硬さを考えてみたら

2013/05/24 0:47 に 松本リサ が投稿
テレビのグルメ番組を見ているとレポーターが「このお肉やわらか〜い」などと言っているが、柔らかければ美味しいものというのではない。

以前オーストラリアとニュージーランドで日本向けのハンバーグの開発を行っていたとき、日本人の好む硬さと柔らかさが彼らになかなか理解されなかった。ハンバーグは柔らかくなければいけないが、ぐちゃぐちゃに柔らかくてはならない、かまぼこのようであってもならない、食感がなければならない、といった要求事項が理解できないのだ。

ハンバーグは、かじったときには、ふわっと噛み崩れるように柔らかくなければならない。しかし、咀嚼を始めたら、肉粒感がなければならない、肉の粒は米のようにある程度の食感がなければならないのだ。これはおにぎりの食感から来ている。おにぎりは、ふわっと固めて、崩れない程度の状態で何とか固まっている状態が良く、ぎっしりと固めてしまったのでは美味しくない。ふわっと固めたおにぎりをかじるとほろりと崩れるが、咀嚼しだすと米の粒の食感がしっかりと感じられる、つまり、茶わんにふわりと盛った御飯を食べている感覚でなければならない。要するに肉粒感がある状態をふわりと固めたものということになる。硬さと柔らかさの融合だ。

 

我が家ではその晩のメニューによってご飯の硬さが問題になることがあった。家族四人の間でさえご飯の硬さの好みが違うのに、これにメニューが加わってしまうのだから複雑なことになる。同じコストなら出来るだけおいしく食べたいという意地だ、困った集団だ。

この問題を解決するには2つの方法がある。一つ、「わがまま言うな!」で片づける。もう一つは、一度に硬いご飯と柔らかい御飯が炊ければいい。おいしいものを追及する姿勢は邪険にできないから、あとの方法があればいいのだが。

ある時ひらめいた。電気炊飯器に研いだ米を入れ、平均的な水を入れたあと、釜ごと軽く揺らして沈んでいる米が斜めに傾いた状態にして、そうっと戻してみたら、そのままの状態で落ち着いている。米が偏って、片方は水面近くまで米があり、反対側は深く沈んでいる。

地震が来ないことを願いながら、このまま炊いてみた。この画期的アイデアがうまくいくか、加熱の振動で戻ってアホな実験になるのかの瀬戸際である。チャイムが鳴り炊き上がったので、ドキドキしながら蓋を開けてみたら、傾いたまま炊き上がっているではないか。

浅瀬側のご飯を食べたら硬く、マグロの中落ちを辛めの山葵醤油にちょっと付けて海苔に乗せ、更にご飯をちょっと乗せてから黒ゴマをぱらぱらと降りかけ、キュウリの千切り三本ほど乗せた「手巻つまみ寿司」にぴったりの硬さである。これは白ワインに良く合う。

反対側の深かったほうは、小魚の山椒煮や昆布の佃煮あるいはうすーく漉いたおぼろ昆布をさらっと乗せ、ぱりぱり海苔を崩し入れ、鰹節をちょっと削って振りかけるともう熟睡は目の前、といったディナー最後の仕上げご飯にぴったりの軟らかさであった。(この段落著者の雑文集から)

 

「こてっちゃん」に代表される腸を使った製品がブームになったので、オーストラリアとニュージーランドのグラスフェッドビーフを使ってこれを作ってみようということになった。グラスフェッドビーフは牧草のみで育った牛で、穀物はいっさい与えない、いわば全く自然の状態で飼育した牛なので、コストは安い。しかし肉は赤身でマーボリング(霜降り)はなく、日本人向けではない。その腸だからどういうことになるかというと結構硬さがあるものになる。

ニュージーランドの開発担当者は「これでは硬いので日本人向けではないね」というのだが、しかし腸はある程度の硬さがないと日本人は美味しくないというと、また混乱してしまった。日本人は基本的に柔らかいものが欲しいというとばかり思っていたら、そうではないのか、となる。そう、腸はある程度硬くなければならないのだ。

 

グラスフェッドビーフといえば硬い肉で、屠畜直後の硬さはゴムの硬いような状態でどうしようもない。しかしこれを熟成させるとパリッとさっぱりした硬さになる。以下はオーストラリアの田舎に行ったときに出会ったとんでもないステーキについて書いた雑文。

 

厚さ1センチぐらいの薄いのだが、ちゃ〜んとしたTボーンステーキが、超大盛りの野菜の上にどかっと乗っている。オーストラリアタイプの良く焼きで、フォークで叩くとカンと音がしそうな私好みのタイプである。オーストラリアというのは、田舎に行けば行くほど、ステーキは大きく硬くなる、これもそのうちだ。問題は熟成しているかどうかで、熟成していないグラスフェッドビーフだと、ゴムみたいで食えない、しかし、熟成をちゃんとしてあると、肉は硬いが、筋はバリバリと切れ、かめばかむほど味が出て、日本の人が嫌う草の臭いが素晴らしいグラスフェッドビーフのフレーバーになって実に美味しい。

さて、わくわくしながら一番硬い先っぽの筋の部分をナイフでカットすると、ガリカリッと熟成したスジを切る音がする、これは良いと、にっこり口に入れて噛んだら、ザクッザクッと歯に心地よく当たり、軟骨を食べているようで、何度も良くかむと美味しい美味しい。ゆっくりと力を使って肉を切り、後は歯とあごをしっかりと使って、着々と食べていく、これこそオーストラリアのステーキだ、ステーキは体力で味わって食べるもんだ〜〜〜!。これ冗談ではない、オーストラリアに行ったら、最初はこの硬いステーキにびっくりするが、毎日のように食べていると約一週間でこの素晴らしい美味しさがわかり、二週間居たらこれでなくてはならなくなってしまう。

Tボーンの方は、骨にしっかりと付着しているスジも歯で噛み付いてバリバリと剥がしてきれいに食べ、平和な昼寝に突入した。(01.08.18.ロックハンプトン)

 

鶏肉には「カッパ」と呼ばれているオクラのような格好をしている軟骨があり焼いて食べるとかりかりぽりぽりと食感があって美味しい。このカッパの多くの製品はカッパの溝に味付けしたミンチを挟み込んで串に刺してある。カッパだけだと重量が軽くてキロ当たり単価が高くなってしまうからこうしているのか、ボリュームが出ないからなのか知らないが、カッパが好きな人にとって味付けミンチなんで余分なものを何で付けるのか不思議でしょうがない。私はこれを食べるときもったいないがミンチ部分を外してカッパ本体だけを食べる。軟骨の食感をたっぷり味わいたいからだ。食べたくないものを食べて腹を膨らせるくらいなら、いらないのを捨ててその分他の美味しいものを食べたほうが良い。

チキンスティックと言ったりチキンスペアリブと言ったりしているが、手羽先の部分を二つに割った製品が売れている。この骨の端にわずかに着いている軟骨も適度な硬さがあって美味しい。我が家でこれを調理するときにはたっぷりと大皿に持って出て来る。子供たちが小さいころにこのメニューを出し始め、最初の頃はみんなが食べた残りの骨を黙って失敬して私好みの軟骨部分だけコソコソばれないように食べていたのだが、そのうちに見つかってしまい、自分の分の軟骨しか食べられなくなってしまった。家族全員がこの美味しさを知ってしまったのだ。

ポークスペアリブの骨の先端にも軟骨がついていて、鶏肉と比べたらかなり硬いがこれも美味しい。バーベキューで焼いたものは力を入れてかじる。沖縄のソーキ蕎麦では煮込んだポークスペアリブが乗っていて、この軟骨はだいぶ柔らかく、まるで筋の煮込みのようになっている。ポークでは肩甲骨の先端にわずかに付いている軟骨も美味しいものだ。

あるとき歯医者に行ったら「骨を食べますか?」と医者が聞くのでなぜわかったのか聞いたら「歯の一部がわずかに欠けているので」という。骨をかじるときはこれから気をつけよう。

 

さて、商品開発で、硬さと柔らかさを、頭を軟らかくして考えてみませんか。
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