HACCPの記録を、クレームの対応に使う

2013/05/20 1:00 に 松本リサ が投稿
先日ある流通企業の方から、顧客からの激しいクレームが来て、これから行くのだが、どうしたら良いかと、非常に困った様子で聞いてきた。その顧客が購入した食品(菓子)から金属が出て来て、「こんな危ない物が出て来たのだから、直ぐに全品回収しろ。もししないのなら直ぐにマスコミに言う」と強硬に言ってきたためだ。
このような場合、まず行なうべきことは、現品をそのまま、たとえ食べかけでも、歯形が付いたままで良いから、動かさないで、そのまま置いておいてもらうことだ。もし食品から異物の一部が出て来て、半分潜り込んでいたのなら、それを掘り出さないで、その状態のままとっておいてくれると原因究明に役立つ。もしその異物を取り出してしまったら、どういった状態で入っていたのかがわからない、極端に言うと、その食品に入っていたのかどうかも確認できない。

以前こんなことがあった。あるファミリーレストランチェーンの店舗で「ハンバーグの中から髪の毛が出て来た」と連絡があったので、「とにかくそのままの状態で、ラップをかけるなりして、冷蔵庫か冷凍庫に保管しておいてくれ」と指示してから行ってみた。皿の上に乗せられた食べかけのハンバーグを見ると、たしかにハンバーグの中から髪の毛が出ているように見える。そこで、店長と一緒にそのハンバーグをひっくり返してみたら、髪の毛はハンバーグと皿の間に挟まれていた。このハンバーグは味調理の凍結で店舗に供給されており、解凍してからグリドルで両面を焼き、それを皿に盛付ける。もし、原材料のハンバーグに付着をしていたのならば、グリドルで焼いたときに髪の毛はちりちりに焼けているはずである。したがって、この髪の毛は、盛付け前の皿の上に落ちていて、その上に焼いたハンバーグが置かれたことになる。上から見たらたしかにハンバーグの中から髪の毛が出て来たように見えるのだが、そうではなかった。この場合、もし髪の毛だけが取り出されてしまっていたらわからなかったのである。

話は元に戻るが、金属が例えば製造機械の部品や、製造者の物が落ちたものだったら、これは回収の必要はほとんど無い。機械のビスや従事者の例えば筆記用具の部品、あるいは伝票のクリップなどだったら、それが他の製品にも入っていることは考えられないからである。であるから、このような場合は、直ぐに顧客のところに行って、その異物を確認し、もしそれが電線などが断線され、数本入っていたりした場合は、他の製品にも入っている可能性が出て来るので、回収を考えなければならないのだが、この場合、顧客がただ怒っていて、マスコミのことまで言い出しているので、感情的になっているか、クレームにかこつけた嫌がらせになっているのかもしれない。

このような場合、一番大事なことは、顧客に対して、誠実に、技術的に説明をすることである。この件では、工場側がある程度HACCPを前提とした一般的衛生管理を行ない始めていたので、この文書とサニテーションや機械のメンテナンスの実施記録などを揃えて持っていくように指示した。更に顧客が納得しない場合には、保健所の担当者と一緒に行く事も出来るようにしておいた。

さて、実際に顧客のところに行ってから行なったことは、まず、製品の製造工程のチャートを見せた。これで、どのようにこの製品が作られているかを顧客に理解してもらった。その次に、この製造工程の中で、どこで、どのような異物混入が考えられるか、食中毒の可能性も含めて、どのような危害を想定しているかを説明した。これは、HACCPの総括表を見せれば、製造工程と、危害分析リスト、それの対応策が完結に出ているので、納得できる。この説明で、危害を想定してまで慎重に製品を作っていることを顧客に説明した。その後で、今回出て来た異物(実際には回収の必要は無いものだった)が、どこで入る可能性があるかを、総括表の中で説明をした。次に、その可能性のある製造ヶ所において行なっている対応策を解説した。対応策としては、従業員からの異物混入を無くすための入場時でのチェックの記録、製造機械の定期的なメンテナンスの記録、そして毎日・毎週・毎月、年に2度と、4つの頻度を決めて行なっているサニテーションのマニュアルとその実施記録まで順次見せた。これらの説明に使った資料はかなりの量があるのだが、このような場合はかえって大量にあったほうが印象も良い。このように説明をしたら、納得をしてくれ、異物本体は「預かり証」を書いて持ち帰り、その工場の異物混入対策用に戻したのである。

別の食品メーカーの例だが、顧客が異物混入だとして、ある食品を保健所に直接持ち込んだのだが、保健所の担当者が見るとどう考えてみても顧客側の問題だった。しかし、保健所としてはいきなりそれを言うことも出来ないので、メーカーに連絡をして説明をした。そのメーカーでも一般的衛生管理とHACCPを行ない始めていたので、データを直ぐに(30分以内だったようだ)保健所にFAXをした。保健所はそれを見ただけで、「こんなに早く、正確なデータが来るんだから、大丈夫ですね」ということで、その顧客に説明をしてくれたという。一般的衛生管理とHACCPで行なっていることを、このような場合にも活用できるのである。
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