HACCP解説記事 日刊工業新聞 00/04

2013/05/19 21:38 に 松本リサ が投稿   [ 2013/05/19 21:43 に更新しました ]
日本の総合衛生管理製造過程(以後「マル総」と表現)は、まず食品工場の衛生管理を強化して、それを土台としてHACCPを構築するように構成をしてある。HACCPは何かというと、PP(Prerequisite Programs = 一般的衛生管理)で、衛生的な工場という土台をしっかりと作ったうえで、今度はさらに製造する製品ごとに、どのように製造したら安全にできるかを行なうことになるのである。今年に入りCCPをさらに絞り込み、PPを強化する方向になってきた。厚生省の承認対象になっていない食品でも、自主的にHACCPを構築することによって、商品力を強化でき、売れてもうかることが出来る。しかも、構築過程で効果が出てくるものなのである。

HACCPとマル総

この2つは、どう違うのか?という質問をよく受ける。図表-マル総とHACCP.は、この関係を表したものである。全体がマル総なのだが、HACCPは上の部分で、下半分はPPである。PPというのは、食品を製造する施設設備を衛生的に、安全に食品を製造できるようにすることである。項目としてあげられているのは10あるのだが、簡単に言えば、建物、設備機器、環境などを衛生的にすることである。このためにPPは、あらゆる食品を製造する工場全てに当てはまることになる。ハム、ソーセージを製造している工場でも、清涼飲料水を製造している工場でも、衛生的な工場にするための方法は共通になる。

PPをバックアップするものとして、GMP Good Manufacturing Practice 適性製造基準とSSOP Sanitation Standard Operation Procedure 衛生標準作業手順書がある。GMPは製品を製造するための基準で、SSOPはサニテーションの方法である。PPを構築するためには、この製造基準とサニテーションがしっかりとしていなければうまくいかない。

PPを土台にHACCPを構築する

さて、マル総の中身は、PPを土台にして、その上にHACCP本体が乗っている形である。衛生的な工場がまず無ければ、いくらHACCPをやっても意味がないからである。不衛生な工場でHACCPを行なえるわけはない。では、欧米ではどうなっているかなのだが、PPは常識として構築されており、これを元にHACCPを行なってる。PPというのは、欧米では非常に厳しいもので、例えば大型の食肉加工施設では政府の検査官が終日その工場に張り付いていて、少しで問題があるとすぐに指摘されるし、重大な問題が発見されたら、その場で操業を停止されることもある。日本で考えるならば、保健所の衛生監視員が、いつも工場にいることになる。

厚生省や保健所の担当者に、承認のために監査で、特に重点的に見るところはどこかと質問をすると、当然のごとく「PP」という答えが返ってくる。したがって、構築のステップとしては、まずPPを行ない、その後HACCP本体を行なうことが良い手順になる。

最近のCCPの数は一ヶ所に

HACCPのCCPは、その製品を生産する際に、危害を十分に絞り込むことが出来る部分で、例えば加熱調理工程である。中心温度を75℃にすることで、完全に殺菌できるので、ここに集中して注意し、監視をすることで、効果的に安全にできるからである。だから「重要」な「管理点」と訳されているのだ。以前、このCCPは「6ヶ所以内」とされていたが、3年ほど前から「5ヶ所以内」とされてきた。数を少なくすることによって注意する点を絞り込んで徹底する、という考え方だ。これよりも多くなってしまっても、それはPPで管理する、という考え方だ。

このCCPの数が、FDA(米国食品医薬品局)では今年に入ってから「一つ以上あってもいい」という考え方にさらに変わってきた。これを受けてつい最近のマル総の承認も変わってきた。例えば牛乳では昨年の承認までは3ヶ所だったものが、今年に入ってからは「殺菌」工程の1ヶ所になってきたのである。後の2ヶ所はPPである。つまり、CCPはさらに絞り込み、PPを強化する傾向になってきたのである。図表-牛乳製造でのCCPの変化.参照

構築のステップ

図表.FDステップ33.は、弊社でHACCP構築コンサルティングするときに行なっているステップで「FD(フーズデザインの略)ステップ33」と呼んでおり、33のステップになっている。大きく3つに別れていて、最初は準備で、宣言書を出し、チームの編成、HACCPチームの勉強などを行い、次がPPである。そしてHACCP本体に入っていく構成である。表の上の右にあるのは、HACCPの7原則、12手順、そして厚生省のマル総の内容番号に対応しいる。PPの部分は「7」になっているが、土台となるPPの部分が7番目に記述されているところからこうなる。

これを行なうために、いったいどれくらい時間かかかるかなのだが、その企業の知識レベル、スタッフのパワーなどによってもちろん違ってくるが、今までの事例では2年ほどかかっているところが多い。これは日本でも米国でも大体同じである。そして、PPの部分までで1年ほどかかっている。PPに時間がかかりすぎると思われるかもしれないが、これを構築している過程で、HACCPの全体像が次第にわかってくるので、混乱無く進められることにもなる。

構築過程で効果が出てくるもの

さて、2年かかるといっても、2年後に始めてHACCPの効果が出てくるのかというとそんなことはない、HACCPは構築の過程で効果が現れるものである。例えば、PPの構築過程で、施設設備の衛生管理を行なうと、それまでサニテーション方法がしっかりと決まっていなかったのが、確実に行なうことが出来るようになり、衛生レベルが数値的にも見違えるように良くなる事例はいくらでもある。なぜかというと、マル総では「作業内容」「頻度」「担当者」「確認」「記録」の5項目を満足させなければならない。例えばまな板とナイフの衛生管理ならば、これが「作業内容」になり、次に「頻度」になる。今までは適当に洗っていたものが、頻度を決めなければならない。まな板とナイフは使い続けて行くと汚染が蓄積されてくるので、一般的な頻度は「2時間毎」と規定することになる。具体的に現場では2時間毎の休憩時間を区切りとしてサニテーションを行なうことが多い。さらに、野菜のカットなどで、2時間の中でカットをする食材が変わるような場合は「2時間毎+食材が変わるとき」となる。これで食材の変更による交差汚染が無くなる。次が「担当者」で、交替でもいいし、曜日で決めたり、あるいは専門の担当者を決めたり、どれでもいいが、誰が行うかをはっきりしなければならない。次は「確認」で、一般的には目視確認になるが、これはサニテーションを行なった以外の人が確認することになる。隣にある作業室どうしで確認をしたりする。最近はATP機器が低価格になったので、「週に一度ATP測定」とすることも出来、この数値も決めることになる。最後は「記録」で、各作業室ごとのチェックリストの形になることもあるし、その作業場所に設置したノートに書く場合もある。

これに、基本的なマニュアルを整備する段階で、それまで行なっていた方法でいいのかという見直しも行うことになる。今までよりも単純で、効果的な方法をこの段階で構築できることも多い。そして全体を監督する責任者も決めるのである。こういったことを、工場の全てにわたって構築していくことになるので、進めながら効果が具体的に出てくるのだ。もちろんHACCP本体に入ってからも同じである。工場の図面を作成している段階で動線とゾーニングの問題が発見され、とりあえず作業台の移動とパーティションおよび運営で直した、といったことが行われることになる。

HACCPの構築

マル総の対象になっている食品(図表-国別HACCP制度)については、厚生省からガイドラインが出ており、最寄りの保健所でもらうことが出来る。清涼飲料水については保健所への説明会が2000年の2月に終わり、各保健所からこれから案内が順次行くことになる。これ以外については、多くの各業界団体からガイドラインや基準がでている。工場には「おおむね3日間」のセミナー受けた者が必要になるが、このセミナーも多くなってきた。こういった情報を元にして、それぞれの工場が構築していくことになる。このとき、ガイドラインのほとんどコピーのような申請書を作っても、受理されない。工場それぞれに施設設備は違うし、製造システムも違うので、ガイドラインのまま出来るわけが無く、その工場で実際に運営できるものでなければならない。HACCPのステップでは「検証」があり、ある程度HACCPを運営していないと申請書が出来ないようになっていて、実際に運営した記録を添付することになる。

HACCPを行なうと、売れて儲かるようになる

厚生省の対象ではなく、業界団体もなく、あるいは活動をしていない食品ではどうするか。この場合は一般的な情報を元に、独自に構築することになる。とはいっても最近ではかなりの情報が出て来ているので、研究さえすれば中小企業でも必ず出来る。自分の食品は対象ではないから、やらなくてすむ、と考えるのもいいかもしれないが、HACCPを構築することは、製品の安全性が高まり、同時に品質も向上するので、商品力が高まることになり、売れるようになるのだ。さらに、無駄、無理、ミスなどが激減し、生産効率が上がることになる。1日1トン生産していたのが、1トン100になり、1トン200となっていくといったことになる、生産効率のアップと利益の向上である。最近は流通業界やフードサービス企業から食品メーカーに対してHACCPの実施をいわれることが急増し、取引基準になりつつあるのだが、これへの対応といった受け身的なことではなく、自主的にHACCPを行なうことによって企業力を高めることこそ、HACCPの最大のメリットなのである。


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