柴田書店「月刊食堂」98/夏頃の号 フーズデザイン 加藤光夫
さて、ではこの3つの部位以外のことを考えてみよう。まず価格である。高級3部位の価格と、他の部位の価格が如何に違うか、業界紙や、日経新聞などの相場表を見てもらうとよくわかる。では、高級3部位以外はおいしくないのかというと、決してそうではない。サーロイン、リブのことでわかるように、おいしそうに見える部分と、おいしい部分は違ったりする。高級3部位が使われる理由はもう一つあって、どれも丸太状になっているので、一本のすべてが同じような切り身になる点である。ロスなく、ただスライスるだけでいいからである。そこで、高級3部位以外で、メニューに使えるのをいくつか紹介する。原料価格が安くて、高級メニューになり、店の名物メニューにもなりそうなものである。
スネ
まず、スネである。「オーソブッコ」というメニューがある。もともとは仔牛の骨付きのスネ肉をトマト味で煮込んだ料理であるが、高級メニューである。仔牛の骨付きスネ肉は少なく、レギュラーメニューにあまり出来ないことから、現在では普通の牛の骨付きスネ肉を使っている。一本を丸ごと使うとあまりにも量が多いので、骨に直角にバンドソーでカットしたものを使うのが一般的である。スネ肉部分では、赤身肉部分が少ないというので、もも肉部分まで輪切りにする方法もある。これだとストリップロインぐらいの面積になってボリュームがある。東京青山のイタリアンレストラン「アントニオ」でこの形のものを食べることが出来る。オーソブッコは、骨の中に入っている髄を食べるところに価値があり、アントニオではこれを食べるために耳かきのような小さなスプーンがついてくる。
ブリスケット
次に、ブリスケット、日本名で前バラ、オーストラリア名でポントエンドブリスケット。この部分は牛丼に使われるナーベルエンドブリスケット、ショートプレートに比べて脂肪部分が少ない。製品の規格によっては、脂肪をほとんどトリミングしてあるものもあるので、赤身肉として使える。ただし、このまま焼いて食べたら堅い。
この部位はコーンドビーフやパストラミに使う最高の部位である。コーンドビーフは端材肉を原料とした低価格の缶詰めのコンビーフではなく、ブロックの加工品である。コーンドビーフとパストラミは米国でとてもポピュラーな牛肉加工品で、両方ともブロックのまま味付け、つけ込みされ、ボイルあるいは加熱調理加工される。時間をかけて調理加工するとこの部位は柔らかく、風味が出て、おいしくなる。米国では4月の感謝祭に多く食べられるところから毎年2月後半から3月にかけては値上がりするほどである。
コーンドビーフは、ブロックのままあるいは角切りにしてキャベツなどの野菜と一緒に煮込まれる。パストラミはスライスされて、サンドイッチやアペタイトに使われる。加熱したコーンドビーフを輸入した場合の関税は生牛肉の半分だが、パストラミは牛肉と同じ関税率である。そのためにクックドのパストラミはあまり輸入されないのだが、味の濃さの点ではパストラミに軍配が上がるかもしれない。
時間をかけるといいこの部位は、低温調理でローストすると低価格のローストビーフになる、しかも味があるのである。ブリスケットのブロックをそのまま120℃程度の低温で時間をかけてローストする。板状の形なので、そのままオーブンに入れてもいいが、丸めて糸かネットをかけて時間をかけてローストするとさらにいい。スチームコンベクションオーブンならばスチームを効かせて低温ローストにする。ハローヒートオーブンのような低温輻射熱オーブンならば、肉中温度が50℃程度に達したあと、数時間のホールディング(保温)をして熟成軟化をさせる。小間切れ状に薄くスライスして、サンドイッチやアペタイトに使うといい。
ラウンド系
ラウンドは、外モモ(アウトサイド、シルバーサイド)と、内モモ(インサイド、トップサイド)になり、どちらも赤身が多い部位でヘルシーだが、堅さが気になる部分でもある。このモモの部分を丸ごとローストにしてパーティ用のダイナミックなメインメニューにする方法がある。モモの中心に入っている大腿骨のスネ肉部分の間接から、腰につながっている関節部分までの大きなブロックで、スネ肉側の部分を下にして台に載せて固定をし、半日程度かけてローストをする。低温で時間をかけてローストをすると軟らかくなり、おいしさも増す。これを台の部分のままパーティ会場にディスプレイをして、スライスカービングサービスをしながらサービスをするのである。米国では原価が低価格ということとパーティのボリュームを確実に出せるので、大きな宴会にはよく使われる。
また、ランプの部分だが、形が丸太状になっていないために、カッティングはしにくいのだが、軟らかさの点では、サーロインにつながっている部分のために、問題はない。こういったカッティングがしにくい部位は、専門の技術者に相談をして、ポーションカットをしてから納入するようにしたらいい。すべてをステーキカットにすることは出来ないので、例えば150グラムのステーキの切り身を出来るだけ取り、あとはサイコロステーキにしてもらう、といった形でカッティングの設計をしてもらうのである。どれだけステーキの切り身をとれるかが技術者の腕の見せ所である。
ネック
首の部分で、普通は複雑な骨から赤身肉をとって、トリミングとして扱われるのだが、この部分を、肉が十分についた状態で骨付きのまま3センチ程度の厚さにバンドソーでカットをして、シチューに使うと、味もいいし、ボリュームたっぷりのメニューになる。
ショルダー、腕
筋が多く、複雑に入り組んでいるので、カッティングがしにくいし、このまま焼いたのでは堅い。しかし、ここも低温で長時間のローストをすることによって、筋も含めて軟らかく仕上げることが出来る。これが出来たらあとは適当なサクにカットをしてから薄くスライスをすればいい。ローストビーフサンドイッチやサラダなどに使うことが出来る。また、すき焼きの肉の部分だけをのぞいて調理をしておき、そこにこのローストのスライスを入れればすき焼き鍋、すき焼き弁当にもなる。ご飯の上に乗せたローストビーフ丼なども出来る。
ショートリブ
焼き肉用の赤身部分の多いショートリブは、リブボーンの3〜5番部分あたりが柔らかくておいしい、しかし価格はけっこうする。そこで、骨付きのショートリブを考えるのも面白い。豚のスペアリブは日本でもポピュラーになってきたが、牛肉の場合はショートリブと呼ぶ。
ショートリブの特徴、おいしさは、骨と骨の間にある少しの肉の味を楽しむものである。米国やヨーロッパの食肉の専門家に「肉のどこの部分が味がある?」という質問をすると多くの人が「あばら骨の間にある肉」と答える人が多い。米国のファミリーレストランやバーベキューレストランでは「7ボーンショートリブ」などという名前でよく出ている。牛のあばら骨が7本も入っているのだから、かなり大きい、「お盆かと思ったらそれが皿で、その上にはみ出すように乗っていた」という人がいたが、その通りで、じつに雄大なボリュームである。しかし、骨と骨の間にある肉しかないので、食べる部分は見た目ほどではない、日本人でも2〜3人で十分に食べられる量である。
骨付きのショートリブの問題は、あばら骨の並んでいる方向に平行にナイフを使ってカットをしてしまうものだから、ばら肉の部分の赤身が少なくなってしまう点である。これに対処するには、骨付きバラ部分をすべて買い取る形にして、カットの方法を指定すればいい。もっとも、米国から輸入するには問題はない、一般に販売しているパッカーを見つければいい。