HACCPを導入するに当たっての10ポイント(登録07.4.11)
1.トップ宣言、目的を全員が明確にする

ある総菜工場では毛髪混入クレームが毎月10件ほどあり、慢性化していた。かなり大量の製品数を出していたので、この程度は仕方がないだろうということで、あきらめていた。しかし、クレームに対応する手間と時間はかなりのものであった。そんなところに2000年夏からの食品への異物混入問題がマスコミにクローズアップされ、このまま放置しておくと取引先からの要請が次第に要望になりさらに行けば納入停止問題にまで発展しかねない状況になってきた。そこで対応策としてHACCPを導入しようということになったのだが、勉強を始めてみたらHACCPの土台となる一般的衛生管理を構築することが異物混入対策に有効だとわかってきた。
そこで、一般社員やパートアルバイトには分かりにくい「HACCP」という言葉を使わないで、「毛髪混入激減」という分かりやすい言葉を示して始めることにした。今までのクレームの実態を発表し、信用を得、取引を無くさずに存続するためには、毛髪混入クレームを無くすことが今最も重要なことだと、全員に理解をさせた。入っていた毛髪とその状況も知らしめた。
一般的衛生管理のステップを1年間かけて行なうことにし、毎月進行状況を発表することにした。目的が明確になり、どの程度まで進んでいるかがわかることで、意識が高まった。一年後、毛髪混入クレームを激減させることに成功した。そして大きな次のステップ「HACCP」構築の宣言をしたのである。

2.失敗するチーム、成功するチーム

ある大型の食品工場でHACCPを構築することになり、12ステップの最初である「チームの編成」を行なった。チームリーダーは専務、これに、品質管理室長、工場長、工務部長、お客様相談室長、そして社長がオブザーバーとして加わった。厚生省監修のガイドブックや業界からの資料を参考にして文書を作成し、衛生管理を始めとするチェックリストまで作成できたので、現場に降ろし、運営を始めるところまで行った。しかし、現場の反応は、「なぜそんなことをいきなり始めるのか?」「どうしてマニュアルが必要なのか? かえって時間がかかる」「清掃した後、なぜチェックリストをわざわざ付けるのか?」「どうして手間を増やすのか?」という反応で、動き出す気配はなかった。そして、クレームが減ることにはつながらなかった。現場の反発を買っただけであった。
なぜこうなってしまったかというと、HACCPチームに現場の人が一人もいなかったからである。HACCPと一般的衛生管理は現場で行なう、清掃洗浄は現場で行なう、製造機器のメンテナンスも現場、温度管理とチェックも現場、CCPの温度チェックも現場、金属探知器の管理も現場、ほとんどを現場で行なうのに、現場担当者が一人も居ないまま、管理者レベルでHACCPを形だけ構築してから現場に降ろしてもうまくいくわけはない。なぜHACCPを行なうのかを理解していないからだ。
この間違いは「HACCPを構築できる人間は現場にいそうにないから、管理者だけでやろう」という考え方もあるのかもしれない。しかしこれは間違いである。
成功するチームを編成するためには、現場のリーダーを入れなければならない。食品工場の組織というのは一般的に、原材料と製品の管理部門、原材料を一時処理する部門、調理加工する部門、パッケージをする部門、といった部署に別れている。部署には班長がいる。その班長をHACCPチームに入れなければならない。原材料と製品管理班長、一時処理室班長、調理室班長、パッケージ室班長、これで4名になり、これに、工場長、品質管理室長、といった管理者が加わることが重要なのである。班長が現場との太いパイプになり、浸透していくのである。

3.施設設備重視にしない

HACCPは「モノ」ではなく「方法」である。いくら立派な施設設備でも、運営が悪ければ事故は起こる。数年前米国のハンバーガーパティ製造工場「ハドソンフーズ」がO-157入りの製品を出荷し、史上まれに見る大量の回収をして工場は閉鎖になった事故を調査した元政府側検査官の話を聞いたことがある。その担当者は事故が起こった後すぐに工場に入ったのだが、最新の設備が入っている工場だということに非常に驚いたという。どうしてこんなきれいで近代的な工場が事故を起こしたのか?という疑問が最初に出たという。この検査官の話骨子は以下の通り、
1. この工場は、非常に近代的で、肉に人の手が直接触る部分がほとんど無く、コンピュータ管理されている、設備としては最高度の工場だった。
2. 原材料にO-157が入っていた。
3. この原材料を使ってパティを製造していたが、問題はリワークを行なったことにあった。
4. リワークとは、一日の作業が終わったとき、製造できなかった残りの原材料、あるいは途中まで製造しながら、最後まで完成できなかった原材料を、保管しておき、翌日それを使って製造をすること。
5. この事故では、リワークした原材料に入っていたO-157が増殖をし、それを使ったパティが汚染された。
という状況だったのだが、他のルートからの情報も合わせると、使用した原材料、作業などの記録がいい加減だったために、どこまでリワークしていたのかが不明で、大量の回収になってしまった。また、この工場は以前にも運営で問題があったことがわかっている。設備が良くても運営が悪ければ事故につながるのである。
HACCPは基本的にはその工場の今までの施設設備のまま行なうことが出来る。ただし、機械に不良があったり、壁に穴が空いていて虫が入ってくるなど、問題があったらそれは直さなければならない。こういった問題が無ければ、古い工場でも関係なくHACCPは構築できるのである。動線やゾーニングといった問題点を直すのは、移動や時差を設けるなどの工夫も合わせて行なうようにすればよい。そして、問題を起こさない工場に直していくのである。ハード面とソフト面の両面からの工夫とアイデアで進化していくものなのである。

4.一般的衛生管理が基礎、クレームのほとんどはこれ

虫の混入が起こるのは虫が工場に入り込んでいるからだ。建物にすき間があって放置しておけば虫が入ってくる、これは一般的衛生管理の項目の3番で、施設のメンテナンスに問題があることになる。虫は人やモノと一緒にも入ってきてしまう、100%プロテクトするのは困難だ、入ってきた虫は工場内の清掃状態が悪いと住み着き、小蝿の発生などにつながっていく。清掃洗浄をきちんとしないとこうなってしまう、一般的衛生管理の項目1である。排水や廃棄物の管理がいい加減でも虫の内部発生につながる、これは項目6である。虫がいるのを放置しておけばこれもクレームになっていく、駆除しなければならない、項目4である。髪の毛やゴミは従業員が持ち込むが、持ち込まないようにするには項目7を行なわなければならない。食中毒菌を持ち込まないようにするのもこの項目である。異物が入ってしまった食品をいくら加熱しても、食中毒菌は死ぬが、異物はそのまま残り、クレームになってしまう。大阪の牛乳大事件の原因は原材料のパウダーミルクに入っていたエンテロトキシンで、これは細菌ではなく毒素だから、HACCPで130℃で3秒加熱しても無くならない、30分加熱してもなくならないのだから。こういったことで、問題の多くは一般的衛生管理を構築することで無くすことが出来るのである。

PP(一般的衛生管理)を簡単に言うと
  一般的衛生管理の内容 簡単に言うと
1 施設設備の衛生管理 施設設備の掃除の仕方
2 衛生教育 なぜきれいにするのが大切かを全員に教える
3 施設設備・機械器具の保持点検 料理道具を使いやすく、壊れないようにする
4 ペストコントロール(そ族昆虫の防除) 虫やネズミがこないようにする
5 使用水の衛生管理 きれいな水を使おう
6 排水および廃棄物の衛生管理 汚水やごみは早く捨てる
7 個人衛生(従事者の衛生管理) キッチンに入る人はきれいに、健康に
8 原材料の受け入れ、食品等の衛生的取扱い 食材をきれいに扱い、バイキンを増やさない
9 回収(製品の回収プログラム) クレームや製品への疑問が来たときに、すぐに対処する
10 製品等の試験検査に用いる機械器具の保守点検 温度計やバイキンをチェックする道具を正確に

食品事故と原因の元
製品 時期 危害、問題 原因、内容 総合衛生管理製造過程の該当項目 HACCP or 一般的衛生管理
牛乳 00/7 食中毒 エンテロトキシン 食品の衛生的取り扱い 一般的衛生管理(8)
牛乳 00/7 消毒薬のにおい サンテナーの洗浄不良 製造機器の衛生管理 一般的衛生管理(1)
牛乳 00/7 酸っぱい 小売店の温度管理不良 食品の衛生的取り扱い 一般的衛生管理(8)
カップ入りデザート 00/7 中身の漏れ ふたの接着不良 機械器具の保持点検 一般的衛生管理(3)
豆腐 00/7 異臭、腐臭 シール不良 機械器具の保持点検 一般的衛生管理(3)
栄養補助食品 00/7 銅線が混入 銅線が混入 機械器具の保持点検 一般的衛生管理(3)
スポーツドリンク 00/7 「さびくさい」 原材料の温度での変質 原材料の取り扱い 一般的衛生管理(8)
調理パン 00/7 カビ 原材料又は製品の保管不良 原材料と製品の取扱い 一般的衛生管理(1、8)
スパゲティ 00/7 カビ 原材料と製品の保管不良 食品の衛生的取り扱い 一般的衛生管理(8)
チーズ 00/7 プラスチック異物 ベルトコンベアーの一部が削られる 機械器具の保持点検 一般的衛生管理(3)
チーズケーキ 00/7 カビ コウジカビ菌 食品の衛生的取り扱い 一般的衛生管理(8)
トマトジュース 00/8 ハエの混入 コンベアの蓋の外れ 機械器具の保持点検 一般的衛生管理(3、4)

5.五項目が「しっかり」

「しっかり掃除しろ」ということはどういうことか?「汗と涙で」などと言うのは実に日本的でうれしいのだが、具体的どうしたら良いのかいい加減のところがある。「しっかり」ということは次の5項目が決まっているということである。
内容、頻度、担当、確認、記録
「内容」は、例えば「床清掃」や「冷蔵庫の清掃」といった、場所や機器を特定した具体的内容である。「温度計の校正」や「調理後の中心温度測定」といったHACCPのCCP関連事項も同じだ。「頻度」は、「床清掃」なら「毎日」、「冷蔵庫の清掃」なら「毎月」、「温度計の校正」も「毎月」、「調理後の中心温度測定」なら「30分ごと」もあろうし「ロット毎」の場合もあるだろう。頻度で大切なことは、適正な頻度を決めることである。天井の清掃を毎週行なう必要はないが、年に1値度は必要だろう。1時間毎で良いのを、5分毎では多すぎて効率が悪い。
「担当」は、実施する人は誰かを明確にすることで、当番であったり、その作業の専任者になる。「確認」は、実施した状況を、実施した人以外の人が確認することである。清掃を行なった人が自分で確認しても「○」に決まっているが、他の人が見たら「まだ汚い、×」になることも多いだろう。責任を明確にするためにも「担当」者と「確認」者は別でなければならない。記録は一連のことを記録することである。記録をすることで、実施したことが明確になり、問題があった場合の追跡が素早くなり、原因の突き止めが早く楽になる。
五項目を決めることは、総合衛生管理製造過程の申請書類のチェックリストにも明確になっていて、この五項目が抜けていたら、書類段階でダメになる。確実に実施するシステムが出来ていないのだから。

6.教育のための時間をつくる

衛生教育に最も時間と手間がかかる、これが基礎なのでおろそかにすると現場は動かない。認識することが推進の原動力なのだから、HACCPの運営は教育に始まり、教育で続けていくことになる。
教育で大切なポイントは、教育する時間を作ることである。時間は、まとめて何時間よりも、少しずつ定期的に行うほうが実行に結びついていく。まとめて教育されても覚えきれないからである。
ある魚介類加工工場では、毎週水曜日の昼食時間の後、1時から15分間を教育に当てている。昼休みが15分長くなっただけという感覚なので、作業に食い込んで問題になることはない。教育内容は一回に一つだけに絞り込んでいる。
一回のテーマの例は、
「食中毒の原因菌 黄色ブドウ球菌」「制服の保管場所について」「ギフト製品の積上げ」「床面への直置きの禁止と備品の整頓について」といったものである。大きなテーマではなく、身近なテーマを選んで、現場ですぐに実行できるものを積み重ねていく。教育した内容はA-5の用紙にイラストや写真などと一緒にまとめてあり、このシートを翌週の水曜日まで一週間、工場入り口に貼り、認識を確実にしている。
ある総菜工場では、毎日午後3時の休みの後、一分間を教育の時間に当てている。あるとき行ったら、手のスタンプ検査を行った後の結果を発表して、手洗いの不足している人の名前をあげて、注意を促していた。
まず時間を作り、定期の教育体制を作り、それから教育内容を決めていく。内容は身近なもの、すぐに実行できるもの、新聞のニュースから自社でも気をつけ無ければならないものなどを行なっていくとよい。

7.パレートの法則

別名「80対20の法則」とも呼ばれる。例えば、売り上げの80%はアイテムの20%があげている、20%のセールスマンが売り上げの80%をあげている、といった世の中の仕組みである。これはそのまま衛生管理に当てはまり、「クレームの80%は、20%の製造工程からでている」ということになる。毛髪混入クレーム撲滅の例では、漬物工場の毛髪混入クレームの90%が、たった一つの「漬け込み」の工程から出ていることが分析の結果わかったため、この工程における対策を徹底したことで成功した。作業帽をしっかりしたものにし、照明を明るくして発見しやすくし、漬け込みコンテナーを新しくし、この工程の作業者に認識をさせたのである。
HACCPのCCPも同じことで、5つ以内とされているCCPだが、最近の一般的な状況では2〜3ヶ所程度にし、そこに集中して管理を行なうことで、危害を防止する手法である。クレームを出している工程を見付け、そこでの対策を徹底することで、クレームの80%を減らすことが出来るわけである。

8.他の工場を見る

いろいろな食品工場で、どのように衛生管理をしているかを見ることで、大変な参考になる。著者のコンサルティングでは、グループ間でお互いの工場を視察し、指摘しあうプログラムが組まれており、これによって多くの工場を見ることが出来るので、構築の大きな参考になっている。一つのグループは全て異業種で構成するので、嫌がることはない。
普通は他の工場見学の機会はあまり無いのが現状だが、販売促進の目的で工場見学を行なっている工場は結構ある。日刊工業新聞社から「食品工場で学ぶ遊ぶ」と言う本が出ている(1300円)、これに数十の見学可能工場が紹介されている。こういった情報から、いくつかの工場を見るとよい。工場によっては小学校の子供たちと一緒になってしまう場合もあるが、見る目が衛生管理なので、気にしなければよい。案内者に立場を言うと仲間なので積極的に教えてくれることも多い。

9.どこで承認、認証を得るか

総合衛生管理製造過程での承認以外にいろいろな認証が始まっている。地方自治体での活動例としては計画中も含めて以下のようなものがある。

兵庫県 食品衛生管理プログラム認定制度
東京都 食品衛生自主管理認証制度
愛知県 愛知版HACCP認定制度
静岡県 ミニHACCP
北海道 道産食品独自認証制度
標津町 標津町HACCP推進連絡会議

国際規格では「 ISO9001:2000食品・飲料産業への適用に関する指標」として、ISO 15161:2001 (2001年11月、国際規格として正式発効)が発行された後、ISO22000という新規格が2004/末に発行予定になった。これは、ISO9001にHACCPを加えたもので、これが発行になったら、現在ISO9001の取得を考える場合、食品業だったらISO22000にすることになる。
ISO9001+HACCPは、いくつかのISO認証機関が独自に行なってきている。また、HACCP専門の認証機関もいくつかここ数年で出て来ている。
HACCPは「取得」するためだけに構築しても意味がなく、運営して、製品を安全かつ高品質にし、商品力を高めるというのが企業の目的なのだから、まずHACCPを運営することが第一だ。しかし「目的」を明確にすることで、構築を強力に推進することも出来るので、この仕組みを利用することも良いだろう。

10.文書は第三者に分かるように作る

HACCPの運営のためには監査が必要である。監査には内部監査と外部監査がある。外部監査を何らかの形で行なわないと、不正や間違いの原因になる。保健所や審査機関に提出するためだけでなく、内部でも理解しやすいように、マニュアルなどの文書類、チェックリスト類を作成する必要がある。「分かりやすい」ことはシンプルで効果的な運営の大きなパワーになる。このために、第三者が見てもわかる文書を作ることが必要である。


著作:株式会社 フーズデザイン 加藤光夫

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