7原則から教えてはいけない

2013/04/13 16:39 に 松本リサ が投稿
HACCPの講習会で
「ネズミの死骸の危害分類は?」
という質問が来たという。

「HACCPの原則1:各工程のすべての危害をリストアップして評価し、危害の管理方法を検討」

HACCPの危害は、物理的危害、生物的危害、化学的危害の、3つに分ける方法で行なっている所も多い。それならネズミの死骸はどれになるか? という質問だ。
質問を受けた方は、余りにも異常な質問なので、困ったようだ。
ネズミは死んでいるから生物的では無い、いや、死骸には蛆が出て子蝿になるし細菌も増殖するから生物的危害かな?
化学物質では無いから化学では無い、死骸は大きいから物理的では無い、いや、歯が折れて製品に入ったら物理的危害かな?

これは、危害分析の段階では無く、HACCPの土台となる一般的衛生管理の問題だ。

「5S」「7S」とも言われているが、整理、整頓、清掃、洗浄といった、製造環境をきれいにし、危害(ハザード)の元であるゴミ、埃、異物、細菌、ウイルスを出来るだけ少なくし、化学物質が入り込んだり残留しないようにする。
こうすれば危害の元はかなり少なくなる。これをしっかり行なってから、HACCPの構築に入らなければならない。危害の元がたくさんある製造環境でいくらHACCPの7原則12ステップをやっても意味は無い。

毛髪や虫が混入したら、いくら加熱殺菌をしても金属探知機を通しても無くならない。危害になる化学物質が入ってしまったら、一般的な製造方法での発見は困難だ。
ネズミの死骸があるということは、生きているネズミがチョロチョロ居るということで、それなら細菌はいくらでも居る。死骸があったということは、掃除していないことになる。一般的衛生管理の防虫防鼠も清掃も出来ていないわけだ。
ネズミの死骸などという大型のものが発見されて危害分析どうしようという前に、こんな状態ならネズミより小さい虫はたっぷりいるだろうし、目に見えない細菌はとんでもない状態ではないかと推測される。
こんなことを真面目に書いている著者自身が憂鬱になるが、このような状態で食品を製造している工場が成り立っているというのがむなしい。

以降はごく短い短編小説である。
ある食品工場では異物混入クレームや返品といった問題を抱えていた。
今まで長い間放っておいたが、じわじわと取引先が減ってきている原因はどうもこのしょっちゅうあるクレームに起因しているのではないかとトップは推測した。
そこでHACCPの講習会の案内が今まで何回も来ていたので、1回担当者を参加させた。
講習会に出された担当者は、まず「一般的衛生管理は大事ですからしっかりやりましょう」というイントロの解説を聞いたあと、HACCPの12ステップ7原則になり、演習に入った。12ステップの5までは7原則に入る準備段階で、フローチャートまで作成した。この後原則1の危害分析になった。
危害分析で製造工程の一つ一つで考えられる危害を、生物、物理、化学で分けてリストアップして行く中で、以前ネズミの死骸が見付かってパートのおばさんが叫んでいたことがあったのを思い出した。
「ネズミは時々見かけるから、それが工場の隅でひっそりと死んでいたんだろう、かわいそうに」と冗談で返しておいたが、はて、このネズミの死骸はどれに入るんだろうか? 聞いてみようか……
短編小説お終い。

掃除してきれいにしてから、HACCPに入る。掃除が衛生活動の8割を占める。きれいになれば危害の元が少なくなる。更に確実にするために、とどめを刺す場所と、気を付けることを、科学的に分析するのがHACCPだ。

欧米のHACCP講習会のプログラムでも一般的衛生管理が大事だというイントロはあり、時間は短い。HACCPの構築プログラムを教える方に時間を使いたいからだ。
但し、一般的衛生管理については別にしっかりした講習プログラムがあるし、米国のフードサービスでは3日ほどのセミナーを受けてテストに合格しなければならない。

米国では飲食店に保健所又は委託された専門監視者が予告せずにいきなり年2回訪れ、問題を指摘改善指導し、ニューヨークやカリフォルニア州などでは点数を付け、ABCのクラス分けをした大きなラベルを店頭に貼り付け、ホームページにその詳細を公表するといううるささだ。
参考<http://www.foodesign.net/sfoaudit-kaisetu.htm>

ニュージーランドでは保健所の担当者が輸出向け食品工場へ週に2回チェックに来るが、訪問曜日と時間はその都度変えるし、大きな工場では2時間程度の時間で詳しくチェック出来ないので、工場内を6つのブロックに分けておき、工場に到着したらサイコロを転がして出た数字のブロックを集中的にチェックする。

一般的衛生管理はどういうものか、どうやってやるのか、重要性をまず教えなければならない、実施しなければならない。これが大分出来てから、初めてHACCPに入らなければならない。自動車運転免許でも、教習所内で動かせるようにならなければ路上教習に出られない。講習の費用と効果のパフォーマンスを良くするために、一般的衛生管理をしっかり理解しよう、させよう。
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