HACCPと投資をどう考えるか

フーズデザイン 加藤光夫


HACCPを構築するに当たって、基本的にはそれまでの施設設備のままで進められる。しかし、欠陥があったり、修理が必要な場合も多い。では、どのような状態ならどうすればいいのかというと、明確なルールやガイドラインはない。それならば、どのように考えたらいいかになる。

最低のラインで、どうしても改造したり買い替えたりするのは、その施設設備機器をそのままの状態で進めたら、危害になる可能性が高くなる場合は、変えるなり修理するなりしなければならない。例えば、調理機械が古くなり、調理温度のばらつきが多くなり、しょっちゅう調理後の肉中温度が変化してしまうような場合、頻繁に肉中温度を計測していても、危害になる可能性は高くなる。このような場合は完全に修理をするか新しくする必要がある。この場合はもう一つ、頻繁に中心温度を計らなければならないことになってくるので、作業効率も悪くなる。記録の手間が増えて製造作業に集中できなくなる弊害も出て来る。

塗り床の場合、何年かするとひびが入り、剥げてくる。剥げが目立つようになってきた場合、HACCP対応にするには絶対に塗り直し修理が必要かというと、そんなことはない。剥げた部分は、下のコンクリートの間に汚れ、水が入り込み、そこにバクテリアが繁殖し、汚れが溜るから問題があるのだが、これをそのままにしておいたら、大きな危害の原因になるかというと、そうでもない。ではどうしたらいいかというと、サニテーションの強化で対応したらいい。剥げた部分についてとくに念入りにサニテーションをするようにSSOPマニュアルを作成する。そして、次の大改造の時に、床を完全に整備するようにすればいい。それまではサニテーションでしのぐことになる。

塗り床についてなのだが、塗り床はどのように工事をしたにしても、重いキャスターを使っていたり、高温の排水が直接床に流れるなどの構造だった場合、何年かすれば必ず剥げてきてしまう。それならば最初から塗らなければいいという考え方に最近はなってきている。具体的には強化コンクリートで仕上げるようになってきた。色を入れることも出来るので、ゾーニングごとに床の色を変えることも出来る。各メーカーから強化コンクリート床が出されてきているので、それらの中からその食品工場の特性に合わせて選定するようにしたらいい。特性というのは、対高温が必要かどうか、塩水対策はどうか、衝撃対応はどこまでか、等、製造する食品と作業の内容に合わせることになる。同じ工場内でもそれぞれの作業場に合わせて床を変えることによって、耐久性と低コストを同時に実現することも出来る。

ある豆腐工場で、製造動線とゾーニングのチェックをしていたら、最も重要なパッケージング工程の場所が工場の中心部にあり、しかもこの場所の上を多数のパイプや電源ケーブルがスパゲティのように走っていた。これらのパイプやケーブルの上にはもちろん埃が溜っているので、落下してパッケージに入ってしまう可能性が十分にあった。埃は危害にはならないが、最も多い異物混入クレームにつながる。

そこで大幅にレイアウトを変えようと考えたのだが、今度は排水溝の動線が逆になってしまい、下手に動かすと汚染ゾーンから出て来た排水がパッケージの場所に入ってしまうことがわかった。それならば局所に清潔ゾーンが出来る「クリーンブース」を導入しようかと考えたのだが、木綿豆腐と絹豆腐のパッケージ場所が離れていて、2ブースを入れなければならず、かなりの費用になる。その上パッケージ部分を閉鎖すると他の作業との関係が複雑になるし、毎夕行なう工場全体のサニテーションもやりにくいことになってしまう。

いろいろ試行錯誤している中で、結果的に最も効果的且つ低価格のアイデアが出て来た。それは「吊り屋根」である。国技館の相撲の土俵の上に吊り屋根があるが、同じ形でパッケージ部分の上に透明のプラスチック板を使った屋根を吊るすのである。こうすると他の作業との関係が問題にならず、上部のケーブルパイプの埃も防御でき、低価格で、毎夕の清掃も今までと同じようにできる。透明なので上に乗った埃がすぐにわかるし、ホースで水をかければ清掃も簡単だ、さらにこの部分の照明を強化すれば異物の目視確認も良くなる。次の大改造までこれでしのぐことになった。

ある製氷工場で、食品工場に販売する角氷(氷屋にある大きな氷の原料ブロック)と、これを原料に製造する小売り用の1キロパックの袋氷(ロックアイス)が同じ倉庫にあった。ところが袋氷は角氷を原料に製造するするので、これでは原料と製品が同じ倉庫に入っていることになる。つまり、角氷は、製品であると同時に、原料でもあるのだ。これでは問題だ。しかし、完全に対応させるにはもう一つ倉庫を造るか、現在の倉庫を完全に2つに分けるしかない。どちらにしてもかなりの費用がかかる。そこで、次の大改造まで、角氷と製品となった袋氷を離して置き、間に大型のパーティションを置くことで対応することにした。当分はこれで行くことにしたのである。

このように、費用をかけず、工夫をして、現在の施設設備を使って対応させることが出来るのである。そして、大改造の時には、今度は十分にHACCPの運営に対応するようにするのである。

「月刊HACCP」00/5月号


株式会社 フーズデザイン 加藤光夫