PPの概要と「施設設備の衛生管理」

投稿日: 2013/05/20 5:35:01

いよいよHACCPの土台となる一般的衛生管理に入っていく。厚生省に提出する書類リストは10項目あり、この一般的衛生管理(プログラム)はその中の7番目にある。単純にリストを見ると、重要な土台になる部分が埋もれていてわかりにくい。しかし、良く見てみると、HACCPプランの「改善処置の方法」と「検証」の間に入っている。検証は、HACCPの構築作業がCCPまで進んだ段階で、実際に現場で運用を始め出し、その結果、正しく運用できているかどうかを確認し、さらにいい方法が無いかまで検討することなのである。ある程度実行をし、記録がファイルされてきて、それでいいかどうかを検討するのである。といったところから、検証に入る前に、この一般的衛生管理が入っていると考えることも出来る。

まあしかし、書類上の順番はともかく、一般的衛生管理をしっかりとしておかないと、HACCPに進めても上手く行かないので、これを最初にやるべきである。厚生省もHACCPの承認審査において、最も重要視するのが一般的衛生管理だと言っている。HACCPをやるのにHACCPの土台となる部分を最も重要視していることになる。

米国におけるHACCPの構築手順は、「12ステップ」である。この中に一般的衛生管理は入っていない。米国で最も使われているHACCP構築支援のコンピュータアプリケーション「doHACCP」には最初から一般的衛生管理の部分は入っていない。99年に入ってからこの「doHACCP」が日本語されて売り出されており、HACCP構築のスピードアップや書類の管理に大変強力なパワーになることがわかって、最近売れ始めているようであるが、このアプリケーションには元々一般的衛生管理は含まれていなかった。そのために日本語化するにあたっては、HACCP本体の日本語化以上に、この中に一般的衛生管理を組み込むための作業に時間と工夫を費やしたのである。

米国で一般的衛生管理は、食品工場を運営する上での常識的基礎なので、政府はこれを厳しく監視をしている。例えば、大きな食肉加工工場では、USDA農務省にの担当者が工場の中に終日入って監視をしている。工場内に監視担当者のための事務所を設置しなければならない。問題があれば直ちに直す命令をするし、工場を停止させる権限も持っている。中規模の工場では、例えばニュージーランドの場合は、政府の検査官が、一日一時間、何時に行くか決めないで突然検査に入る。昨年、米国の水産加工施設をFDA(食品医薬品局)が一斉に監査をした結果、SSOP違反で2件だかの工場が閉鎖させられたという。要するにサニテーションの方法に違反があったので、工場を閉鎖したのである。こういった厳しい監視は、一般的衛生管理を見ているわけで、これをクリアしていないと食品工場は営業できないのである。こういった土台に立った上で、HACCPを行うのである。であるから、米国でのHACCPには一般的衛生管理は無いのである。

これに対して日本では一般的衛生管理が厳しくない、といった理由があったかどうか知らないが、HACCPの中に、一般的衛生管理が入っている。この点が米国のHACCPと根本的に違うことである。しかし、これはいいことで、HACCPをきっかけとして、一般的衛生管理が飛躍的に向上することになるのだから。

一般的衛生管理の項目は10項目あるが、一番目と3番目を見てもらいたい。一番目は「施設設備の衛生管理」で、3番目は「施設設備と機械器具の保守点検」である。「衛生管理」と「保守点検」の違いになる。衛生管理はサニテーションだが、保守点検は壊れないように維持することである。建物の点検修理、食品機械の保守管理などになる。ナイフを衛生的にするために、洗浄をし、消毒をするのが衛生管理で、ナイフがいつも切れるように研いでおくのが保守点検である。ここで重要なのが、この2つの項目の対象は同じところになることである。例えばミキサーがあったとして、このミキサーがいつも故障をしない理想的な状態で動くようにすることと、いつも洗浄してから使う、ということを行うのが必要である。ということで、この2つは一緒に構築作業を行うといい。

具体的にはどうするかというと、まず、工場内は区画で別れており、それぞれの区画には施設設備、機械器具がそれぞれある。これらのリストをまず作成をする。これには大きな表を作るといい。パソコンを使っているならば、エクセルなどのスプレッドシートを使えばいい。各区画、作業室をリストし、それぞれの作業室にある対象を書き込んでいく。各作業室ごとに複数の施設設備と機械機器が書き込まれる。次に、今まで行ってきたことと、これから一般的衛生管理をどう行って行くかを記述していく。例えば、野菜の下処理室の中で、カッターの部分があったとしたら、まず、カッターの今までの衛生管理をどうしてきたかを書き込む。現場に行き、どのようにやってきたかを聞いたら、作業終了後に、じゃんけんで負けたものがやっていた、ということなら、その旨を書き込む。そして、これからHACCPを行うにあたって、それでいいのかを考えたら、これは改善すべきであるとなるだろう。では、改善すべき方向は何かと言うと、マニュアルに沿った、科学的な衛生管理になる。

ここで、厚生省に申請をする場合、この一般的衛生管理を行うにあたって、10項目のそれぞれに記入すべき事項が、チェックリストの形である。それは以下の5項目である。

  1. 作業内容

  2. 実施頻度は決まっているか

  3. 実施担当者は決まっているか

  4. 実施状況の確認方法は決まっているか

  5. 記録の方法は決まっているか

カッターの例で解説を続けていくと、「作業内容」は、「カッターの衛生管理」になり、じゃんけんで負けたもののままではだめなので、どうするかを決めていることになる。まず、頻度になるが、それまでは作業終了後に行ってきただけだったのを、良く検討してみたら、作業を始める前、作業中、作業終了後、と、3つに分けることが出来る。作業開始前だが、前日の作業終了後にきちんとサニテーションと消毒を行っていたならば、作業前にはそれほど大がかりなサニテーションを行わなくてもいい場合もある。その状態に応じたサニテーション、例えば分解して洗浄してあったら、それを組み立てて、わずかな埃を落とす意味で水洗いをしてから始める、といった作業内容にする。その後「作業中」だが、野菜のカッターだった場合、同じ野菜を一日中カットをし続けるならばいいのだが、途中で人参からポテトにするなど、カットをする対象を変える場合には、その度ににサニテーションをする必要がある。今までこれを行っていなかったので交差汚染があったりしたこともあるかもしれない。そこで、野菜を変えるときにもサニテーションを行う。昼食時、休憩時にも、低レベルのサニテーションを行うことも必要になる。そして最後に作業終了後に一番手間をかけたサニテーションを行うことになる。これが「頻度」になる。

次は「担当者」で、誰がその作業を行うのかを明確にする。このときその担当者が休みだったりでいない場合は誰にするのかも決めておく。そして確認方法になる。確認でよく誤解があるのは、何らかの数値的なものが無いとだめなのかであるが、そんなことはない。一般的にクリーンになっているかどうかを素早く確認するのは「目視」であり、HACCPにおいてもこの目視確認が主体となる。最近は汚染度の確認が素早く出来るATP測定機も低価格になってきたのでこれを利用することもいいだろう。この場合の確認方法は例えば「目視確認。ただし週に一度ATP測定機での測定。数値は○○以下」といったことになる。

最後は「記録の方法」になる。PPの記録は、いくつかのレベルが考えられる。まず、チェックリストを作成して、そこに記録をする方法だが、そのPPだけに関するチェックリストなのか、あるいは「作業開始前チェックリスト」のように、工場全体や、作業室全体のチェックリストが一枚のシートになっているものにまとめて書き込むのかによって、だいぶレベルが違ってくる。目視で素早くサニテーションがされているかどうかを見る場合、作業室全体をチェックする総合リストで行うのが早い。この場合、点数をつけたり、ランク付けをする方法もあるが、単に出来ているかどうか、合格かどうかをチェックするようにして、もし合格でないならば、やり直してから作業をスタートするようにすると、単純で素早い記録にすることが出来る。

ある中型の工場では、工場全体のチェックリストが、朝一番に一枚、昼食後に一枚、そして操業終了時に一枚と、一日に3枚の記録シートを使っている。この記録シートは、「○」と、簡単なコメントを書き込むことになっていて、「×」は無い。すべてが「○」でないと工場がスタートしないのである。この記録シートは一日に3枚出てくるだけなので、ファイリングも簡単である。

冷蔵庫や作業室の温度チェックだが、最近は低価格のコンピュータによる記録システムが出て来ているので、出来るだけそういった人手のかからないものを使うほうがいい。2時間ごとにすべての作業室や冷蔵庫の温度を一人の人間がチェックして、人的コストを使うよりも、機械による自動記録を行ったほうが、詳しく、低コストで記録をとることが出来る。記録で重要なことは、後での分析にも使えることや、何か問題があったり調査したい場合、その製品ロットの履歴や、原材料まで、素早く追跡できることである。そのためにも、可能な部分ではコンピュータ記録を行い、それに手書きの記録を併用する方法がいい。

月刊「ISOS」99/8月号より