オーストラリアの食肉加工品工場のHACCP事例

2013/05/10 17:44 に 松本リサ が投稿
オーストラリアとニュージーランドの牛肉産業は、米国への挽き材の輸出が大量にある。米国ではグレンフェッド(穀物飼育)の牛肉がほとんどであるが、そのグレンフェッドビーフの部位別の肉をとった後、脂肪、端材が残る。これらはもちろん脂肪率が多いのだが、これに、オーストラリアやニュージーランドからの赤身肉を混合して、ハンバーガーパティを作っているのである。

オーストラリアとニュージーランドから米国に輸出されている牛肉は、グラスフェッドビーフ(牧草飼育牛)なので、グレンフェッドのようにフレーバーはないのだが、価格的に安く、赤身率が多い。米国牛肉の脂肪、トリミングと混合させるのであるから、こういったものがいいのである。

米国でのトリミングはだいたい脂肪率は50%以上になる。それに、オーストラリア、ニュージーランドからの赤身率90%程度のものを混合して、赤身率80%、78%と言ったハンバーガーパティを作るのである。ハンバーガーパティの脂肪率は、19〜22%のものがいいとされている。

オーストラリアではこういった歴史的から、米国式のHACCPは古くから実施されてきている。そんな中で、シドニーにあるトップハットファインフーズ社は、日本向けの、レストラン向けハンバーグパティ(未調理の冷凍)や、コンビニエンスストアや弁当ショップ、デリストア向けの調理済みハンバーグ。また最近ではソース類なども製造しており、日本への輸出は5〜6年の歴史が有る。この工場のHACCP、写真解説を中心にして衛生管理システムをレポートする。


1.挽き材
日本人は味に敏感で、牛肉の場合はグラスフェッドビーフのフレーバーを嫌がる。オーストラリアでは元々グラスフェッドビーフが普通なのだが、日本向けにはグレンフェッドビーフを生産している。これは日本の商社や大手食肉メーカーが、生産コストの安いオーストラリアで、米国式の穀物飼育牛を計画で生産してきているものである。ところが、日本向けだけなので、肩系やモモ系の部位、あるいはトリミングは、安く原料として一緒に日本に流したり、あるいはオーストラリア国内に残して何とか低価格で売りさばいたりをしていた。そこをこのトップハットファインフーズではこの日本向けに穀物飼育した牛肉の低価格部位を原料にしてハンバーグを作り出したのである。

この原料牛肉は「マッスルトリミング」と言って、小さくトリミングされた端材ではなく、肩やもも肉のブロックの塊で、トリミングの中ではもっとも高品質なものである。尤もブロックなので、トリミングと呼ぶのはおかしいのだが、オーストラリアではこう呼んでいる。

HACCPで重要な最初の受け入れだが、安全な原料を仕入れる、ことがある。この点、マッスルトリミングならば、端材よりも、温度管理、製品管理が厳しいので、牛肉原料の中では最も安全だと言える。

ところで、日本のハンバーグなどの肉をグラインドした製品の原料は普通何を使っているかであるが、牛肉ではカウミートがほとんどである。カウミートというのはいわゆる老廃牛で、このトリミングである。低価格であるが、臭みがあったり、時々牛毛が入ることがある。牛毛が入るというのは、普通の牛肉の屠畜処理とは違って、カウミートの場合はできるだけ肉をたくさんとるようにするために、皮にぎりぎり近いところまで肉をとろうとするために、入りやすいと言われている。最近では大分少なくはなったと聞いてはいるが。
2.グラインダーライン
肉をグラインドする前には、冷凍肉はマイナス3℃まで解凍される。食感のいいハンバーグを作るためには、冷凍肉とチルド肉を混合して挽くのがいいのだが、チルド原料は0度プラスマイナス1度で管理されている。肉の凍りだす温度はマイナス1.7度程度だからである。

これを2段階にわけてグラインドする。最初は9ミリのプレート(穴の開いた板)を通し(右側のグラインダー)、その後スクリューコンベアーで隣(左側)のグラインダーに送られ、3ミリでグラインドされる。

このグラインドルームは、原料肉が保管してある部屋の隣りにあり、厚いプラスチックカーテンで他の部屋から隔離されている。汚染を拡散させないためである。部屋の温度は5℃。他の部屋もそうだが、壁は汚れない滑らかなプラスチックで、接合点、天井との接点などは、水も入らないようにしっかりとシール固定されている。天井の照明などもシールされていて、天井から、壁、そして床まで、上から洗剤が入った温水で洗い落とすことができる。

この工場の場合、床は赤茶色で、滑り止めが入っており、汚れも落ちやすいようにできている。

インスペクターについて
オーストラリアとニュージーランドはよく似たシステムを持っていて、政府から派遣されるインスペクターは、このような加工肉工場の場合は、普通一日に1時間来て、そのインスペクターの決めたところを検査する。何時に来るかは決まっていない、むしろ各インスペクターは回る工場(いくつか担当の工場を持っている)のルート、順番を変えて、決まった時間に各工場に行かないようにしている。

工場に入ってからどこを検査するかであるが、これも各インスペクターが勝手に決めるようだ。あるインスペクターは、自分の回る各工場をそれぞれ6箇所に分けていて、工場に着いたらサイコロを振り、出た番号の場所を検査する人もいる。受ける工場としては、いつ来るかわからないし、来てもどこを調べられるのかわからないわけだ。

このような加工品工場では一日1時間といったことが多いようであるが、屠畜処理場は一人のインスペクターが一日中センター内を回っていることが多い。内臓肉や枝肉を検査するインスペクターと、施設設備を検査するのと、複数のインスペクターが入るところもある。

このような国の職員のインスペクターであるが、人数は、たとえばニュージーランドは人口が370万人ぐらいの国だが、ここに2500人もいるそうである。担当の工場だが、同じ工場に何年も通うことはなく、だいたい半年程度で変わるそうである。理由を聞いたら「あまり仲よくなりすぎないうちに」ということのようだ。

インスペクターの費用であるが、米国では国が払うのだが、オーストラリアとニュージーランドでは調べられる工場側が払う。まだ偉くないインスペクターだと一日一時間の場合25ドル、時々責任者が来ることがあって、それには85ドル、というようになるという。また、屠畜場などで一日中常駐する場合は、ある屠畜場では月に日本円で70万円ぐらいだと聞いた。

インスペクターの権限だが、当然大きなものがある。ある屠畜場でのことだが、インスペクターによって外された枝肉が数本横に吊るしてあった。何らかの問題があったのだが、この枝肉はどうなるか聞いたら、だいたいのものは枝肉の一部分をトリミングしてすむそうである。しかし中には、枝肉全部を破棄する場合もあるそうだ。

また、ニュージーランドの工場のテストキッチンで、日本向けに検討中の「モツ煮」を作っていたところ、インスペクターが来て、工場の停止を言い渡されてしまった。なぜかというと、ニュージーランド、オーストラリア、米国では、牛の大腸と小腸は「食肉」ではなく「レンダリング」と言って、飼料に回すもの、つまり、人間の食べるものではないのである。(米国から日本に牛の大腸、小腸が入っているが、あれは特別な施設としての許可をとっているのである)。

このシステムは、屠畜した後、肉と、レンダリングに行くのとが分けられ、「レンダリング」に行くのは、全く違うルートを通って、決められた処理場に行くのである。そこにいる作業員は、白ではなく、グリーンの作業衣を着ていて、「食肉」とは全く区別されている。それを見つけたのだから、たとえテストキッチンであっても、このインスペクターは彼の権限で、工場を止めたのである。このインスペクターは当然のごとく、日本人がこれを食べることなど全く知らないし、信じない。よく説明をして1時間で工場は動いたが、最後までせっかくおいしくできた「モツ煮」を、このインスペクターは食べなかった。このようにインスペクターの権限は大きい。

3.ボーンイルミネーター
3ミリのグラインダーを出るときに、筋、軟骨を取る装置がついている。挽いた肉の出口の右側に小さいパイプがついていて、その先から取った筋か軟骨が飛び出しているのが見えるだろうか。

この装置は、穴の開いたプレートと、その内側にある回転する刃に肉が入ったとき、筋、軟骨などの3ミリ以上のものがあると、プレートを通らないが、それが滑って、外側に出され、それをこの装置で吸い取る仕掛けになっている。これによって物理的危害を食い止めることがかなりできることになる。

この工場の製品の場合、前述したような原料肉を使うので、3ミリ以下の軟骨が入ることはまずないし、3ミリ以下のすじがもし入っていたとしても、それぐらいのすじならば歯に当たらないで、普通の肉と同じになるので、この装置でかなりの安全性を保つことができるのである。

4.取られた、スジ
外されたものをよく見てみると、実際にはたいしたスジは入っていない。小さなスジが脂肪の中に入っていたり、堅い脂肪などがほとんどである。これはもちろん捨てられる。

5.グラインド後の温度計測
肉をグラインドすると、摩擦熱によって温度が上がる。温度が上がりすぎると品質が落ちる、食感も悪くなる。これを防ぐために、最初に入れるときの肉の温度を正確にすることと、グラインド中にCO2を適時吹き掛けて、温度を下げる。この温度コントロールをグラインダーの中にある温度センサーを元に行う。さらに、グラインダーから出て来たときの温度を計測する。この工場の場合、0度からマイナス3度の間でなければならない。

6.記録シート
製造工程の記録シートだが、いちばん左(切れてしまっているが)はロット番号で、その次がチェックした時間、だいたい30分ごとに記録をしている。その次はグラインダーのプレート番号で、その次がグラインダーから出た後、成型機に入るときの肉の温度である。一番上に「0 to -3C」と、許容範囲の温度が入っており、その下をずっと見てみると、だいたい-1〜-1.5度程度に理想的な温度になっていることがわかる。この工程でもし温度が逸脱した場合はどうなるかというと、その原因がわかるまで製造はストップされると同時に、温度が上がってしまったものは、オーストラリア国内の加熱調理製品に回されるようになっている。

7.ソテーオニオンの目視検査
ソテーされたオニオンをグラインドされた肉に入れるが、このソテーオニオンは野菜加工工場から購入している。ソテーオニオンには、時々オニオンの皮が入ることがある、これを野菜加工工場で厳重に検査をしているが、この工場に入ってからもう一度目視検査をする。

作業衣の規定だが、白衣の上に、ビニールの長いチョッキのようなものをかぶっている。これは、日本で一般的に使われているゴミ袋を縦に繋げたようなもので、上の方がランニングシャツに様に首と手を通すところが切れている。シャツをかぶるように上からかぶる。細かい異物が入る危険があるところの作業者はこれを着用する。上からかぶるので、衣服やポケットに万一何か入っていても、床に落ちるようになる。

作業終了後だが、肩の部分にスリットが入っていて、下に引っ張るとこれが切れ、ズボンを脱ぐように下に落として捨てる。これも異物対策にかなりなる。もちろん使い捨てで、価格も安い。手袋、マスク、ヘアネットの着用。ヘアネットは耳の下から、後ろの髪の毛をすべて隠すように着ける。ヘルメットだが、上から何か落ちてくる危険のあるところではつけるが、この場所のように危険が無いところはつけない。

8.液卵
卵はSE(サルモネラ・エンテリティデイス)の問題が大きくなっている。この工場で使う液卵はその日の日付のものである。低温管理された状態で入荷をする。オーストラリアにおいて最近の鶏卵の管理は、産卵場で採集された後すぐに7度に冷やされ、物流のトラックの温度も同じ7度、スーパーマーケットなどで小売りされる場合、その陳列ケースも7度に設定される様になっている。

9.調理ミキサーの調整
この機器は、ミキシング、調理、冷却がすべて一緒にできる。工程は、ミキシングする材料を入れ、決められた時間と回転でミキシングする。ミキシングしながら調理加熱を行い、規定の温度、たとえば75度になったら、調理を止め、冷却に入る。冷却はまず空気を抜き、真空状態に近づけあら熱を取り、その後CO2を吹き込み、急速冷却される。規定の温度まで冷えたのを中の温度センサーが関知すると、調理された食材が排出される。

10.コロッケの製造工程
日本的なコロッケも作っているが、このバッター液とパン粉を着ける機器は、自由に取り外せるようになっている。「ジグゾーパズル」のように、ほとんどの機器、設備は、大型のキャスターが着いている。付け替えが簡単だし、サニテーションがやりやすくなっている。

11.パティフォーマーカらスパイラルフリーザーへのライン
パティを整形するフォーマーから、手前にスパイラルフリーザーに入るラインだが、非常に長い。これは、この場所にコロッケなどの衣を付けるラインをはめ込むようになっているからなのだが、これだけ長いと異物混入の恐れが出て来る。そのためにこの後フォーマーをスパイラルフリーザーの隣まで持ってきて、フォーマーからフリーザーラインの距離を最低にするように改善をした。こういった改善作業もHACCPの検証の中に入る。

12.スパイラルフリーザーに近づけたフォーマー
このパティは、薄くして、大きく見せたタイプだが、フォーマーから斜めにベルトコンベアーに乗っている。よく見るとコンベアーの上の2/3に乗せるようにしてある。これは、スパイラルフリーザーは中で回転するので、円の中心側の部分(この写真で言うと下1/3の部分)は多少だが外側よりもねじれて変形するので、これを防ぐためである。

この後スパイラルフリーザーで凍結されるが、規定はマイナス20度以下になってから3分開示した後、パッケージルームに出るようになっている。しかし、その後安全を見て、ユーザー側から「5分」という要望が出たので、すぐに直した。

13.コンベアスチーマー
大型のコンベアスチーマーだけは固定されている。機器の下はサニテーションがしやすいように十分な余裕を開けてある。機器のサイドは滑らかに加工した排水溝がつけられていて、脱水が容易にできるようになっている。

14.パッケージング
パッケージングルームには、凍結を終えたパティがそのまま出てくるので、この工場の中で最も厳重に管理されている部屋になる。パッケージングルームに入るには、さらにもう一つの手洗い、靴の洗浄、ビニールコートなどの着用が必要になる。段ボールは組み立てられた後この部屋に入れられる。

段ボール箱については、日本の一部の工場でも、食材が入った箱を開ける前に消毒財を吹きかけてから開けるところもある。段ボールは虫のすみかにもなる。今後対応が必要になるところである。

15.ラボ
専門家が製品ロットごとに検査をし、記録を取る。外部の公の検査機関にも適時サンプルを出して、第三者の目で検査したデータも行い、記録に入れられる。ユーザーに対してはいつでも記録の提示ができるようになっており、すべての記録を希望するユーザーにも対応できる。記録はHACCPとPLに重要な役割を持つ。

16.製造記録
3種類の記録シートが見えるが、一つの製品に対してはなるべく一枚のシートに記録できるのが望ましい。この部屋の場合は、3種類の製品をこの日は作ったので、こうなっている。各シートは、縦軸に工程、横軸にロット順に記入するようになっているものが多い。

17.記録台
記録用の机などは絶対に作業室には置かない。作業室にはできるだけ不要なものをおかないのが原則である。記録シートを置く台は、ステンレスで、汚れ、さびが出ないようにしてあり、壁に直接設置されている。台の裏も洗えるように、支柱で簡単に支えているだけである。

18.長靴消毒
手洗いの後、長靴を消毒し、すぐに水切りをする。これだけでは完全な水切りにはならないので、この後数メートルを歩いてから製造室に入るようになっている。広い工場だからできることだが、単純でいい方法である。

19.型のストッカー
製造室の横にぶら下げるようになっている。積み重ねると汚れ、汚染されやすい。感他に外すことができ、すべてを確実に消毒されるようになっている。

20.大型機器の排水溝
広く、「R」をつけた構造になっている。ここにある機械は大型なので動かせないために、このような排水溝を造ってある。

21.製造室の端
製造室の端の部分は特に神経を使って「R」構造にしてある。隅の複雑な部分ほど汚れが溜りやすいからだ。

22.溝型の排水溝
オープン式の溝型排水溝。ステンレス製。各機器を動かすときに、直角に機器を動かせばキャスターが溝に入らないようになっている。

23.フラッシュ式排水溝
この製造室は肉くずなどが多く出るところ。そういったところには特に強力な排水システムを付ける。これは、水洗トイレのように、溜ったごみを、数分間隔で定期的に洗い流すようになっている。汚染物を早く外部に出してしまう工夫である。

24.製造室内にある手洗い
小型の手洗いが各製造室に設置されている。タオルの横にある小型の台には、爪ブラシなどが置いてある。

25.壁、天井のシール
隅の部分は残らずシールされる。左の非常口の表示用など、特別の場合を除き、できるだけ壁側にはパイプや配線をしない。壁とのすき間が汚染のたまり場になるから。

26.照明
照明にもシールされる。天井からすべてを洗浄するためである。

27.洗浄作業
商品工場は8時間づつ3シフトが行えるのだが、その内の1シフトはサニテーションに当てる。つまり、一日8時間サニテーションになる。洗浄は、ごみを捨てた後、温水で流し、その後洗浄剤で掃除、そして温水で洗い流し、殺菌剤を含んだ水を流す。最後に水切りをした後、空気だけを吹きつけて乾燥させる。

※鶏卵肉情報センター「月刊HACCP」98/7.8月号より
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