進化するCCP

2013/05/19 22:13 に 松本リサ が投稿   [ 2013/05/19 22:14 に更新しました ]

ある総菜工場で、今まで経験と勘だけでやってきた製造を、ごく初期のHACCPで、加熱調理している製品の温度を測るところから始めた。

それまでは長く仕事をしている熟練者がやれば安定して出来ていたが、あるときその熟練者が健康上の理由から長期の休みを取らなければならなくなったのだが、そのとたん、ミス、ロス、不良品が出た。

そこで、今まで気にはなっていたがそれほど必要かどうか判断しかねていたHACCPに気が付き、とりあえず温度測定から始めることにした。

HACCPの教科書には一般的な加熱後中心温度が75〜85℃となっていたので、自分のところではどんな状態なのかを測ってみたところ、実に不安定で、高温の方に逸脱していたのがかなりある。恐ろしいことに75℃以下のも出て来た。

そこで、調理機械のセットアップ、食材の投入温度、食材の大きさ厚さなどの規格などにより、安定した中心温度になるように工夫が重ねられた。


結果、フライヤー、オーブン、蒸し器で、安定した中心温度にすることが出来るようになった。気が付いたら、ロス、ミス、不良品が減り、生産効率が上がるようになり、コストダウンにもなっていた。大成功だ。

ところが、煮釜の担当者が「うまくいかないけど、どうしたらいいか分からない」と言い出した。

煮るメニューだけは、沸騰したらいったん弱火にして、適当な時間弱火で煮てから火を止めればできあがり。温度は一応測っては見るが、いったん沸騰して、90℃以上には確実になっているので、それでいいということにしてあった。

煮釜の担当者がうまくいかないというのは、具の細かい、味噌汁、ミネストローネスープなどはいいのだが、おでんのように具の大きいものは、そのままでは駄目だということだ。

これ、以前は熟練者がやっていたので気が付かなかったのだが、弱火で煮る時間を長く取らなければならないのだ。こんにゃく、ジャガイモなど、大きな具があるので、これらの中心まで火が通るようにするのにはコツがいるのだ。
病院にいる熟練者に聞いたところ、具の大きなものは先に釜に入れて、最終的にうまく煮上がるようにしているということだ。しかしその投入順序や、例えばジャガイモが丸ごとの場合、半分の場合、四分の一の場合、そして生からか、ある程度下蒸ししたのかによってもちろん違う。それはその都度経験で分かるので、自分なら適当にやればうまくできるということで、中心温度がどうなるなど、分からない。「串を刺せば分かる」とはいうが、若い現場の担当者は分からない。


そこで、科学的に、つまりはHACCP的にどうすればいいか煮取り組むことにした。

具の大きなメニューに絞り込み、投入する食材の状態、温度や中心までの距離、あるいは食材の違いによってどのようにしたらいいのかを追求しだした。

ジャガイモは煮すぎたら溶けてしまうので、特に重要だ。こんにゃくはその点安全ではあるが、厚さによってかなり違ってくる。食材の投入状態を監視して安定させ、投入手順をと時間を決め、CCPを大きな食材の中心温度測定にした。CCPの進化だ。
そして結果的に、大きな具のメニューも安定して出来るようになった。顧客からの反応も美味しくなったと公表になった。

煮釜がこんな活動をしている頃、顧客から「お宅の焼き魚はおいしくない」というクレームが来た。このクレームは以前から時々あったのだが、スチコンでやるので仕方ないとあきらめていたのだ。

しかし競争は激しくなり、価格だけの競争では疲労するばかりなので、品質で競合他社を押し返そうとしたいので、この潜在的不満を何とかしたい。
なぜおいしくないかは分かっている。直火で加熱すれば、表面に焦げ目が付いて、パリッとし、中はジューシーになるからだ。そのためにはコンベアオーブンを使えばいいのだが、購入費用と設置場所の両方とも無い。
そこに、機械好きで研究熱心なスチコンの若い担当者から意見が出た。「あのー、一段飛ばしにすると出来ると思うんですけど……」
スチコンの棚に食材を一段ずつ空けて入れると熱の回りが良くなり、焦げ目が付くのだ。大きな魚なら焦げ目をつけてからパワーを落として中をジューシーに仕上げればいい。

この方法だとスチコンの中に半分の食材しか入れられないが、スチコンは2台あり、他のメニューとのバランスを適正に設定すれば出来る。
このCCPは、切り身の魚の場合と、サンマや今年相場が安いニシンなどで違ってくる。薄い切り身の場合はパワーは同じでうまくいくが、丸魚は最初のパワーと焦げ目が付いてからの後半のパワーが違う。このパワー設定と中心温度の組み合わせで、味に満足がいく調理が出来るようになった。CCPが中心温度に変わりはないが、調理設定が2つ出て来たわけだ。これもCCPの進化だ。これでコストが上がることなく、おいしい焼き魚が出来る。

この動きが今度はコンベアフライヤーにも波及してきた。
フライの場合のCCPは中心温度で、鶏の唐揚げのと、薄いとんかつの場合、コンベアのスピードで加熱の強弱を設定していたが、大きなものは油の温度を低くして時間を長くした方がふっくらと揚がる。中華のユーリンジーは、丸鶏を油の中に入れないで、油をかけて調理する手間のかかる料理だが、時間がかかる分、おいしくなる。
そこで、食材の違いによる油の温度とコンベアのスピードの最良の設定を突き止め、調理の順番を油の温度が高い順に行うことで、おいしさを高めることが出来た。

これもCCPの進化で、進化させたCCPで、コストを上げず、場合によりコストダウンになった上で、安全性とおいしさを達成することが出来る。
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