食肉加工工場(ハム、ソーセージ)の衛生管理

2013/05/07 19:22 に 松本リサ が投稿

原料肉の受け入れ保管

理想的なチルド原料肉の受け入れ検収時には、0℃±1℃といったことになるが、現実にはトラックの状態などでここまでいつもうまくいくとは限らない。そこで、一般的には「4℃以下」「5℃以下」といった規定にする。また、冷凍肉はマイナス18℃以下になる。この規定を今まで温度チェックをしていないところにいきなり指定しても混乱するので、最初はまず、一体どのような温度で各サプライヤーから入荷しているのか、実態を調べるところから始めたら良い。
検収時の肉温測定だが、中心温度計でブロック肉の中心までセンサーを挿し込んで計ればいいのだが、これだと段ボール箱を開けるだけでなく、真空パックまで破ることになってしまう。また、冷凍肉だと、正確にはドリルで穴を開けなければならず、かえって危害の元になってしまう。そこで、検収時には非接触の表面温度計を使うようにしたら良い。レーザー光線をあてれば、温度が数値で瞬時に出て来る。それでは中心温度がわからないとなるが、原材料に入っている肉は、一個だけではなく、数個以上入っているものがほとんどである。その中の特に一番小さな肉、つまり1つの箱に多くのパーツが入っている箱、豚肉ならヒレ(ヘレ)などを選んで、その中心部にあるブロックの表面温度を測れば、ほぼ肉中温度と同じになる。冷凍肉でも正確に計ることが出来る。

保管庫からトリミング作業室へ

保管庫に原料肉を入れる場合、埃やゴミがついていて、虫の問題まで持ち込みかねない段ボールを外すかどうかで悩むところが多い。食肉の場合ダンボール入りかサンテナー入りが多い。ダンボール入りの肉をわざわざ出して庫内に入れると、冷蔵庫での収まりが悪く、効率的に使えなかったり、表示がわからなくなるために、間違える元にもなる。こういった場合、ダンボールのまま冷蔵庫に入れたほうがかえって安全で効率的である。そしてトリミング作業室に持っていくときに、冷蔵庫から箱ごと出し、作業室に行く途中、例えば保管庫の前で中身を出して専用のコンテナーに入れたり、作業室の入口のところで中身を出し、ダンボールはダンボール置場に持っていくことにすればよい。

サンテナー入りの場合、検収時にサンテナーを専用のに入れ替えるように指導され、その効率の悪さや、検収場所が狭く温度管理がされていないために、かえって問題が発生する元になって困っているところがある。このような場合、サプライヤーに対してサンテナーの洗浄を依頼すると同時に、入荷してきたらそのサンテナーのまま素早く温度チェックをしてから保管庫に入れたほうが良い。使用するときに、例えば冷蔵庫内や冷蔵庫を出たところで専用のコンテナーに移したり、キャスターで作業室の入口まで入れてから肉を取り出して作業台に持っていく方法でも良い。トリミング作業室の入口辺りに置いてあるサンテナーが空になったら、すぐに戻せば、危害が入る確率はかなり低くなる。その工場の状態で最も安全な方法をとることが重要である。

トリミング、カッティング作業室でのポイント

素早く作業をすることが品質管理と効率のために重要だが、もう一つ重要なことは、異物混入や毛髪の付着などのチェックである。そのために設備とルールの2つの面から改善する。設備面では照明を明るくして、異物などの発見がしやすいようにすること。ルール面では作業者に対して「あなたの仕事は2つあります。1つは歩留り良く素早くトリミングをすることでこれは今まで通り。もう一つは異物の発見です」とする。ある工場では異物の発見に対して、賞金や交通機関の乗車カードなどのインセンティブを与えているところもある。
同じ作業を一日中続けていると、まな板の汚れが蓄積していく。例えば食中毒菌が付着した肉がたまたまあった場合、まな板に付着し、温度が高ければ急速に増殖していく。その後に続く肉が全て汚染されるということになる。これを防ぐには、まな板を定期的に洗浄することだが、米国の食肉センターなどで行われている一般的な方法は「2時間ルール」と呼んでいるが、2時間毎にまな板を取りかえる方法である。1時間45分作業を続けると15分の休憩があり、この休憩時に、専門のスタッフがすべてのまな板を洗浄消毒したのに取りかえてしまう。作業者が再び来たときには清潔なまな板で作業が出来ることになる。汚れたまな板は、専用スタッフが次の休憩時までに洗浄消毒するのである。

と畜場で使うナイフは、一頭処理するごとに83℃以上の消毒槽に入れ、次の一頭が来たらその中に入れてあったもう一本のナイフを使う規定になっている。ナイフを媒介とした汚染増幅を防ぐためである。この考え方で、まな板、ナイフ、スライサー、チョッパーなど、食肉に直接接触する機器道具からの交差汚染を防ぐのである。
トリミング作業の場所で良くある問題だが、脂肪やスジが床に落ち、そこを通ったキャスターの車輪に付着し、キャスターが冷蔵庫に行き、冷蔵庫の段差を通ったショックで脂肪やスジが落ち、冷蔵庫の入口近くを汚くしていることがある。その汚れが再び車輪にからみ、工場内を汚したり、低いところに置いた食材に付着して異物混入になってしまう。原因はトリミング作業場所なのだが、原因がわかるまでは、冷蔵庫の入口付近がどんどん汚くなり、それが工場中に広がり、そのうち異物混入クレームが増え、工場中の汚れがひどくなっていた、原因は何なのか?ということになる。これを防ぐには、トリミング作業のまわりをキャスターが通らないように、例えば床にラインを書いてゾーニングをしたり、1時間に一度、まわりに落ちた脂肪スジを拾うことである。ラインを書くことがハード面、拾うことがソフト面の改善になる。どのような問題解決も、ハード面(施設設備面)と、ソフト(衛生対策のルール)で解決を考えることである。

作業室の温度をどうするか

作業室の温度は低いほうが良い、食肉を痛めないし、細菌増殖率も低い。しかし、冷蔵庫と同じ0℃が理想だが、作業者がたまらない。米国の食肉センターでは5℃程度が標準だが、日本ではこの温度でも大変である。
作業室の温度設定は、3段階考えたら良い。低温作業室は、10℃以下で、これは冷蔵食品の保管限界温度程度になる。中温は18℃以下で、この温度よりも低くするためには空調設備のシステムが全く違って、費用が高くなる。設備費用面での限界温度でもある18℃にすれば、一般的なクーラー設備で出来ることになる。高温作業室は、オーブン、スモークハウス、フライヤーなどの加熱調理機器があるところで、30℃以上になるところもかなりある。この作業室の温度を無理やり低くしようとしても、大変なエネルギーを使うし、逆に調理効果に影響が出てしまう。こういった場所で作業者を何とかするには局所クーラーを使うしかない。
次に、各作業室の温度を決め、それに合わせて作業衣、帽子、靴などを設定する。ハムソーセージの加工工場では、検収場所は18℃、トリミング作業室は10℃、低温作業が必要な調味室は10℃、加熱直前の調味室は18℃、スモークハウス室は高温、冷却室は0℃、パッケージ室は10℃、箱詰め作業室は短時間に終わるシステムなら18℃、出荷準備室は10℃、といったように決める。そして、低温室作業者には、防寒型の作業衣、帽子、靴を提供することになる。

動線とゾーニング

これを整備することで、衛生管理がやりやすくなり、安全になり、その上作業効率が良くなる。まず、動線が一方向に流れているか、無駄に曲がっていないか、逆行や交差をしていなかをチェックし、改善する。このために、作業のフローチャートを書くことから始める。ハムソーセージ工場の作業を簡単に記述すると、
原材料受け入れ → 保管 → トリミング → カット → 調味 → 加熱調理 → 冷却 → パッケージ → 検査(金属探知機) → 箱詰め → 保管 → 出荷
次に、工場図面を書き、これに動線を書き込んでいく。複数の製品を製造していたら、製品ごとに動線が違うので、色別などにして書き込んでいく。結果、問題が無いか、あったらそれをどうやって直すのかを検討することいなる。動線が乱れているということは、交差汚染が起こる危険が高くもなる。人の動きも無駄が多くなるので、これも異物混入クレームの元にもなる。導線を直せば、安全性と効率の両方が良くなるのである。HACCPを導入した結果、クレームは減ったのだが、利益まで良くなった、なぜだろうと、と、不思議がる工場が多い。この理由はこういったことなのである。

三つのゾーンに分ける

次にゾーニングで、一般的には三つに分ける。一般ゾーン(汚染ゾーンと呼ぶところもある)、準清潔ゾーン、清潔ゾーンである。原材料は、最初、外(一般ゾーン)から入るから、検収場所は一般ゾーンになる。この後すぐに保管されるが、ここも原材料がそのままの状態で保管されることが多いので、ここも一般ゾーンになる。その後、外側の段ボールが外されたりして、原料肉が裸になり、トリミングされる作業室は、それまでの場所よりも清潔にならなければならない、そこでここは準清潔ゾーン。ここに入る従事者は一般ゾーンよりも清潔な状態でなければならない。
毛髪や異物混入を防止するために、ネットを被り、その上に帽子を被り、ポケットにものを入れない作業着で、手を洗って入らなければならない。このゾーンに入るためのハード面、例えば、手洗い設備、粘着ローラーの設置など、と、ソフト面、例えば、手洗の方法、粘着ローラーの使い方、の決まりを作り、守っているかどうかを常にチェックする。こういったことを一般的衛生管理という。

ハムソーセージ工場では、トリミングの後、ソーセージならカッティング、味付け、ケーシング、ハムなら整形、インジェクション、巻き締めやケーシングなどの調味加工を行なってからスモークハウスに入れることになる。これら一連の工程は全て準清潔ゾーンになる。
製造動線とゾーニングの関係だが、受け入れ保管工程は一般ゾーンになり、その後のトリミングや調味調理工程は準清潔ゾーン、そして調理が終わった後の冷却工程から清潔ゾーンに入る。冷却を終了してから真空パックなりガスパックを終了するまでは出来た製品が裸の状態になっていて一番微妙なところなので清潔ゾーンのまま進み、パッケージが終わったら安全になるので、次の箱詰め工程の部屋に入って、準清潔ゾーンになる。そして、保管と出荷ゾーンは一般ゾーンである。ゾーニングの順は、一般 → 準清潔 → 清潔 → 準清潔 → 一般、というものになる。次第に清潔度が上がり、製品がパックされた後、次第に清潔度を落として、出荷に向うことになる。

CCPの管理によって、安全で、美味しいものが出来、利益も出て来る

スモークハウスやハムのボイル調理で加熱調理殺菌をすることで食中毒菌による危害を無くすことになる。このための温度は中心温度63℃以上を30分以上維持することである。そのための温度チェックが安全対策と同時に、美味しさ、つまり品質の管理にもなる。規準温度以上に加熱すれば安全だが、加熱すればするほど美味しくなくなり、ジューシーでなくなり、目方も減り、歩留りが悪くなる、ロクなことはない。この温度と時間がHACCPのCCPの場所である、したがって、ここをきちんとコントロールできれば、安全だけでなく、品質、美味しさもクリアした製品にすることが出来るし、歩留りも良くなる。HACCPをやると利益がでるというのは、ここにも理由がある。
CCPになる加熱調理工程で殺菌した後、冷却工程になるが、ここからが最も高レベルの衛生管理が必要となる清潔ゾーンに入る。せっかく殺菌したものを再び汚染してしまっては何にもならないので、ハイレベルの清掃、洗浄を行なうと同時に、このゾーンに入る従事者は、しっかりと毛髪プロテクトをした帽子、異物混入対策を施した作業衣、徹底した手洗いに加えて手袋、工場によってはビニールの使い捨てコートやエプロンをさらに付けるところもある。こういったことは一般的衛生管理になる。

CCPとPP(一般的衛生管理)の違い

CCPというのは、そこをしっかりと管理すれば、かなりの確率で、食中毒などの危害を防止できるところである。加熱殺菌をすれば食中毒菌を殺すことが出来るから、ここはCCPになる。CCPと一般的衛生管理の違いだが、清掃をする、洗浄をする、手を洗う、冷蔵庫の温度を0℃前後にするといったことは、これをやらないと細菌が残って増えたり、増殖したり、人の細菌が食材に付着したりして、それがひどくなると、危害や異物混入などのクレームにつながることになるが、それをやることで、劇的に危害を無くすことは出来ない、しかし、重要でやらなければならない衛生管理である。CCPは劇的に危害を無くすところ、一般的衛生管理は劇的にはならないが、やらないと問題になる基本的なこと、という違いになる。
したがってCCPの場所はそれほど多くなく、ハムソーセージの場合は、加熱殺菌工程と、金属を探知できる金属探知機の2ヶ所程度で、一般的に5ヶ所以内とされている。これに対して一般的衛生管理はかなりの数になる、数十ヶ所、百項目以上になるところもある。
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