HACCPの考え方と、構築の概念

2013/05/19 18:43 に 松本リサ が投稿
HACCPはもともと宇宙食を安全に作るための方法、システムとして出発をしてきている。HACCP手法を取り入れていないときには、宇宙に持っていくための食品は、実際にもって行くパック数よりもかなり多く製造した。そして、製造後にバクテリアをはじめとする数々の検査を行ったのであるが、食品の場合一度検査をしてしまったものはもう使えないことになる。パックを破って、バクテリアを検査したものは、すでに空気に触れることになってしまうので、もう使えないのである。そのために、製造したものの大半を検査で使ってしまい、宇宙に持っていったものはほんのわずかなものでしかなかった。

宇宙食を作るためだけだったらこれでもいいのであるが、この安全に食品を製造する技術を一般の食品を作る技術に使えたら、というニーズは当然最初からあった。現在では宇宙に関する技術は数多くの製品に応用されているのだが、食品製造に関しても応用ができないかを模索していたのである。そして、HACCPシステムが開発されたわけである。


HACCPを一言で言うならば「転ばぬ先のつえ」である。あるいは「石橋をたたいて渡る」、また「関所方式」と言ってもいいだろう。今までの一般的な食品の製造方法は、原料を仕入れ、それを今まで行ってきている経験的な方法で製造をし、出来上がってから出荷をする。その時に、一部の製品サンプルを検査して、問題がないかどうかを確認する、という方法であった。ところがこれだとサンプル以外の製品はどうかがはっきり言ってわからない。

その点でHACCPは、製造する工程を一つずつに分け、その各工程でチェックを行い、問題がなければその次の工程に進める、という方法である。各工程でのチェックポイントは、工程ごとにもっともいい方法を考え、許容範囲などを決め、それをクリアしなければならない。

チェックポイントだが、ちょっと考えるだけで大変な数が出てくる。家庭での料理を考えてみても、買い物に行き、数々の食材を買ってくる。その食材ごとに、冷蔵庫に入れるのか、入れなくてもいいかが違うし、冷蔵庫に入れるものにしても、冷凍庫、冷蔵庫、あるいはチルドルームと少なくとも3ヶ所に分けなければならない。

次にそれぞれの食材を下処理するにも、皮を剥く、包丁で切る、洗う、解凍をするなど、食材別に違ってくる。包丁でカットをするにしても、肉と野菜を一緒のまな板で同時に切る、等というのは衛生上好ましくない。このとき、食中毒や危害になりそうなものをリストアップしてみるのだが、これがHACCPの「HA」危害分析、ということになる。HACCPはまず自分の作っている製品を疑う、危害になりそうなものを考える、というところから始まる。この考え方は今までと全く反対だとも言える。

このように考えると、食品工場で製造する場合には大量のチェックポイントが考えられることがわかる。しかしながら、その全てについて神経をしっかりと使ってやっていたら、かえって製造作業ができなくなってしまうことになる。そこでHACCPでは、このチェックポイントの中で、特に重要なものを「CCP」という「重要管理点」で集中的に管理をするのである。

このCCPは、一つの製品の製造工程で、5ヶ所以内とされている。といっても、最近厚生省のHACCPの承認を取っているところを見てみると、2ヶ所程度のところが多い。集中して管理するためには、少ないほうが集中できる、ということである。

といったところから、「転ばぬ先のつえ」などの言い方が出てくるのである。この考え方で製造を行うと、全ての「関所」をクリアして初めて最終の製品になるので、ほぼ100%に近い製品が安全なものになっていることになる。

では、CCP以外はどうするのか、無視するのか、というとそうではない。これは「一般的衛生管理プログラム」と呼ばれている、安全な製品を作るための「衛生規範」で、工場全体、工場で作業をする人間全員の、基本的な知識、方法、マニュアル、調理加工機器、扱い方、等で、衛生的な工場の土台を作るのである。一般的衛生管理プログラムという大きな「土台」を作り、その上でさらに今度は製品ごとにもっと安全にするためにはどうしたらいいか、を考え、そのシステムを作るのがHACCPということになるのである。つまり、HACCPを行うには、大きく分けると2つのものがあり、一つは土台となる一般的衛生管理プログラム、もう一つはそれを土台としてその上に製品ライン毎の「HACCP」本体を構築することになる。

総菜工場で説明すると、工場全体の一般的衛生プログラムで工場全体の衛生管理を行う。その上で今度はたとえば「揚物ライン」でHACCPを行おうとする場合、一般的なステップは、揚物ラインでもっとも多く製造しているもの、たとえば「チキン唐揚げ」でのHACCPをまず構築するのである。原料の受け入れから、保管、カットなどの一時処理、衣付け、フライ、冷却、パッケージング、といった一連の工程でHACCPを構築するのである。これが出来たら、次には豚カツ、あるいはてんぷら、といった製品に応用をし、そして揚物ラインのHACCPが構築できるのである。そしてその次に今度は焼き物ラインに行き、たとえばまず焼き鳥、次に焼き魚、といった具合に進み、さらに生ものラインのサラダを行えば、同じラインのサンドイッチが出来る、といったことになる。そして最終的に総菜工場の全ラインの製品群についてのHACCPが出来る。このようにして、総菜工場のHACCPが構築されるのである。

ここで素朴な疑問が出てくるかもしれない。それは「それならば、一般的衛生管理プログラムだけで、安全な製品は出来ないのか?」である。そして、答えは「出来る」である。一般的衛生管理プログラムだけで、かなり安全な製品は出来ることになる。それまでは適当にその場合わせで掃除を行い、手の洗い方から始まって施設設備の扱い方も、個人個人の方法で「適当に」行っていたのを、全てに渡って科学的な方法、マニュアルにして、サニテーションの記録まで取って、完全に衛生管理をするようになるだけで、相当違ってくることになる。これだけで大変な進歩だと言える。しかしながら、HACCPはさらにもっと安全にするために、今度は製品ごとにもっと突っ込んで行うことなのである。


月刊「ISOS」1999/5月号より
Comments