T=トレーサビリティー

2013/05/24 2:04 に 松本リサ が投稿
BSE(通称狂牛病)で原材料の追跡が問題になったが、トレーサビリティーは「追跡性」である。食品の原材料の中で、問題になっているものが無いか、追跡できるシステムがあるか無いか、追跡性があるかどうかが、これからの食品で重要なものになる。

食品の事故というのは、いつどのような時に起こるか分からない、食肉素材を製造していても同じである。日本の牛にBSEが出てから肉骨粉が飼料に入っていなかったかどうかで大変なことになったわけなのだが、同じようなことが既に起こっていた。埼玉県の所沢市でのダイオキシン事件では、スーパーマーケットやフードサービスは、自社で販売している製品やメニューが、所沢産のものがあるのかどうかを調べるのに大変なことだったのだが、調べ始めて直ぐに分かったことは、加工品も全部確認しなければならないことに気が付いた。対象となる野菜などの素材だけでなく、その素材を使った加工品が無いかどうかまで調べる必要があると気が付いたとき、これは大変な作業になると驚愕した担当者はほとんどだろう。そして東海村の放射能漏れ事故でも同じことになったのである。

これらの事件で危機管理を理解し、食品業界全体でどうしようかという対応を大々的にもししていれば、BSEの問題が出たときに大分素早い対応ができたのかもしれないが、対応策の検討もないままパニックに突っ込んでいってしまったのである。

鶏肉の場合のトレーサビリティーは、生産農家のデータになり、飼料、薬品、水、鶏舎などの関連検査データといったものになるが、鶏肉から加工品を製造している場合は、これに加えて、副材料の調味料、粉類、水等と、これに加えてパッケージフィルムなども必要になる。真空パックにしてそのまま湯煎するだけで食べられる製品だと、それをパックしているフィルムを熱湯に数分間入れた場合、環境ホルモン等の人体に害の可能性のあるものが溶け出さないかが問題になるわけである。この場合、フィルムメーカーに対して、問題が出ないというデータなり、もし無い場合は検査とその証明書が必要になる。

こういったことなのだが、直ぐに悩むことになるのは、それではどこまで追跡出来ていればよいのかだろう。加工品の調味料、例えばチキンブイヨンだったら、まずその製品があり、その製品のメーカーが出て来るが、その先は、ブイヨンの原材料と製造方法になり、更にはその原材料の中身はどうなっているのか、と次々と出て来てしまい、加工度の高い製品ほど複雑で長い追跡になっていってしまう傾向がある。そして、そこまで追跡出来る体制を整えている流通業も一部にはある。しかし、これは大変なことである。メーカーによっては原材料の情報を出したくなるところも多いだろう、使用量によって危害の発生の有無がある場合なら、レシピが必要になるが、レシピはどこのメーカーでも出したくないだろう。

一般的にはどうすればいいかというと、自社の1つ先のところが直ぐに分かるように、すべての食品関連企業がしておけば、何かあったときにお互いの連携によって芋づる式に最も原点となるところまで辿り着けるように出来る。ここで重要なことは、すべての企業、という所である。例えば辿り着くまで10工程あったとして、この全てが自分の1つ先のところを正確に把握していれば、短時間で追跡が完了することになるのだが、たった1つの企業の体制が整っていなかった場合、その企業が新たに追跡を電話などをして始めて、全てが分かる間、その先のところが一切出てこないことになる。

BSEの発生で、あるフードサービス企業が、自分の店舗で販売しているすべての食材の原材料を把握する行動を開始した。この企業はトレーサビリティーに以前から取り組んでいたのだが、それでも数百のルートの中で数社ほど取り組みが遅れているところがあり、このために全てを把握するのに時間がかかってしまった。本来ならば事故が起こったあと、直ぐに全てを把握し「ウチのメニューは全て大丈夫」という安全宣言をすれば、売り上げへの影響は少なくてすむのだが、ほんの一部の原材料の素性が分からないために、全体を遅らせてしまうことになってしまったのである。

トレーサビリティーが必要になる食品事故は化学的危害ばかりではなく、すべての危害が対象になる。数年前にイカ珍味などの加工品でサルモネラ事故が広がってしまったことがある。この原因は青森のイカ加工品用原材料のメーカーの製品がサルモネラに汚染されていたのである。イカ珍味のメーカーは普通いくつものメーカーの原材料を購入しており、複数の原材料を使っている。

この場合のルートというのは、サルモネラに汚染されたメーカー→珍味加工メーカー→卸業者→小売販売者、というルートになる。顧客が食中毒になり、それが小売りから卸業者までの追跡がすぐに行ったわけなのだが、加工メーカーに行ったところで、その加工メーカーは問題の製品がどの原材料を使って作ったのかが分からないところが多かった。もしここで記録がしっかりとしていて、どの原材料を使ったのかが分かれば、逆のその原材料を使って作った製品が特定出来、逆にその問題の製品を出荷した企業が分かり、販売店まで行き、そこで製品を押さえて回収をする、という行動に直ぐに動くことが出来たのである。しかしそれが分からなかったために、食中毒患者は散発的に発生をし続け、解決するまでにかなりの期間がかかってしまったのである。イカ珍味というのは日持ちがするものなので、販売期間も長い。この事件の解決というのは、全てがわかって回収などの対策をしたから終結したというのではどうもなくて、自然に問題製品や、問題がなくても可能性ありということで販売をせずに返品をしたりといった対応で、自然に食中毒が減り、そのうちに何とか終わったようだ、というのが実態なのではなかったのだろうか。

トレーサビリティーがもししっかりと出来上がっていた場合、問題製品の特定は早い。いくつもの加工メーカーがかなりのロットの製品を出荷していたとしても、対象製品をすべてのメーカーが特定して回収をすることによって、短時間に被害を食い止めることが出来る。大きな社会的な問題になり、業界の信用問題だけでなく、いくつもの仲間の企業が無くなってしまうという事態にならなくてすんだだろう。


鶏卵肉情報 2002年1月号より
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