HACCPの導入手順の概略
投稿日: 2013/05/20 1:39:09
0、工場全体と人に関する衛生管理を整備する
PP(一般的衛生管理プログラム)とGMP(衛生規範)を整備する。これはHACCPの土台となるのだが、米国でのHACCPには、このPPとGMPは無い。なぜならば、HACCPはこの2つが前提条件となっていて、これが整備されていないと、HACCPに進まないし、HACCPを行う意味もなくなるからである。この部分について米国では、たとえば大型の食肉加工センターなどでは、USDA(米国農務省)の事務所を工場内に作ることが義務づけられており、そこを拠点に、インスペクターが一日中工場内を巡回監視している。中小規模の工場では、不定期にインスペクターが回り、やはり厳しい監視をしている。これに対して日本のHACCPでは、食品工場への保健所の監視がまだ徹底していないと言った理由なのか、厚生省の承認基準を満たすための10項目の7番目に「衛生管理の方法」(10項目ある)として入っている。そして、当然、HACCPを行なう際の重要なものなので、HACCPの土台として整備しておくことが必要なのである。
衛生管理の方法(GMP,PP 一般的衛生管理要件)10項目
施設設備の衛生管理
衛生教育
施設設備・機械器具の保持点検
ペストコントロール(そ族昆虫の防除)
使用水の衛生管理
排水および廃棄物の衛生管理
個人衛生(従事者の衛生管理)
原材料の受け入れ、食品等の衛生的取扱い
回収(リコールプログラム)(製品の回収プログラム)
製品等の試験検査に用いる機械器具の保守点検
1、まず、製造工程を整理する
HACCPの素晴らしさは、その問題解決方法である。ただ単に今まで作っている製品に衛生管理を徹底的に行おう、と決心しても、どこから手をつけたらいいのかわからないだろう。その点HACCPは、まず製造工程を整理するところから始まる。具体的には、製造手順を書いていく。たとえば、鶏肉の唐揚げならば、原料肉の入荷 > 一時保管 > つけ込み > 衣付け > フライ > 冷却 > パッケージ > 一時保管 > 出荷。ということになる。これを行うことによって、現在行っていることが細分化されて各工程が明確になる。
製造工程の明確化が出来たら、これをもとに、工場内の製造ラインの分析や改良が出来る。これによって、動線、ゾーニングを徹底することが出来る。各工程ごとに、危害をリストアップ(HA)し、それぞれについてどうしたら危害を食い止めることが出来るかを検討する(CCP)のである。
2、工場内の動線とゾーニングをチェックする
製造工程のとおりに工場内の設備、機器、作業が並んでいるかどうかをチェックする。もちろん一直線でなくても、L字型、S字型でもいいが、別の工程が交差していてはならない。例えば、ポテトサラダの工程で、ポテトの皮を剥いている横に、出来上がったポテトサラダのトレイパックの作業場所があってはならない、ポテトの皮が製品に混入する危険があるからである。また、ポテトの皮を剥いてから、カットをするという工程の場合、大型の工場だと、この2つの工程はまったく別の作業室で行わなければならない。ポテトのカットに、皮が混入する危険があるからである。これがゾーニングで、名前を付けるならば、皮剥き工程は「下処理室」で「準清潔ゾーン」、カット工程は「清潔ゾーン」などとなる。これがもし小型の工場で、別の作業室に出来ない場合には、作業テーブルを別にして、間をパーティションなどで仕切ればいい。もっと小さくて、一つのテーブルでしかこの2つの工程が出来ない場合は、テーブルの真ん中から2つに分ければいい。HACCPはこのように、工場の規模、現場の状況に応じて「工夫」をして行うのである。
3、工程別に危害分析を行う
各工程において、どのような危害が出てきそうか、リストアップをする。ただリストするというと整理が出来ないので、3つに分類をしてリストをする。一つは、「生物的危害」で、食中毒菌、かび、寄生虫などである。2番目は「物理的危害」で、金属、石、プラスチック、毛髪、死んだ虫といった異物。3番目は「化学的危害」で、農薬、化学薬品、毒物といったものである。
鶏の唐揚の例で、「フライ」工程では、生物的危害は加熱調理の不足からくる食中毒菌、物理的危害はフライヤーや油などからくる異物、化学的危害は、フライヤー機の潤滑油や機械の洗浄不備からくる消毒液、洗剤などが考えられる
危害分析を行うには基本的にこの3種類に分けるのであるが、もう一つ、HACCPの基本には入っていないのだが、「従業員で管理できない危害」が必要である。これは、パッケージフィルムの環境ホルモンとか、放射能といったもので、最近ではダイオキシン問題が出てきている。こういったものは食品メーカー側ではチェックできないものである。これはどうしたらいいかというと、例えばパッケージフィルムでは、納入メーカーに対して、製造工程を含めた危害対策のデータ、証明書などの提出を依頼することになる。このコピーを、年に一度とか、製品や原料が変わるごとに販売先に対しても提出するといい。
危害分析でもう一つ重要なのは、過去のクレーム、事故の記録である。記録されているものだけではなく、工場内でその場で処理をしたものも聞き取り調査などで調べるのである。これらはその工場、その製品独特のものも多く、これを危害分析に入れることは危害の削減に大いに役立つ。
4、危害の対策を設計する
危害の対策には、2種類ある。CCPか、これ以外か、である。どうしたらいいかというと、まず、全ての危害分析をしたものについて、どのような対策を講じるかを考える。鶏の唐揚のフライ工程の、加熱調理不足による食中毒菌危害だったら、どのようにして加熱不足をチェックするかを考える。調理が終わった直後に、肉中温度計で中心温度を計測する方法ならば、何度だったらいいかを決める。この温度は摂氏75度だが、これだけでは出来ない。範囲を決めなければならない。具体的には、75〜80度、といった形にする必要がある。そしてさらに、どのような頻度で監視するかも決めなければならない。
フライヤーから出てくる唐揚をすべて計測することは出来ない。最初の製品と、後は15分ごと、とか、ロット毎とかを、その製造工場での最も効果的な頻度を決めるのである。コンベアーオーブンの場合、フライ油の温度とコンベアーのスピードで監視する方法もある。温度とスピード(揚げる時間)の2つで監視することで、肉中温度計のスポットでのチェックではなく、連続的な監視が出来る。
こういったことを、各工程で行うのだが、すべてを徹底的に行うというのは、製造作業の現場では事実上不可能である。監視だらけで、作業が出来なくなってしまうからである。そこでHACCPでは、それらの中でも最も重要なものを、5カ所以内選んで、それを「重要管理点」(CCP)とするのである。CCPを何個所にするかなのだが、今まで厚生省の承認を得たところを見てみると、2カ所程度のところが多い。これは工場側が最初5カ所で申請をした後、厚生省(保健所)側の指導で2カ所に絞り込まれた、という状況である。5カ所よりも、2カ所にしぼって、そこを集中して監視したほうがいい、ということになる。
さて、CCP以外のところはどうするかだが、これは工場全体の衛生管理を行うGMP(適正製造機準)やPP(一般的衛生管理プログラム)で管理する。保管する冷蔵庫の温度や作業室内の温度管理など、ごく標準的な監視にすればいい。このようにして、CCPとそれ以外を分けるのである。
5、記録をとる
HACCPの実行を監視し、明確にするために記録は重要である。計測したものが正しければその記録をし、逸脱した場合にはその数値などと、どのような対策をとったかまで記録をしなければならない。記録の範囲は、基本的にはCCPの部分になるのだが、実際にはできる限りの記録を取ることが望ましい。クレームがあった場合に、対象製品のすべての記録をすぐに提出して、反論することも出来るし、PL対策にもなる。また、製品のばらつき、季節や原料の違いによる変化、従業員の知識や教育の効果、大きな設備やシステムの変更による変化、その他多くの分析や立体的な監視をすることが出来る。このためにもコンピュータによる記録管理が理想である。
ある、数十ものレストランがある巨大施設では、レストランからの衛生管理の報告書が、毎日何センチもの厚さになり、すべてに目を通すことが不可能である。しかしこれをコンピュータによるオンライン監視にすれば、例えば問題があり、その対策をした部分だけを抜き出して見ることも出来る。この問題点を分析すれば、全体をよくする対策が見つかる場合もあるだろう。必要な場合には、店ごとでも、監視項目ごとでも、目的対象ごとに見ることも出来る。このようなコンピュータアプリケーションはもう出来ている。さらにこれを拡大すると、全国のいくつもの工場をネットワーク出来るし、協力工場、関連工場、原料購入先の工場までをつなげることも出来る。
CCPの記録について保健所では手書きを勧めているところが多い。しかし、厚生省の文書では「機械による自動記録はこの限りではない」と、機械の自動記録も認めている。病院カルテのコンピュータ記録が先日から出来るようにやっとなったが、HACCPの記録ではまだ抵抗があるようである。このような場合は、CCP部分のみに手書き記録を加えればいい、ダブルチェックになる利点も出てくる。
最後に
HACCPは厚生省の承認制度からスタートをしたのだが、自主的に行うものでもある。積極的に導入すると、効率が良くなり、販売力が増すという効果があるのだから、承認対象でなくとも進めるべきである。導入し、発表し、営業力にするのである。
月刊「ISOS」1999/5月号より