HACCPは問題解決の手法

2013/05/19 21:47 に 松本リサ が投稿
HACCPというのは、実は問題解決の実に素晴らしい手法なのである。なぜ問題解決手法なのかを、分かりやすい例としてハンバーグで解説してみる。

家庭で作るハンバーグを思い出して欲しい。挽き肉にタマネギや調味料、スパイスを混ぜ、形を作って焼く。ということになる。いつもやっている方法を考えるとこれだけである。しかし、ハンバーグは、原料が痛んでいたり、食中毒菌が入っているのに生焼けになってしまったために、食中毒になる可能性がある。家庭のキッチンでの問題などで、異物が入って、歯を欠いたり口の中を怪我することもあるかもしれない。このような問題を考えるときりがなく出てくる。心配の種は実はたくさんあるのである。家庭でのハンバーグならば家庭内だけですむかもしれないが、これをメーカーが大量に作って市場に出すとなると話は違ってくる。ハンバーグの製造工場では、HACCPを知る以前にも当然社会的な責任、メーカーとしての安全対策を行ってきてはいるのだが、衛生的に作る、異物が入らないようにする、温度管理に注意する、といった、どれも正しいことなのだが、今一ついつまでの心配の種が残っている、といった不安感があったはずである。しかし、どうしたらもっと完全に近くなるのかは、潜在的に欲してはいたのだが、その方法は現れていなかったのである。だからいつも安全対策は考えてはいるのだが、工場全体での有機的な結びつき、新しい表現を使うならばネットワーク的な安全対策にはなっていかなかったのである。

そこにHACCPが出てきた。HACCPではまず何をするかというと、今、自分の工場で作っているハンバーグは危害が考えられる、ということを最初に考えるのである。これは過去の考え方とある意味では全く逆である。それまでは「安全なハンバーグを作る」を目的に工場を動かしていた。それがHACCPの考え方は、目的はもちろん同じだが、最初に自分の作っている製品を疑う、今作っているハンバーグは危害があるのだ、というところから始まるわけである。これは昔から経験的に、職人的に仕事をしてきた人から見ると、とんでもない侮辱にも取られるかもしれない。今まで自分は何十年もの間の経験からいい製品を作ってきた、それなのに、まずそれを疑うのか、という怒りにもなる。HACCPをはじめるときに、古くからの工場だとよく出てくる問題でもある。しかし、これは理解してもらうしかない、理解してもらう方法は「昔と違って黴菌がどんどん強くなっているそうだ、安全な製品を出し続けるために、工場全体で考える新しい手法」ということで理解をしてくれることが多い。

さて、まず疑う、ということが、HACCPの「HA」で「危害分析」である。では、危害分析を行うにはどうしたらいいか。「危ないこと」を考えると、食中毒の元になる食中毒菌、怪我の元になる異物混入、農薬や化学物質の混入、さらにもっと細かいことになると、ダイオキシンだとか添加物、環境ホルモン、食品加工機械の潤滑油、と、きりがなくなることに気がつく。この段階ですでにパニックになりかかってしまうのではないだろうか。

HACCPでは、ここに至る前に、実は準備段階がしっかりと用意されている。それは、最初に製造工程を書く、整理するということである。ハンバーグを作るには、何も考えないと「いつものようにハンバーグを作る」となるが、HACCPでは今まで行ってきていた方法を、どのような手順、工程で製造しているのかを、細かく、各段階に分けて、それを記述する、所からはじめる。

「いつものように作っているハンバーグ」を記述すると、
  1. 挽き肉にタマネギや調味料、スパイスを混ぜ
  2. 形を作って焼く
ということになるのだが、これを工場で製造する場合、加熱調理してから急速凍結をして出荷をする製品では、以下のように記述できることになる。
1.原料の受け取り
2.原料の保管
以上の原料は、肉と、野菜、調味料などの副材料、パッケージ材料ごとに、受け取り方や、保管場所、方法(温度など)が違う。
3.冷凍原料の解凍(現実にはマイナス2〜3℃までの半解凍)
4.グラインダー(挽き肉を引く機械)で挽く
5.混合(ミキサーに投入する順番もある)
6.成形
7.調理
8.急速凍結
9.パッケージ
10.箱詰め
11.保管
12.出荷
という工程である。

これで、どのように作っているのかが明確になった。そして、この後、それぞれの工程一つ一つについて、どのような危害があるのかを考える、リストするのである。
どうだろうか、ただ漠然と「危ないこと」を考えるのではなく、作業を完全に分解して、それぞれについて考える、というよりも、こうなると「分析」と言っている意味がよくわかることになる。

練習として「1.原料の受け取り」工程を考えてみよう。サプライヤーから購入した原料は運送車で運ばれてくるが、これを受け入れ口で受け取ることになる。このときに、原料の日付、内容、荷崩れなどが内科などをチェックする「検収」になるのだが、危害がないかを調べるには、冷凍肉の原料だったら、温度が正しいかをチェックすることになる。具体的には温度を計測するのだが、多くのケースが一緒に運ばれてくるわけであるから、すべてを計測するのは事実上不可能である。そこで、どういうようにサンプルをピックアップするのかを決めておかなければならない。作業効率から考えて、一台のトラックから出てきた箱の一つを選んで、その箱に入っている複数の冷凍肉のパックの間に肉中温度計のセンサーの先を挟んで計り、何度以下なら合格、となるわけである。このときにただ合格ではなく、何度だったか、誰が計測をしたか、を記録することになる。HACCPの重要なところは記録の保管であるが、記録は、問題がなければ問題がなかったことを記録し、もし問題があった場合にはどうしたか、どのように問題を解決したかを記録することになる。

ブレーンダイナミックス「燃えよリーダー」1999/4月号
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