食肉の危機と対処方法

2013/05/25 16:21 に 松本リサ が投稿
最近、食肉の危機はますます出て来ている。末端消費者も敏感になっている。ある主婦が、「オーストラリアが、食肉の安全性セミナーを開く」という報道を見て「オーストラリアに狂牛病だって!」と取ってしまった。とんでもない取り違いであるが、食品に対する安全性、不安感がある中で、このような取り違えは多いだろう。笑えない話だ。

今、食肉の危機はどのようになっているのであろうか。


O-157


O-157は、もともと動物の腸管にいるもので、牛の0.2%程度はこれを持っているというデータが一般的である。牛の中にいると何でもないのが、人間に入ると危害をもたらす。これを防ぐには、屠畜するときに腸の出口を閉そくして中身が肉を汚染しないようにしたり、屠畜する前に、動物の体表を洗って、体表についている糞を洗したりする。技術的、手順的には色々な方法があるのだが、安全にするためにはHACCPしかない。

このO-157は、最近の研究で、もしかすると動物の腸とは関係なく、一般にいるようになったかも知れない、という見方がある。普通の最近のように、そこら辺に住んで生きれるようになったのかも知れない、というのである。

バクテリアというのは、環境に合わせて変異を繰り返していく。その変異のスピードは動物の比ではなく、突然変異といえるように早い。次に述べる口蹄疫のウイルスでは、下手にワクチンを使えない。ワクチンを使うと、その場でのウイルスは殺すことが出来ても、次にはそのワクチンに対応したウイルスに変異してしまうので、かえって逆効果になる、というのである。ではどうするかというと、口蹄疫に汚染されたと考えられる地域全体の動物をすべて殺し、ウイルスがいなくなるまで家畜を作らないのである。したがって解決までに何年もかかることになる。

こんな状態だから、O-157も変異して不思議はない。米国でアップルジュースからO-157が昨年出たが、野菜、果物などからO-157が出たことは今までにいくらでもある。なぜ動物の腸管にいるO-157が青果類から出てしまうかであるが、例えば青果の農場の隣に牧場があり、その牧場の動物の糞が乾燥をして、それが動物に踏まれて粉になり、風が吹いてその粉が青果農場に入ってしまうこともありえる。そして農場で生産された青果でジュースを作ったら、それに入ってしまった、ということもありえる。米国のO-157の原因を見てみると、夏に「水泳」で感染した例がかなりある。水泳をしていた水から感染してしまうのである。戸のような伝播ということに加えて、O-157が一般的にいるようになってしまったら、大変なことである。

O-157がこれからどうなるかであるが、急に消えてしまう可能性はまったく無く、逆にこれから数年にわたってさらに危険が増すという見方が専門家の意見である。米国ではあれほどHACCPを取り入れていても、いまだに押さえられない。イギリスで数年前に流行ったときは、大量出現した翌年は、注意をしていたにもかかわらず、2年目の方が被害が大きかった。さらに3年目は、もっと注意をしていたのに、2年目よりも多かったのである。減って来たのは4〜5年目だった。


口蹄疫


このウイルスは非常に強力な感染力を持つ。台湾の口蹄疫の原因は、大陸から来たのではないかという見方をする人もある。中国大陸は口蹄疫の汚染国だ。この見方は、中国大陸から風に乗って口蹄疫のウイルスが来た、という考え方である。これは極端なものではない。台湾で口蹄疫が発生というニュースが出たしばらく後、最も台湾に近い沖縄の与那国では、島全部の豚を町の全額補助で処分した。与那国は台湾に近く、風邪でウイルスが来る可能性もあるからである。厚生省では石垣全部に注意を呼びかけている。万一、ウイルスが飛んで来たら、日本が汚染国になってしまうのである。

台湾の業界のダメージは莫大なものである。台湾から日本に豚肉を輸出しているパッカー各社が共同で日本の事務所を作っていたのだが、5月いっぱいで閉鎖をすることになった。半年や1年などという短い期間に解決できないと判断した結果だろう。

日本の報道陣が台湾の農場やパッカー工場に入って、もし、その靴のまま日本の農場や関係工場に入ったら、汚染される可能性がある。マスコミ各社はこのことを十分に認識しなければならない。ニュージーランドに使っているゴルフ道具を持って入ろうとすると、植物検査に引っ掛かる。道具や靴についている泥が汚染されていないか調べるのである。それほど敏感なものなのである。入国カードにも「あなたは半年以内にどこか牧場に入ったか?」という質問項目があるのもこのためである。

先日メキシコの関係者と話をしたが、メキシコには台湾から豚肉関係の業者が大量に来て、メキシコの豚肉価格は一時30%も上がってしまったそうである。口蹄疫というのは世界的に大きな影響を及ぼすのである。


豚コレラ


ヨーロッパで豚コレラの被害が出て来ている。97年に入ってドイツ、オランダで発生した。4月中旬にはスペインでも発生が確認されている。この影響で被害の無いデンマークの豚肉に買いが入って、相場が上がるなど状況が出ている。ヨーロッパと日本の間では豚肉のセーフガードの対立が問題になっているが、もしヨーロッパの豚コレラの被害がさらに広がってるようだと、ヨーロッパ諸国から日本へ豚肉の供給が出来にくくなってしまうので、セーフガードの問題が変わってくる可能性までもある。


狂牛病


イギリスで大混乱になったが、これの原因はプリオンといわれるアミノ酸だろうといわれている。プリオンが老化をすると脳に悪影響を与える、具体的には脳みそがスカスカになってしまうのである。劣化したプリオンがよい細胞とくっつくと、その良い方の細胞に影響をして悪くしてしまう。一つがもう一つの細胞を悪くして2つになり、それぞれがまた他の細胞を悪くして4つ、8、16、32、という具合に急速に脳みそを侵していき、最後にはスカスカの脳になって死に至るのである。この病気は羊から来ている、その羊の肉の端材を飼料として牛に食べさせたところから来ているという。そして、これが人間に移るのではないか、というのである。


サルモネラ


米国で、最も力を入れている細菌性の食品危害は、O-157とサルモネラである。日本でサルモネラといえば卵と考える。鶏の糞に入っているので、それが卵の殻に付着してしまう、というのが一般的な理解で、それで正しいのだが、最近はそれだけではなくなったようだ。卵の黄身にサルモネラが入りだした、というのである。非常に古くから認識されているサルモネラだが、いまだに根絶させることが出来ないうえに、さらに拡大をしているようなのである。


ペット輸入に規制の方針(厚生省)


対策が必要とされているには、猿でのエボラなどのウイルス、ネズミのペストなど、家畜のO-157、きつねのエキノコックス、鳥類のオウム病、ライム病など、である。大分以前だが、日本航空のアンカレッジ発の旅客機の機内食で集団食中毒事故があった。この原因は、アンカレッジの機内食のサプライヤーの従業員の手の傷にあった。この従業員は自宅でオウムを飼っていて、そのオウムに手をつつかれて怪我をしたのだが、傷の部分を完全にゴムサックなどでカバーをしないで作業をしたのである。怪我をしていたことは工場のマネージャーも知っていたのだが、危険を認識していなくて、注意をしなかった。そして傷の部分から機内食が汚染されて事故になったのである。きつねであるが、北海道に住む人の間では、「キタキツネに絶対触るな」が常識である。


安全対策には基礎教育が重要


これら、食肉に関する危機は常にある。特に怖いのは集団で起きる点である。学校給食では抵抗力のない子供なので、特に注意を要するのだが、安全対策の元になるのは、関係者全員の認識、強いて言えば基礎知識である。ある衛生予防関係の仕事に携わっている人が、なぜ学校給食の事故が多いのだろうと疑問を持ち、たまたま学校給食に食肉を納入している業者が友人にいたので、経験のためにその業者のトラックに便乗させてもらったそうだ。納入は早朝から午前8時半頃までに数カ所だったのだが、納入する学校には担当者どころか、人がまだ誰も来ていない。したがって全くチェックがい。そのうえ、置く場所は冷蔵庫内ではなく、常温の場所である。驚いて「何時から調理を始めるのか?」と聞いたら、10時半頃からだということ。この時期は6月だったそうだから、温度もかなり高い、その中で肉を常温で放置をしてしまうのだから、バクテリアは元気に繁殖してしまう。そして学校側が言っていることは「当日仕入れ、当日調理」と格好だけはつけている。これでは集団事故になってしまうことを十分に認識したそうである。

この後、対策をどう取ったかは知らないが、全く基礎知識が無い状態である。いくらHACCPを研究しようとも、関係者全員の知識が常識程度まで達していなかったら、どこでこのような大欠陥が出てくるかわからない。


米国では昨年7月にO-157など食品の危機に関して国をあげて防衛をする、という発表を行ったが、さらに先日5月12日には、ゴア副大統領が米国政府の新しい食品安全対策を発表した。これによると、まず、FDA(食品医薬品局)を中心に最新の検査システムを開発して、業界への導入を図る。輸入食材については、輸入先国と協力をして安全検査を強化する。CDC(疾病対策センター)は、食中毒の感染、監視体制を強化する。食中毒が発生した場合、インターネットでの警報システムを使う。さらに、業界だけでなく、学校や職域にまで、食品の安全教育を行っていく。というものである。一言でいえば「最先端システムまですべて使って、国民の食品の安全性を高める」ということになる。国の総力をあげての対処という大規模なものである。HACCPを徹底的に導入してきているうえに、この対応であるから、いかに食品の危機が大きなものかが理解できる。

フードサービスで安全性を高めるにはHACCPしかないが、その土台には、関係者全員の基礎知識がある。これを元にフードサービス事業が成り立つのである。


柴田書店「月刊食堂」97/7月号より
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