HACCPは「箱物」という大誤解

2012/12/27 22:04 に 松本リサ が投稿   [ 2012/12/27 22:04 に 加藤光夫 さんが更新しました ]
あるISOの認証機関の担当者が、ある魚工場の社長と、HACCPとISOについて話をした。 
この魚工場は増設を重ねていて、作業動線やゾーニングに多少問題があるので、交差汚染が無いように工夫をして運営をしている。

魚工場の社長は「HACCPをやろうとしている」という話をしたら、ISO氏は「HACCPは箱物だから、出来ない」と言った。
箱物とは、施設設備の意味で、これが出来ていないとHACCPは出来ない、という意味だ。
 こんなことを、ISO認証機関の人が言っているとは、驚く。

HACCPは、モノでは無く、方法だ。
施設設備が古くても、危害が出ないように、清掃、洗浄、消毒、個人衛生、教育、ルール、といった「方法」で、危害が出ないようにすればよい。
これが、一般的衛生管理を土台としたHACCPの構築だ。

HACCPは、施設設備が古くても出来る。

交差汚染の危険があったら、パーティションを置いたり、ビニールカーテンをしたり、従事者の通るルートを指定したり、原料資材の置き場を工夫して問題が起こらないようにすればいい。
危害を従事者が工場内に入れないように、手洗いや粘着ローラーを使うようにもする。 これらが一般的衛生管理だ。
こうすると、工場内の異物や細菌が少なくなるので、かなり安全にすることが出来る。 しかし、ゼロには出来ない。
 そこで、わずかに残る可能性がある異物や細菌を除去する為に、金属探知器を通したり、加熱殺菌をする。この「とどめ」がHACCPだ。

一般的衛生管理で「製造環境から危害を減少」させ、そしてHACCPで「食品から危害を除去」することが、HACCPシステムの構築だ。

だから、古い工場でもHACCPは出来る。 箱物では無い。

そもそもISO22000自体がHACCPを土台としたシステム規格だ。
製品規格なら製造設備で安全な製品を造るというハード面が出てくることもあるが、システム規格は、今製造している製品を、マネジメント、運営で更に安全にするためのものだ。
だから、ISO22000の審査で、ハード面で不完全だから、新しい設備を入れなければならないといった不適合は一般的に出てくるものではない。

さらにISO氏は「ISO9001をとったらいいですよ」というので、
社長は聞いた「ウチは食品会社だから、ISO22000じゃないんですか?」
そしたらISO氏は「ISO22000はHACCPをやらないとダメだから、出来ない」
要するに「HACCPは箱物で、お宅の工場は古く、出来ないから、ISO22000は出来ない」と言うことになる。「だから9001をやりなさい」となるわけだ。
こういうのをトンチンカンという。

HACCP抜きの9001を食品工場がやる意味があるのか。

HACCPで製品を安全にしたうえ、運営と活動で安全性を強化する為にISO22000を行なうのだ。
その上で、更に、おいしさ、デザイン、機能といった「品質」を良くする、あるいは維持する為に、必要、あるいは要求されるなら、品質マネジメントシステムのISO9001を追加したり、ISO9001の中にHACCPを入れることも出来る。

最低レベルの「安全」の為にHACCPあるいはこれを基本としたISO22000、更にもっと広く「品質」まで拡大するならISO9001、という言い方にもなる。

この話を私から聞いて、社長はよく理解してくれた。
「今まで、HACCPは箱物だと思ってました。今のウチの工場で出来ることが分かり、ほっとしました」

この魚加工工場は、これから、一般的衛生管理とHACCPを構築する。
 出来て安全な製品を造るための運営が安定してきたら、ISO22000の規格を利用して、マネジメントと監査の仕組みを作って更に強化する。

このISO氏のような人は、この人だけと考えたいが、果たしてそうなのか不安だ。HACCPは箱物だと本当に考えているならとんでもないことだし、箱物だといって9001をやらそうという策略なら更に問題だ。

似たような問題も他にも出て来ている。 
東日本のある食品工場新設計画で、HACCP手法支援法の高度化基準の審査でもめている。それは、従事者が外から工場内に入り、更衣室に行くまでの間に、エアシャワーを通さなければならない、といっている件だ。
作業場に入る前にエアシャワー、では無い。工場の外玄関から更衣室の間にエアシャワーを設置しろ、と言っているのだ。

もちろん、サニタリールームにはエアシャワーは設置してある。その上で、玄関と更衣室の間にも入れろ、といっているのだ。 外から入ってくる埃やゴミを出来るだけ少なくする、という意味はよく分かる。しかし、工場側が自主的に設置するのならともかく、これでないと認定出来ないというわけだ。

高度化基準を満たす為には費用が必要だから融資が伴うようになっていることは分かるが、これでは過剰投資だ。

同じエアシャワーの問題が別の面でもある。 サニタリールームで、当初の設計では、粘着ローラー→エアシャワー→手洗い、になっている所を「エアシャワーの前に手洗いにしなければ認証出来ない」という。
エアシャワーと手洗いの関係は、どちらが先になっても、効果はある。そこの場所の状態でどちらでもいいと思う。どちらかというと、エアシャワーで作業衣の埃などが手に埃が付着する可能性もある。それなら、エアシャワーのあとに手洗いの方が効果があるのでは無いだろうか。

まあ、この場合は、設計の変更だけでいいが、もし出来てしまってからこんなことを言われたら、無駄な費用がかかることになる。
このHACCP手法支援法審査機関とのミーティングは、審査側が事務局だけ出て来ていて、実際にこの申請に対して「指示」をしている「上の人」は、ミーティングには出てこない。「直接説明させて欲しい」と言っても「ダメだ」というのだ。

分からない人が中間に立って「上の人がこういっているからそうでなければならない」では、考え方も話し合えないでは無いか。

誤解、不理解、コミュニケーション不在の状態だ。 ISOでも、HACCP手法支援法でも、有意義な審査に、冷静に、科学的に、現場的に、柔軟な姿勢でやってほしい。
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