教育と認識の爆発点

2013/04/25 18:58 に 松本リサ が投稿
何でも新しいこと、改革、改善などを進めるとき、方向は正しくても、本格的に始まるまでは時間がかかるものだ。しかし、何かのきっかけで、突然始まることがある。
東北のある給食工場はHACCPの考え方を取り入れた工場を建設し、いくつかの取材を受け、その後しばらくしたら保健所の方が見せて欲しいと言ってきたので見てもらったら「HACCPなど何もしていないではないですか」と言われてしまった。マニュアルやチェックリストなどの書類は建設会社が参考としてつくっておいておいたのだが棚の上だったのである。調べて分かり、大変だということで、一気にHACCPの構築が始まった。約2年後、本来のHACCP工場になったのである。

突然スタートが始まる時点を著者は「爆発点」と読んでいる。HACCPの必要性を説き、何とか現場に認識をさせたくてもなかなかわかってもらえなかったのが、あるときを境に突然現場主導でHACCP構築が始まる、そんな爆発点を迎えることが出来ると、経営者としてもHACCPリーダーとしてもうれしい。どんなきっかけで爆発点が出現するのだろうか。

ある魚介類加工工場では、納入先の要望もあり、HACCPに取り組むことにした。パート向けの教育が大事だと考え、毎週水曜日の昼食時間後15分だけ、テーマを一つに絞り、例えば「床に直置きをしない」といった内容を教えることにした。最初は「何でそんなことをやるの?」という状況だったが、そのうちわかってくれるだろうと続けた。しかし、何ヶ月続けても、どうも認識が出てこないので、次第にしぼんでいってしまったのだが、「忍耐」「我慢」「とにかく続けてみよう」ということでやっていたら、約1年後、突然現場でサニテーション運動が始まり、製造作業の改善運動まで始まった。それから約半年したら、見違えるように工場内が変わり、生産効率がアップした。「忍耐」の1年後、爆発点が来たのである。

関東のあるパン工場では、HACCPチームが勉強をし、チェックリストの作成などを現場と打ち合わせながら進めていたが、現場が理解してくれなくて、導入がなかなか進まなかった。外部の指導者も、ここはどうしていつまでも意識が高まらないのか困っていたのだが、ある日突然現場から「これから毎週木曜日に全員で大掃除を始める」といいだした。びっくりしたのはHACCPチームの方で、どういうきっかけでこうなったのかわからない。しかしその後も続いているので、どうも本物のようだ。爆発点がどうしてかわからないが来たのである。

爆発点は地道な教育の結果来るのは健全だが、そうとばかりは限らない。西日本の魚の干物加工工場は、雑菌が異常に多い製品をメインの納入先に続けて納入してしまい、原因がわかるまで約1月間納入停止になってしまった。原因は味液(つけ込み液)の管理が悪く、温度が高い状態でつけ込んだり、製造中の管理も悪く、保管状態も悪く、おまけに納入車の温度管理までだめだという複合汚染状態だったのだ。経営者はもう会社をやめちゃおうかまで落ち込んだそうだが、その時HACCP実施工場の見学会があり、短期間の勉強で積極的にHACCPを実施している状況を見て元気が出、帰ってから、使用水、味液、室温、倉庫、車両の温度と時間管理を積極的に行い、よい製品が出来るようになった。これは事故をきっかけに爆発点が来たのである。

外圧で爆発点が来た例も多い。関西のある鶏肉工場は2年間のHACCP構築コースに参加し、最初の視察での指摘の一つに冷凍庫の大掃除があった。この冷凍庫は十数年前からそのままで、床に敷いた簀の子がほとんど氷に隠れ、多分その下にはたっぷりとゴミが凍結されていることが推定された。庫内は整理整頓とはほど遠い状態で、むしろ「混沌」「混乱」という言葉がぴったりである。構築ステップを進めていくのだが、なかなかパワーになっていかない、冷凍庫が潜在的に気になっていたのである。そして運命の二度目の視察が近づいたので、意を決して、冷凍庫のスイッチを止め、半凍結状態まで温度を戻し、長年張り付いていた簀の子の端を工具でたたいてすき間を開け、テコを使って力を入れたら「地獄の底からの音」がして、とうとう1枚の簀の子がはがれたのである。全ての簀の子をはがして外に出したら、かなりの泥があり、以前工場の前は舗装されていなかったことを思い出した。どういうわけか、鶏の骨だのヒモだの指サックだのもろもろのものが幽閉されていたことがわかり、感慨一塩だったそうだ。きれいになった冷凍庫がうれしくて、毎日何度も入って喜んでいるそうである。これをきっかけにHACCP構築が一気に進んだ。外圧が爆発点をつくったのである。

東日本の海藻類の加工工場が初めて大手スーパーに納入できるかどうかで、バイヤーからのチェックリストを受け取った。そのチェックリストに自主的に記入をして、それを見てからバイヤーが工場に来ることになる「だから正直に書いてください」となっている。リストを見たら、HACCPが基本になっている。HACCPは1年ほど前から構築を始めたのだが、危機意識が少なく、なかなか進んでいなかったのだが、これをきっかけに本格的な構築が爆発したのである。これも外圧。

いろいろな形で「爆発点」は訪れる、あなたの工場ではどうでしょうか?
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