素材の引き立て役

2013/05/23 18:28 に 松本リサ が投稿
博多の繁盛居酒屋で、関鯖、関アジ、呼子のウニ、活きイカ、などと立て続けに地物を注文したら「ゴマサバは?」という。何だか分からないで「それも!」と言って出て来たのは、鮮度抜群のサバの刺し身をごまだれに浸けたもので、その上に煎った白ゴマ、というよりも金色のゴマがわずかに潰して香りを引きださせて振りかけてある。

食べたら、鯖の旨味とゴマの風味が実に良くマッチして、始めてのおいしさを体験した。鯖を、ゴマが引き立てているのだ。

一切れ目を味わった後、焼酎をグビッとやり、もう一切れと箸を伸ばしたら、横にワサビが乗っている。ゴマでこれだけ引き出したおいしさにさらにワサビも付いているとはどういうことかと、ちょっと乗っけて口に入れたら、これまた新しい風味になるのだ。ゴマとワサビがこんなバランスで鯖を旨くするなんて。

 

おいしさの引き立て役を旨く活用すると、同じ製品でも一ランク上がるのだ。

 

鶏の水炊き、鴨うどん、寄せなべなど、既存に販売していた、アルミ鍋に入れた鍋物セット類を、もっと売れるようにできないかの開発をしていた。

著者は七味が好きで、いつも京都の一休堂というところの製品を愛用していた。

そこでそのミニ袋が無いか聞いたらあるという。蕎麦屋の出前用のものだ。

普通のミニ袋は1円だが、一休堂のは4円だという。試食してみると皆「素晴らしい」という。そこでどうなるか表示しないでそっとこれに変えて売り出したら、じわじわと売り上げが上がってきたのだ。説明しなくても顧客はわかるのだ。

3円のコストアップなど、全体の大きな売上の伸びと比べればどうってことはない、簡単に吸収してしまうパワーを秘めていたのだ。

 

初夏になると関西から西日本では鱧(はも)の季節になる。京都では骨切りした「落とし」と言って、湯にちょっとくぐらせてから冷水で冷やし、梅肉和えを付けて食べる。

これが一般的に知られている食べ方なのだが、本物は、梅肉に、ワサビをたっぷり絡め、それを付けて食べるのだ。こうすると、梅肉の酸っぱさと、ワサビのツンと来る刺激が融合して、鱧がさらにおいしくなるのだ。

 

盛岡から車で40分ほど、別名南部富士とも言われている岩手山の麓に、岩魚料理を食べさせてくれる民家を改造した店がある。清水で養殖した岩魚なのだが、炭火で野性的に焼いてくれる。

きれいな水と、炭火のフレーバーと、新鮮な空気が、岩魚をさらにおいしくしてくれる。

この炭火焼きの前に、岩魚の刺し身と握り寿司が前菜として出て来るのだが、これがめっぽう豊かな素晴らしさなのだ。

この皿に一枚の葉が乗っている。なんだと聞いたら、ワサビの葉だという。ちょっと契って、一緒に食べたらいいというので試してみたら、これまた素材の味を引き立てるのだ。新鮮とろりの岩魚の刺し身を、しゃきっと引き立たせてくれているのだ。

 

ニューヨーク、マンハッタンの摩天楼の下、交差点の角などには名物ホットドッグのスタンドがある。

週末の6〜7時ぐらいは列が出来るほど忙しい。この時間は8時から始まるコンサートやミュージカルに行く人々が、ちょっと小腹を満たすため、ホットドッグをかじるのだ。ちょっとお金を使えばレストランもいくらでもあるのだが、この時間帯はまともなレストランならどこも一杯。

ホットドッグスタンドで欠かせないのは、ケチャップと練りマスタードの大きなチューブだ。特にマスタードは、黄色のチューブに、たっぷりと辛いのが入ってないとニューヨーク的ではない。

しっとりとしたパンにはさんだ、太く肉汁一杯のソーセージに、この練り辛子をトロトロトロとかけて、涙が出るくらいのを食べてから劇場に行くのが粋なニューヨークっ子なのだ。

この辛子、ポメリマスタードなどの高級品では駄目。安物、とにかく辛い、たっぷり、が、ホットドッグを引き立たせるのだ。

 

刺し身のツマによく付いてくる「タデ」。紫色の小さいあの葉っぱだ。

刺し身だけ食べてこういったツマを食べない人は多いが、あれは、刺し身を食べた後、ちょっとつまんで口の中をさっぱりさせ、次に食べる刺し身の前に、口内をリフレッシュする役目も負っている。更に、制菌作用と風味というおまけまで付いているから、食べない手はない。

タデをスパゲティにぱらぱらと振り掛けると、どうしてこんなにおいしくなってしまうのか、あるいは新しいスパゲティの味発見、ということになる。

九州の生産者組合があるときタデの販促キャンペーン企画で、いろいろメニュー開発した中で、このタデは、肉、魚、野菜、パスタ、ご飯、どれにもあうし、炒める、絡める、まぶすと、素材の味を引き立てる役者だとわかった。

自社製品とどう相性があるか、一度試してみたらいかがだろうか。

 

九州で鍋物には柚子胡椒が欠かせない。魚の鍋でも、地鶏の水炊きでも、寄せなべでも、汁たっぷりの鍋物にちょっと柚子胡椒を入れるだけで、鍋の味がグーっと引き立つ。東京の我が家で鍋をやるとき、この柚子胡椒を使うだけで気分は一瞬で九州に移動する。

豚の前脚の加工品、アイスバインを食べるとき、高品質のポメリマスタードをたっぷり乗っけて食べると、気分はドイツに切り替わる。

洋食のデザートの時、チーズに蜂蜜を付け、カベルネソービニオンで仕上げをしていると、視線はトロトロになって、屋根の無い美術館、フィレンツェの石畳が見えてくる。

 

あなたの会社の製品の引き立て役は何でしょうか?
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