HACCPチームがすべてやってはいけない

2013/05/19 23:01 に 松本リサ が投稿
HACCPチームを作り、チームが文書作成からチェックリストの作成、記録、管理システムまで、全てを構築して、それを現場に下ろすとうまくいかないことが多い。現場が理解しないまま下ろされても、どうしてそれをやるのかが分からなければ、余分な仕事としていやがることになるからである。トップはHACCPを早く構築して、それを発表したり、製品の安全性と品質を高めたいわけだが、形だけ何とかなっても、現場に定着しないかぎり、「格好」だけのHACCPになってしまう。

そんなことは分かっている、ではどうしたらいいんだ、現場から自然にHACCPを構築し始めることなど出来るわけが無い、トップダウンで強力に進めるしかないのじゃないか?と考えるトップも多いと思う、これも事実である。余分な仕事が増えることになるわけで、これをやらせるためには、会社方針としてのトップダウンが良いのである。

かなりの数の部門に分かれているある大型厨房施設で、HACCPを構築することになった。チームを編成し、勉強を始めたのだが、どこから始めてよいのか、2年ほど具体的な行動に起こせずにいた。最も困ったのが、食品工場での情報はたくさんあるのだが、それを厨房でどう行なうかの情報がほとんどなかったからである。そんなところに「FDA提唱のリテイルHACCP」の情報が入り、これを元に進められそうだということになった。

HACCPの構築はトップ方針なのだが、HACCPの構築はトップダウン方式ではなく、HACCPチームと各部門の現場のリーダーで進めることにした。普通ならばHACCPチームのリーダーがイニシアチブをとり、HACCPチームメンバーで設計を行い、それを次第に現場に下ろす、という方式になり、これだとHACCPチームの構築スピードさえ早ければ、現場に下ろす時期も早まることになる。しかし、現場に下ろしても直ぐに動かない(分からない)、動けない(忙しくて)、やらない(反発する)という現象が出てしまえば、いくら設計が早く出来ても意味がないからである。

まず、厨房での動線とゾーニングの状態からはじめることにした。HACCPチームは施設全体の動線とゾーニングの状態を調べ、ハード的に直さなければならないところ、ソフトで対応するところなどの洗い出しをはじめた。しかし、数十ある各部門(店ごとに、あるいはパーティーやケータリングといった性格別に、また、洋食和食といった料理別に)の厨房における動線とゾーニングの調査は、HACCPチームがやるのではなく、各部門のリーダーが責任をもって行なうことにした。そのために、部門リーダーに対するセミナーを行い、考え方、進め方をまず教えたのである。

教えた内容は、なぜ動線とゾーニングが必要なのか、これがしっかりしていないと食中毒や異物混入の元になること、完全にはできないが、今の施設設備の中で出来るだけ対応できるようにすること、そして、まず図面を書き、その図面に食材から調理提供までの流れ(動線)を書き入れ、交差状態を見付けるところまで行なう、という所までまず教えた。これをHACCPチームがアドバイスだけをしながら、数ヶ月かけて進めていったところ、各部門での動線が如何にひどい状態だったかが浮かび上がってきた。このことは、無駄な動きが多かったことにもなるわけで、作業効率の問題も出てきたのである。進めている途中で、3部門ぐらいの小さいグループを作り、その中でお互いに調べ指摘しあう方式も取り入れた。自分一人で進めていくと孤独になり、やっていることが正しいことなのかどうかという不安が出てきて、そうなると作業が進まなくなるからである。これで。孤独無し・不安無し・仲間あり・アイデア出し合い、の状態ができ、HACCPチームの負担も減るというメリットも生まれた。

全部門の動線の状態が出て来たら、次に再びセミナーを行い、問題のある動線をどのように直したら良いのか、モデルシュミレーションを各グループごとに行ない、方法を教えた。直すためには、動線を一方向に流すようにレイアウトを変更し、その動線の中で最も清潔にしなければならないところを「清潔ゾーン」にし、その両側、食材下処理側と出来た料理を提供する側を「準清潔ゾーン」にし、さらにその両外側、食材保管側と提供に入る部分を「一般ゾーン」にする、これで、一般→準清潔→清潔→準清潔→一般、というゾーンに分けると、HACCPの考え方に基づいた厨房になることを教えた。そして、各部門とそれぞれの小グループごとに、今度は改善案まで進めたのである。

改善案が出揃ったところで、HACCPチームは各部門の改善案で良いかを検討し、ハード的に直す部分に対して予算を立てはじめたところで、今度は冷蔵庫内の食材配置のセミナーを行った。食品工場と違って厨房の場合は、肉、魚、青果、調味料などが入り交じって保管されているために、ここで交差汚染が起きてしまうからである。肉のドリップが下に置いてあるサラダ野菜の上にポトポト、といった恐ろしい状況もあるので、この考え方を教え、では自分の部門はどうなっているかを調べ、冷蔵庫内の保管レイアウトを安全にする活動である。スーパーマーケットのオープンケースは、しっかりとレイアウトがされていて、仕切り板で仕切ってあるが、あの状態をイメージして改善したら良い、と教えた。こうして、現場が考えで構築をするHACCPが始まってきたのである。

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