たった一人が製品を汚染する

2013/04/17 19:21 に 松本リサ が投稿

「手袋をするのに、なぜ手を洗わなければいけないの?」

西日本のある生鮮パックセンターで、納入先の抜き取り検査で、一般生菌の限度を超える異常値が出たため、すぐに出荷停止され、調査を指示された。
センターではすぐに保管してあるサンプルを検査したが、全く異常は認められず、むしろ最良の成績だ。
原因が分からず、検査の不備ではないかという話も出て来たが、納入先に問いただすことも出来ない。
他の納入先からはそんな話は出て来ていないが、これは他は問題無いのか、まだ発見されていないのかは分からない。
他の納入先への製品の話が出た時、それなら今保管しているサンプルを、金はかかるがすべて調べてみたらどうかとなり、実施してみた。
驚愕のデータが出て来た。
ほとんどの製品は最良の検査結果なのだが、ほんの一部の製品が極端に悪いのだ。問題の出た納品先と同じような異常値になっている。
どうしてこんなことになるか検討された。機械や道具の不備なら、それを使った製品全部が異常になるはずだし、原材料や包装機器が悪くても同じことになる。
残った可能性は、一人又はほんの一部の従事者が汚染しているのではないか、というものだ。
このセンターは百人以上が居るが、その中の一人が汚れた手で製品を触っていた場合、ほんの一部の製品が汚染されることになる。
内々に聞き取り調査が始められた。

「トイレや入場サニタリールームで、手を洗わない従事者を見たことがあるか?」
結果、見たことがあるという回答がいくつか寄せられた。
そのうちの一つは「トイレで全く手を洗わないで出て行った」、もう一つは「サニタリールームで手を洗わないで、そのまま手袋をして作業場に入っていった」
お互いマスクをしているし人数も多く、自分の周りの人の名前もなかなか覚えられないまま仕事をしている状況なので、はっきりは分からないが、話からすると、手を洗わないのは同じ人のようだ。
この従事者への面接は慎重に行った。
「トイレと入場時、なぜ手を洗うか分かりますか?」という問いに対して、この従事者は言った「分かりません」
なぜ分からないかと再度聞いたら「手袋をするのに、なぜ手を洗わなければならないのか、分からない」と言うのだ。
(著者はこれと全く同じ事を、他にも何カ所か知っている)
質問した方はこれに絶句し、どう答えたらいいのか分からなくなってしまい「あとで教えます」とした。

さて「手袋をするのに、なぜ手を洗わなければならないのか?」
手袋をするには、箱に入っている手袋を取り出さなければならない。
この時汚れた手で、手袋の外側を汚染することになる。外側を汚染された手袋で食品をさわれば、当然その食品は汚染される。
一方手袋に付いていた細菌は、食品が手袋の表面に付くので、元気に増殖する。
作業が終わり、あるいは休憩やトイレで手袋を外すが、汗をかいた手の上で細菌はこれもまた沢山増殖している。
そして再び手洗いしないで手袋をすると、前回よりも更に手袋表面を汚染することになるのだ。

サニタリールームやトイレに手洗いの手順はイラストでわかりやすく、複数の外国語で表示してある。
しかし、なぜ手を洗わなければならないかは、確かに書いていない。すぐに全従事者に教育し、手洗いマニュアルと一緒に掲示された。

なぜなのかわからないから、やらない、というのもあるが、面倒くさいから、たいしたことにはならないから、少しぐらいやらなくても、見つからなければいいや、というのもあるだろう。
しかし、これが、たった一人、あるいは従事者のほんの一部が、会社の信用を失墜させてしまうのだ。

なぜその温度なのか、なぜ扉はすぐに閉めなければいけないか、なぜ扉は肘開けしなければいけないのか、なぜ土足でプラットフォームに上がってはいけないのか……

従事者全員が認識していますか?
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