、難しい面があった。

スーパーマーケットでは、数千アイテムになる。

デリカテッセンストアでは、数百アイテムになる。

レストランでは、最低数十アイテムになる。

これらのそれぞれのアイテムについて、食品工場と同じHACCPを行うのは、現場の状況を 考えれば、不可能。

しかしながら、消費者に渡る最終レベルなので、進める必要があった。

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こういった中でFDAではリテイルでのHACCP手法を発表した。それは、全てのメニューやアイテムをたった3つの種類に分ける方法である。

プロセス1:加熱調理工程の無い食品加工(サラダ、冷たいデリカテッセンなど)

原材料受け入れ

保管

前処理

盛りつけ

保温

提供

プロセス2:加熱調理して、その日のうちに提供する食品加工(ステーキなどレストランなどでの暖かいメニューなど)

原材料受け入れ

保管

前処理

加熱調理

保温

提供

プロセス3:複雑なプロセス(デリカテッセンで、陳列している弁当などを、電子レンジで温めて提供するものなど。あるいは、センターから運ばれてきた冷蔵スープを、店でケトルなどで暖めて提供するものなど)

原材料受け入れ

保管

前処理

加熱調理

冷却

再加熱

保温

提供

これならば、スーパーやレストランなどそれぞれの小売りの立場で、この3つの種類のHACCPシステムを確立していけばいいのである。米国の小売では大手企業がHACCPの導入を少しづつ行っているが、これならば日本の中小企業でも出来る。

リテイルのHACCP

フードサービスやスーパーマーケットでHACCPにどう取り組んだら良いかという質問がよく来る。レストラン、ファーストフード、総菜ショップ、ピザを始めとするデリバリーサービス、産業給食、スーパーマーケット、などはリテイル(小売り)になるが、こういった業態は食事をする顧客に直接接触することになる。セントラルキッチンで組み立てたものや食品メーカーの製品を温めるだけのメニューも多いが、それでも食事をする顧客に渡す最終的な業態なので、衛生管理は最後の砦ともなる重要なところである。ここに来るまでの段階で安全な製品になっていても、顧客に渡す直前で温度管理やバクテリアの付着などで危害が出てしまっては元も子もない。

しかしながら、リテイルでHACCPをどう進めたら良いかとなると、すぐに悩むことになる。というのは扱うアイテム数、メニュー数が多すぎるからである。食品工場では例えば牛乳工場ならば牛乳だけ、豆腐工場ならば絹ごし豆腐、木綿豆腐、生揚げなどの豆腐製品を作るので、これに集中してHACCPを構築すればいいのだが、レストランでは少なくとも数十のメニューを扱っている。スーパーマーケットになれば数千のアイテムを販売している。HACCPは製品ごとに行なうので、多数のアイテムを扱う場合、それら全てについての危害分析からその防止策を行なうことを考えただけで、とてもではないが出来そうにない、と考えるのは当然だろう。しかし、リテイルHACCPは実行できる。その方法は、一般的衛生管理を行なうことに加えて、全てのメニュー、アイテムを、3つの群に分けてHACCPを行なうことである。

まず、一般的衛生管理だが、ゾーニング、動線、そしてサニテーションの徹底の3つの基本的なものを構築する。ゾーニングは、まず冷蔵庫の中を見てみると、肉、魚などの危害の大きな元になる生原材料と、サラダ野菜などの生で提供する原材料が混在していることが多い。冷蔵庫などのストックゾーンはどうしても狭くなってしまうので、詰め込んで保管することになり、肉のドリップがサラダ用の野菜に付いてしまい、危害につながってしまうことになる。これをゾーニングで解決するには、冷蔵庫の中を肉や魚などのゾーンと、生食原材料のゾーンに分ければいい。棚で分ければ簡単だし、もし棚が一つしか無かったら、肉魚類を下、野菜類を上に置くようにするだけでいい。肉を上に置いた場合、肉のドリップが下にあるサラダ野菜に落ちて危害になってしまうが、逆ならばその心配はない。この考え方を現場の従事者に教えて実行させれば、交差汚染の心配が激減する。

次に調理でのゾーニングになる。基本的には2つに分ければいい、サラダやサンドイッチなどを扱う生食作業の場所と、加熱調理をする場所である。もっと簡単にいえば、生食を組み立てる場所を離すなり独立した作業台で行なうようにすればいい。これでさらに交差汚染の可能性が少なくなる。

次が動線だ。調理の流れというのは、原材料の準備→下処理→調理前の組み立て、調理(加熱調理)→盛りつけ→提供、というようになる。この工程の流れに沿って厨房の作業台や調理機器が並んでいるかを見てみる。完全にこの流れに沿っていなくても、大体流れに沿うようにレイアウトを変えるなり、少し移動すればいい。あまり厳密にやろうとすると作業の効率が悪くなってしまうことがあるので、作業の流れを見ながらやり過ぎないように改善すればいい。大体この流れになれば、これでも交差汚染の危害が減ってくる。

次はサニテーションの徹底になる。今まで行なっていたサニテーションを見直すところから始める。よくある例は、手順が合理的でないことである。サニテーションの手順というのは、上から下へ、排水の流れの上流から下流に向かって、というのが基本である。床を清掃した後、テーブルの上や調理機器の清掃を始めたら、せっかく清掃した床をまた汚すことになる。排水の流れの最終部分から清掃を始めて、後から流れの始めのところをやったら、せっかく清掃をした排水の下流部分をまた汚すことになる。これを改善して、正しい流れに沿った手順にするだけで、清掃の効率はかなり良くなる。さらに使う水、洗剤類も少なくてすむことになり、2重手間もなくなる。清掃時間も短くなる。使う洗剤、道具、頻度などを見直すことで、サニテーションをさらに合理的にする。仕上げは簡潔なチェックリストを作り、毎日の清掃作業を記録する習慣を付けるようにする。

これらの改善は、基本的な考え方さえ現場の従事者が理解すれば、現場サイドである程度は行なうことが出来る。さらに現場により理解をしてもらうためには、一ヶ所の店舗なり現場において事例を示すことである。それまでの状況をまず簡単な図面にする。冷蔵庫の中は、肉魚類の高危険食品を赤、野菜類をグリーンにしてどこに置いてあるかを書き込む。両方が混在しているのであればすぐにわかる。という事で事例にする店舗は整理整頓されていないところの方がいいかもしれない。調理場では生食を扱っている部分をグリーン、加熱料理をしているところを赤にするとわかる。その中に動線を示すライン、矢印を書き入れる。さらに写真を撮ってビジュアルに理解できるようにする。この後基本になるべく沿って改善をした後、ゾーニングと動線がどう変わったかの図面を作成して、改善後の写真を撮っておく。この改善前と回前後の状態を比較すれば、どのようにやるのか、どういうようになるのかが誰にでも理解できるだろう。こうすれば、数店舗でも、数百店舗でも、多くの店舗を改善することが出来る。今まで何もしていなかったところに、ある程度一般的衛生管理の考え方を入れるだけで飛躍的に良くなる。

このように一般的衛生管理をまず行ない、それからHACCP本体に進めていく。

全てのメニュー、アイテムを、3つの群に分けてHACCPを行なう

レストランでのメニューが100あっても、スーパーマーケットでの食品が1万アイテムあっても、全てを3つのカテゴリーに分けてHACCPを行なう考え方は、米国FDAから98年に出された。

カテゴリー1は、入ってきた原材料を、加熱せずに提供するものである。例えばレストランならばサラダやサンドイッチ、スーパーマーケットならば総菜のサラダ、魚売り場の刺し身などになる。加熱殺菌をしない。そのため提供するまでの加工工程で慎重な衛生管理が必要である。

カテゴリー2は、入ってきた原材料を加熱して提供するものである。レストランならば豚カツ、唐揚げ、煮込み、焼き鳥、といったメニューである。加熱殺菌が出来る、温度確認によって安全管理をする。

カテゴリー3は、カテゴリー1,2以外のもの全てになる。セントラルキッチンで調理されたスープを、いったん冷蔵してからパッケージをして保管をし、それをレストラン店舗に運んでから、店舗で再加熱する、といったものである。原材料→加熱調理→冷却→保管・物流→店舗に入荷→保管→再加熱→提供、といった形になる。コンビニエンスストアの弁当も同じだ。

事例としてファミリーレストランチェーンでどう進めたら良いかを考えてみよう。まず、店舗に入ってきた原材料を3つに分ける。サラダやサンドイッチ用に使う野菜類、具材、パン、デザート用にフルーツやケーキなどの保管場所を、加熱をしたり再加熱をするカテゴリー2,3のものと分ける。冷蔵庫で分けるなり、冷蔵庫が一つしか無かったら中の棚や場所で分ける。加熱しないで提供するカテゴリー1は特に気をつけて分離隔離することである。

工程で考えてみよう、カテゴリー1は、入荷後の保管温度、衛生的な保管がまず重要になる。冷蔵品については温度チェックと保管時間の管理になる。野菜類ならば10℃の冷蔵庫に入れ、この冷蔵庫の温度を頻度を決めてチェックする、実際には自動記録で問題があったらアラームが鳴るように設定をしておけば人的な手間がなくなる。保管期間については入荷日あるいはパッケージの日付から例えば3日以内、といった設定をする。カット野菜で仕入れるようになってきているところも多いので、この場合はパッケージに「賞味期限」「使用期限」などをラベルに表示しておけば確実である。もちろん先入れ先出しを守るために、庫内に置く方法を設定しておく。これは一般的衛生管理(PP)的なものなのだが、冷蔵庫の温度と保管期間をCCPに設定することも出来る。

次に下処理になる。洗浄の必要なものと、カット野菜のようにパッケージからそのまま使えるのに分け、カットが必要ならばカッティングテーブルに行く。野菜類のカットは衛生管理的に重要な工程で、この作業エリアを独立させるようにする。狭いキッチンでも生食材料専用のテーブル、まな板、ナイフを決めておけば出来る。サラダやサンドイッチはこのエリアで組み立て、ホール「客席」に提供されることになる。この「生食用エリア」の管理は、まな板、ナイフを「2時間毎に洗浄」といった管理を行なう。これも一般的衛生管理(PP)的なものなのだが、ここをCCPに設定しているデリバリーピザチェーンもある。ナイフ類の取り換えと徹底的な洗浄をCCPに設定をして記録をしているのである。

カテゴリー2は、まず下処理を行い、加熱調理工程に行く。加熱調理は基本的に4種類あり、フライ類、オーブンやサラマンダー(魚を焼く調理器)などの焼き物類、煮物類、中華に多い蒸し物類になる。この工程での調理後の肉中温度の測定がCCPになる。レストランの場合多くのメニューを短時間に作ることになるし、いつどのようなメニューのオーダーが来るかわからないので、ここで工夫が必要になる。全ての加熱調理メニューの温度を料理後全てチェックなど出来るわけが無い、そこで頻度と方法を現実的にできるような形にするのである。

例えば曜日別にチェックするメニューを決めておく方法がある。月曜日は焼き鳥のチェック、火曜は豚カツ、水曜はシューマイ、木曜はポークソテー、金曜はスープのどれか、土曜は唐揚げ、日曜はハンバーグ、といった形にする。このメニュー設定で、焼き鳥を焼くオーブン、豚カツのフライヤー、シューマイのスチーマー、ソテーのパンフライ、スープの鍋なりケトル、唐揚げのフライヤー、ハンバーグのオーブンなりパンフライと、キッチンで使っている調理システムのほぼ全部を最低週に一度チェックできることになる。土曜日と日曜日は子供の好きなメニューを設定しているが、その店舗での各曜日で最も出るメニューはそれまでの流れで大体決まっているので、それに合わせることにすればいい。

頻度だが、最初のオーダーが入ったらそれを測定する、これで調理機器の調子もわかり、もし問題があれば調整をして安全な温度にしてから調理するようにする。最初のオーダー時点ではまだオーダーのピークになっていないので、温度測定は十分に出来るはずである。その後次第に忙しくなり、ピークに達する手前でもう一度測定をする。ピークを過ぎて昼が過ぎ、午後の暇な時間になり、そして夕方最初のオーダーがまた入ってから測定をする。これで1日3回の測定になる。土曜日ならば唐揚げだけを3回測定するだけで良い、これでフライヤーでの調理を週に1日、3回の測定というCCPで管理をすることになる。3回でも大変だというならば2回にしてもいい、1回だけからスタートをして慣らし、3ヶ月ぐらいしてから2回に増やし、最終的に3回に持っていく方法もいい、なれれば習慣になりできるようになる。これでも混乱するようであれば、週に1メニューだけから始める。今週フライヤーメニューを通して行い、来週は焼き物メニューにするという方法をとれば、月に4つの調理ができることになる。これだけでフライヤーでのメニューを何もやらないよりも飛躍的に安全にすることが出来る。日曜日はハンバーグで、例えばインピンジャーなどのコンベアオーブンならばこのオーブンで調理するメニューの安全性を高めることが出来ることになるのである。カテゴリー3も再加熱になるものが多いので、基本的には同じである。