輸入ポーク

2013/05/25 16:30 に 松本リサ が投稿
台湾で口蹄疫が出て、今後半年から1年は回復にかかりそうな状況になった。この原稿を書いている時点(3月25日)では、日本への主要な豚肉輸出国では、オファーがストップされ、模様眺めの状況である。そのうえ、セーフガードが発動されているので、これからの豚肉相場、供給は混乱に陥ることは間違いが無い。国内の供給は生産そのものが対応できなくなってきているので、これからの豚肉供給は海外に頼らなければやっていけない状態になっている。


口蹄疫というのは、牛、豚、羊など、偶蹄類の動物にあるウイルス製の伝染病で、家畜の口や蹄に水疱が発生し、死亡することもある。罹患(りかん)動物のだ液、乳汁、糞尿(ふんにょう)への接触により、まれに人間にも感染する。その場合、手足口腔に直径数ミリの赤色発疹(ほっしん)が現れ、水疱から有痛性潰瘍になるが、自然治癒する。ただ、口蹄疫にかかった動物を食べても感染しない。感染力が早く、特に集団で飼育している畜産業では、集団で発生することが多く、国の畜産に大きな影響を与えることが多い。農水省は、口蹄疫は「家畜特有の病気で、熱にも弱く、仮に感染した食肉を食べても人体に影響はない」(畜産局衛生課)として、消費者に動揺しないよう呼び掛けている。


輸入ポークは、96年に総計約65万トンになっており、そのうち台湾からは26万5千トンと、半分近くにもなっている。もともと台湾ポークの輸入というのは、ロース、ヒレ(ヘレ)肉中心の需要であった日本のマーケットに上手くあっていたのと、地域的に近いところから大きく伸びてきた。というのは、台湾での豚肉需要というのは、バラ肉を最も好む。「動物の肉の中で、どの部分がいちばん美味しいと思う?」という質問を、米国、ヨーロッパなどの肉の専門家に聞くと「肋骨の間の肉」と返ってくることが多い。豚ならばスペアリブ、牛ならばショートリブになる。どちらもバラ肉部分である。

中華料理を思い出してもらうと、ロース(ロイン)肉や、ヒレ(ヘレ)肉部分を使った料理はあまりない。あっても日本化された中華であることが多い。本格的な中華で珍重される豚肉の部位は、やはりバラ肉部分である。珍重される角煮でも、炒めものでも、バラ肉を最も好んで使う。美味い部位を食べているのである。これに対して、日本はロース、ヒレ中心なので、それならばというので、台湾では安いこの部位を日本に輸出するようになったのである。


92年から95年まで、輸入量の2番目はデンマークだったのだが、次第に下がってきており、昨年は米国に追い越されてしまった。デンマークからの量そのものが減ってきているのと、米国からのが増えてきているので、逆転してしまったのである。


米国からの豚肉は95、96年と大きく伸びてきている。この背景は、豚肉の品質と規格に対して、米国産が日本のニーズに対応した面がある。

豚肉の品質の点では、日本の豚肉の方向として、ハイグレードポークの方向にここ数年走ってきている点がある。ハイグレードの方向としては、安全性と、高品質性の2面がある。安全性ではSPFポークが急増してきたので、それに米国が対応していた。SPFポークは、特定病原菌不在豚で、米国ではかなり以前からあったし、病原菌から豚を守るための技術の歴史も長い。このために、日本のスーパーマーケットや外食ユーザーは、国産SPFポークを、高品質で国産という安心感を持ったもの、米国のSPFを、低価格な物として扱い、米国産が急増してきた面がある。さらに、国産SPFは、1頭全部の契約でないとなかなか買えない面があったのだが、米国産はトンカツの主力部位である、ローストヒレだけを買えるという利点もあり、特にフードサービスでの使用が伸びてきた。

高品質性のもう一面は、飼育の方法である。飼料を特別なものにしたり、ナチュラルなものにしたり、ユーザーによっては指定飼料を使うという要望があったりと、ユーザーごとに細かい対応が要求され、米国の日本向け豚肉パッカーは、これに素早く対応した点も良かった。規格については、部位肉の大きさ、脂肪の厚さ、色、ロインの芯の大きさなど、工業製品のように厳しい規格を要求する日本のユーザーに対しても、米国のパッカーは対応した。こういった背景から、96年は前年対比で31%の伸びを示したのである。


台湾、米国、デンマークが3大供給国で80%のシェアになり、これ以下は輸入量も一桁減ってはくるが、カナダ、韓国はこれを追っている。カナダについては米国と同じ品質と規格のコンセプトで伸びてきている。

カナダポークは米国に比べて価格が高いという傾向があった、しかし、差額関税制度の下では、基準輸入価格に出来るだけ近付けた価格で輸入するために、この条件にあえば問題はない。また、差額関税には関係のないソーセージやシーズンドポークにおいて、カナダの製品は以前は高かったのだが、最近では米国の価格を意識してか、大分安くなってきている。

カナダからの96年の豚肉の明細を見てみると、チルドの分岐点価格以下が2,085トンで、伸び率4%。チルドの分岐点価格以上が5,146トンで、伸び率100%、ちょうど2倍になっている。冷凍の分岐点価格以下は6,213トンで、伸び率6%。冷凍の分岐点価格以上が25,765トンで最も多く、伸び率は23%である。伸び率と量から言うと、分岐点価格以上のものがカナダ産の強いところなのかも知れない。


次に韓国なのだが、全体の量はカナダ産に続いて5番目になるのだが、95年から96年にかけての伸び率は極端に大きく152%にもなる。韓国から3年ほど前に豚肉を入れ出したある中堅加工品メーカーは品質もなかなか良い、といっていた。著者はつい最近韓国で日本の豚肉マーケットについて話をしてきたのだが、韓国の業界は日本への輸出に関心を示している。しかし反面、米国産ポークを輸入しており、輸出意欲と、輸入という2面性がある。パッカーによっては、品質重視で日本への輸出に意欲的なところもあるし、中には黒豚を考えているようなところもある。また、輸出等には手が回らないところもあるし、日本と同じように米国産ポークの輸入で儲けようというところもある。


輸入ポークは、チルドと冷凍の2つのものがあるが、どちらにするかは使い方である。あるトンカツチェーンが米国産SPFポークの導入を検討しているとき、チルドにするか、冷凍にするかでいろいろとテストをした。冷凍だと店に入るまでの品質の劣化の問題はないし、価格も安い。しかし、解凍の手間があり、解凍時にドリップが出るので、その分重量が損になり、肉のおいしさも逃げてしまう。冷凍を使うと大体10%は無くなってしまうことがわかった。これは重量ロスだけではなく、味の点でも不利になる。

そこでチルドを検討したのだが、鮮度のいいまま店に着けて調理をするためには航空便の方がいい。しかし、航空便だとキロあたり200円ほど高くなる。では、船だったらどのようになってしまうかをテストしたところ、おもしろいことがわかった。船だと店に着くまでにセンターなどを経由して大体25日ぐらいなのだが、これを調理したら、航空便で送ったものよりも軟らかいことがわかった。-1℃から0℃のチルドの状態で25日かかる間に、チルドパックの中で熟成して軟らかくなるのである。しかも価格は航空便よりも安い。この場合注意する点は、パッケージを破ったら一気に鮮度が落ちていくので、在庫管理が重要になることである。在庫管理が味を大きく左右するのである。そして、結果はチルドの船便になった。

このようなトンカツチェーンの場合はこれでいいのだが、同じチルドの船便をスーパーで使ったら上手く行かなかった例がある。首都圏のある中堅スーパーマーケットでは、米国産SPFを販売していても、どうしても鮮度が落ちて、ドリップも出てしまっていた。原因は、スライスや切り身に加工したあと、トレイに入れて売場に何時間も陳列しているので、この間にかなり鮮度が落ちてしまうようなのである。パッケージを開けてすぐに調理すればいいのだが、精肉として売るには、鮮度の問題が急激に出てしまったのである。

豚肉供給国の状況などは以上のようだが、ソーセージやハンバーグの加工用の豚肉の場合、精肉ではなくて、シーズンドポークという半加工をしたもので輸入する方法もある。これは、一つの肉片が10グラム以下で、胡椒が0.3%、均一に混ぜてあるものである。要するに胡椒味付きの荒びき原料である。これならばセーフガードには関係なく、定率関税で入れることが出来る。しかし、豚肉の供給そのものの混乱が続いている間は、このような半加工品にサプライヤーがどの程度力を入れてくれるかは未知数である。

総合食品研究所「フードライフ」97/4月号より
Comments