食品の異物混入事故 ― その対策と回収

2013/04/07 21:36 に 松本リサ が投稿   [ 2013/04/09 19:45 に更新しました ]

異物混入対策は、一般的衛生管理の構築につきる

異物混入はあらゆる食品メーカーが追及し続けている問題だが、基本的な解決ができているところはない。異物混入問題がないメーカーがあったとしても、これから起こさないための方策は維持し続けなければならない、食品メーカーにとっては永遠のテーマである。この問題の根本的な解決方法はないかという質問も、半ば冗談として時々受け取る。この対策のためには、地道なことを、しっかりと行ない続けるしかない。具体的には、一般的衛生管理(以下PP)を構築することである。一般的衛生管理は、厚生労働省の総合衛生管理製造過程の中では10項目あるが、このハードとソフトの両面を行なうことである。

一般的衛生管理の内容と異物混入への対応内容は以下である。
  1. 施設設備の衛生管理:清掃を主体として、ゴミ、異物を除去する
  2. 衛生教育:対応活動の基礎になる
  3. 施設設備・機械器具の保持点検:機器からの脱落の防止など
  4. ペストコントロール(そ族昆虫の防除):混入する虫対策
  5. 使用水の衛生管理:これは食中毒対策だが、水道管の変質からの異物対策にもなる
  6. 排水および廃棄物の衛生管理:異物として混入するゴミ対策
  7. 個人衛生(従事者の衛生管理):毛髪混入防止や従事者からの異物混入対応
  8. 原材料の受け入れ、食品等の衛生的取扱い:製造工程から対応策を練る
  9. 回収(製品の回収プログラム):クレームが来た場合の素早い対応
  10. 製品等の試験検査に用いる機械器具の保守点検:計測機器を正確にする
2000年の夏にあった大阪の牛乳大事故を発端として、異物混入事故が集中的にマスコミにとらえられたが、その原因を考えてみると、全てがこの一般的衛生管理に関係していることがわかる。例えば、トマトジュースの中にハエが入っていた事故では、容器にジュースを入れるまでには、フィルターをいくつも通るので、たとえハエが入ったとしても、それがパッケージに入ることはない。どこで混入をしたかの推定では、容器にジュースを入れた後、シール(蓋)をするまでの短いコンベアラインのカバーが外れていたといい、この工程で入ったとされているようだ。この問題は、PPの3番目「施設設備・機械器具の保持点検」に関係してくる。ラインを動かす前に、製造機器やマテリアルハンドリング関係が正常に動くか、間違いなくセットや準備がされているかを確認してからラインを動かす、そして、すべてのメンテナンスを規定通りやっている、ということがこの項目で規定されていることである。また、このパッケージ室の記録には、虫がいたという記録があったということなので、これはPPの4番目の「ペストコントロール」に関係する。さらに、このハエがもし内部発生だとすれば、PPの1番目の「施設設備の衛生管理」にも関係することになる。

別の例で、「調理パンにカビ」の事故では、原材料又は製品の保管不良という原因だったようで、これは、カビの除去や発生防止対策の衛生管理がされなかったことに加え、原材料の搬入から製品に至るまでの衛生管理にも関係してくる、このことから、PPの、1番の「衛生管理」と8番「原材料の受け入れ、食品等の衛生的取扱い」に関係してくる。さらに、カビ対策というのは、湿度との関係がある。湿度43%以下を、3時間以上キープすることでカビの増殖を抑えることが出来るというデータがあり(日経紙による)このための空調システムあるいは除湿方法を行うことならばPPの3番目でコントロールするか、でなければ新たにハード面で設備をするということになる。

このように、マスコミに出てきてしまったこれらの事故を考えると、全てがPPに関係してくる。

効率的効果的なPPを組んでみる

総合衛生管理製造過程のPPをよく見てみると、重複するものがかなりあることに気がつく。まず、1番目の「衛生管理」と3番目の「保持点検」は、要するにサニテーションとメンテナンスということになるが、この対象というのは同じものになる。例えば、ミキサーならば、衛生管理は、サニテーション、洗浄で、メンテナンスは、正確に動くかどうか、作業前に点検をする、と同時に、月に一度などの頻度を決めて、点検をする、ということになる。ナイフならば、洗浄を毎日行ない「衛生管理」、刃の研磨を毎週行なう「メンテナンス」、ということになる。これは、問題があってから対応をすることではなく、問題がないように、頻度を決めて清掃と点検をすることになり、HACCPの基本的考え方である「予防」をすることなのである。ということは、同じ対象に対して、衛生管理と保持点検の2つを行なえばいいことになり、この2つの項目は一緒に行なったほうが効果的でシンプルに出来ることになる。また、「2 衛生教育と「7 個人衛生(従事者の衛生管理)」も統合したほうが良い。

次に、項目間においても重複した部分がある。例えば8番目の「原材料の受け入れ、食品等の衛生的取扱い」の中の「衛生的保管」は、温度管理や床に直接置かない、あるいは床に近い位置に置かない、キャスターに乗せて倉庫に保管する、等という原材料や半製品、製品の扱い方に対しての規定になると同時に、保管したり扱う場所の施設設備の衛生管理が重要になる。この施設設備の衛生管理部分については、1番目の「衛生管理」で扱うことで、シンプルになる。また、「器具類の食品に直接接触する部分の汚染防止」も1番目の「衛生管理」に統合したほうがシンプルになる。

こういったことを整理統合すると、以下のように分類がされる。
  1. 施設設備の衛生管理と維持点検
  2. 製造工程フローチャートと各工程における管理基準の作成
  3. 衛生教育の教材・カリキュラム・教育訓練記録
  4. 従事者の健康管理と指導、個人衛生マニュアルと実施の徹底、ルール造り
  5. 危険物:薬剤(消毒、洗剤、殺虫、殺鼠剤など)、添加物などの扱いと管理
  6. 防虫防鼠専門業者との契約、実施内容記録
  7. 水質検査と定期的測定
  8. 原材料サプライヤーから検収までの管理
  9. 製品のロジスティクス
  10. クレームと回収対策(危機管理体制の構築)
整理し直したPPには、元のPPにはない「製品のロジスティクス」がある。これは、せっかく製造した製品が顧客のところに行くまでの間に、倉庫や運送で問題がでないように対策をとることである。また、「5 危険物:薬剤(消毒、洗剤、殺虫、殺鼠剤など)、添加物などの扱いと管理」は、衛生管理に使う薬剤や洗剤、ペストコントロールに使う殺虫剤や殺鼠剤などが製品に入り込むのを防ぐためで、2001年3月に北陸であった牛乳への殺菌剤混入事故や、2000年に夏に大阪であった、牛乳パックを入れるサンテナー洗浄の消毒剤の臭いが残ってのクレームなどの防止のために必要なものである。

PPを実施するための5項目

PPの10項目を「しっかりやれ」といっても、具体的にどうすれば「しっかり」になるのか分かりにくい。それをはっきりするためにこの5項目がある。

5項目とは、「内容」「頻度」「担当」「確認」「記録」である。厚生労働省に承認申請をするためには、この5項目が無いと、書類段階で指摘される。ミキサーの例で言うと、「内容」は「ミキサーの洗浄」、「頻度」は「毎日作業終了時」あるいはこれに加えて「ミキシングする食材が変わるごと」、「担当」は「ミキシング担当者」、「確認」には2つあり、確認方法と確認者で、確認方法は「目視確認」や「ATP」等で、確認者は「食材を変えたときにはミキシング担当者」で、作業終了時は「副工場長」などとなる。そして「記録」は「毎日の清掃記録チェックリスト」といったことになる。

具体的にPPを構築するためにどのように行なうかというと、まず、作業室ごとに、何が対象になるかをリストアップする。その後、頻度、担当、確認、記録を表に書き入れて決めていく。このリスト表は具体的にまだ現場で実行できるものではなく、この後、チェックリストを作成するための大元になる。

次は、頻度別にまとめる。頻度は5項目の中で最も重要で、これが決まっていなければいつ清掃をしたら良いのか、いつ点検をしたら良いのかがわからない。頻度は一般的には「毎日」「毎週」「毎月」「半年かそれ以上」という形になる。

このようなチェック表を作成するには、エクセルのようなスプレッドシート(表計算)ソフトを使うと良い、最初の大元を作成した後、頻度別に「ソート」して、まとまった頻度群をそのまま別のスプレッドシートにコピーすれば直ぐに出来てしまう。PPやHACCPの構築を行なうにはスプレッドシートとワープロの2つのソフトを使うと、コピーしたり、整理するの非常にやり安い、これにデジタルカメラを使うと、現場での問題点や、マニュアルの作成にも使え、ビジュアルな分かりやすい文書が出来る。

効果的なチェックリストに進化させる

チェックリストを作成するとき「やり過ぎ」は禁物である。例えばゴミを搬出する頻度を1日3回と決めたのは良いが、それを確認するためのチェックリストを専用に作り、毎日1枚ずつの「ゴミ搬出チェックリスト」が出来てしまい、この調子ですべてのチェックリストを作るので、毎日大変な作業になってしまう、というのでは逆効果になる。簡略に、かつ押さえるところは押さえる、という方式に持って行く事が大切である。

そのためには、実施項目の中で、何をチェックするか、何をしないかを決め、試験的に実施してみる。しばらく様子を見たうえで、チェックの必要なものにまとめていく方法がある。また、1日1枚ではなく、一週間で1枚にならないかを検討してみる。ある工場では、PPのチェック項目が約50項目あるのだが、その項目を縦軸に並べ、横軸に月曜から土曜日までの6日間を横軸に並べるようにしている。こうすると、一週間分をまとめることが出来るうえ、温度などの変化を一覧できる。チェックリストは使用しながら「進化」させていくのである。

監査で恒久対策も検討する

チェックリストには、汚れが落ちていないとか、欠陥を発見したなど、メモを自由に入れられるようにしておくと良い。そういったチェックリストが一月分溜まると、工場内での問題点が現れてくる。それを管理者が一月分をまとめてチェックし、工場内に存在する問題点を見抜き、根本的な改善をする指示が出来るようにしておく、これを恒久処置、恒久対策という。特定の機器、例えばミキサーの清掃でしょっちゅう「良く落ちていない」などという問題を発見したら、それを調べてみる。そうすると、ミキサーのパドル(羽根)の元部分の形が複雑で、そこが良く落ちていないことが多いとわかる。どのように清掃しているか見たら、スポンジタワシでやっているので、歯ブラシ型のブラシ(ブラシの毛が抜けないタイプ)を使ってやるようにしたらうまくいった。といったことである。

このために、管理者の監査シートを用意して、毎月監査をすると良い。忙しい中で一月分をチェックするのは大変かもしれないが、チェックリストの中で「○」が付いているものは問題無いので無視して、何らかの問題があったメモがある部分だけを拾い読みするだけで問題点というのは見えてくるものである。複数の管理者が違う目で見ると効果的である。

このように、異物混入対策は、一般的衛生管理を構築し、維持することが基本的なものになる。また、対応するためには、ソフトとハードの両面から行なう。ソフト面は、現場での実行と維持になるが、ハード面は、ソフトの実施がやりやすいように、例えば出入り口のすき間があれば無くしたり、清掃しやすいように修理なりをする。老朽化した機器で異物混入の原因になりそうなものがあったら、オーバーホールするなり、場合によっては新しくするなど、ソフトという実施がやりやすいように設備機器の方でバックアップすることになる。

回収

回収については昨年から今年にかけていくつかのガイドブックが出て来ており(東京商工会議所「企業を危機から守るクライシス・コニュニケーション」など)、回収システムの構築の参考にしたら良いが、回収で重要なことはスピードである。問題があったら、出来るだけ早く、関係する製品がどこにあるのかを特定し、動かさないように押さえる、あるいは既に出荷してしまっている場合には、どこに出荷をしたのかを、米国では「15分」で特定できるようにするという目標がある。特定するまでに何日もかかってしまっていては、イカ原材料のサルモネラ事件などのように、時間がかかっているうちに商品が拡散をし、何週間もの間、散発的に食中毒が起きてしまうという最悪の事態になってしまい、このためのコストや不信感は莫大なものになり、消滅する企業も出てきてしまう。もし短時間で特定することが出来れば、コストも安く、信用もそれほど落とさずにすむことになる。

素早く回収が出来るようにするために良い方法がある、シュミレーションをするのだ。「これは訓練だ」ということで、特定の製品を決め、その製品の所在を特定する訓練を行う。最初は何日もかかるものだが、記録の方法や追跡のシステムを工夫していくことによって、短く出来るようになる。ある大手流通組織では、最初の訓練では数日かかっていたものが、2年間の間に数回のシュミレーションを工夫をしながら続けていくことによって、最終的に30分程度にすることが出来た。机上のどのような回収システムの構築も、実際に起きてみなければどう働くかわからないので、この方法をお勧めする。


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