GAP(適正農畜生産基準)

2013/05/06 16:06 に 松本リサ が投稿
土に力を付け、農薬の使用を少なくした農法で野菜を生産しているグループの方が「食品工場、流通、フードサービスといった販売先に対して、どのように安全性、安心感をアピールしたらいいのか?」という相談に来た。

答は「GAP」(Good Agricultural Practice)だ。

GAPについて、どの程度知られているか、150名ほどのセミナーで聞いてみたら、知っていると手を挙げた人は数名だった。まあしかし、何となく知っている人は多分もっと多いはずだ。

食品工場における安全な生産の方法はHACCPだが、HACCPの土台となる製造環境をきれいにする、ゴミ、埃、細菌を出来るだけ減少させるために清掃洗浄をするのは一般的衛生管理だ。

一般的衛生管理はGMP(Good Manufacturing Practice)で「適性工場製造基準」というように訳されている。いわゆる「5S」だ。これで出来るだけきれいな製造環境を造り、これでも残っている可能性のある危害をHACCPで除去する。きれいな製造環境で減少、そしてHACCPで除去、という方法だ。

これに対して、農畜産業では、食品工場でのHACCPに相当するのが無い。食品製造では加熱殺菌で危害食中毒菌を殺菌するという「とどめ」を刺す工程があるが、牛、豚、鶏、青果、穀物などの生産では、この工程は出来ない、HACCPが出来ない、とどめが刺せない。

そこで農畜産では食品工場での一般的衛生管理に相当する「GAP」で安全を確保する方法が採られている。水産の養殖も同じだ。サーモンの養殖などでは、投餌量、水温、増体率、死亡率、歩留まり等まで管理できる。生産効率のアップにまでつなげられる。

GAPは「適性農畜産生産基準」といったような訳になっている。生産場所や生産方法、生産で使った薬剤や飼料などの安全性の確保や確認をする。

農林水産省生産局生産技術課から2008年に「GAP手法導入マニュアル」が出されており、同省のホームページに事例と共にアップされている。概略は、

1.生産は一戸の農家では出来ない。農薬の拡散などの問題があるからだ。そのため、地域全体で行う必要があるので「産地の合意形成」をまず行う。どうして行う必要があるのか、方法等の勉強会を地域で行う。

2.地域で行う体制を整え、リーダーシップを取るチーム、いわばプロジェクトチームを作る。「産地の体制整備」をする。

3.生産する農畜産物によって実施すること、点検することが違う。酪農と肉牛生産では違うし、路地栽培とハウス栽培でも違う。そこで「対象農産物の確認」を行う、あるいは絞り込む。

4.生産する場所の準備から最終までの生産工程を整理する。いわゆるフローチャートになる。各工程にどのような危害があるか、確認した方がよいことは何か、に進めるための元になる。「生産工程の確認」だ。

5.各工程でどのような危害があるのかを分析確認する。HACCPでいう危害分析になる。「危害要因の確認」になる。

6.それぞれの危害をどう防止するかを検討する。「対策方法の検討」

7.チェックシートを作成して、対策を確実にする。

そして実施を始めるが、実施しながら、問題点が出て来るので、改善しながら継続維持させていく。

というのが概要で、食品工場でいえば、HACCPの工程管理を一般的衛生管理で行い、 ISOのマネジメントシステム、PDCAの考え方を導入したものになっている。

今までの一般的な生産は、出来上がった生産物のほんの一部を検査することだった。一部では確認が出来ないので、広範囲に検査をしようとすれば、例えば残留農薬の検査件数を多くすれば、大変な費用がかかる。農薬だけで約500種類あるといわれているのだから。

しかし、生産の工程管理、各工程での作業の安全性を確認し、点検、記録をすれば、広範囲に安全を確認できるし、検査も最低限でいい。どこの工程で、どの農薬を、どれだけ使ったかを管理確認記録すれば、使った農薬だけがわかり、その他の農薬は使わなかったことが証明されるので、検査は不要になる。

確認、点検、記録には、費用はかからない。

つまり、安全性だけでなく、コストダウンにもなるのだ。

もし問題が起こったらどうなるか。

これもHACCPと同じで、工程での記録が出来ているので、原因が生産工程のどこにあったのかを明らかにすることが出来る。さらにいえば、何らかの農薬が流通販売段階のどこかの検査で発見された場合、その原因が生産段階ではない、という証明も出来ることになるのだ。

ヨーロッパで行われているGAPは「ユーロGAP」と呼ばれていて、特に食品工場ではGAPで生産された農畜産物を購入するのは、安全な食品を製造する上での重要な要件になってきている。

日本の食品メーカーでは農畜産食材を購入する際、購入原材料の安全確認という形で行い始めている。栽培履歴、農薬使用記録といったものだ。これらはGAPなのだ。

従って、食品加工でも、流通小売りでも、フードサービスでも、購入する農畜産養殖素材の安全確認はこれからGAPで行うようになる。

農畜産や養殖側からいえば、GAPで管理することは、安全な生産の実施、資材薬剤の使いすぎの問題解決、生産効率のアップ等と、販売先に対してはその確認、証明も一緒に出来ることになる。

GAPの実施は、グループの組み方、その中での勉強会、そしてプロジェクトチームの編成といったところから始める、というと難しそうだが、そうではない、もっと簡単なレベルから始めることも出来る。

「野帳」と読んでいるところもあるが、使った農薬、実施した作業などを、カレンダーにメモしたり、ノートに日記のように付けている農家があるが、これで十分にGAPの初歩段階なのだ。「栽培日記」からGAPは始めればよい。

GAPで生産し、加工を工場の一般的衛生管理とHACCPで行うことで、安全なフードチェーンがつながることになる。そしてGAPをやるところは偽装しないだろう。
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