食品の品質と安全:その考え方と対策

2013/05/19 21:57 に 松本リサ が投稿
品質と安全の違い

毛髪混入は危害か?

HACCPの危害の中で、異物混入があるが、異物によって安全と品質に分けられる。ガラスの破片が入っていたら、ケガをするので「安全性」に関する危害になる。金属も同じだ。異物混入クレームの中で一般的には一番多い毛髪混入は、人体に危害を与えるかというと与えない。では毛髪はHACCPの危害として除外してしまうのかというと考え込んでしまう。
米国では毛髪はHACCPの危害に入れないところが多い、なぜならば危害ではないからである。実際米国の食品工場や大量調理施設で聞いてみると危害に入れていないところが多く、クレームも実はあまり無いと言う。まあ混入はあっても、気にしない、文句を言わないという人が多いというのが実態のようである。
さて、日本ではどうしたらいいかというと、毛髪は危険、危害ではないが、HACCPでの危害に入れるべきである。毛髪は「気持ち悪い」ので「品質」になるのだが、危害という「安全性」に入れる。これによって、最もクレームの多い問題をあえて「危害」として扱い、クレームを無くすことができるようになるのである。
毛髪混入が繰り返されると、販売先からのクレームが次第にきつく、大きくなって行く、更に続くと納入一時停止や取り引き停止になる場合もある。であるから、毛髪混入は人体への危害ではないのだが、納入メーカーを危機に陥れることになってしまう、だから毛髪もあえて危害とすることにするべきなのである。
HACCPを何故行なうかというと、企業を良くするためである、ならば安全性に、大きな問題になる品質も加えて、売れる製品にし、企業を良くすることに結びつければよい。

製品が規定よりも大きかったらどうなるか

百グラムの蒲鉾が5%大きくて105グラムになってしまったらどうなるか。パッケージの問題さえなければ品質上としては問題がない。パッケージに入らなくてすき間が出来てしまうと危害に結びつくが、きちんとパックできるのならば顧客は少し重いから喜ぶことになる、だから品質上は問題がない。工場側としては5%余分に作ることになり、この分損をするから、せいぜい2%以内に収まるように気をつけることになる。
ところが、安全性も問題がないかというとそうではない。もし大きくなった分が太くなったら、中心までの距離が少し長くなる、このとき加熱調理で、規定通りの場合なら加熱最低レベルでも中心まで殺菌できる場合でも、太い場合には中心まで完全に殺菌できなくて、食中毒菌が万が一の場合だが生残する可能性が出てくる。「マーフィーの法則」というのがあり、悪いときには悪いことが重なり、どうしようもない状態になってしまうという法則である。この場合、5%大きくなってしまった製品を加熱するときに限って加熱温度が低かった、ということになってしまう。わずかに残った食中毒菌が、流通段階や消費者段階での管理が悪くて増殖してしまい、更に運悪く体調不十分の人が生で食べて食中毒になってしまう、ということになる可能性が出てしまうのである。
5%大きくなったら、品質は大丈夫でも、安全性に問題が出てしまうのである。

温度の限界は、安全限界と品質限界がある

一般的な調理食品の加熱温度は、75℃以上にすることによって食中毒菌を殺すことが出来る。75℃が安全限界になる。それでは75℃以上どこまでにすればよいかだが、安全性のためにはこれ以上ならば何度まででも安全である。90℃になっても安全である、しかし、オーバークッキングで、硬くなり、ジューシーでなくなり、美味しくない。重量で単価を決めているのならば軽くなるので、歩留まりとしても悪くなる、不味ければ売れない、しかし安全ではある。更に温度が上がり、焦げてしまえば誰も食べないから、絶対に売れない、無理しても食べれないから、絶対安全である。しかしこうなれば工場がつぶれてしまうことになる。
売れる製品にするためには美味しくなければならない、そのためには出来るだけ75℃に近く、これよりも少し高い温度で止めればよい、そのために、その製造システムで常に安定して出来る範囲を見付けて、その最高温度を上限にすればよい。例えば上限が85℃といった温度になる、この温度は品質限界になる。安全性をクリアしたうえで、出来るだけ美味しくなる限界になる。75℃は安全限界、85℃は品質限界になる。この範囲で製造をすることで、安全性も品質(美味しさ)も、重量(歩留まり)もコントロールすることになる。
この75〜85℃をHACCPのCCPの管理規準にすれば、HACCPの本来の目的とする安全性と、売れて儲かるための品質の、両方を一緒に管理できることになる。企業にとってよいことこの上ない。安全と品質は同時に追及できるのである。

ISO9000sと、HACCPの違い

百グラムの蒲鉾が105グラムになった場合でわかるように、場合によっては安全性と品質が相反することになる。どちらを優先かといえば当然安全性になる、「不味い」と文句を言われるならまだしも、食中毒を出してしまったら終わりだからだ。このことから、HACCPの規準をそのままISOに入れても良いが、その反対は問題になってしまうものもある。
この原則を考えると、食品企業がもしISO9000sとHACCPをどちらを先に行うかを考える場合、安全性(HACCP)をまず行ない、それをそのままISOに流用すると良いことになる。反対にISOの規準をHACCPに流用する場合、問題がないかどうか十分に吟味する必要がある。ある食肉と畜場で、最初にHACCPを行なった後、ISO9000sの取得に入ったため、HACCPで作成した文書の多くを流用することが出来て、ISOの取得が素早く出来たところがあった。
ISO9000sだけではなく、ISO14001でも同じことが言える。例えばゴミ処理の場合、HACCPではゴミは出来るだけ早く工場の外に持ち出し、異物混入の原因にならないようにする。一方ISO14000で、ゴミを分類して、リユース、あるいはリサイクルに回す作業をすることは、工場内に廃棄物を長く置いておくことになり、異物混入の原因になったり、生ゴミならば虫の侵入増加や、細菌増殖の原因になることも出て来る。だからといって一緒に出来ないと言っているのではない、両方を満足させることは構築の手法で出来る。

ウニの加工で安全性と品質を同時にできた例

米国では魚介類がHACCP規制になってだいぶ経つが、最初の頃、工場側は教育の人的な負担で嫌がっていた。金銭的な負担は、三日間のセミナーが200ドルぐらいなので、それほどでもなかったが、小さな加工工場では作業者が一時的に出てしまうので生産に影響が出るのを嫌がっていたようだ。それにも増して正直に言えば面倒くさくなるということを嫌がった、ここら辺はどこの国も同じのようだ。
その後、HACCPを運営し初めてどうなってきたかというと、結論から言えば「品質が上がり、良くなった」「売れるようになった」という結果になってきている。安全性を追及するHACCPを行なうことによって品質、クオリティが上がり、売れるようになったのである。
どうしてかというと、魚介類のHACCPを行なう場合、缶詰め、レトルト、スモークなどの加熱製品は別として、多くの魚介類は加熱工程が無い。ウニも同じで、生ウニを取り出してパックをし、チルドで出荷するだけなのである。
米国ボストンからカナダに向って2時間ほど走るとポートランドに着く、ここに日本向けにウニを加工している工場がある。ウニの加工というのは、漁船で獲ったウニを工場に運び(ここの場合はカナダの漁船からの原材料がほとんど)、冷蔵庫で一時保管をし、作業者の準備ができたら殻を割って中の身を取り出し、かなり付いている内蔵などのゴミを冷水で水洗いし、きれいになったらそれを別のきれいな冷水で更に冷やし込み、十分に冷えて肉が締まってから、ミョウバンをその時のウニの状態の濃度でつけ込み、水切りをし、トレイパックをする。これを冷蔵庫で冷やし、出荷の時間が来たら保冷材を入れた発泡スチロールボックスでニューヨークのケネディ空港にトラックで運び、日本に空輸する、ということになる。
HACCPを行なう際、国と州の監視者が最もうるさいのは、冷蔵庫の温度、作業室の温度、そしてウニの水洗いや冷やし込みに使う水の温度である。HACCPを導入するときに研修で学んだ総括表を作成するのだが、このときに重要なのは、どこに最大の注意をはらうのかを絞り込むことである。これはHACCPのCCPになるのだが、ウニの製造工程では加熱工程もないし、このポートランドの会社には金属探知機もないので、CCPは無いことになる。
HACCPを行なっていてCCPが無いのがあるかと疑問に思うかもしれないが、加熱工程が無くてCCPが無い食品はいくらでもある、生の魚介類だけでなく、野菜、フルーツ、生ジュースなど。では何のためにHACCPを構築するのかといえば、その製造工程の中でも最も大切なところはどこかを特定し、そこに絞り込んで安全策をとるのである。そして、CCPでないこの大切なところはPPで管理することになる。
PPは一般的衛生管理であるが、一般的衛生管理には2つあると考えればよい、手洗いやサニテーションといった一般的なものと、CCPにはならないがそれに匹敵をする重要な工程の管理である。ウニ加工の場合、温度が加工工程で上がってしまうと鮮度が落ち、これによって品質(美味しさ)が落ちることになるのだが、品質が更に落ちて行くと今度は腐敗に向っていくことになり、こうなると安全性の問題になる。
魚介類のHACCPの監査でうるさい温度は、毎日数回の頻度、例えば、作業開始時、午前10時、午後1時、午後3時、午後5時、といった形で頻度を決めて温度測定をし、チェックシートに記録をするようになっている。監視者は半年に2回ほど来るのだが、連絡をせずにいきなり工場に来るために、工場側としては常にチェックをしておかなくてはならない。温度規準は決まっていて、冷蔵庫は0〜2℃、作業室の温度は10℃以下、加工用冷水の温度は5℃以下(実際には華氏で決めてあるので、多少の誤差がある)で、この規準に合わせたうえに、日に数度の測定をし、記録をするわけである。
HACCPを初めて最初の頃は規準を守り、更に記録をとるということが面倒くさかったそうだが、これをはじめてからの変化は、品質が非常に良くなったことである。HACCPをはじめるまでは、記録をとっていなかったので数字的にはわからないが、室温や水温の温度が高く、ウニがだれてしまい、味が落ちてしまうことが多かったそうだ。しかしHACCPをはじめてからは温度が低温で安定しているために、ウニがしっかりと締まり、高品質になったのである。
温度というのは空調機や冷水機をきちんと動かせばそれで良い、そして正しくなっているかどうかを確認するために記録をとる。これだけで品質が良くなるので、当然安全性が高くなる、「こんな簡単なことで良くなることがわかった」という実施後の感想である。作業では冷水に浸けておく時間も決められており、例えばウニを水洗いしてあと冷水に浸ける時間は「15分」となっている、温度と時間で管理されているのである。

魚の干物の例

日本のある魚の開き加工工場で製造していた製品が、あるときの抜き打ち検査で一般生菌が異常に多かったために、原因がわかるまで出荷停止にされた。調べてみるとここで製造された製品の一般生菌数は、製造した日によってかなりバラつきがあることがわかった。そこでその原因を追跡したところ、解凍の方法、作業室の温度、つけ込む液の温度、つけ込む時間、といったものがかなりバラバラなことが判明した。
その原因はパート主体での作業で、標準作業手順が全く決まっておらず、そのパートは頻繁に入れ替わるので、安定した製造が出来ていなかったのである。おまけに夏は温度が上がるので、品質が落ちる傾向になっていて、それがひどくなったときに一般生菌が異常に増え、安全性にまで影響していたのである。
この対策として、温度と時間管理を行なった。解凍での品温、その後の水洗いの品温、塩水漬けの塩分・時間・水温、乾燥での温度と時間、冷却での温度と時間、製品パッケージでの温度、配送車の運転者名と車内温度、最後に納品時の品温確認。という一連の製造工程での管理規準を決め、チェックリストを作成して、正しく規準を達成していて初めて次の工程に進むようにルールづけをした。
同時に各工程での標準作業手順書を作成して、新しく採用されたパートの教育方法も決め、常に安定した作業が出来るようにした。従業員に対しては、手洗いや清掃といった一般的衛生管理を徹底させ、異物混入対策にもつながっていった。この手法はHACCPなのである。この改善でどうなったかというと、品質が良く安定し、美味しくなり、当然のごとく安全性は飛躍的に高まった。一般生菌の検査をしても低レベルの数値で安定しており、安全性が確認された。そしてしばらくしたら納品量が増えていったのである。

HACCPは安全性を追及するものだが、同時に品質も良くすることが出来る。そして商品力が向上し、企業を成長させるのである。
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