明らかに顧客側に原因があるクレームの対応

投稿日: 2013/04/20 22:07:46

顧客側の問題によるクレーム

虫歯治療の詰め物や箸の先端が折れたものなど、明らかに顧客側で入った異物混入がクレームとしてメーカー側に来る問題は、相変わらず減らない。

このようなクレームが来た時、メーカー側は即座に「それは顧客側で入ったものだ」と返事をすると、怒る顧客は多いだろう。明らかに悪意のある場合でなくても、顧客はその時点では自分のところで入ったものだとは考えていないからクレームをするのだ。すぐに否定されたら、その時点で疑問を感じても、今度はメーカー側の一方的な態度はなんだとなる。

かといって、メーカー側に落ち度が無いのに、取りあえず誤ってしまえば片づくとやってしまえば、このような問題がいつまでも無くならないので、その顧客に自ら理解出来るように説明する必要がある。

記録を活用する

そこで活用出来るのが、一般的衛生管理とHACCPのマニュアルと運営記録だ。

西日本のある食肉パックメーカーの製品に「虫が入っていて動いている」というクレームが来た。この製品は部位のブロックの真空パックになっていて、それを小売り店舗で真空パックを外してからスライスし、トレイに盛付けてフィルムパックしてある。そのトレイパックに中に虫が入っていて動いていた、というクレームなのだ。

万一パック工場で、ブロック肉の表面に虫が付着し、それを真空パックしても、虫は生きているわけは無い。

問題の虫を回収して専門機関に調べてもらったところウジ虫だという。

これがトレイパックに中で動いていたということは、食肉店舗側でスライスパックした時に混入したか、顧客が台所でパックを開けた時に混入したかになる。

台所のまな板の上でフィルムを外した後、棚の上か天井にうごめいていたウジ虫がタイミング良くこのトレイに中に落下した、となれば、顧客は動いている虫が肉に入っていた、と考えるだろう。専門家では無いし、流通と商品作りの仕組みなど分からないから、こう考えても不思議では無い。だから驚き、もしかすると親切心もあって、その小売店に報告したのだろう。

小売店でちょっと考えればその場で顧客に説明出来るだろうが、何も考えず、そのまま原材料サプライヤーにクレームしたのだろう。

対応レポートの内容

そこで、小売店経由でのクレーム対応文書作成となる。

まずは、顧客を不快にさせたこと、迷惑をかけたことを(こちら側が悪かったと書かないで)最初の挨拶にする。そして、専門機関に費用をかけて調査してこの虫を特定した際のレポートのコピーを付ける。

次に、この製品が、自社工場から消費者に行くまでの過程を説明する。枝肉が部位別の肉になり、ぴっしりと真空パック(中は真空なので虫は生きていることは出来ないし、第一圧力でつぶれてしまう)されている写真も入れ、それが冷蔵され、トラックで小売店に運ばれる。小売店では真空パックを破ってスライスしている写真が入り、トレイに盛付け、フィルムでパックする。そしてお客様が購入されたのです。

そして、次のページに入って、自社工場でどのような衛生管理を行なっているかの解説に入る。従事者のポケットの無い作業衣への更衣の方法、頭巾型のしっかりした帽子、粘着ローラー、エアシャワー、手洗いと、リストは続き、それぞれに写真が付けられる。この資料はわざわざ作ったのでは無く、新入社員の教育資料をそのまま使う。これが2枚目。

3、4枚目は、工場内の清掃洗浄リスト。これは、この工場では毎日毎週と、毎月毎年の、2種類の実施リストのチェックシートの原紙。これも使っているシートをそのまま。

次は、工場内と機器道具類を泡洗浄している写真。作業室も機械も泡だらけになっている写真と、それを水で洗い流している写真。一般消費者には巨大規模の洗車のように見えるかもしれない。

これらの資料で、どれだけ徹底した衛生管理をしているかが分かるだろう。

そしてこのあと、クレームがあった部位肉を製造したあたりの日付のチェックシートのコピーを十種類ばかり付ける。このコピーには、手書きの個人衛生チェックシート、毎日毎週毎月毎年に行なった清掃洗浄にチェック、ふき取り検査、製品の細菌検査など、多岐にわたる記録があり、それらが次々顧客の目に入る。

「これだけのことをやっているのか……」となるだろう。

そして「弊社工場では宇宙飛行士向け食品の衛生管理で行われているHACCPという科学的な管理をこのように行なっています。今回の問題の原因は工場内で充分な調査しましたが、申し訳ありませんが不明です。今後も厳重な衛生管理をしていきますので、どうぞご理解いただけますよう……今後とも弊社製品をよろしく……」と結ぶ。

このレポートは、小売店経由で虫を発見した顧客に行くことになるが、小売店が「これはウチの作業場所で入ったようだ」と分かれば、そこで止まり、小売店は顧客に独自に挨拶に行くだろう。顧客まで持っていった場合、自分の台所か小売店かどちらかだと分かるだろう。どちらにしろ、顧客も小売店もこれから注意をするようになることを期待しよう。

このレポートを作成するのにたいした時間はかからない。既に使っている資料やチェックリストのコピーが大半だからだ。いつもの衛生管理活動、HACCPの記録が、このようなクレーム対応に役立つ。