取っ手の汚染と検査で食中毒防止

投稿日: 2013/04/11 23:17:33

以前、東京新宿の世界的に有名なホテルで、結婚式の宴会での70名の食中毒が起こったことがある。ここの披露宴会の一人当たりの価格は8万円からという。宴会場は営業停止になり、その間レストランでのウエディングになったそうだが、ここのレストランは予約がとりにくいことでも有名だ。一流ホテルでの食中毒事件は、今までにも時々起こっている。最近韓国では40もの学校での食中毒事故があり、社会問題になっているという。

今回の新宿の原因を聞いたところ、原因物質は特定されなかったそうだ。「不明」ということだ。したがってデータでは「原因不明の食中毒」ということで処理される。原因食品の特定も難しいようだ。

大型厨房や食品工場の中で、どのようなところが食中毒菌や汚れに汚染されているかを、時々調べてみると、冷蔵庫の取っ手、水道の蛇口栓が多い。

なぜそうかというと、これらは不特定多数の従事者が直接手を触れるところだからだろう。ということは、データはないが、冷蔵庫ドアを開けるつりひもスイッチ、ドアノブなどといったところも同じ状態だと推測される。

百人の従事者がいて、その中のたった一人がノロウイルスを持っていたとする。その一人が、手洗いの水道栓、作業場所入口のドアノブ、中に入って冷蔵庫の取っ手や紐スイッチ等を触る。これらの場所は汚染され、その後、他の99名の何ともない従事者がそれらのどれか一つを触れば、百人の手がノロウイルスに汚染されてしまうことになる。そして食品に移り、食中毒への道を突っ走ることになる。

カルフォルニア州の保健所の指導内容の中に、手洗の方法で興味深いものがある。手洗い後、ペーパータオルで拭いた後、そのペーパーを捨てないで、ペーパーでドアノブをカバーして、手が直接ノブに触れないようにして開け、作業場側に出てからペーパーを捨てる、となっている。なるほど、これならドアノブの汚染をかなり防ぐことが出来る。

水道栓を改善するには、手で開ける栓を、肘開けハンドルのものに交換すると良い。これはホームセンターや水道機器を販売しているころで手に入る。大量に交換するなら工事業者に依頼すればいい。それほど費用のかかるものではない。

ドアノブの汚染は、ペーパータオルでカバーして開ける方法にする方法でも良いが、スプリングで自動的に閉まるタイプなら、ドアノブを外してしまい、肘で押し開けるようにしても良い。反対側には肘でひき開けるようにできる取っ手を付けたら良い。もし簡単な工事や新設するならば、肘開けタイプのスライドドアや、スゥイングドアにする。

冷蔵庫のつりひもスイッチは、腕を入れて引き下げるようにしたり、工事ができるなら、足踏みスイッチに替える。

冷蔵庫の取っ手は問題で、ハード的に簡単に直すことは出来そうにない。かといって冷蔵庫を開けたら手洗いをするといったルールにしたら、仕事にならないだろう。原材料や製品を冷蔵庫に出し入れする担当者は、直接食品に触らないようにすれば多少は交差汚染は防げるが、同じ作業室にいるわけなので、別のどの場所から汚染が広がるかわからない。

スタンプ検査や、ATP測定器による検査では、食品に直接接触する場所や面、ナイフ、まな板、ミキサータンクの内側、スライサーの食材が振れるところなどを集中的に検査するが、これに取っ手類を加えて検査したほうが良いだろう。

まず最初、現場には何も言わないで、いきなり取っ手類を全て検査してみる。どの取っ手がどの程度汚れているかわかる。その後、危険をそのままにして置けないから、汚染されている場所を洗浄消毒しておく。そして、何も言わないまま翌日も同じ検査をしてみる。これを数日続ければ、実態がわかる。

その後で、実態を従事者にデータを見せて説明する。同時に、ハード的に改善することが出来る部分は直ぐに行ない、ソフト的に、ルールで解決できる方法を決め、教育、訓練、実施、継続に進める。

信じきっていて、汚染がわからないこともある。

ある食品工場で、ナイフ類を汚染しにくい柄とナイフのステンレス一体型のものに順次替えていっていた。百本以上あるナイフが次第に衛生管理対応最新型に替わった頃、ふき取り検査を行った。ナイフの検査は、柄、刃、そして柄の刃物の付け根の三ヶ所を行なった。結果、とんでもない実態がわかった。最新型のナイフの方がかなり汚れていたのだ。旧式の一番汚染の多そうな刃物の付け根の方はきれいだ。

何でこんなことになったのか、逆ではないか?

原因は直ぐにわかった。最新型は汚染されないから、ちょっと洗うだけで大丈夫だと思って、良く洗わなかった。旧式は汚染が激しいから、慎重によく洗った。というのが現場の状態だったのだ。

不特定多数あるナイフや取っ手などを定期的に検査するには、同じ場所の定点検査と、ランダムに場所を選ぶ方法の両方を組み合わせたらよい。

例えば、よく使うものを定点で5ヶ所、それ以外をランダムにその都度5ヶ所選んで調べる。頻度は、例えば毎週一回行なうことにするが、何曜日か決めない。こうすると、いつ調べられるかわからない、どこが検査対象になるかわからない、ということになり、結果的にどこもきれいにすることにつながる。