かつお節のトレーサビリティとその応用

投稿日: 2013/04/26 7:25:24

歩留まり計算のためのトレース京都の料理屋でおいしい出汁にいつも出会っているし、家でもガリガリ削って使っているので、かつお節工場がずっと気になっていた。

京都で出汁製品を扱っている「うね乃」の釆野社長にお願いして、今回は鹿児島指宿市山川のかつお節工場の視察。

協栄鰹節の国澤浩さんに親切に案内してもらった。

視察して驚いたのは、この工場では原材料のカツオを船から買う。

漁港市場や仲卸から買うのでは無い。直接船から買う。

買ったカツオはロットごとに下処理し、98℃で加熱し、背側と腹側にフィレにし、燻し、削り、カビ付けをして製品になる。

それぞれの工程で、船、日付などがラベルで判るようにし、最終の箱詰めまで付いて行く。トレーサビリティが完全なのだ、この工場では。

ところが、なぜトレースが完全に出来るようにしているかというと、牛肉のトレーサビリティのような目的では無く、原価計算のための歩留まり。

船から買ったカツオが、最終製品になるまでの歩留まりがはっきり判らないと、原価計算が出来ない。これはまた、税務対策にもなっている。このデータを税務署に見せれば、ごまかしていないことが完全に判るというわけだ。

ということで、かつお節製品にはトレーサビリティ表示は無い、証明書も無い。寿司屋が築地で買ったキンキやシジミにはあるのに。

薪燻し(まきいぶし)かつお節の燻し工程は、燻し場所の下に薪をくべる扉があり、開けると、赤く、原始的、幻想的な火が燃えている。最初強火で燻し、その後場所を移して低温の熟成燻しする。

強火燻し工程の一つで見たトレース表示は、11月28日の盛秋丸分で、14台分。

階層で燻しているところは、1階が火元、その上に2,3,4階と、次第に上げていく。

この燻し工程のトレースは、階層、場所ごとに、横の黒板に書いてある。

最初の強火燻ししたのを齧ったら、おいしい料理になっている。

これほぐして熱いご飯にのせ、刻みネギと醤油かけてかっこみたいな〜〜!

燻し終わったのをいったん段ボール箱に入れ、近くにある磨き工場に運ぶ。もちろんこの段ボール箱にもトレースラベルが付けられている。箱詰めしていたあら節は「栄太丸」という船で、11月25日、工場番号1021(協栄鰹節)

どこまでもトレースが追いかけて行く。

磨き工程

燻しまでの工程のある工場から車で10分ほど、開聞岳麓に磨き工場がある。

磨きは、グラインダーで残った骨部分や血合いを削って整形する。削ったクズは骨や脂肪なので、高級な出汁は出ないが、スープにはなるので、ラーメンなどの出汁の原料にする。

削ったあと、カビ付け庫に入れる。

天気が良いと、外に出し、天日干しをする。天日干しの最中雨が降ったら台無しになってしまうので、開聞岳の雲や風向きといった天気予想をする。このあと、農林水産大臣賞を取って、マスコミにもしょっちゅう紹介されている坂井商店に連れて行ってくれた。かつお節の伝統を守って製造しているところだ。

工場前の広場に、最高級かつお節が天日干しされており、この一本一本が小売りで2千円以上する。今広げられているだけで、幾らになるのかな〜〜〜?

その横に、削り前のが置かれていたが、もちろんここでもトレース表示はある。

ロマンにつながるかつお節のトレーサビリティさて、かつお節の製造は、歩留まり計算のためにトレース出来る仕組みになっているが、これ、そのまま製品のトレーサビリティに出来る。

かつお節を使った削り節製品を作る工場や商店、料理店、一般消費者でも、かつお節を買うとトレーサビリティラベルがついてくるように出来たらどうなるか。

京都のうね乃でかつお節を1本買ったら、

「栄太丸、鹿児島県指宿市山川揚げ、11月25日、協栄鰹節製造」となる。これがなんだっていうんだ?

ごまかし、偽装が多い中で、信用になる。

というのは当たり前だが、買う側にとってみれば、味のストーリーにまでなる。

京都のとある料理店で吸い物が出て来る。

蓋を開けたら、野草が入った、これぞ京料理といえるお椀だ。

店主「この野菜は、大原で今朝採ってきました。お出汁は、鹿児島の栄太丸という船が採ってきたカツオを、指宿市山川に揚げ、協栄鰹節が約何日間かけて製造したかつお節を使っています」

そして、かつお節のラベルを見せる。お椀の味は一桁上の美味しさになる!

客は、山川という町と、栄太丸が捕獲した、南海を泳ぐカツオを想像し、料理をいただくのです。

かつお節のトレーサビリティは、ロマンだ。

かつお節に関係する皆さん、どうです、やってみませんか?

かつお節工場の中でも、大きくなったら原材料も多岐になるだろうから、船からのトレースは出来ないかもしれない。しかし中小工場ならすぐに出来そうだ、やる気になれば。そしてそれで製品の価値を高めることが出来る。製品のトレーサビリティが信用だけでなく、それこそ顧客のロマンにまでつながることを考えてみよう。

さて、このようなこと、あなたの業界ではないでしょうか?