工場を衛生的に保つ基本 HACCPの基礎

2013/05/19 22:38 に 松本リサ が投稿
HACCPを導入するためには、大きく分けると2つのことを行うことになる。一つは、HACCPの土台となるGMP(工場内の衛生規範)とPP(一般的衛生管理プログラム)である。どちらかというとGMPの方は設備などのハード的な面、PPはソフト的な面になるのだが、重なる部分もあり、同じものとしたほうが混乱が無いだろう。さらに、この2つのことをサニテーションプログラムによって管理するのをSSOP(Sanitation Standard Operation Procedure)衛生標準作業手順書といい、いわば掃除の方法である。
これによって衛生的な工場とその管理を行うことになるが、さらに安全に製品を作るために、もう一つは製品ごとに安全に作るためのHACCP本体がある。GMPとPPだけでも衛生的な環境で製品を作ることになるのだが、さらに製品と製品ラインごとに徹底して安全管理をすることにより、より安全な製品を作るのがHACCPである。

さて、GMPとPPはHACCPの土台となるのだが、これには10項目の内容がある。それぞれに重要な意味を持つのだが、これを簡単にいうと、「工場を衛生的に保つ方法」になる。
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PP(一般的衛生管理要件)、GMP(適正製造基準)
1.施設設備の衛生管理
2.衛生教育
3.施設設備・機械器具の保持点検
4.ペストコントロール(そ族昆虫の防除)
5.使用水の衛生管理
6.排水および廃棄物の衛生管理
7.個人衛生(従事者の衛生管理)
8.原材料の受け入れ、食品等の衛生的取扱い
9.回収(リコールプログラム)(製品の回収プログラム)
10.製品等の試験検査に用いる機械器具の保守点検
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工場を衛生的に保つには、いくつかの原則的な考え方がある。「持ち込まない、増やさない、広げない、きちんと殺す」である。

1.危険なもの、汚染されたものを持ち込まない

これには原材料、人、環境の3点がある。原材料は、鮮度の落ちたもの、バクテリアが増殖をしているものなどで、仕入れ先に対してのHACCP導入要請も必要になる。先日「素朴で乱暴な質問」があったのだが、バクテリアの多い原材料を使っても、あとで加熱をすれば殺菌されるから、問題ないのではないか?というものだ。こういった考え方をするということに驚いたのだが、バクテリアが多い食材を工場内に入れたら、その食材が工場内を汚染するし、その食材そのものも腐敗が始まりつつあるわけだから、危険であり、それを安全レベルまで加熱殺菌をしても、味わうレベルに到底到達しないものになってしまう。工場内に入れる食材は、もっとも汚染の少ないものにしなければならない。

人の面は、なぜ衛生管理が必要かという教育面と、手の洗い方から始まる実行内容になる。教育面では、社員教育や、パート教育、新しく入ってきた人に対する教育と、現在作業をしている人に対する教育など、いくつかのレベルに分けて、効果的な内容で行う必要がある。一回だけではなく、定期的に、あらゆる面から繰り返して教えることによって、衛生意識を高めることが必要である。その上で今度は現場において、どのように衛生対策を実行するのか、マニュアルを通して行うことになる。

環境の面は、水、空気といった、工場に入る環境管理を行う。野菜や魚にはもともとO-157は居ないのになぜカイワレやイクラから出て来るのかであるが、工場で使う水に少しでもO-157がいれば、それが製品に付着をして増殖をすることになる。空気が汚染されていても問題につながる。ハエがO-157を運ぶデータも実際に出ている。牧場を歩いた履で食品工場に入れば、牛の糞に入っているO-157を工場内に持ち込む可能性が出てくる。この問題をなくすには、工場を外部と出来るだけ密閉した構造にして、入る環境をクリーンにする必要がある。もう一つは廃棄物で、製品製造の過程で出て来た廃棄物がいつまでも作業室内にあると、それが工場内を汚染することになる。廃棄物は定期的に時間を決めて作業室の外に出すようにしなければならない。

2.工場内でバクテリアを増殖させない

これは温度管理で、低温と高温の2面で行う。低温は、冷蔵庫や、作業場を低温に保つことで、バクテリアを増殖させないことである。冷蔵肉や魚の保管温度は0℃が基本で、これよりも温度が高くなるにしたがって、バクテリアの増殖スピードが速くなる。管理基準はせいぜい+の2℃以下でなければならない。外部から持ち込まれた肉や野菜が3℃以上になっているような状態だと、工場に入れてからの増殖スピードも早くなる。

殻付き卵はサルモネラの増殖を防ぐために冷蔵することが必要だが、経済効率から言って+の7℃かそれ以下、冷蔵が必要な野菜類は+の4〜6℃の管理で、それをカット野菜にして真空パックにしたら、+の2℃にするものが多い。

作業室内全体も冷やしておくことによって、内部のバクテリアの増殖を少なく出来る。米国の食肉カットセンターの作業室は4℃ぐらいの低温だが、ここまで日本の一般の食品工場の温度を下げるのは、作業員にとっても苦痛になるし、エネルギー効率からいっても大変だ。そこで、肉や野菜の下処理室など最も低温にする必要があるところは15℃以下、それ以外は18℃以下、緩い基準でいいところは20℃、といった形で、作業室によって決めるようにするといい。設備費なのだが、18℃以下の場合と20℃でいい場合とでは、空調設備のコストが全く違ってくるので、明確に分けて、無駄な経費を使わないように工夫をすることである。

高温は、調理加熱によって、75℃まで上げるなど、温度でバクテリアを死滅させることである。手を洗うには42℃程度の湯で洗うと、手の毛穴が開いて内部のバクテリアを外に流しだすことが出来るし、脂分も落ちやすくなる。ナイフの消毒には、83℃以上の湯にいれておくという規定は、食肉処理場の常識である、これをしていない食肉センターは成り立たない。

低温はバクテリアを増殖させないようにし、高温はバクテリアを殺すのである。

3.広げない

バクテリアがゼロの環境を食品工場に作ろうと思っても、絶対に出来ない、ある程度は居るのである。そこでそのバクテリアを拡散させないようにしなければならない。そのためには、食肉や魚などの食中毒菌を元々持っている食材と、野菜などの他の食材や工場内の施設設備を離して保管する、やたらに高危険食材を動かさない、閉じこめる、ということが必要になる。これが「動線」「ゾーニング」である。動線を複雑にしたり交差させないことで、交差汚染を防ぐ。危険が食材を他から隔離したり、使うときには最短の距離で加工場所に持っていくなどの工夫をすることである。

4.きちんと殺す

高温で殺すのが一つの方法で、これは対抗性を帯びないのだが、工場の施設設備を高温だけで管理するには無理がある、そこで最終的には薬品による消毒になるのだが、バクテリアに対抗性を持たせないためにも、化学的危害を防ぐ意味でも、薬品は出来るだけ少ないほうがいい。最近はオーガニック食品が流行っているのだが、これには化学薬品は殆ど使えない。

そこで重要なことは、まず、いらないものを捨てることである。「整理整頓」とよくいうが、「整理」は、いらないものを捨てることである。塵芥や、廃棄物、排水、工場内の汚れをまず十分に洗い流すのである。その後で最終的に適正レベルの殺菌剤を使うことにする。満足に洗い流しもしないで高レベルの殺菌をしておけばいい、といった考え方は間違えている。その後で、水分を工場内に残さないことである。水分はバクテリアを生存させる環境なのである。

「ドライキッチン」という言葉があるが、これがよく誤解されている。ドライキッチンは「乾燥厨房」ということになるが、乾燥状態にしておくのは、キッチンを使っているときと深夜使っていないときに、出来るだけ乾燥状態にしておくことである。サニテーションの時には湯を使って十分に洗い流し、サニテーションが終わったあとに乾燥状態に保つのである。これによってキッチンから汚れやバクテリアを洗い出し、その後乾燥させてバクテリアの繁殖を押さえるのである。サニテーション後、乾燥させるためにエアコンを低レベルで回しておくことはいい方法である。

バクテリアというのは、消毒液などの薬品を使いすぎると、変異によって耐性を持ち、ますます強力な薬品が必要になるので、注意をする必要がある。汚染された原料を持ち込まないとか、温度でバクテリアを制御する方法は、バクテリアが耐性を持たない方法である。サニテーションは、洗い落とし、洗い流し、排泄することだ。その後、適性レベルの殺菌を行うのである。そしてバクテリアの住み処になる水分を除去するのである。これらを行うのがSSOPである。


ブレーンダイナミックス「燃えよリーダー」1999/6月号より
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