なぜHACCPが必要か、3つの理由

2013/05/19 22:01 に 松本リサ が投稿

1.バクテリアが強くなってきている。

O-157は1982年に発見された。牛の腸管の中にいて、牛の中にいるときには何もしないのだが、人間に入ると食中毒になるのである。ということは、牛の糞に入って出てきたり、屠畜場で食肉に付着することになる。その後O-157は世界に広く出現していることもわかった。さて、この頃のO-157は、肉から離れてしまうと数時間で死滅してしまった。しかしながら最近のO-157は、水の上で8週間も生きているのがいるという。さらには、抗生物質が効かないものもでている。

米国CDCのデータで、O-157食中毒の原因として、夏の間だけ「キャンプ」「湖」が多発しているものがある。これは、たとえば湖のそばに牧場があり、ここの牛の糞にいたバクテリアが、鹿や狐など、動物の移動によって、たとえば足に付着をしたものが湖に水を飲みに行き、湖の上にバクテリアが移動する。この水が、キャンプに来た人の炊事に使われ、サラダ野菜などの洗浄に使われて時間がたってしまい、加熱されないまま人間の口に入ってしまったら、食中毒の原因になることもある。

イクラのO-157事件なのだが、O-157はもちろんイクラそのものにはいない、それなのになぜイクラからでてしまったのだろうか、原因は特定できていないようである。これは、もちろん考察に過ぎないのだが、水や人から、あるいは人の靴などからイクラの工場にはいる可能性は十分に考えられる。

イクラはスジコから作る。たくさんの卵の塊で出来ているスジコを、一つ一つの卵に分離したのがイクラだから、分離作業をしなければならない。この一般的に行われている方法では、ぬるま湯にスジコを入れて多少ゆるめ、それを網を乗せた大きな桶の上に乗せ、ぬるま湯でゆるんだスジコをしごくと、きれいに卵がばらばらになって落ちる。このときの問題は、ぬるま湯で温度が上がるということと、桶の中のばらしたばかりのイクラも、温度が上がっているということである。さて、工場の中に、何らかの形でO-157が入り、それがスジコなりイクラに付いたらどうなるかである。温度が上がっていれば、ほんの少しのO-157でも急速に増殖をしてしまうことになる。

工場内のO-157が入ってしまうルートは、いくらでも考えることが出来る。工場の近くに牧場があり、人の長靴などを介して入る可能性もある。配がO-157を運ぶ可能性もある。O-157がすぐに死んでしまっていた時代ならばいいのだが、長期間生きているようになってしまったのだから、このような可能性は非常に多くなってきたのである。


食中毒の原因の1、2位を占めるのが、病原性大腸菌と、サルモネラである。サルモネラは卵からも出てくるが、以前の卵は、卵の殻の表面に付着をしていたのだが、最近の卵は、中の黄身に最初からいるものがある。問題になっているのは、2000種類ほどいるサルモネラの一つ、サルモネラ・エンテリティディス(SE)というもので、この確率は昔はごくわずかだったのだが、最近はしだいに増えてきている。

産んだばかりの卵をすぐに生で食べると、サルモネラはほんのわずかなので、食中毒になることはまずないが、冷蔵しない常温のまま何日間も置いてあったものを食べると、中のサルモネラが増殖をしているので、食中毒の危険性が高まる。これを防ぐには、産んだ後すぐに冷蔵をし、冷蔵保管、冷蔵流通をし、調理をする直前に割ることである。保管温度は、7℃か、それ以下がいいという。これ以上高くなるとこのサルモネラの増殖率が急速になるからである。もちろん生で食べてはならない。米国FDAでは、近い将来、殻付き卵をHACCP規制の対象にする考えをもっているようである。

2、取引基準になりつつある

食品を扱うためには、衛生管理が必須である。そのために行うことは多いのだが、今まではそれが一つの体系をもった形で、立体的に、有機的に整理されていなかった。しかしながら、HACCPという一つの「シンボル」というか「象徴」がやっと日本で知られるようになりつつある。これはどういうことかというと、今まで漠然と衛生管理を考え、実行してきたのだが、これからはHACCPを行う、という明確な目的、方向が見えたのである。ということは、HACCPをやっていない、あるいは考えていないということは、衛生管理をやっていない、ということになる。そのようなところの製品は、誰も買わなくなるのは当然である。HACCPが普及している米国では、スーパーマーケットも、フードサービスもHACCPをやっていないメーカー、サプライヤーからは仕入れないのは、常識である。先日行った米国メリーランド州のジャンアントフードというスーパーでも、HACCPは食品を扱う上での常識、行っていないところからは仕入れない、と、明確に言っていた。

仕入れの面だけではなく、メーカーが販売先のフードサービスや小売業に対して、製品の扱い方を要望することも重要である。日持ちの面や、保管温度、リパックの場合の注意、衛生的な取り扱い方法、といったものをお願いすることは、取引上の大切な事項である。先日北海道北見の生産者と、有機栽培の販売についてのHACCP事項を話していたときのこと、この生産者は、じゃがいもやカボチャを有機栽培で生産していて、スーパーマーケットに卸しているのだが、あるスーパーのバイヤーから、「置いておいたら腐った」というクレームをもらったという。有機栽培の生産物というのは、普通の作物よりも日持ちがしないのは当然なのだが、どうもそれを理解してくれていなかったらしい。このようなことの無いように、生産者は販売先に対して、取り扱い方を説明しておく必要がある。HACCPの取引基準は、販売先に対しても要請するものである。

3、企業力

HACCPを行うと、企業にとってまことに素晴らしいものを2つ、手に入れることができる。利益が出て、販売力が増すのである。このことはあまり知られていないが、HACCPを行った企業は、皆このメリットを享受している。

HACCPを行うことは、費用がかかるとか、手間がかかる、効率が悪くなる、といった間違えたイメージをもっているところが多い。しかし、そうではない。HACCPは製造の各工程ごとに危害を考え、それを排除することを考えるのだが、これによって不良品が減り、ロスが減り、ミスが減り、失敗が減り、工場の稼働率が高くなる。導入前にはある程度の確率であったロス率、クレーム率は、どんどんに減り、信用が高まり、顧客が増えるのである。

首都圏のあるハンバーがパティのメーカーは、数年前にHACCPを導入した。導入当初は、いろいろとロスや損失が出た。たとえば、グラインダー(挽き肉を挽く機械)をでたときの肉の温度が高かった場合、このメーカーでは「廃棄処分」をるというのがHACCPの基準逸脱の場合の処理になっていた。そしてHACCP導入したあとにこの事故がおき、廃棄し、かなりの損失が出た。この場合原因を追及し、その後「緊急処置」と「恒久処置」をしなければならない。このときの原因は、グラインダーのナイフが切れないというものだったので、緊急処置はナイフの交換をした。しかし、恒久処置をして、二度と起こらないようにしなければならない。このときの恒久処置は、それまでナイフの刃は、切れなくなってから取り換える方法だったが、この事故以降、毎朝グラインダーを動かす前に、刃の点検をし、合格ならスタートをする、というものにした。このおかげで、このタイプの事故はなくなった。さらに、この他にもいろいろと事故が出て来たのだが、その度に緊急処置と恒久処置を行っていったために、次第に自己が無くなり、損失も無くなり、事故によって工場が止まることが無くなったので、工場の稼働率が高まり、結果的にコストダウンにつながったのである。もちろん製品の品質、安全性は高まった。

東京のある甘味製品メーカーでは添加物を使わない製品を作っているので、4日しかもたなかった。しかし、HACCPを導入してからは、7日間に伸びた。もちろん原材料はそれまでのままだ。製造工程ごとに問題点を見つけて改善をし、動線、ゾーニングを整備し、バクテリアコントロール、温度管理などを徹底した結果、無添加で以前よりも日持ちのするものができるようになったのである。これによって新しい顧客も増えてきた。関西のある惣菜メーカーでは、工場の改造と同時にHACCPを導入した。HACCPを考えない施設と比較をしたところ、35%ほど改造の費用は余分にかかったが、導入後、新規顧客が急増し、前年対比5割増の売り上げを達成した。東北のあるドレッシングメーカーでは、HACCPの導入途中なのに、新規顧客が急増中である、HACCPの導入作業を見ることによって、新規顧客は安心感をもつのである。

HACCPを導入すると、売れて、儲かるようになる。これがHACCPの効果なのである。つまりは、企業力につながる。

ブレーンダイナミックス「燃えよリーダー」1999/5月号より
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