食品企業経営にとってのHACCP:衛生管理とHACCPはコストダウンにもつながる

2013/05/20 16:03 に 加藤光夫 が投稿   [ 2013/05/21 16:17 に 松本リサ さんが更新しました ]

1.HACCPは箱物ではない、古い施設で出来る


「HACCPは施設設備に金がかかるそうだから出来ない」と勘違いしている食品工場や厨房がまだかなりある。
HACCPは、老朽化した施設でも建物のすき間をふさいで虫の侵入を防ぐとか、設備機器のメンテナンス、清掃洗浄と言った、いわゆる一般的衛生管理をしっかりすれば出来る。
これらは、大きな改修は別にして、特に金のかかることではない。

ある工場でHACCPの構築を始めだし、最初にやることは整理整頓だった。
作業場所の清掃洗浄をやりやすくしようとしたが、作業台の下に、ぼろぼろの発泡スチロールボックスに入った大量の軍手、崩れかけた段ボールボックスに入った時々しか使わないトレイ、あまり使わなくなった道具が入った汚れたサンテナーなどがあり、清掃がしにくくなっている。作業台の上から泡洗浄をしたいのだが、これでは水もかけられない。
そこで「常に使うもの以外は、作業場の隅か外に置く」という整理をしてみたら、ほとんど無くなってしまい、きれになった。そこで泡洗浄が出来るようになった。
これには全く金はかからない。

2.作業環境をきれいにすることが基本

作業場所に、ゴミ、埃、カビがあると、これらが異物混入になる。汚れていれば細菌もたっぷりいるし、加えて湿度が高ければ、カビも細菌も元気に増殖する。

作業場所がきれいになれば、これらの異物混入や食中毒の元が少なくなるので、製造環境がかなり安全になる。

「整理」で、いらないものを捨てたり外に出すと、作業場所が広くなるので、清掃がしやすくなる。「整頓」で、残ったものの置き場所を決めれば、道具がないなど、無駄に時間を使って探すことはなくなる。

整理整頓した後「清掃」して、ゴミを取り去り、その後「洗浄」で目に見えない埃や細菌を洗い流し去る。そして最低レベルの「殺菌」で、細菌を殺す。最低レベルというのは、整理整頓清掃洗浄がしっかりしていれば、殺菌剤をあまり使わなくてもいいし、費用も少なくて、殺菌剤が食品に混入したり臭いが残ったりという問題もなくなる。

この様に出来ると、虫の内部発生、カビや細菌の増殖もかなり少なくなっていく。

これにも金はかからない。逆に、洗剤や殺菌剤、あるいは殺虫剤の使用が少なくなり、洗浄水の節約にもなれば、コストダウンにもなる。

製造環境をきれいにするということは、危害の元をかなり少なくして安全になることに加えて、コストダウンにも結びつくのだ。

ある工場では、一般的衛生管理の構築の中で、施設と設備機器の洗浄について、見直しを始めた。それまでは洗浄方法はやる人が適当に自由にやっていたのだが、これだと人によって汚れが落ちていないし、時間がかかったりしていた。

観察してみると、洗剤と殺菌剤をどうもかなり使っているようだ。適当に洗っても落ちると思っているのか、洗剤を「ガバガバ」使っているようだし、殺菌剤も「ぶちまけて」いるようだ。

そこで、大きな汚れやかすをヘラで落とし、水とブラシで粗ゴミを落とし、洗剤をマニュアル通りに希釈した泡とブラシで洗浄し、水ですすぎ、最後に適正な殺菌をする、という正規の手順を踏んだ方法にしたら、洗浄効果も上がり、洗浄殺菌剤の使用も少なくなった。水の使用量はあまり変わらない。結果的に以前に比べて劇的にきれいになった。この効果で、内部発生の虫も激減し、殺虫剤の使用もほとんど無くなり、総合的にコストダウンになった。


洗剤が食品に混入する事故が過去にかなりある。飲料に混入してしまうと大事故になる。製品そのものに入らなくても、パックを入れるコンテナーの洗浄後、すすぎ不足で臭いが残り「薬臭い」となって回収になった例もある。

殺虫剤や殺菌剤も、みだりに使うと食品に混入してしまう。量が多ければ人に危害を与える。

この問題を無くすためには、これらを一カ所に置くようにして、使うときに持って行くなり、小さいボトルに入れ替えて使用現場に持って行く方法がよい。


ある工場では、あちこちに置いてあった清掃道具と洗浄剤などを、一カ所の部屋にまとめておくようにした。考えてみれば、製造中は清掃洗浄しないのだから、離れて置いてあっても問題無いし、これらが作業場所に無ければ、混入の危険がないばかりか、作業場所が広くなる。


作業が終わってから洗浄剤と道具を取りに行き、終わってからまた戻すようにしたところ、予想通り、作業室がすっきりした。置き場所に行けば、すべての道具と洗浄剤などがそろっていて、在庫がすぐにわかるので、余分な在庫を持たなくても良くなり、わずかだがコストダウンになった。

ある工場では、作業終了後、短時間に(適当に)清掃していたのだが、HACCPの構築になり、ふき取り検査をしたらとんでもなく汚れていることがわかった。今まで良くも無事できたものだ。

そこでしっかり時間をかけて清掃洗浄をすることにしたが、今度はこれによってコストがかかるようになった。

でも、安全のためには仕方ないと、続けていたが、価格競争になり、何とかしなければならなくなってきた。コストダウンの方法をいろいろ検討し、徐々に進めていったのだが、清掃洗浄もどうにかならないかとなってきた。

清掃洗浄を簡略化すれば少しはコストダウンになるのだが、製品の安全性に当然影響する。これは先のふき取り検査で寒気がしたほどわかっている。

そこで、泡洗浄を検討してみた。泡洗浄をするためには、作業場所の整理整頓から始めなければならない。これに成功して泡洗浄を始めて見た。

泡洗浄は、水と洗剤を混合した泡をジェットウオッシャーで吹き付け、30分ほど放置して汚れを浮き出させてから、水で流す。強力が泡洗浄機は8メートルほど飛ぶので、大型の工場の天井まで一人で簡単に素早く泡を吹き付けることが出来る。

水で流した後、床の傾斜が上手くできているところは自然に排水され、その後乾燥する。そうでないところは、水切りをして、出来ればその後大型の工業用扇風機で乾燥させる。

この方法が良いところは、少人数で出来、時間も早いことだ。

この工場で、以前は作業終了後、数十名いる作業者の半分ぐらいで、2時間ほどかけて清掃洗浄にかかっていた。しかし泡洗浄に変更してからは「5名で50分」で終わるようになった。この工場は床の傾斜が理想的に出来ているので、水切りなどの作業は不要で、水でのすすぎの後、4時間ほど空調の除湿運転をするだけで完全に乾燥してしまう点も利点になった。数十人で2時間から、5人で50分。大変なコストダウンになった上、泡で洗うので、桁違いにふき取り検査の結果も良くなった。安全とコストダウンが両立した。

泡洗浄機の中型機に関して、購入や内容などのお問い合わせはここ

一般的衛生管理で製造環境がきれいになれば、危害の元は激減するが、皆無になったわけではない。あくまでも「少なく」なったのだ。従って、まだ食中毒菌が残っているのかもしれない。異物が残っているかもしれないのだ。

そこで、この「残っているのかもしれない」危害を「除去」、無くすことは出来ないか、とどめがないかを考えてみる。

食中毒菌が残っていた場合、もしその食品に加熱殺菌工程があれば、75℃以上(ノロウイルスは85℃以上)の温度にすれば殺菌することが出来る。とどめだ。これがHACCPになる。


製造環境で危害の元を減少させるのが「一般的衛生管理」、残っているのかもしれない危害を除去するのが「HACCP」になる。

異物に関してのHACCP、とどめは、金属が入っていた場合の金属探知機で、小ささの限界はあるが、ある程度までは除去することが出来る。

ということになり、安全対策の仕事量として考えると、一般的衛生管理で8割、HACCPが2割、といったところであろうか。

加熱殺菌工程でもコストダウンになる、あるいは利益になる。

HACCP構築を始めだした総菜工場で、温度がどのようになっているか、とりあえず5千円を投資して中心温度計を購入し、計測してみた。


フライヤーで鶏の唐揚げを造っているので、何も言わないで、毎日数回温度を測って、一ヶ月間みたところ、かなりの温度幅があることがわかった。とんでもなく不安定だったのだ。観察してみると、投入量が適当、投入時の食材の温度も不安定のようだ、フライ時間も経験なので人によって違う。

HACCPの資料では「75〜85℃」となっているが、計測はかなり乱れている。75℃以下の場合、油の温度が高く、表面に色は付いても、中はまだ半生、なんていうのもある。反対の85℃以上というのはかなり多く、95℃以上にもなっているのがかなりある。これは加熱不足が怖いので、オーバークック気味にしているからのようだ。しかしこんな温度にまで揚げてしまったのでは、堅くなり、ジューシーでなくなり、おいしくないし、重量でパックしているので、歩留まりも悪い。おいしくなくなっている上に損していたのだ。

そこで、投入食材の大きさと温度と、一度に投入する量を一定にし、油の温度も一定させればフライ時間も自ずと決まってくる。この組み合わせを突き止め、マニュアルにして作業を一定化したら、80℃プラスマイナス3℃に安定して出来るようになった。


これによって、加熱不足の危険はなくなり、オーバークックによる廃棄や歩留まり損失が無くなり、失敗、ロスが無くなった。今まで失敗などでの作業の停滞がちょいちょいあったのだが、これが無くなり、作業が途切れることが無く連続して行えるようになった。生産効率が上がったのだ。感覚的に5%程度だろうか。

歩留まり率が良くなったのは、失敗による廃棄ロスと、オーバークックによる重量ロスで、これも感覚的に5%程度だろうか。

生産効率と歩留まり率は、こうなることがわかっていればHACCP活動前に測定しておいて、改善後と比較したかったのだが、もう遅かった。

しかし、感覚的に合計10%程度が改善されたということは、10%のコストダウン、あるいは利益アップということになる。

競争が激しくなり、価格競争になってどうしようかとなっていたが、原材料を変えることは出来ないし、逆に低価格原材料に帰ることは営業上マイナスだ。こんな時に、製造レベルでの10%は大変な威力になる。

8.加熱殺菌(CCP)の後の工程はまた一般的衛生管理

ある総菜工場で、和え物系の細菌検査結果が悪いので、原因を探っていた。

和え物は野菜などをブランチング(ボイル)してから冷却し、ドレッシングやソースとあえる。

ブランチングは加熱殺菌でCCPだ。

CCPでとどめを刺せるのだが、この後の工程は冷却し、あえて、パッケージをする。そこでこの後の工程でせっかくCCPで殺菌をしても、バット、ボウル、ミキシングするフォーク、人の手などで汚染してしまえば何にもならない。

そこで、加熱殺菌後からパッケージまでの工程の間に入っているすべての機器道具を調べたところ、どれもこれも適当に汚れていた。原因はこれだった。

そこで、この後の工程に使うすべてのものの洗浄殺菌を徹底したところ、合格になった。

将来この工程の場所は、出来ればクリーンブースや、ビニールカーテンなどで囲う方がよいのではないかと「改善案」として提案した。


CCPの後の一般的衛生管理は重要なのだ。

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一般的衛生管理とHACCPの目的と効果

  1. クレームを無くす
  2. 製品を安全にする
  3. 製品を安定させる→品質を安定→いつも美味しい製品にする
  4. 製品が売れるように→競争力を高める
  5. 企業力を高める→効率化、収益性
  6. 不良品が減り、ロスが減り、ミスが減り、失敗が減り、工場の稼働率が高くなる

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HACCPを実施して良くなったというコメント事例

  • 安全性と品質の向上:クレームが減る
  • 生産効率のアップ:生産高が増える。前年105.5%と伸長
  • 利益アップ:利益がアップ(損益改善)
  • 競争力がつく:企業力アップ
  • リスクマネジメント:「クレーム対応素早く」「トレーサビリティー対応が出来る」

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9.動線とゾーニングの整備でコストダウン

動線とゾーニングが整備されていると、その状態にあるだけである程度の安全性が確保される。

動線が一方方向だと作業がシンプルになり、交差汚染が無くなる。

動線を出来るだけ短くすることで、交差汚染の可能性が少なくなるし、作業時間が短縮でき、作業者と製造中の食品の移動が少なくなり、コストダウンになる。

ゾーニングが出来ていると、交差汚染が無くなる。

こういった、安全とコストに絡むのが動線とゾーニングだ。


何年もの間に、製造する製品とシステムが変わり、増築などもあれば、動線とゾーニングは最初に比べて大きく変わってしまう。そこで、今の状態を調べてみることだ。導線とゾーニングが理想的に出来ている工場は少ないし、整備するにしても満足できるようになるかどうかは不明だ。大きな費用が必要になる場合もある。

しかし、今の導線とゾーニングがどうなっているかの実態を知り、費用をかけない範囲で改善することは出来る。作業台を移動したり、簡単なパーティションを置いたりすることで対応できる。

どうしても解決できなくても、そこが危ない、ここに問題がある、ということがわかれば「気をつける」という解決方法がある。この解決方法もタダだ。

問題点がわからないまま製造するより、わかった上で気をつけて製造する方が、桁違いに危害が発生する率は低くなる。「認識」して、気をつける。これは重要な改善方法なのだ。

ある炊飯工場では、工場の廊下の隅の方に、ラベル、製造指示書などがあり、工場にあちこちにいる作業者が狭い廊下を通って取りに行っていた。事務所の横にこの置き場があるのでこうなっていた。

毛髪混入のクレームが毎月数件あり、日常化していたのだが、あるとき、この狭い廊下で従事者が行き交うとき、ぶつかったりすることが結構あり、そのショックで帽子内の毛髪が落下するのではないかと考え、この置き場所を工場の中央に置いてみた。

結果、毛髪混入クレームはぴたっと止まった。すごい効果だ。予想は正しかったのだ。


この改善では、作業者が取りに行く距離も短くなった。わずかだがコストダウンになる。一般的に作業者が一歩歩くのに0.6秒かかるそうなので、少なくなった歩数×人数×時間給×日数、が節約になる。

これで少し困ったのは事務所の人で、それまでは事務所の横にあったが、今度は遠くになってしまったので、伝票などを着替えてから持って行かなければならなくなった。まあしかし、日に2回程度だ。

10.ふき取り検査の検証とコストダウン(登録-)

製造機器は食品が直接接触する部分があるので、洗浄をしっかりしなければならない。ある工場ではATPで作業前に検査をして確認することにした。
ATP検査では一般的に数値が1000以上だと汚れているということになるが、食品が接触する部分はシビアなので「500以下」にした。


毎日検査を続けて3ヶ月ほど経った頃、監査に入ったら、ご飯の盛り付け機の検査で3回ほど立て続けに500以上の数値が出ていた。数値を超えていると「再洗浄」し「再検査」して合格しないと作業してはならないことになっている。
3回の不合格では、そのように、再洗浄され、再検査で合格になっている。
しかし、これではコストがかかるだけだし、不安だ。
これ以前はどうなっているか調べたところ、前の月では二桁台の優秀な数値が続いている。なぜこうなのか聞いたところ「ああ、それは直ちゃんがいたときで、直ちゃんがやるとそうなる」という。直ちゃんはどうしたかと聞くと「別の部署に配転になった」
それなら、直ちゃんの洗浄方法を教えてもらって、その通りにしたらいいじゃないか、ということになり、来てもらい、デジカメで写真を撮りながらやってもらった。作業も早く、きれいになる。
撮った写真を元にマニュアルを作り、この通りに出来る作業者が3人出来た。
この3人は「盛り付け機を洗浄できる人」にした。これ以外の人は洗浄してはいけなくした。3人いれば、休みや配転があっても、対処できる。
これを「力量」という。力量がなければ、その作業をしてはならない、問題の元になるからだ。
他の製造機器でも同じことを行ったところ、ふき取り検査の結果がどんどん良くなっていった。1台の機械に一人だけ力量を持っている場合、休んだりすると困るので、最低二人に力量を持たせるようにした。
-力量システムを運営していくとふき取り検査が安定して良くなってきたので、毎日行っていた検査を週に1回にした。曜日を決めずに、いきなり週1回検査を行うのだ。これによってふき取り検査のコスト、1回240円がかなりコストダウン、1/6になった。

11.力量システムから工場全体のコストダウンへ

さらに運営を続けていくと、複数の製造機械を洗浄できる力量を持った従事者がどんどん出て来た。オーダーの状況により作業の偏りがあるので、どうしても別の作業室に応援に行くことがあり、それを円滑にするために、作業場所同士お互いに機器洗浄も出来るようになってきたのだ。

こうなると、今度は作業の偏りがあっても、応援がフレキシブルに出来るようになったため、工場全体も偏り無く円滑に製造できるようになった。以前は、忙しい作業室と、暇な作業室が同時にあり、困ったものだったが、それが嘘のようになくなってきた。

ふき取り検査での再洗浄問題が、力量システムになり、それが工場全体のコストダウンにつながったのだ。


12.製品の検証

ふき取り検査は製造環境の検証だ。加えて重要なのが製品の検証で、細菌検査が主になり、これも効率的、効果的にしたい。

弁当製造工場では、製品の検証といっても、出来た弁当のおかずなどを細菌検査しても、2日後に結果がわかるのでは遅すぎる。

ある弁当工場では、毎日1万食の弁当を製造納品しているが、残ったものが出て来て、工場に持って帰る。そこでこれを細菌検査する。

弁当は昼食時に食べてしまうので、売れ残ったのを検査するのは、午後3時頃になってしまう。お客様が食べる状態より3時間も経っているので悪い状態になったのを検査することになる。

この工場では規模が大きくなったので、迅速細菌検査機を導入した。30検体までを、同時または平行して検査が出来、結果は6時間後に出る。


6時間後に出ても、もう間に合わないのだが、この検査を毎日行っていることで、おかずの種類、製造の状態、気候の変動で寒いときと暑いときの変化とメニューの関係など、傾向がわかる。

ほうれん草のごま和えなどの和え物や、サラダなどは、冬から次第に暖かくなるに従って、検査結果は合格レベルでも、次第に悪化していくことがわかる。ある程度まで見て、これ以上はやめた方が良いという季節になればわかるので、和え物は入れないといった安全対処が取れる。

この検査をやり出して最初の頃は、いろいろなおかず、原材料の多くを検査していたが、次第に気をつけた方がよいのが絞り込まれてきたので、検体数の絞り込みでコストは下がった。

(財)食品産業センター「明日の食品産業」09/5月号掲載から

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