有機飼育牛肉(オーガニックビーフ)

2013/05/25 17:07 に 松本リサ が投稿
外食への有機野菜の導入が急速に進んでいる。この流れがこれから牛肉にもやってくるだろう。

有機野菜の導入は、最初はスカイラークグループのジョナサンから始まった。有機野菜が顧客のニーズにあることは流通業を見れば明かであったが、外食においては、一部のメニューだけに「有機」をうたうのは、他のメニューの素材が「安全ではない」ということになるので、メニューへの導入は否定的だった。この心配は、全ての外食企業に共通のことであった。ジョナサンでも最初は顧客の反応を探るということだったと推測するのだが、テイクアウト用に冷凍のホウレンソウをき、顧客の反応がいいので、次に、レタス、トマトなどを使った「有機野菜のサラダ」のメニューに入れた。メニューの一部に「有機」の名前を入れることに対して、それまで心配をしていた心配は結局無く、その後ガストやスカイラークガーデンズにも「有機野菜」の導入が進んでいる。

有機飼育牛肉は米国で進んでいる。有機飼育は、広大な土地が必要である。土地であるが、それまで最低5年とか7年以上といった長い間、農薬や添加物などの化学系のものを一切使っていないことが条件になる。広い土地が必要だというのは、小さい土地だと、その敷地内がたとえクリーンだったとしても、周りで化学物を使っていたのでは、その影響を受けてしまうからである。山岳地帯の場合、山の上になければならない。山の下で有機飼育をやろうとしても、山の上で化学物を使っていたら、下に流れて来てしまうからである。

米国での有機飼育牛肉は他の牛肉と一緒で穀物肥育である。導入する仔牛は、有機飼育している牛肉からの自然繁殖か、仔牛を買う場合にも当然有機の仔牛である。更に、飼料、肥料も有機でなければならない。穀物肥育の場合、牧草に麦、トウモロコシなどの穀物を混ぜたものになる。仔牛から数カ月は牧草主体の飼料を与えるが、大きくなるにしたがって穀物の率を多くした飼料に段階的に変えていき、最終の出荷直前には、穀物の比率は80%以上にもなる。これだけでかなり高い飼料になるのだが、使う穀物が全て有機栽培ということは、更にコストがかかることになる。

米国での有名な有機飼育牛肉は「コールマン」である。コールマンのナチュラルビーフは、全米の自然食品を扱うスーパーや外食企業に使われている。日本にも数年前から輸入をされていて、小規模の量ながら、安定的な顧客を持っている。ナチュラルな食材を使うコンセプトの夕食宅配の「ヨシケイ」などにも流れていて人気の根強さがよくわかる。ステーキにもときどき使われるようだが、価格の関係で小間切れを使うメニューに主として使われているようである。

有機飼育牛肉の特徴は、安全性と美味しさである。しかし「価格の関係で、穀物肥育がなかなか使えない、しかし、有機飼育は使いたい、低価格のものは出来ないのか?」というユーザーの声があり、一部開発が始まっているのがニュージーランドのものである。ニュージーランドの牛肉は特別のものを除いて、全て牧草だけで生産をしている。元々牛は草を食べる動物で、それに穀物を食べさせて肉質を軟らかくしたり、高付加価値にしたりしたのは人間である。牛は草だけで育つのが自然なのである。更に、生産コストからいったら、羊を別にしたら、牛が最も安い。豚や鶏は、人間が作った餌をやらなければならないし、「小屋」という建物、設備を作らなければならない。しかし、牛は土地と牧草があればいい。実際、ニュージーランド、オーストラリアでは、牛肉よりも豚肉の方が高いし、豚肉よりも鶏肉の方がもっと高い。鶏肉は高級な肉なのである。

ここで有機飼育牛を生産している農家が10年以上前からかなりあった。元々ニュージーランドというのは「無添加」が当たり前の国で、野菜も乳製品も全てナチュラルに生産をしている。無農薬の野菜は昔から米国や日本、ヨーロッパに輸出している。牛の牧場も無農薬が基本で、グラスフェッドビーフが当たり前の国である。それなのになぜその上に「有機飼育」を作るのかは「美味しいから」である。無農薬と有機飼育は違う。無農薬はただ単に農薬を使わないということなのだが、「有機」はその上に「土地を良く、美味しくし、その土で育った牧草を牛に食べさせる」のである。

土地を良くするためには、魚のエキス、ハーブ(香草)のエキス、海藻のエキスなどを液体にしたものをまく。これで土地が良くなり、よって牧草が良くなり、それを食べた牛の肉が美味しくなるのである。ニュージーランドのオーガニック農場は、除草にも特徴がある。雑草というのは、牧場の草地を荒らすもので、これを取るために大変な労力がいるので、農薬を使うのである。しかし、一度農薬を使うと、雑草も強くなり、翌年には倍の農薬を使わなければならなくなる。さらに良く年にはもっと、となり、そして土地がひどく痛むことになる。

ニュージーランドのオーガニックファームでは、雑草が種を拡散させる2〜3月頃、2〜3ミリぐらいの白い兜虫のようなのが雑草の種を食べる。雑草の種を食べてくれるのだから、雑草が増えるのを防いでくれることになる。オーガニックファームをやっているとこの虫が次第に増えてきて、除草が段々楽になるのである。もし農薬を使うと、この「農家お助けマン」の虫はいなくなる。「虫は、薬が嫌い」だからである。また、取った雑草を焼いた灰を農場にまくと、それも除草の助けになるそうである。

こうやって作った牛肉は、脂肪が白い。そして美味しい。価格も安い。しかし、欠点は、自然に飼育しているから当たり前なのだが、肉質が少し不安定な点である。普通のグラスフェッドビーフよりも十分に安定しているのだが、「工業製品」のように均一な肉が欲しいというのは無理である。現在この牛肉はハンバーグに加工されて日本に入ってきている。

日本国内でも有機飼育牛肉の生産はあちこちで始まっている。堆肥を使って有機野菜を作るなど、農産物全体での有機生産を始めている所も多い。米国サイドでも、農家が主体となって有機牛肉の動きが数件出て来ており、日本へも出したい意向もあると聞く。そのような農家と提携をするなりして、大規模ではないが、有機牛肉を始める外食企業が出て来る時代が来ている。

商業界「飲食店経営」96/1月号より
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