焼き肉レストランでのHACCP

2013/05/09 18:27 に 松本リサ が投稿   [ 2013/05/09 18:27 に更新しました ]

衛生管理は顧客を集める

焼き肉レストランの経営をする際に、なぜ衛生状態に気をつけなければならないか、なぜきれいにしなければいけないか、理由は2つある。
  1. 衛生状態が良いということは、食材に品質劣化、食肉や野菜の鮮度が落ちるスピードがかなり遅くなる。逆に衛生状態が悪いと鮮度はあっという間に落ちて腐敗へのスピードが早くなる。そうすると肉や野菜が美味しくなくなり、美味しくなくなれば顧客は来なくなってしまう。
  2. 「きれいなお店」に顧客が集まる時代だからである。美味しい焼き肉を提供でき、集客が出来ること、そのキーワードが衛生管理であり、きれいな店、キッチン、という事なのである。
このために、何をすればいいかというと、整理、整頓、清掃、清潔、そして従業員の躾(しつけ)で、これを「5S」といっている。これらは昔からいわれていたことだが、単に口でこれらを言うことから、もう少し具体的にどういった方法でやればいいかがわかり、効果を上げるために出て来た「方法」が「一般的衛生管理」と「HACCP」なのである。


HACCPは最初食肉からスタートをした

HACCPは宇宙食の製造から出て来たのだが、その後一般の食品に最初に応用になったのは食肉である。なぜ食肉かというと、米国で20年程前、食中毒の8割程度がサルモネラが原因で、サルモネラの出現元は食肉だったからである。食肉の衛生管理をしっかりやれば、食中毒は減ることになるからである。

HACCPは、宇宙食製造の前に、ロケットの製造から出て来た。アポロ13号やスペースシャトル「チャレンジャー」の事故でわかるように、宇宙船の一つの部品やシステムの異常が大事故の原因になる。そこでNASAでは、ロケットの部品のメーカーに対して、製造記録を詳細に付けることを要求した。例えば積み込む機器の一つを製造する場合、その原材料が工場に入ったときに、その性能、材質、規格などが大丈夫かどうか調べ、合格ならばその記録をとってから工場に入れる。次に例えばプラスチックを型にいれて整形するのならば、出来上がった成型品の形、強度、厚さなどが規格通りになっているかを調べ、合格ならば記録をとって、その次に工程に進める。このような手法で、製造途中での検査とその記録をとっていけば、最終的に製品になったときには、途中「チェックポイント」をいくつも通っているのだから、かなり正確な製品になっていることになる。それまでただ製造をして、最終的に製品になってからチェックをするよりも飛躍的に安心だ。

HACCPは「関所」を通す方法

この方法が出来上がってから、今度は人間が宇宙に行くようになったので、持っていく食品を安全にするためにどうしたら良いかを考えたところ、ロケット部品を同じ方法で製造すればいいということになった。例えばハンバーグを作る場合、製造する工場に原材料が運ばれてきたら、その原料肉の温度を測る。温度が規定よりも高い場合、チルドならば0-1℃が理想だが、5℃以上もあったら、鮮度が落ち、バクテリアが繁殖をしてしまっていることになる。

これに合格したらいったん冷蔵庫に入れることになるが、その冷蔵庫の温度は正確かどうか、定期的に調べる。次に原料肉を冷蔵庫から出して、チョッパーでひき肉にするが、チョッパーがきれいに洗われているかを確認して原料肉を入れる。原料肉を入れるときの温度は0-2℃程度として、チョッパーから出て来たひき肉の温度はチョッパー内での摩擦熱で温度がある程度上がる、温度が上がりすぎているとバクテリアの増殖スピードが早くなるので危害の問題が出てくる。これがもし上がりすぎていたら、チョッパーの刃が切れないとか、機械に問題があるなどになる。そこでチョッパーから出て来たひき肉の温度を測る。これが規定通りだったらその次の工程に進めていく。という方法で製造していくのである。いわば関所システムである。

一般的衛生管理とHACCPで行なう

さて、このような形で関所を通過していくのだが、しかし、あまりにも厳密にやろうとしてしまったら、食品の製造がやりにくくてしょうがなくなる。チェックするところが多すぎて仕事にならなくなってしまう。例えばハンバーグを焼いた後、冷凍してパッケージをする場合、焼き上げた後、中心温度を計る。75℃になっていれば食中毒菌は死滅するのでこの温度になっているかどうかを確認するのだ。しかし、焼いたハンバーグ全部を計ってしまったら製品は一つも出来ない。一度計測をしたハンバーグは温度測定の穴が出来てしまい、製品にならないからである。それならば何個に一個、あるいは製造時間の何分に一度計ったら良いのかをどのように決めたら良いかになる。

製造の始めに計って大丈夫だったので、次は午前中の製造が終わるころに計ってみたところ、65℃だった、もしこうなったら、最初に計った後、どの時点からダメになったのか不明なので、結局午前中製造した製品が全部ダメになってしまう。このようなことにならないように、それならばウチの工場では15分置きにしてみよう、という事になる。

厳密にやりすぎるともう一つ問題がある。チェックするところが多すぎてしまうことである。チェックの場所をちょっと考えてみると、原材料の入荷時点、原材料庫の温度、この衛生状態、チョッパーの衛生状態、チョッパーの機能状態、チョッパーから出て来たひき肉の温度、ひき肉を受けるためのバットの衛生状態、ひき肉を整形する機械の衛生状態と機能状態、整形後の衛生状態、加熱機械の衛生と機能状態、加熱後の温度測定、冷却場所の温度と規定の温度までの冷却スピードの確認、パッケージ機械の衛生状態の機能確認、パッケージ後の安全性確認、出荷倉庫の温度確認、といったかなりのチェックが必要になる。これらを全て記録用紙を用意して厳密に記録をとることなど実際上不可能になる。

そこでこれら一連のことを2つに分ける。

  1. 一般的衛生管理
  2. HACCP

一般的衛生管理は「頻度」が大切

一般的衛生管理は、焼き肉レストランでいうと、キッチンと従業員の衛生管理である。きれいなキッチンにする、従業員の衛生や健康状態を良くすることになる。HACCPは焼き肉メニューの加工過程で、どの部分に最も注意したら良いかを決め、そこの管理をしっかりと行なうことになる。

一般的衛生管理は、手を洗う、掃除をする、冷蔵庫の温度を管理するといった、ごく一般的なことで、今まで常識的に行なってきた衛生管理を、少しきちんと決めることで、これで行なうものはかなり数が多くなる。少しきちんとというのは何かというと、一つは「頻度」を決めることである。例えば床掃除は毎日行なっていたのだが、冷蔵庫や棚の下の奥までの床下大掃除は「ほんの時々、年に一度ぐらいかなあ」という状況が殆どだと思うが、これを、床掃除は「毎日、閉店後」にし、大掃除は「毎月15日」というように決め、実行したことを確認するためにノートなどに「記録」を付けることである。これだけのことを決めて実行するだけで飛躍的に衛生状態が良くなる。

HACCPは「関所(CCP)」を決めて守ること

HACCPは、焼き肉を提供する工程の中で、特に重要なところを決めて、そこを集中して管理をする。例えば、最も衛生管理に気をつけなければならない「ユッケ」では、原材料の保管場所と、これをカットする場所や道具である。これらを「加熱」する焼き肉材料と離す、別にすることである。具体的には、ユッケの原材料の置き場所を別にする、あるいは専用のバットに入れてラップでしっかりと蓋をする。これが一ヶ所。もう一つは、カットをするナイフとまな板を専用のものにする、これが2ヶ所目で、この2ヶ所の決まりを絶対に守るということになる。この部分がHACCPの「関所」で「CCP」という。HACCPの「CCP」は多すぎては出来なくなってしまうので、「5ヶ所以内」とされている。しかし、フードサービスの場合は、メニューの数が多いために、5ヶ所でも多すぎる。そこで、1ヶ所か、多くても2ヶ所に絞り込んだほうがいい。

多くの「一般的衛生管理」と、1-2個所の「CCP」で

という事で、焼き肉レストランでは、数多くの「一般的衛生管理」と、1-2個所の「CCP」にしたHACCPで行なうことになる。この2つをどのように区別して管理をするかであるが、一般的衛生管理は、簡単なチェックリストを作って、忘れないようにしたり、ごみ箱のゴミを捨てたかの確認程度は、目で見て大丈夫ならわざわざ記録をしなくてもいい、といった形にする。これに対してCCPは温度数値や、やるべきことを明確にしておき(例えば生食の調理場所)、守られているかどうかを頻度を決めて(例えば、11.16.21時)、明確に確認をした記録をとるようにする。

安全性(食中毒にならない)と品質(美味しさ)を一緒に追及するもの

ところで、HACCPは本来は「安全」を追及するものである。しかし、「美味しさ」は「品質」になる。では、安全性だけを追及していけば、食中毒などの危険はなくなる方向になるのだが、ジューシーさやフレッシュさを追及することは、安全上は実は関係ないことが多い。肉を焼きすぎると、硬く、ジューシーでなくなり、美味しくなくなる。しかし、安全である。これで商売ができるかというと、顧客が来なくなれば出来なくなる。ではどうするかというと、安全な温度まで焼き、しかも焼きすぎないようにする、つまり安全と品質を同時に追及することになる。HACCPを行なうことで安全を追及し、同時に品質も一緒に行なうことで経営を良くするのである。

焼き肉レストランでどう

では、焼き肉レストランでどうやっていったら良いのかを解説していく。HACCPというのは今まで常識的に行なってきたことを少し発展させて、具体的、科学的に効果が上がるようにすることであるから、解説の方法として、今まで行なってきたことと、それをどうしていったら良いのかを見てみる。
まず、一般的な工程から見ていってみる。

受け入れでは、温度測定

最初は、原材料の受け入れになる。今まで行なってきたことは、目で見て、色、形、触感、数量、重量などで、その肉が大丈夫かどうかをチェックしてきたことだろう。これらのチェックの目は経験的なことで、官能的な面も多い。これらのチェック方法はそのままこれからも活かしていく。HACCPを行なうというと、「カン」「経験から」ではなくて「数値」「データ」でなければならないのでは?と考えてしまう人がいるが、そうではない。経験や官能というのは人間の素晴らしい感覚で、これを活かさない手はない、これからもこの目を大事にしていけばいい。

ここで考えられる危害は、鮮度劣化、腐敗、雑菌の付着した原材料などの原材料が入ってくる事になる。対策は、目視と、温度計測がある。食材の受け入れ、特に中心となる食肉原材料は、チルドと冷凍の2つの形で入ってくる。

HACCPはこれに温度測定を入れる。配送車が店に到着したとき、それまでの配送での温度が甘かったり、途中何度も配送車の扉を開けていることなどから、肉の温度が上がってしまっていることがある。肉の温度が上がってしまったら、もう一度店舗の冷蔵庫で良く冷やしたところで肉の鮮度はもう元には戻らない。

チルド肉では測定するサンプルのブロック肉を選ぶ。選ぶのは温度の影響が顕著な、小さめのブロック肉がいい。この肉に温度計を挿し込み、肉の中心部分の温度を測る。もしこの温度が5℃以上にもなっていたら、その肉の表面はもっと温度が高いはずで、ここまで温度が上がってしまったらかなり鮮度は落ちている。

こういう肉を仕入れた場合、その日の分ぐらいは良いかもしれないが、翌日、さらにその翌日などとなってきたらどうかるか、鮮度が落ちても焼いてしまえば問題無いと考える人もいるかも知れないが、美味しくない、美味しくなければ顧客は来なくなる。肉ばかりではなく、野菜でも同じで、フレッシュでない、干からびかかったサンチュを出したら顧客は来なくなる。冷凍品の温度測定は、2つのブロックで温度計のセンサーをはさんで計測をする。

サンチュでいうと、鮮度が良く、みずみずしい状態(水分、湿度)で、なおかつ適正な温度(例えば10℃)で入荷していることが「入り口」で大事なのである。

入荷時の温度のルールを作る

では、明日から直ぐに温度を測定して、温度がダメだったら直ぐに返品、ということをしてしまったら喧嘩やいじめになってしまう。どうするかというと、まず1週間程度毎日温度を測ってみる。普通の状態ならば0-3℃程度になっているだろうから、これからは「5℃以上になっていたら返品する」という約束をお互いにすることが出来る。もしこのときに温度がいつも高すぎる場合は、店に入るまでに既に欠陥があることになる。配送車の温度管理が悪いのか、その前に原材料を提供するサプライヤーの冷蔵庫などの保管状態が悪いことになる。もしそうならば直ぐに原因を調べ、直してもらわなければならない。直らない場合、そんな状態の原材料を入れることは出来ないから、サプライヤーを変えることを考える必要がある。いずれにしろ、それまでが良い状態ならばその状態を維持できることになるし、悪いことが見つかったら、良くなることになる。こういったことがサプライヤーの選定のポイントになる。

この温度測定は普通一般的衛生管理で行なう。しかし、ユッケの原材料についてとくに重要視し、これだけは毎回温度測定をするCCPにしてもいい。この場合、肉に挿し込む温度センサーは射し込む前に必ずアルコールで拭くなどをして消毒をすることが必要である、でないと生食原材料の肉の中にバクテリアを射し込むことになってしまうからである。

これから食材の仕入れを考えるとき、HACCPを理解しているかどうかを一つの基準にしてもいい、HACCPは良い食材を扱うために必要なことで、食品衛生の「シンボル」になっていく。

原材料の保管

保管での今まで行なってきたことは、原材料がどこにあるかわかるように、保管場所の整理整頓だったと思う。HACCPで考えられる危害は、温度不良による鮮度劣化と、交差汚染だ。交差汚染とは、サラダ野菜と肉がくっついてしまうことだ。

保管のポイントは基本的には2つある。1つは冷蔵庫の温度管理で、冷蔵庫は0-3℃に維持する。もう1つは、生食材料と加熱材料の分離保管だ。両方とも一般的衛生管理で行なう。

サラダ材料や、デザートのフルーツ、あるいはユッケやセンマイ刺し原材料を別にして保管する。生食の青果類と、肉類も明確に分ける。つまり、生食の青果類、生食の肉類、そしてその他の肉類などの3つである。

プレハブ冷蔵庫の中に入ったら、左右に2つの棚があれば、例えば右側に肉、左側に生食類といわければいい。さらにもしその冷蔵庫が狭くて棚が一つしか無い場合は、一番上に青果類を置く。下に青果類をもし置いて、上に置いてあった肉のドリップが落ちてしまったら、サラダ野菜が肉に付着していたバクテリアに汚染されてしまうことになる。そして、基本的なことだが、冷蔵庫内の整理整頓と定期的な清掃を一般的衛生管理で行なう。整理整頓、先入れ先出しの確認、原材料の日付管理は毎日チェックを行なう。これに加えて冷蔵庫の大掃除は「毎月」という形で決めていく。

生食類の保管をCCPにするというと、HACCPの専門家は疑問視するかもしれない。というのは、明確に危険を押さえることが出来るところがCCPなのだが、保管場所は明確にはならない、という理由だろう。しかし、飲食店の場合、たとえ普通の状況ならば一般的衛生管理だったとしても、そのメニューで特に重要な部分をあえてCCPにしても構わない、なぜならば、その店で、それがとても重要だから、しっかり管理をしようと決めたいものならば、効果は明確にあるからである。

調理、カッティング、スライス

調理で今まで行なってきたことは、多くのオーダーを如何に早く捌くか、間違えないか、計量などだろう。HACCPで想定される危害は、細菌汚染、交差汚染、従業員からの汚染などがある。

焼き肉レストランの場合は、一般的なレストランとは異なり、顧客が加熱調理をする。店側はその食材を、焼きやすく食べやすい大きさや厚さにカットして、タレなどの味を加えて提供する。主力の焼き肉はこの形なので、カットをする場所には、ナイフ、まな板、スライサーなどのカッティング機器が集中することになる。この場所は1ヶ所に集中させる。そして、生食を調理する場所は別に独立させることが大事だ。

もう一つのメニューカテゴリーは、ご飯物や麺類である。これは熱を加えるのと、ソースやスープ、野菜など、一般的なレストランの加熱調理と同じになるので、これも別にする。という事で、調理場は、「生食」「焼き肉のカッティング」「加熱調理」の3ヶ所に分けることになる。現在の店のレイアウトを見てみて、こうなっているかを調べたらいい。もしレイアウトが混乱しているようならば、なるべく正常にできるレイアウトを考えてみる。基本は、現在の施設設備、調理器具、テーブル類をそのまま使って、うまく変えられるかどうかを工夫してみる。

「モノ」ではなく「方法」

HACCPと一般的衛生管理は、「モノ」ではなく「方法」なので、基本的には設備投資などの費用をかけないで、工夫、アイデアで行なう。施設設備上の問題があっても、運営でカバーすることをまず考えればいい。これは一般的衛生管理で行なう。生食部分だけを特にCCPとしてもいい。

問題点がいくつか見つかって、改善しようとしても、全部が一度に解決できるなどということは普通はまれである。そこで優先順位だが、最優先は生食メニューの調理を離すなり独立させ、生食メニューを安全にすることである。これを決めたうえで、その他の問題点を考えて行くといい。

盛りつけ

今まで行なってきたことは、調理する場所に近いところに盛りつけ用の皿、レタスなどの盛りつけ野菜、タレ類を置き、盛りつけ作業を効率良くすることだったと思う。HACCPで想定される危害は、細菌汚染、交差汚染、異物の混入などになる。異物混入には2つあり、金属などの怪我につながるものと、髪の毛や虫などの不快になるものがある。危害だけを考えれば金属やガラスが入らないように気をつけることになるが、髪の毛や虫の混入クレームが一番多いのだから、これも一緒に無くすことを考える。そのために、ヘアネットや帽子をかぶる、ポケットにモノを入れない。ポケットに入れたものが落ちてしまう可能性があるからである。設備的には盛りつける場所の照明を明るくすると、異物を発見しやすく出来る、キッチン全体を明るく出来ない場合はスポット照明を付けてあげるといい。生食部分を別にしてあれば交差汚染の心配はかなり無くなってくる。

提供

顧客のテーブルに持っていくときに今まで行なってきたことは、明るい接客サービス、メニューの解説、間違えない、といったことだったと思う。HACCPで考えられるのは、この過程での異物混入、メニューの「焼く」のか「生」なのかの正確な説明、顧客のテーブルでの交差汚染、などがある。ホールサービスの人の髪の毛やポケットに気をつけなければならない。「焼く」メニューなのに生で食べてしまう場合もあるし、殆ど生の状態で食べてしまう人もいるだろう。ロースやカルビなど一般的な牛肉の焼き肉ならば表面さえ焼けていれば問題無いが、ホルモンなどでは問題になる。このことを提供の時に説明をすることになる。

錠剤の薬の話なのだが、10個が一つのシートになった普通の錠剤が、昔はシートを折れば一つづつに別れて、持ち歩きに便利だったのが、最近は分割できないようになってきている。なぜかというと、シートから中の錠剤を押し出さないで、シートのまま飲み込んでしまう人が最近出て来たからだそうだ。シートに入ったままだと当然薬は出てこないばかりでなく、シートの角で食道などを怪我してしまうことがあり、それで全部分割できないようになった。殆どのわかっている人には不便になってしまったのだが、わからない人が出て来ているのが現状なのである。こんなことから、生で食べるのか、加熱するのかを説明しなければならない事態になってきたのである。

顧客がテーブルで焼き始めると、生肉をつかんだのと同じ箸で食べているのが普通なのだが、これだと生肉に付着していた細菌が箸に付き、それを今度は口に直接運ぶことになってしまう。これを無くすにはトングや取り箸を付けるといい。

O-157について

食肉での食中毒では、O-157とサルモネラが主なものである。O-157についてだが、これは昔はいなかったのだが、1982年に米国で発見された。このO-157は、家畜の牛に多いのだが、牛の大腸の中にいて、牛のはなんの危害も及ぼさない。牛をと畜するとき、大腸の中身が外に出ないようにして作業を行うが、体毛に付いていたり、何らかの交差汚染で、牛肉に付着してしまうことは出て来る。この肉がパックされて例えば焼き肉レストランまで行ってしまうことは十部にあり得ることだし、実際にあることである。

O-157は82年に見つかった初期の頃は、肉から離してしまえば数時間で死んでしまう菌だったが、その後次第に強力になり、最近のO-157は水分さえあれば何週間も生きていて、保管状態が悪ければどんどん増殖をしていく。さらに抗生物質も効かなくない種類も出て来ているので大変なのである。また、サルモネラや腸炎ビブリオなどの殆どの食中毒菌は、かなり増殖をして数が増えないと人間に危害をもたらさないのだが、O-157は数十個で、つまり増殖をまだしていない状態でも人間に危害を与えるのである。

O-157と焼き肉の切り身との関係

さて、ブロックの牛肉でO-157が付着している場合、どこかというと、当然肉の表面である。肉の中には入り込まない。であるから、ステーキやローストビーフで「レアー」でも、問題無いのだ。焼き肉ではロースやカルビの切り身にすると、最初のブロック肉を切ったナイフに表面にいたO-157が付着をして、そのナイフで切り身にすると、切り身の切断面にO-157が付着することになる。しかし表面を焼いてから食べるので問題は出ない。中が生の状態でも表面を加熱消毒することになるので大丈夫なのだ。

ところが、ユッケなどの生食メニューでは、表面にもしO-157が付着していたら問題になる。ホルモンや小袋、ミノなど、複雑な形で皺や襞のすき間に細菌が入っている場合、半生で食べるとその細菌が残っていることもある。レバーの生食メニューは、内臓肉でさらに加熱しないのだから、O-157が表面に付着していることはあり得るのだ。だから生食のメニューは特別に分離して保管と作業をする必要があるのである。

牛肉は表面さえ焼けば中は生で良いが、豚肉や鶏肉はなぜだめだと言われているかというと、寄生虫の問題があるからである。なぜ豚肉と鶏肉は寄生虫の問題があって、牛肉は無いかの話だが、生物学的には著者は専門家ではないからわからないが、雑食と草食の違い、といわれている。雑食(豚、鶏)だと寄生虫の問題になり、草食ならば大丈夫ということのようだ。馬肉やラムも生食で問題はない、草食動物だからだ。

キッチンでの注意

焼き肉提供までの作業工程でのポイントを述べてきたが、キッチンの使い方での一般的衛生管理の注意事項がいくつかある。

1. 床に直接食材を置かない。
肉を直接床に置く人はまずいないだろうが、サンテナーに入れた肉を直接床に置いてしまっているのは時々見かける。床というのは汚染されているので、たとえバットに入れた食材でも床に直接置いてはいけない。バットを直接床に置いても、中のは食材はその場では床からの汚染はないように見えるが、床からのはね水や、上から細菌や汚物の落下、埃の落下、カッティングテーブルからのごみの落下など、低い位置にあるだけで汚染されることになる。さらに、このバットを移動して、他のバットの上に置くと、それを置いた下のバットの中にある食材は完全に汚染されることになる。

ではどうしたら良いか。まず、最低レベルはキャスターの上に乗せることである。キャスターを使えば冷蔵庫無いまでフラットなキッチンの構造だったら、そのまま冷蔵庫に入れることも出来るし、移動に力も要らない。

次はカッティングテーブルなどの下の棚板の上に乗せる。この部分だが、一般的にキッチンは狭いので、効率良く使おうとして床ぎりぎりの位置に棚板があることが多いのだが、これだと棚板の下の床の掃除が出来なくなってしまう。結構広い面積になるのでここの掃除が出来ないと汚れが蓄積されることになり、ここに細菌のコロニーが出来てしまう。

流しの下など水分が多い手に届きにくい奥の部分をたまに大掃除をすると、隅がぬるぬるになっている所が見つかるが、あれは汚れ、タンパク質、そして細菌の塊なのである。これを放置しておくとそこからキッチン全体が汚染されていってしまう。そこで、もしこの棚板を動かせる耕造になっているのならば、床から20センチぐらいまで上げる。こうすればブラシや水切りワイパーが入るので、掃除が簡単になる。ここにモノを置く場合でも床から少し離れるのでだいぶ安全になる。

このことは冷蔵庫内でも同じで、床を掃除できる高さに置き場所を設定する。棚を入れている場合は一番下を20センチほど開ける。でなければさらに上げてしまい、キャスターに食材などを乗せてから、そのキャスターごと差し入れればいい。こうすればキャスターをどければ直ぐに掃除が出来る。このような使い方にすると移動が楽なので、整理整頓を手軽にできる。

2. 清掃の方法と頻度を決める
清掃の基本は「上から下へ」
ただ闇雲に水をかけ、ブラシで洗うのでは効率が悪いことが多い。清掃の基本は「上から下へ」である。キッチンの上にあるものから清掃をしていく。調理機器、作業台の上にあるものを最初に清掃する。そうすると作業台レベルにそれまで清掃してきた汚れや汚水が落ちてくるから、次に作業台レベルを行なう。まな板、ナイフ、作業台の上に置いてあるバット類などである。

作業台まで清掃すると、それまでの流し水が作業台の下に落ちていくから、作業台レベルの下の棚板部分と、壁の清掃にかかる。壁の清掃というのは、腰位置、あるいは厚生省のガイドラインでは「1メートル以下」は「毎日」洗浄しなければならない。この場合、一般的には壁の方から先に進める。というのは排水溝は普通のキッチンでは中央部にあることが多いからである。

「上から下へ」の原則は、床レベルまでなったときは「水の流れの上流から下流(排水溝)に向かって」行なう。壁側から行い、その後排水溝に向かって清掃をし、流して行けば2重に清掃をすることにならない。こういった方法にすると、掃除をする時間が短くなり、よりきれいに出来、水や洗剤の使用量も少なくなる。コストダウンと効率アップが同時にできるのだ。

最後に排水溝内を掃除し、ストラップに溜ったゴミを捨ててそこも掃除をする。排水溝の上に蓋がしてあるが、これを忘れないようにする。蓋の裏側を見るとかなり汚れているはずなので、排水溝の中に向かって掃除をする。この後蓋を元に戻さないで、溝に立て掛けて帰る方法もある。乾燥しやすくなるので効果的だ、翌日蓋を戻してから作業にかかることになる。この排水溝は時々やっているところが結構多いのだが、毎日やることが基本だ。

清掃の仕上げは水切りと乾燥になる。細菌は水分があると増殖するので、水切りワイパーを使う。排水溝から一番離れた壁側から水切りをしていき、最終の水分を排水溝に落とす。

乾燥
乾燥は、換気扇、除湿器、扇風機を使って強制的に乾燥させる。人が付いている必要は無く、スイッチを入れて帰ればいい。ずっと付けているのが不安ならばタイマーをセットすればいい。扇風機だが、建設工事などで塗料を乾かすのに使っている業務用のを用意すればいい。そんなのどこに売っているかとなるが、電気工事用具店などで売っている。例えば東京ならば秋葉原の駅を降りて、中央通りに出て、御徒町に向かって行くと電気街の外れになっていくが、その右側辺りに雑貨や旅行カバンなどを売っているディスカウントストアが数件あり、先日除いたら、三脚付きの小型のものが10,800円、キャスター付きの中型のものが13,800円で売っていた。

頻度について
頻度を決めることは一般的衛生管理を行なうために重要なことである。いまこの原稿を書いている最中に、8千人もの食中毒事故を起こした雪印大阪工場の報道が飛び交っているが、原因はバルブの清掃だったということである。このバルブの清掃は、「水洗いを毎日」で、これに加えて「分解して洗浄」が週に一回になっていた。しかし、水洗いは毎日行なっていたが、分解洗浄は規定通り行なっておらず、3週間もしていないことがあり、その間に「十円玉大」の汚れが出来、そこから食中毒菌が生成した毒素が製品に入ってしまったということである。

頻度というのは、毎日に加えて、時々大掃除、となるのだが、この頻度と、実行が行われないと事故につながる。焼き肉レストランの場合例えば、壁の洗浄がある。壁は床から1メートル程度までは毎日になるが、それよりも上はどうするか、毎日やる必要は無いが、長く放っておくと次第に汚れていく。そこで、1メートルよりも上は毎月、天井部分は蛍光灯の掃除や取り換え、傘の上の清掃も含めて半年に一度、という規定を作る必要がある。そしてこれを忘れずに実行するためのチェックリストを整備することである。


清掃を間違いなくするためのチェックリストの作り方
一般的衛生管理のチェックリストは、正しく実行するために重要である。どのように作るかだが、

1. 対象のリストを作成
店舗を大きく3つの部分に分ける。キッチン、ホール(客席)、その他のユーティリティー(トイレ、休憩室など)。そして、それぞれに衛生管理の対象となるものをリストアップしていく。キッチンならば、調理機器、テーブル類、シンク、床、壁(1メートルの上と下に分ける)、天井部分、冷蔵庫、冷凍庫、バット類、皿などの食器類とその棚などの置き場所、といった形でリストしていく。

2. 頻度を決める
毎日、毎週、毎月、半年に一度といった頻度をそれぞれに決めていく。

3. 頻度ごとにまとめる
毎日やるものだけをまずまとめる、これを並べればやるべきことが出て来る。

4. 誰がやるかを決める

5. きれいになっているかどうかを確認する人を決める。
これは掃除をした人でないひとがいい。

6. 記録の方法を決める
チェックリストを作るのだが、頻度でまとめてあるので、そのままチェックリストにすればいい。しかし、そのままでは使いにくいことがわかってくる。例えばチェックする順番になっていないので、最初はあちこちうろうろしながらチェックするようになっている。そこで今度はチェックする順番に並べるといい。あるいは、毎日1枚づつになると、記録用紙が多くなって困るならば、1週間分を1枚に書き込むようにしてもいい。何度か作り直して行くと使いやすいものになっていく。これを「チェックリストの進化」という。

7. 手順を整備する
どう行った手順で清掃をして行ったらいいかの手順を効果的効率的になるように整備する。「上から下へ」の原則を、その店舗ではどうしたら良いのかを整備することになる。これを「マニュアル化」ともいう。

衛生的な店を消費者が求めている

「きれい」な焼き肉レストランがここ数年でずいぶん出て来ている。そういった店には女性の顧客も多く、ドレスでも行けるような店として雑誌に紹介されたりしている。この感覚がある店ならば、食材や調理提供まで、衛生的に行なっていることが多い。そう行った店がこれから流行るのである。

米国のレストランは、保健所の担当者が必ず年に2回衛生チェックに入る。ニューヨークの保健所ではその記録をデータベースにして、何とホームページで発表している。行きたいレストランの衛生状態を顧客が見せに行く前に知ることができるのだ。
サイトに行くとエリアから探すことが出来る。例えば、マンハッタンのボタンを押すと、マンハッタンの地図が出て来て、その地図の調べたいエリアを押すと、そのエリアにあるレストランのリストが出て来て、レストラン名をクリックすると、検査した日と、害虫がいたとか、簡単なコメントが書いてある。レストランの名前から検索することも出来る。ロサンゼルスの保健所は全てのレストランをABCランク付けして、便せんぐらいの大きなラベルを店の入り口に貼っていく。不衛生な「C」のラベルを貼られたレストランには顧客は行かなくなってしまうのだ。

このような強力なチェックが日本で直ぐに現れるとは思わないが、フードサービスの衛生管理は今後安全だけでなく、経営、店の人気のシンボルとなっていく。
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