炭の活用

2013/05/25 16:24 に 松本リサ が投稿
料理、食品、飲料のおいしさは、素材と、鮮度と、調理技術、それに、忘れてならないものは、水である。飲料、特に酒類などは水が命で、水のいいところがいい酒の製造地になる。六甲の麓に日本酒の醸造所がかたまっていたり、越後にかたまるというのもいい水があるからである。ジャックダニエルが使っている水は、取水場所から少し離れただけで、違う水になってしまうそうである。料理、デリ・惣菜や、あらゆるフードビジネスで必要なのもいい水である。例えば米を炊く場合、いくらいい米を使っても、肝心の水が臭くてはどうにもならない。


先日札幌から東京に引っ越してきたシェフが、水の不味さに参っていた。仕方がないので、ミネラルウオーターを使っているということである。しかし、ミネラルウオーターの価格を考えると、大体ガソリンと同じになってしまう。ガソリンは1リッター100円ぐらいだが、小売りしているミネラルウオーターも同じぐらいか、ブランドやパッケージによってはもっと高い。

客単価の高いレストランならば、ミネラルウオーターの価格は何とかなるかも知れないが、デリ、惣菜で、低価格で、美味しいものを提供するには、ミネラルウオーターは、十分な効果はあっても、高すぎる。大きな惣菜工場では、いい水を作るシステムを導入したり、味のいい地下水があればそれを利用しているが、惣菜ショップではそうは行かない。


そこで、炭の出番になる。最近炭を食品、料理に利用する動きが広がりつつある。ご飯を炊くときに、炭を入れて炊くと美味しくなる、という話を聞いたことがあると思う、あるいは実行している人もあると思う。

炭というのは、多孔質といって、表面積が大きく、これに水を通すと濾過が出来る。活性炭が臭いを除去することは有名だが、活性炭は要するに炭である。いい地下水が出るところは、地下の岩盤などを通って、十分に濾過され、さらにミネラルまで含んでいるからである。

これのミニ版が炭で出来る。ご飯を炊くときに、炭を入れて炊くと、水の臭みなどの不純なものが炭に付着して、水そのものが良くなり、米にもこの影響があるので、美味しく炊けるのである。

この場合、要するに水を良くするために、水の臭みを取るために炭を利用するのだから、それならば料理に使う水全てを炭で良くすれば簡単である。水を良くするために、濾過装置がいろいろと売りだされている。繊維を使ったものもあるが、活性炭や、セラミックを使ったものも多い。しかし、大元の炭を使えば、単純だし、安い。


では、単純に炭を使う場合はどうしたらいいかだが、まず、水用のいい炭を手に入れなければならない。これには一般的に「備長炭」といわれている「白炭」が必要である。

炭には大きく分けると2通りあって、バーベキュー用の安い炭や、豆炭など、軟らかくて、燃料に使うものがある。これはたたくとすぐに割れたり粉になる軟らかいものだ。水に使うにはこれでは全然ダメで、いい木を、1週間ほどかけて蒸し焼きにした、芸術品ともいうべき、硬い、セラミックのような炭が必要である。これが「白炭」で、これの代表が備長炭なのである。

まず、電話帳(タウンページの方)で、「すみ」の項目を探す。そうすると、著者の住んでいる杉並だと、「キャンプ用品」「薪炭」「燃料店」の3つがあり、「薪炭」「燃料店」を見てみると、便長炭を扱っている店がいくつも出ている。

適当なところに行ってみたらいいが、電話で「水に使う」と聞いて、すぐに話がわかるところなら大丈夫だ。備長炭といってもグレードがあり、水に使うには最も高品質の、堅いものでないと、粉が出てしまってよくない。見てみると、炭の断面が黒くぴかぴかに光っていて、持ってみると石のように重いものがいい。水に炭を使うと聞いて話がわかる炭屋ならばちゃんと教えてくれるはずだ。家庭用に小さい袋に小分けして売っている店もある。ケースでは、10キロ程度入っている箱が、著者が買う店では7,500円である。

いい備長炭は形、長さがそろっている。これをまず鍋で煮て、掃除をする。鍋が小さくて入らなかったら切らなければならないが、とても硬いので、簡単に割れない。ノコギリで真ん中に5ミリぐらい切り込みを入れる。これも、石にノコギリを使っているように硬い。切り込みを入れたら、反対側から金づちで割ればいい。ピカピカの断面が出て来て気持ちがいい。鍋で15分ほど煮たら、大きなポットに数本適当に入れ、水道水を入れれば、30分ほどして出来上がりだ。


先日、札幌から出て来た人に、黙ってこの水を飲ませたら、ミネラルウオーターと間違えていた。作ったら、飲み比べてみたらいい。

この「炭水」を使って、米を炊いたり、煮物を作るのである。米を炊くときに炭を入れる必要はない、水が変わったのだから、必要はないのである。さらに米にも影響させたいというのなら、小さい炭を入れてもいいが。

米を研ぐときだが、かなりの水を使うので、全部炭水を使ったら大変である。研ぐには順番が重要で、米は最初の研いだときの水が悪いと、その水が米粒に入ってしまって、包み込んだままになってしまう。そこで、最初に米を研ぐ水に炭水を使う。2回目からは、水道の水でいい。良くなった水を米粒が抱き込んでいるから、大丈夫なのである。研ぎ終わって、水を切り、炊くときの水に炭水を使う。

スープを作るとき、野菜などを簡単に湯がくとき、お茶などの飲料用に使うといい。レストランなどで客席に水をサービスするときに、この炭の入ったポットをそのまま持っていくといい。顧客に説明をしてサービスすれば店の誠意がわかってくれて、かえって販促になる。

サラダ用の野菜を洗うときも、米と同じように、最初に炭水でさっとゆすぎ、その後水道水で洗い、最後に炭水、というようにできればなおいい。この場合炭水を冷やしておかなければならないので、効率は悪いが、出来るところはやったらいい。


炭の効果なのだが、かなり料理を自宅でする場合で、3カ月ぐらいで効果が無くなってくる。そしたら取り換えればいい。ある炭屋が「陰干ししたらまた使える」といっていたのだが、試してみたらダメだった。炭が水の臭みをすっかり抱き込んでしまっているので、元には戻らないのだ。

使い終わった炭は、土に混ぜれば、植木や花にいい。炭火を店で使っていたら、その中に混ぜて燃してしまったらいい。自宅でのバーベキューパーティー用に使ってもいい。何しろ最高級の炭なのだから。わが家では、庭に投げ込んだり、非常用燃料としてもとってある。

総合食品「フードライフ」97/7月号より
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