HACCP:キーワードでの解説

2013/05/19 18:48 に 松本リサ が投稿

HACCPは今まで行ってきた衛生管理の延長

食品を扱っているかぎり、掃除をする、温度管理をするといった食品衛生対策をすることは当たり前で、程度の差はあれども誰でも行っている。HACCPというと特別なことのように理解している人も多いがそうではない、HACCPは今まで行ってきたそれまでの衛生管理の延長線上にある。例えば清掃だが、今までは「しっかりと清掃しよう」あるいは「整理整頓」といった形で行ってきたのとHACCPはどのように違うかというと、HACCPの考え方では、「しっかりやろう」から「5つの項目を満たす」事によって実行を管理することになる。「5つの項目」とは、「作業内容、頻度、担当者、確認、記録」である。

例えばオーブンの清掃だと、今までは「オーブンをしっかりと清掃しよう」だったのだが、HACCP式だと、まず「内容」は「オーブンの清掃」で「頻度」は「毎日の洗浄」と「月に一度の分解洗浄」という事になる。毎日の洗浄は洗剤と湯を使っての普通の洗浄を行うが、これだけだと機械の内部や裏側、隅などに汚れが次第に溜ってきてしまうので、これを月に一度の大掃除、分解洗浄を行うことになる。次は「担当者」で、誰がやるのかを決めておく。交代でやっても専任者がやってもいいが、これをきちんと決めておかないと忘れてしまったりすることになる。特に分解洗浄では方法を知っている人でないと出来ない。次は「確認」で、これは洗浄を行った人以外が行う、例えば調理作業室の人が洗浄を行う担当者だったら、確認は隣のパッケージ室の人が行うなどになる。同じ考え方で、パッケージ室の清掃の確認は調理室の人が行うといった「相互確認」をするといい。確認は目視が普通だが、最近はATPで検査をする方法も出来るようになってきた。この検査も「週に一度」といった形で頻度を決めることになる。最後は「記録」で、ノートでもチェックリストでもいいが決められた記録様式に記録をすることになる。

こういった方法で行うことによって、確実に清掃を行うことが出来るようになる。雪印乳業の事件では最初の段階で「バルブの洗浄」が規定通り行われなかったことが問題になった。「毎日の水洗い」と「週に一度の分解洗浄」になっていたのに、毎週の分解洗浄が行われていなかった週がかなりあった。厚生省の総合衛生管理製造過程ではこの「5つの項目」を行わなければならないことになっているのだが、書類上は出来ていても、現場ではきちんと行われていなかった。この場合、毎週の分解洗浄の記録用紙があり、それにはきちんと毎週行っていなかったという記録がそのまま正直に〈?)記録されていたのである。このような場合、もし作業室どうしの「相互確認」を行っていれば「毎週行っていないではないか!」という指摘になるし、管理者がこの記録用紙を「監査」していれば、すぐに発覚することになる。

一般的衛生管理を土台にHACCPを構築する

厚生省の総合衛生管理製造過程は2つのもので成り立っている。工場や人、環境の衛生管理である一般的衛生管理で、これはHACCP本体を行うための土台とも言えるものである。汚い不衛生な工場でいくらHACCPを行っても無意味である。きれいな工場にするための方法が一般的衛生管理だ。一般的衛生管理を行うだけでかなり安全な製品を作る工場にすることが出来る。

この上でさらに安全な製品を作るために、今度は製品の製造工程の中で特に危害を抑えることが可能な場所を見つけ、そこに集中して注意をするのがHACCPである。集中する場所をCCPといい、いわば「関所」である。CCP〈関所〉は多すぎると集中できないので、最近では1〜5ヶ所とされている。この数はどこにも明文化されていないが、HACCP20年の歴史から出て来ていることである。

一般的衛生管理は、手を洗う、掃除をする、機器の点検をする、虫やネズミが来ないようにする、使う水を安全にする、塵芥は早く捨てる、問題が出てしまったらすぐに対応できるようにしておくなど、工場全体を安全にするための方法で、これを間違いなく行う方法として「内容、頻度、担当者、確認、記録」の5項目がある。これを工場の中で行う面から考えるのと、製品の製造工程のそれぞれで行う面から考えることによって、抜けのない緻密な衛生管理を行うことが出来るようになる。

2000年夏に異物混入事故がマスコミに集中して取り上げられたのだが、この原因を見てみると一般的衛生管理をおろそかにしていることがよくわかる。この一連の報道ブームで「異物混入対策をどうしたらいいか?」という質問をよく受けるのだが、抜本的な対策などはなく、一般的衛生管理の全てを地道に行うしかない。逆に言えば一般的衛生管理の徹底で異物混入事故をかなり防ぐことが出来る。(図表:事故内容と原因)

これに対してHACCPのCCPは、製品の製造工程の中で、かなり高い確率で危害を防止できる場所を決める。例えば、原材料を保管する冷蔵庫の温度管理は、これを行うことによって確実に危害を防止できるかというとそうではない。バクテリアの増殖を抑えるという重要な管理だが、バクテリアを殺すことは出来ないので、これは一般的衛生管理になる。しかし、唐揚げをフライヤーで揚げた後、中心温度が75℃になっていればバクテリアを殺すことが出来るので、ここをチェックすることで危害を確実に食い止めることが出来るので、こここそCCPにすることが出来る。牛乳でいえば130℃で2秒、75℃なら15秒といった加熱殺菌工程になる。HACCPの考え方は、多くの一般的衛生管理と、1〜5ヶ所のCCPの2つの方法で安全な製品を作ることなのである。〈図表:従来方式とHACCP)

HACCPは「取る」のではなく「やる」

書類上は出来ていてもやらなければ何にもならない。日本のHACCPは「自主管理」で、企業が〈工場が〉自主的に安全な製品を作るために行う考え方である。安全な製品を作るための方法としてHACCPは非常に有効である。安全な製品が出来るシステムを日本の多くの食品工場が取り入れるようになれば食中毒を押さえることが出来る、であるから厚生省はこのHACCP方式を取り入れている工場に対して「承認」を与えるのである、これによってその工場の安全性を認めることで、工場の信用が高まることになる。そうなればHACCP方式を取り入れる工場が増え、食品の安全な製造をする工場が全国的に増えてきて、最終的には国民の安全性につながる、と、こういった制度なのである。それなのに、承認を「取る」事が最大の目的になり、取った後はやらないでは、本末転倒である。

HACCPは工場のアイデア、工夫をふんだんに取り入れて、その工場でもっとも有効な方法を作り上げるのである。牛乳工場が10ヶ所あっても、それぞれの内容、決まりは違ってくる、手作りなのである。この決まりは自分たちで決め、それを実行して守る方法も自分たちで決め、これを進展させていくものである。「HACCPはアイデアと工夫で進化していくもの」である。こういったことなのに、自分たちで決めたことを自ら破り、その上大事故まで起こしてしまったのである。「道路を走っている優良運転者マークをつけた人が、交通法規を破り、そして事故を起こしてしまった」のである。

HACCPは監査が重要

米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの食肉と水産でHACCPは強制である。例えば米国の畜肉のと畜加工場にはUSDA(米国農務省)のインスペクターが常駐している。オーストラリアやニュージーランドの輸出向け食品工場にはやはり政府のインスペクターが毎日時間を決めずに突然監査に来る。もっと小さいレベルでは米国のレストラン店舗には検査官〈食品衛生監視員〉が必ず半年に一度、電話もせずにいきなり店舗を訪れる。ニューヨークの保健所はこのレストランの監視記録をホームページに乗せて一般に発表しており、「ニューヨークでレストランに行くときは、その店の衛生状態を保健所のホームぺージーでチェックしていきましょう」という記事がニューズウイークにも乗ってしまった。見てみると「ハエが目立った」「店長の教育レベルが低い」「この店はよく勉強をしていて衛生状態はいい」というコメントがそのまま載っている。

日本の総合衛生管理製造過程ではこの監査体制、方法がはっきりせず、「時々行く」といったようになっていて、実際には保健所担当者は忙しくてなかなか行くことが出来ない状況になっていた。保健所担当者の情報も不足気味で、HACCPをしっかりと行っている工場には逆に保健所が現場状況を研究に行くことも多い、これはこれでとてもいいことなのだが、本来の監視が行き届かないのは困る。この解決方法は民間を活用することである、民間にはHACCPを知っている機関や人が増えてきつつあるし、保健所をやめた方でさらに食品衛生を行っていきたいという人も多い、こういった民間のパワーを使えばいいのだ、欧米ではそうしている。例えば厚生省が民間の監視者を「認定」し、保健所とその認定者が共同で監視に当たればいいのだ。農水省では「有機食品」の認定を、農水省が「認定者」を「認定」し、その認定者が実際の認定業務を行う方式だが、これと同じような考え方を取り入れたらいい。民間の認定者が一般的になれば認定費も競争で安くなることだろう。

HACCPは「もの」ではなく「方法」で、HACCP方式という「方法」をバックアップするものがHACCP対応の「もの」になる

「HACCPは金がかかる」と勘違いしている人も多い。HACCPは機械や施設設備といったものがやるのではなく、安全な製品を作るための「方法」である。HACCPを行うために特別な施設設備がいるかというとそうではない、基本的にはそれまでの施設設備をそのまま使って行うことが出来る、これは厚生省が発表している文書のあちこちに記されている。

今まで生産を行ってきた工場でHACCPの構築を始め出して、交差汚染が起こりそうな場所を発見した場合、これを解決するためにレイアウトや製造ラインの導線を移動して解決する方法がある。生産機械が近すぎて、1つの機械の洗浄をすると隣の動いている機械に洗浄液が飛び散る心配があるならば、機械を離せるなら離せばいい、そんな場所的な余裕がなければパーティションを間に持ってきて隣にかからないようにして洗浄すればいい、パーティションを1つ買えばそれをあちこちに移動して使うことが出来る。工夫をすることで金をかけずにHACCP式衛生管理を行うことが出来るのである。

では一般によく言う「HACCP対応」の機器、システム、施設設備とは何なのか。これらはHACCP方式をよりやりやすくバックアップする「もの」である。例えば工場がかなり老朽化しているので、この機会に大改装なり新築なりするのならば、最初からHACCP式の考え方を取り入れたほうがいい。床は堅牢で汚れが付きにくく清掃がしやすいものにし、空調はゾーニングゾーンごとに温度や気圧をコントロールしたものにし、機器は洗浄がしやすいものにする、こういったことで衛生的な工場にすれば、清掃がやりやすくなり、衛生管理とHACCPの実行が効果的になる。消毒システムでも、清掃しないでいきなり消毒しても意味がない、清掃してから適正な消毒を行うことによって、「方法」とそれをバックアップする「もの」が活きるのである。HACCP方式という「方法」をバックアップするものがHACCP対応の「もの」になるのである。
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