力量不足によるハザード

2013/04/25 1:49 に 松本リサ が投稿
力量とは、知識、技術、そして経験だ。これらがあることで、安定し、安全な製造と製品が出来る。
経験は、ノウハウの塊とも、失敗の積み重ねともいう。
知識があるだけでは現場はうまくいかない。教科書で勉強しても、現場は理想通りには行かないからだ。
ISO22000の「6.2.1 一般」で「要員は、力量を有すること、また、適切な教育・訓練、技能及び経験があること」とある。

東日本のある洋菓子工場で、シール不良によるカビの発生クレームが出てしまった。手作業で行なうヒートシールの不良だ。原因は、ベテランがいないで行なったため、シール器の調整と、シール状態の確認の両方が確実に出来なかったからだ。
この作業は3人ほどで行なうのだが、普段はベテラン1名と、一般レベルの作業者が2名のチームで行なっている。しかしクレームを出してしまった時は、数名居るこの作業のベテラン達が、休みだったり、他の作業に入ってしたりして、結果的にベテラン無しのチームでの作業になってしまったのだ。
ヒートシールは、熱源の温度調整が微妙で、急に気温が下がった時はヒート不足になったり、逆の場合オーバーヒートになってしまったりする。この調整をしながら、安定してシールが出来ているかを目視確認している。これが経験不足の従事者だけにたまたまなってしまって、うまく出来なかったのだ。
これは、力量不足によるハザードの発生だ。
では、どうしたらよいかというと、従事者の力量を決め、「この作業は、ベテラン1名を含むチームで構成しなければならない」と規定する方法がある。
従事者の力量は、たとえば3段階で決める。「マスター」「準マスター」「ジュニア」といった具合だ。ジュニアは「まだ1人で出来ない」、準マスターは「1人で出来る」、マスターは「ベテランで教育が出来る」ということになる。そして「作業には、マスターまたは準マスター、どちらかがいなければならない」と規定する。
その日の作業チームがこうなっているかどうかを確認してから作業に入る。そうすれば「たまたま新人ばかりでやってしまって、クレームにつながってしまった」ということが無くなる。
このシステムがまだ無い場合、今までの歴史から、誰がマスターか準マスターかわかるだろうから、本人に納得させた上で最初のランクを決めてしまう。
その後は、たとえば「ジュニアから準マスターへのアップは、2人のマスターが認定。準マスターから、マスターへのアップは、マスターとトップの2人の認定。」というようにする。
この力量システムで重要なことは、教育やセミナーの修了、あるいは検定や試験ではないことだ。
セミナーなどの教育を受けると知識を得ることになるが、それがそのまま力量にはつながらない。運転免許証を得ただけでは、技量がないから、若葉マークで走ることになる。1年経っても、運転を実際にしていなければ若葉マークがとれても危なくてしょうがない。むしろ若葉マークがとれてしまった分、技量が無いまま走っていることが周りにわからないのでもっと危険だ。

西日本のある加工肉工場で、この力量の考え方がわかり、検討に入った時、「社員よりも長年やっているパートの方が力量があることが多い」ということになった。ソーセージ製造におけるサイレントカッターの乳化作業や、薫煙加熱工程での作業はベテラン社員がやらなければならないが、焼き豚の紐かけ、真空パックの丁寧さとスピードなど、パートがベテランの作業がかなりある。社員はそのパートを信頼し、任せている。自分がやるよりもよいからだ。
このような場合時々問題があるのは、そのベテランパートがその技量を他のこれからの社員やパートに教えないで、抱え込んでしまうことだ。こうなることを防ぐには、教えることが出来なければなれない「マスター」があり、時給が上がるなどの待遇が用意されていることだ。教えることが出来なければ、いつまでも「準マスター」のままなわけだ。
コーヒー飲料製造工場で、コーヒー豆をブレンドし、そのブレンドでよいかを確認するのは重要な仕事だ。フレーバーは安全性ではなく品質だが、だめならクレームや返品につながってしまう重要なものだ。

ある工場では、これを行なう資格を持っている人、つまりこの力量を持っている従事者は5名居り、その中の2人か3人か忘れたが、複数の力量を持った人が確認しなければならないと規定されている。
ではこの力量はどうして決めるかというと、ブラジルにこの訓練機関があり、そこで資格を取った人だという。それならそこに行きたい場合にはどうするかというと、そのための社内資格を得ることだという。

力量は、各製造工程毎に設定する必要がある。

ソーセージ製造ならば、下処理工程、カッティング工程、ケーシング工程、薫煙加熱工程、冷却切り離し工程、パッケージ工程と、それぞれの工程で、マスター、準マスター、ジュニアがいることになる。それぞれの力量には何が必要かを規定するためには、どういうことが必要か、その工程プロセスを分析することになる。このことはそのままハザード分析になる。
社員が工場の管理者になるための資格として、全ての工程で準マスター以上の力量を要する、とすることも出来るだろう。工場長になるための資格は、全ての製造工程でマスターであることが必要、となるシステムも考えられる。
力量とそのシステムを構築することは、食品安全に直結する。
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