HACCP実施の特定のメーカーにオーダーが集中する理由

2013/05/19 22:02 に 松本リサ が投稿
あるカニ加工メーカーの新工場のHACCP計画を御手伝いしているが、11月に入り、年末向けの繁忙期に入る頃から「売るものが無くなってきた」という。製造を間違えたわけでなく、遅れているわけでもない。要するに「売れすぎ」て販売する製品在庫が無くなってきているのである。そこで、ここ数年の全国的な傾向だが、特定のメーカーにオーダーが集中する現象の話をしたら、十分に思い当たるという。

この現象は、安全性と品質で信用の出て来ているメーカーに、多くのユーザーからの注文が集中していることである。イクラのO-157事件があったが、あの事件の後、一時的にイクラの醤油漬けは売れなかったのだが、すぐにマーケットはイクラの醤油漬けを必要としていた、売れる商品で、消費者も求めていたからである。しかし、危害に危険のある製品はいくら安くても欲しくはない。こういったところに、以前からHACCPを行なっていていたり、衛生管理に力を入れていた、業界の数からいえばほんの一握りのメーカーの情報が流れ、そのメーカーに注文が殺到したのである。

あるメーカーでは、スジコからイクラにほぐすための自動機械まで開発していた。スジコを一つ一つの卵にほぐしたのがイクラで、この作業をするために昔から行われている方法はスジコをぬるま湯に浸け、緩めてから、大きな樽の上に網を乗せ、網の上にスジコを乗せて手で軽く押さえつけてしごくと一つ一つの卵に分離をし、樽の中に落ちていく。

ここで問題なのは、温度を上げるということでバクテリアの増殖が促進されるということと、さらにほぐされて痛みやすくなったイクラはある程度の時間、樽の中に置かれることである。木の樽や工場の環境そのもの、人の手などが汚染されていれば、瞬く間に樽の中に入り込む。わずかでもO-157が入ってしまえばそれが増殖をし、撹拌されて樽内全体のイクラが汚染され、それが醤油に漬けられて一つ一つの瓶に入れられ、市場に流れて拡散されることになる。O-157で汚染されてしまえば、それが製造工程の流れの中で、一つ一つの瓶に均一にパッケージされてしまうのである。

このような事故にならないためには、工場の環境をきれいにすること、すなわち一般的衛生管理を徹底することと、スジコをイクラにほぐす過程をCCPにするなどして厳重に管理をすることである。このメーカーは、このほぐす工程に人間の手を入れないで機械で自動化したのである。そして、イクラ事件の後、このメーカーに多くのユーザーからのオーダーが集中した。もう一つの例は、やはりHACCPを導入していて、申請の準備中のところがあり、ここにも注文が集中しているということである。


カニ加工メーカーに話を戻すと、今までは船から陸揚げされた蟹を加工している工場の衛生管理はまともに行なっているところがあまり無いようで、販売先の多くになるフードサービスのユーザー側は最近の食中毒多発の時代に入り、心配しているところだったのだが、衛生管理を徹底しているメーカーがあるという情報が走り回りだして、結果的にここに注文が集中してきた、ということになる。

ここ数年の間に営業担当者の数を増やさないのに販売が激増してきたので、現在の工場では間に合わなくなり、今回完全にHACCP対応の工場を建設することになったのである。

新工場は今までの工場の倍以上の生産が出来る設計になっているのだが、構想段階ですでに売り上げの更なる激増が予測されている。現在営業担当者は「そんな大きな工場を建てたら、売るのが大変」と恐怖感があるということなのだが、大丈夫、心配ない、黙って売れるようになるのだから。新工場の安全性と高品質がパワーとなって売れること間違いない、HACCPが強力が営業をするのである。


東北のある加工肉メーカーが、工場が老朽化しているのでこれからどうするかを検討した。HACCPの承認をとる方向は決まっているので、保健所に相談をしたら、工場に来てくれた。しかし、現在の施設設備ではあまりにも動線、ゾーニング、空調などの不備や欠陥があり、相当の改造をしなければ出来そうにないことが指摘された。そこで、長期間工場を休んで大改造をする場合と、隣の自社の土地に新築した場合のコストを計算したら、ほとんど同じだということがわかった。大改装する場合、改造期間中の製造を外部委託しなければならないし、下手をすると現在の販売先が別のメーカーに切り替えるという大きなリスクがある。新築する場合、機器の移設などでのほんの短期間の休みだけですむうえに、旧工場をその後簡単な手直しをして、他の製品を作る工場に出来る。


HACCPの導入は、基本的には現在の施設設備を使い、工夫、改善をして行なうことである。HACCPはソフトウエアなのであるから。しかし、あまりにも欠陥が大きかったり、老朽化していたり、あるいは販売急増による積極的な活動を考える場合、新たに本格的な対応工場を造ることで、企業の急拡大の大きなきっかけにすることも出来るのである。特定のメーカーに注文が集中しだしている時代なのである。

鶏卵肉情報センター「月刊HACCP」2000/2月号より
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