やり過ぎは禁物。HACCPは、効率化と、安全とを、両方同時に追及できるもの

2013/05/19 22:03 に 松本リサ が投稿
HACCPを進めているとき、考えすぎ、やり過ぎで、うまくいかなかったり、チェックのしすぎで作業に弊害が出たりしているところがある。例えば冷蔵庫の温度チェックで、「2時間毎に」「全冷蔵庫の温度記録をとる」というチェックで、一人の担当者が数多くある冷蔵庫の記録のためにかなりの時間をとられてしまっているところがあった。これは方法が間違っている。
冷蔵庫の記録というのは、最近では温度センサーと記録システムが一体になったものが低価格で販売されていて、これを使えば自動的に温度データが記録される。もし温度がおかしかった場合にはアラームの鳴るシステムもある。これを使えば2時間毎でなくても、それこそ1分ごとにでも記録をとることが出来る。しかも全く無人で出来る。自動的、機械的にできるものは出来るだけ利用して、人間は製造作業に集中するようにしたほうが良い。

ドアの取っ手などを「30分ごとにアルコールスプレーで消毒」を行なっているところがあったが、作業中に時間を気にしながら30分を待つ、ということに神経を使うことで、かえって製造作業に集中できないことの方が気掛かりだ。この問題は、入場での衛生管理の徹底と、2時間毎の休憩システム、および施設の一部改善で解決できる。

まず、入場するときの手洗いを始めとする個人衛生の徹底によって、工場内に汚染を持ち込まないようにすれば、工場内部の一部だけを消毒することはやらなくても良いことになる。

しかしながら、時間とともに汚染は蓄積されていくのだが、これに対しては、「2時間のサイクル」という考え方がある。例えば米国のと畜場では1時間45分作業をすると、15分の休憩時間が必ずある。この時間内にトイレに行ったりコーヒーを飲んだりするわけだが、製造現場ではサニテーション専門のクルーがいて、これが15分の間に全作業室のまな板をサニテーションしたものに取り換える。カッティング作業をやっていると次第に汚れが蓄積していくので、汚染度からいっても2時間毎に取り換える必要があるのだ。サニテーションクルーは、引き上げた汚染されたまな板を次の1時間45分の間にすべてクリーンにして、次の休憩時の取り換え作業をむかえるのである。

この2時間のサイクルを工場の運営に取り入れれば、15分で工場内と作業従事者の衛生保持をリスタートできる。いったん休憩で工場の外に出てから再び入場するときに新たに入場時衛生管理を全員が行うことが出来るからである。取っ手の消毒にこだわるならば、この15分の時間を利用して集中的に行なえばいい。

ドアの取っ手などの場所は、スライド式ドアならばひじで開けられる取っ手にしたり、自動ドアや場所によってはスライドシャッター式にするなどによって、出来るだけ手を使わないようなシステムに切り替えていけばいい。ドアによく「開けたら必ず閉めること」などと書いた汚れた紙が貼ってあるのは見苦しいもので、そういうところに限って開けっ放しのところが多い。大切なことは、従業員と作業が楽に効率良く出来るようにすることなのである。

以前からHACCP式管理を行なっている総菜工場があり、数年前はHACCPを行なっているところが珍しかったので、視察者が多くなり、いろいろな指摘もされ、そのために管理項目が次第に多くなっていってしまい、チェックのやり過ぎで製造作業に影響が出てくるようになってしまったところがある。これを横目で見ていた関係会社がHACCP導入を始めるときに、「あのようにならないようにしよう」と反面教師にした例もある。


ドレッシングやジャムなどを製造しているメーカーで、かなり多種類の製品を、4つの製造室で製造しており、それぞれから出て来る製品を最終的にどぶ漬けの殺菌工程に運ぶとき、キャスターに乗せて運んでいた。しかし、たくさんのキャスターが頻繁に工場内を行き来するので、作業の邪魔にもなるし、動線とゾーニングの点でも問題があった。そこで新工場にするときに、4つの製造室すべてを縦断するコンベアーを壁側に作った。どの製造室から出て来た製品も、製造室の壁側にあるコンベアーに乗せ、近くのボタンを押せば、どぶ漬け殺菌室に自動的に行くようにしたのだ。これによって交差もなく、ゾーニングもしっかりし、邪魔なキャスター移動もなくなった。しかし、最も良かったことは、作業が楽になったことなのである。HACCP上の問題を解決し、作業も楽になるという、一石二鳥を獲得することが出来たのである。

数十店舗のレストランを管理する施設がHACCP方式の管理を始めたところ、各レストランから出てくる「日報」のチェックが問題になってきた。日報の枚数が次第に増え、毎朝承認者の机の上に大量の承認待ちの書類が山のように溜まるようになってしまったのである。承認者は承認専門ではもちろん無いのだから、今までの仕事の上に、膨大な承認作業が出て来てしまったのである。ここで問題なのは、チェックリストのすべてを見る必要が無いのに、見なければいけないシステムになっているということなのである。

実は、チェックリストの内容は2つしかない。正常か、異常か、の2つである。「異常」は実はあまり多くは無いはずである。そして異常であった場合は、どのように対処したかが重要なのである。ということは、正常な部分はすべて見る必要は無く、自動承認にしてしまえばいい。監視者は異常があった部分だけをすぐに見れるようにして、その対策をチェックし、良い対処ならば承認をし、対処の方法に問題があったら、始めて担当者に連絡をすればいいのである。さらに、良い対処は、データベースに登録をするなり、関係者に回覧するなりして紹介すれば、構築しているHACCPシステムに貢献することになる。

これを行なうには、問題があった部分だけに付箋をつけておけばいい。監視者は付箋のあるところだけを見ることになる。コンピュータ管理していれば、問題部分だけがモニターに出るようにしておけばいい。

HACCPは、効率化と、安全とを、両方同時に追及できるものである。
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