SPFポーク

2013/05/25 17:06 に 松本リサ が投稿
10年ほど前に、SPFポークが、これから伸びていくと予測している人はごくわずかだった。しかし、そのころ著者がSPFポーク協会のセミナーに出たとき、確か200名以上の生産者が集まっていた。そのころ生産者側では、これが次の世代の豚肉ではないかと考えられていたのである。その後、安全性を志向する流通業から少しづつ販売が行われていき、現在では豚肉全体の10%以上になったとも言われている。

SPFポークとは、Specific Pathogen Freeの略で、「特定病原菌不在豚」と訳す。特定とは、▽委縮性鼻炎 ポルデテラ菌▽豚流行性肺炎 マイコプラズマ▽豚赤痢 赤痢菌▽トキソプラズマ症 トキソプラズマ原虫▽オーエスキー病 ウィルス、である。よく、無菌豚などど勘違いされていることがあるが違う、また、肉も、調理されるまでのカッティングなどの段階で、マナイタや空気中のバクテリアが肉に付くわけであるから、全くクリーンな豚とは違う。しかし、肉自体は、特定の病原菌がいないわけであるから、牛肉のたたきのように表面に火を入れれば、中は生でも食べられる。豚肉は、ソテーでもカツでも、肉中温度が65℃ぐらいで上げればジューシーに食べられるのだが、「生焼け」クレームや事故がこわいので、どうしてもオーバークックになりがちである。しかし、SPFポークはこの心配がないので、怖がらないで理想的な調理が出来る。その結果「美味しい豚カツ、ソテー」が出来るのである。

SPFポークの生産は、元となる豚の帝王切開から始まる。母豚の子宮の中は、病原菌が居ない状態なので、このクリーンな状態のままクリーンルームで手術をして仔豚を取り出す。次に、この仔豚を大きくして、第2世代の仔豚をまたクリーンな状態で取り出す。そして、この仔豚からコマーシャルベースの豚肉を生産するのである。

SPFポークの生産上の利点は、薬を使わないでいい点である。「安全な豚肉」と言われるのは、生まれたときと、飼育する段階でも、添加物無しでいいからである。豚そのものが健康なので、早く大きくなる。この点でコストが下がる。しかし、その半面、クリーンな環境を維持させるために、広大な土地が要るし、農場内にバクテリアを持ち込まないために、衛生管理などでかなりの設備投資が要ることになる。

このようなSPFポークは、安全な農産物を扱う宅配業などから消費者への供給が始まり、その後一般のスーパーマーケットなどもこの2年ぐらいの間に急速に扱いだしてきている。そして、外食への導入もスタートを切っているのである。

外食への導入例としては、豚カツの「いなば和幸」がいい成功例だろう。95年の2月頃から、米国、スミスフィールド社のSPFポークの導入を始めている。仕入れ価格は、それまでの1割程度高くなったということだが、歩留りは、それまでは10%がドリップとして無くなっていたものが、このSPFポークだと1%ということである。更に、顧客に対しての訴えとして「自然豚」ということをアピールした。そして、売上は昨年対比で2桁台の伸びになったそうだ。また、最も重要なことは、味がいいという点であった。これらの相乗効果で、成功したのである。

導入にあたって、当初は航空便で取ったそうである。しかし、試験導入の時に、たまたま船便と比較する事態になって試食をしたところ、チルドの船便の方が非常に軟らかいということがわかった。チルドの船便は、屠殺してから冷蔵状態で25日かかって運ばれる。今まで一般的に豚肉は屠殺後3〜4日の熟成がいいとされていたので、25日というのは論外と思われるのだが、豚カツでは、真空パックをやぶるとすぐに料理する。このために、熟成最終段階の最も軟らかい状態で調理が出来ることになったのである。

スーパーでの販売で、チルドの船便を扱っているところがあるが、実態はこの熟成最終段階が問題になっている。それは、販売の際、パッケージをやぶいてスライスや切り身にしてトレイパックをしてから売り場のオープンケースで販売する。その後顧客が買い、自宅まで持って帰ってから調理をすることになる。こうなると、パッケージをやぶいたときにはいい状態なのだが、その後急速に鮮度が劣化をすることになる。最初の時点で鮮度が良ければ、販売から顧客の調理までの時間はある程度あっても問題はないのであるが、最終熟成までされているので、一気に鮮度が劣化してしまうのである。

このことは、外食へ導入するときにも十分に注意しなければならない。チルド船便を、もしカットセンターなどで切り身にし、更に衣を付けたり再凍結したりという加工工程を通る場合には、急速に鮮度が落ちることを考えなければならない。実際にテストをした例は知らないが、恐らく上手く行かないのではないだろうか。

米国産に比べて価格は高くなるが、国産のSPFポークは、「国産」という高付加価値がつく点で、十分に有利に顧客にアピールすることが出来る。国産では、住商飼料畜産系、伊藤忠飼料系、そして最近では農協系がそれぞれ取り組んでいる。95年始めには、生産システムや設備などを協会で調査し、農場の指定を始めている。SPFポークで重要なのは、農場のクリーンさである。農場を認定することによって、更に高付加価値、ユーザーの安心度を高めている。

米国産と国内産の違いは、価格、鮮度と、部位の選択性である。米国産は、ロース(ロイン)とヒレ(ヘレ)テンダーロインだけをいくらでも買うことが出来る。しかし、国産の場合は、ロースとヒレだけを取ろうとすると、どうしても価格が高くなるし、無理に大量にやろうとすると品質が不安定になってくる。

SPFポークを外食に導入するということは、「安全性」「美味しさ」を訴求することが出来るが、仕入れ価格や、安定性、鮮度、国産か米国産か、など、検討することは多い。しかし、SPFポークの外食への導入は、まちがいなく進んでいくだろう。価格競争だけではなく、素材の競争、差別化が進んでいくのである。

商業界「飲食店経営」96/1月号より
Comments