O-157の裏側

2013/05/19 18:01 に 松本リサ が投稿   [ 2013/05/19 18:02 に更新しました ]
3つの背景
O-157は、単発的なものではなく、今後もこういった危機は続く、というのが専門家の間の常識的考え方である。今は緊急対策が行なわれつつ、次第に沈静化していくのではないかという、一般的な期待がある。秋深まれば、食中毒の時期は去り、落ち着いていくのではないか、という希望である。あるいは、一連の原因がわかり、それで結末、という期待もある。たしかにそうなるかも知れないが、そうなったとしてもそれは一時的なものでしかない。なぜかというと、今回の事件は、原因を解明して、その現場的な対策をすればそれでいいというレベルではなく、食品の根底にかかわる問題だからである。人間の食品についての根幹的問題は3つのものがある。

1、農産物すべてがもろくなっている。

肉、野菜など、[土]から作る食材が弱くなっている。たとえば鶏肉だが、ブロイラーは病気に弱い、だから抗生物質を使って、病気にならないように飼育し始めた歴史がある。しかし、消費者が薬を嫌うようになったので、[投薬期間]を次第に短くしていった。投薬期間を短くしていくと、病気の危険が高くなるので、それを出来るだけ少なくするために、クリーンな環境で飼育するようにしている。更に最近は投薬期間を限りなくゼロにすべく開発が行われている。このような背景で、ブロイラーは生まれてから一歩も外に出たことはない、いや、一度だけ、鶏舎から工場に行く間だけほんのわずかだけ外に出るが。こういった環境で育てられたブロイラーは、クリーンな肉にはなる、肉も柔らかい。しかし、地鶏のようなたくましさはない。歯ごたえと、肉の味がしっかりしている地鶏は、若い人にとっては最初[硬い]という感覚があるようである。
ブロイラーは生産性から出てきたシステムである。安く鶏肉を販売するために、効率良く肉を作る、だから何十年もの間、価格は上がらずに、低価格の食物の代名詞みたいなものになってきた。卵も同じである。価格的に有料動物たんぱく質の優等生である。しかし、病気に弱くなった。
牛肉では、有機飼育牛肉というのが、ニュージーランドにある。自然のままの土地、あるは過去5年以上化学薬品を使ったことがない土地で、牛を飼育するのである。こうすると、たくましく、肉にしっかりと味がある牛肉が出来る。歯ごたえもあるが。この牧場を始めるとき、最初は牛が大分死んだ、という牧場が大分あるようだ。それは、それまでは化学薬品を使っていて、それに牛が歴史的、体力的になれてきているので、ちょっとした事で病気になってしまうのである。
しかし、涙を呑んで我慢をして、3年ほどたつと、牛は何もしなくても病気などしなくなるのである。放っといておいても、丈夫に育つようになる。この理由は2つある。一つは、厳しい自然の環境の中で、牛が強くなるのである。こういった牧場にはもちろん牛舎など無い、陽射しが強い日、牛は木の下で涼む。
そして、土が強くなり、それとともに牧草が強くなるのである。化学薬品を使った土地は、疲労している。たとえば、除草剤をある年に使うと、雑草の方も強くなり、翌年には、2倍の除草剤を使わないと効かなくなるという。更にその翌年にはもっと多くの除草剤を使わなければ効果が無いことになる。これを繰り返していくと、土地が除草剤漬けのようになって、弱ってくるのである。この逆に、除草剤を全く使わないと、土は生きがいい、最初は雑草がどんどん元気に出て来るので、それを手でとるという大変な作業が必要である。
しかし、ニュージーランドのオーガニック牧場には、2ミリぐらいのカブトムシのような、雑草の種を食べてくれる虫がいて、オーガニック牧場を続けていくと、この虫がどんどん増えてくるのである。ニュージーランドの2〜3月の夏にオーガニック牧場に行き、雑草を見つけて、その種のある部分を開いてみると、この小さい虫がいて、しっかりと種に抱きついて食べている。雑草の種を食べてくれるのだから、雑草は広がらない、農家の手も助かることになる。この虫は、80年ほど前に、ヨーロッパから入れられたそうである。
また、牛の糞の中にも別な虫がいて、この虫が分の糞に入ったまま牧場の土の上に落ちると、この虫は土の中深く入り込んでいく。このことによって、糞の栄養を土の中深く注入するようになり、土が良くなることになる。
このような自然の助けがあり、土が良くなり、そして草が良くなり、それを食べた牛が、強く健康になっていくのである。
こうやって飼育された牛が肉になり、その肉を食べると、実に旨味がある肉になる。和牛の柔らかさや風味とは全く違う。肉はしっかりと歯ごたえがあり、自然の風味がある。野菜でも有機栽培のものは自然の香りとでもいうものがあるが、その牛肉版になる。
残念ながらこの牛肉は精肉としては日本にまだ入っていない。なぜならば、この牛肉は日本の業界には受け入れられ難い特徴があるからである。それは、規格が不揃いであり、味も色々なものがある。要するに規格化されていないのである。これは有機で自然に育てたのだから当たり前だが、すべてに同じ形や味を要求する日本の一般的な考え方には受け入れられないのである。そのために現在はハンバーグに加工して日本に持ってくる。この有機ハンバーグは調理された後加工され、日本に入り、現在はヨシケイグループのルートに乗って家庭に宅配されている。
こういった牛肉を見るとき、フィードロットで肥育された牛の過保護さが見えて仕方がないが、たくましく育った農畜産物は、味と、安全性のために、これから重要になっていく。たまたま味がいいということ、そして安全ということで、フードビジネスで今有機食品がブームになっているが、このような背景の中には、病原菌への対抗のことも隠れてあるのである。

2、人間の免疫力が弱くなっている。

バリ島帰りの日本人に、コレラが流行ったことがあった。インドネシア政府は、インドネシア人はコレラにはかかっていない、白人でもいない、日本人だけだ、ということで、日本の状況を逆に非難するような状況だった。この背景には、日本人の免疫力が弱い、ということがある。一般の新聞にこのことを書くと、大きな反響を呼ぶだろうし、根拠を数値で説明することも出来ないので、このような表現は余り無かったが、専門家達の話の中では、常識的なことだった。
日本人の多くの若い人が、短い時間の無理な遊びの疲労の中で、衛生状態の満足でないレストランの多いバリ島の生の魚を[グルメ]感覚で食べていたら、バクテリアにやられる危険が増大することは常識である。
コレラ菌やサルモネラ、大腸菌も、そこら辺の食物にはある程度はいる。それを食べても、人間の体は普通は影響は受けないものである。しかし、疲労と免疫力の無さで、普段は問題ない量のバクテリアでも、発病することになってしまう。だから弱くなった人間が悪い、というのではないが、抵抗力を保ちつつ、衛生や健康に気をつけることをしていく必要があるのである。

3、バクテリアが強くなっている

除草剤の例でもわかるように、雑草は薬に対して強くなっていく。バクテリアは更に[遺伝子]レベルで薬に対する抵抗力、対抗力を増していく。動物が変わっていくのには時間がかかる、人間が今の形に換わってきたのには、何万年もの時間を要した。牛、豚、鳥などの家畜、野菜なども含めた農畜産物は、何世代に渡っての時間をかけて改良し、人間の食べやすいものに、コストに安いものに改良されてきている。そしてバクテリアも同じように変わっていくのだが、決定的な違いはそのスピードと、劇的な変化にある。
バクテリアは、変化ではなく[突然変異]をする。環境に対して、たった1世代でも突然変異をして、抵抗力を劇的に付けることが出来るのである。米国ではCDCという大規模な疾病対策センターがある。映画の[アウトブレイク]で知られた[エボラ]は、一般庶民に恐怖とともに知られるようになったが、エボラはもともと森の中でひっそりと周りの環境とバランスをとりながら生きていたものだという。それが人間の侵略、あるいは環境破壊によって、バランスを崩し、生きなり人間を襲うようになったという。
更に悪いことに、人間は今ジェット機によって、世界中2日もあれば移動するので、それに乗って、あっという間に世界中に広がったことになる。こういった危機は常に人間を脅かしており、CDCは、それを事前に防止する役目をする。
こういった状況の中で、O-157が出て来たという見方もある。
米国では1990年ごろにサルモネラで大きな事故があり、これに対応するために、HACCP(ハシップ)というシステムを開発、導入を始めた。HACCPとは、食品の原料から、加工、流通、販売段階に至るまでの衛生管理方法を決め、更にその実施した記録をすべて残す。これによって、安全対策と、事故が起こったときに調査も、すぐにできるようにし、立体的に安全な食品を作り、管理するシステムである。このシステムは米国の食肉関係のパッカー、センターなどの80%に今は導入されているという。

デリ、惣菜マーケットでは、原材料の仕入れ、自社の調理センター、店、それぞれが、このHACCPとはどういうものなのか、まず勉強しなければならない。そして、自社はどういうことをやらなければならないかを、研究して欲しい。大事故は、これからも起る可能性は十分にある

総合食品「フードライフ」96/9月号より
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