HACCPで、安全と品質をどう考えるか

2013/05/19 18:46 に 松本リサ が投稿
HACCPは安全性の追及である。米国でのHACCPの構築は「安全性に集中する」ということが徹底されている。品質は安全性の追及のあと、進める。これが基本的な考え方。では、日本では本当にこれでいいのか。

異物のことを考えてみよう。金属、石など、人が知らないで口に入れてしまうと怪我をする可能性が出てくるのは、危害である。しかし、髪の毛はどうだろうか?危害になることはまず無いだろう。しかし、クレームのトップレベルにあげられているものである。

さて、もし安全性に集中するならば、髪の毛は無視してもいいことになる。実際米国においてはこの考え方で進めているところがある。本当にそうかと先日行ったときに、病院給食の製造工場で聞いてみたら、そうだという。では、髪の毛のクレームはないのか?と聞いたら、何と無いというのだ。その工場は厨房内に我々を入れるのに着替えさせもしないで、外から来た靴のまま入れているので、びっくりしたのだが、その上髪の毛のクレームがないと聞いて、混乱した。ヒゲの立派な従業員もおり、マスクをしていない。しかし、よく聞いて著者なりに推定すると、顧客は髪の毛が入っていても気にしない、という国民性もあるのではないかと思う。

さて、日本ではどうしようか。髪の毛のクレームが多い、しかしHACCPは安全性である、だから髪の毛は危害リストに入れない、という事にしていいのだろうか。答えは「否」に決まっている。もし真っ正直に安全性だけをやるならばリストに入れなくてもいいのだが、とにかくクレームが多いのである。それならばHACCPを進めるときに、危害と一緒に扱い、クレームを低減させるために当然やるべきなのである。同じように虫や虫の破片の異物も同じである。虫なんか加熱してあればタンパク質だ、等という乱暴冗談も出て来るのだが、見て気持ちが悪く、これもクレームのトップクラスだから、HACCPの中にいれて、クレーム撲滅につなげる。

なぜこんなことをわざわざ書くのかというと、米国方式をそのまま日本のセミナーで行ない、その中で、髪の毛などの不快な異物は危害リストに入れなくていい、という講師がいるようで、受講者が混乱していることがあるからである。著者への素朴な質問でこれが時々あるからだ。

HACCPは安全性の追及だが、「不快な異物」を一緒に扱うことによって、このクレームを低減させることが出来る、これは「品質」の向上である、安全と一緒に品質も向上させることが出来るし、これを行なうことは本体の安全性をさらに高めることが出来る。なぜならば一般的衛生管理を向上させることは、工場全体の安全性を高めることになるからである。よって、HACCPを構築するときに、ある程度品質まで取り入れることは、マネージメントレベルからも、素晴らしいことになるのである。


肉、魚、総菜などの加熱調理で、「75℃」以上なら安全となるが、これ以上ならば何度でもいいかというと、安全性だけを追及するならばそうだ。しかし、オーバークッキングで炭になりかけたのはおいしくなく、そんなものばかり売っていたのではオーダーは来なくなってしまう。そこで今度は上限になり、どこを限界にするかになる。この上限は、味、品質になると同時に、商品力になる。おいしい料理は、安全な最低温度をクリアしたうえで、わずかにその上の温度で止めるということになる。

そこで、75〜78℃にしたとすると、基準範囲が狭すぎて、クリアが難しくなり、逸脱する製品だらけになってしまう。75〜95℃にすれば安定するかもしれないが、95℃近くなった製品はジューシーでなくなりおいしくない、重量も減るので不利になる。そこで、ウチのレベルならば75〜85℃にしよう、という思考で決めていくことになる。下の温度が安全性で、上の温度は品質、両方を同時に追及し、おいしく売れる製品にすることになる。調理システムと技術によって、この上限と範囲をどれぐらいにするかは、企業の理念だ、HACCPはマネージメントだというのは、こういったことからもよく理解できるだろう。

具体的にはどうなるかというと、まず、最低限界温度を決める、例えば75℃。次に品質と可能なレベルおよび企業理念から上限温度を決める、例えば85℃。これを逸脱すると修正処置になるので、その手前で運営基準を決めておく。一般的には2℃程度の「クッション」を設ける、例えば77〜85℃といった形である、上限が限界基準と同じだが、これは安全性には関係なく品質だから、運営基準を余裕のあるようにするためにこうすることがある。しかし、77〜83℃といった形で厳しくしてももちろんいい、企業理念からこれを設定する。ただ、技術的、安定性のレベルが低いのに厳しくすると「やり過ぎ、行き過ぎ」になり、効率が悪くなるので、注意して決める。そして、現場がより分かりやすくするために、単純に「80±3℃」という表現をするのもいい方法だ。

安全と品質はこういう形でとらえる。HACCPは安全性が高くなると同時に、品質も同時に向上させることが出来る。それが「売れてもうかる」ようになるのである。


「月刊HACCP」00/6月号
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